ルシオラ・もう一つの物語
作:男闘虎之浪漫
−1−
「あ、あれっ!? 俺はいったい──」
「壊れかけていた霊基構造を、私のもので代用したのよ」
横島は意識を取り戻した。
傍からルシオラの声が聞こえる。
横島はベスパの一撃を受けてからの記憶が途切れていた。
「そ、それで、おまえはなんともないのか!?」
「平気ってわけにいかないわね。私たち魔物は幽体がそのまま皮を被っているようなものだから……それを大量に間引いてしまって、もう動けそうにないの」
ルシオラの声は、かなり苦しそうだ。
「大変だ…すぐにみんなのところに!」
「ダメ! 今はそんなヒマはないわ。すぐに美神さんを助けに戻って! 時間がたてばせっかく残っている魂も消されてしまう。そうなったらもうアシュ様は、誰にもとめられないのよ!」
「し、しかし……」
「私はここで待っているから。全部おわったら迎えにきてね」
「わかった。必ず戻ってくるから待ってろよ!」
横島はルシオラに背を向けたが、再度振り返った。
「本当に……本当に大丈夫だな? ウソだったらただじゃおかねーからな!」
「大丈夫よ……」
ルシオラはにっこり笑った。
その笑顔を見て安心したのか、横島はルシオラのもとを後にした。
そして二度と振り返らなかった。
「ふだん鈍いくせに、こういう時はするどいんだから……ウソついたこと、あまり怒らないでね」
ルシオラは最後の力を振り絞り、愛しい男を戦場に送り出した。
彼と彼の愛する世界を守るには、もうこの方法しかなかった。
「一緒にここで夕日を見たね、ヨコシマ。昼と夜の一瞬のすきま……短い間しか見れないからきれい……」
ルシオラの声は、そこで途切れた。
……
……
……
……
……
……
……
「恋人を犠牲にするのか。寝覚めが悪いぞ!」
「……今おまえを倒すにはこれしかねぇ。どうせ後悔するなら、てめえがくたばってからだ! アシュタロス!」
横島は『破』の文殊を発動させた。
「や、やめろーーーっ!!!」
エネルギー結晶が粉々に砕け散っていく。
それと同時に、アシュタロスの背後にそびえ立っていたコスモプロセッサが真っ二つに折れ、崩壊していった。
「ま、ガッツポーズってわけにはいかないけどさ。終わったよ、横島クン。あんたのおかげでさ……」
「…………」
「げ、元気だしなよ。ルシオラのことはまた後で考えない? きっと他にも生き返らせる方法が──」
「どうやるんですか!! 彼女、戻ってくると思いますか、本当に!」
「そ、それは……」
(美神さんを困らせないで。これでよかったのよ)
「ルシオラ!」
(もう行くね。意識を残しているのも限界なの)
「待ってくれ! 俺は──」
(あなたに会えて、本当によかった……)
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(えっ、ここは?)
ルシオラが意識を取り戻した時、彼女は弾力性のある物体に包まれていた。
「やっぱり、何も残ってない……」
パピリオは東京タワーの真下にきていた。
しゃがみこんで、何かを探し続けている。
「霊体の破片でも残っていれば、なんとかルシオラちゃんたちを再生できると思ったんだけど──」
「う、うわあああ! こいつは!」
その時、タワーの上の方から誰かの声が聞こえてきた。
「間違いねえっ! あのべスパとかいう女の使い魔だ」
「下手に刺激するな! 今の我々には勝ち目はない」
タワーの上にいたのは竜神族のイームとヤーム、そして魔族のジークであった。
復活したばかりのためか、手のひらほどの大きさしかない。
「ベ、ベスパちゃん!」
そこにパピリオがやってきた。
「げっ、こっちにも!」
「お前ら、うるさいでちゅ!」
妖蜂の巣を見つけたパピリオは、ジークたちミニサイズの神族・魔族を追い払った。
「ベスパちゃーん」
「ここだよ」
ミニサイズのベスパが、妖蜂の巣から這い出てきた。
「無事だったんでちゅね!」
「妖蜂たちのお陰さ。バラバラになった霊体を集めてもらったんだ」
「ルシオラちゃんは?」
「アイツ、ポチが殺られたときはああすると思っていたんだ。ルシオラの分も集めさせてはいるけれど、正直どうなるか……」
その時、ベスパが這い出してきたのとは別の巣が揺れ動き、何かが外に出てきた。
「ルシオラ!」
「ルシオラちゃん!」