ルシオラ・もう一つの物語

作:男闘虎之浪漫

−3−



「魔族と神族はこの世界の覇権をめぐって、何度も激しく争ってきたのだよ、ベスパ」

 アシュタロスは、淡々と語り出した。

「そして自分たちが理想とする生態系、および社会秩序を実現しようとした。しかし追いやられた側はその度に激しく巻き返しを計り、対決がエスカレートしていった。そして最終後には魔族と神族の直接対決……ハルマゲドンへと発展し全てが崩壊する。そういう歴史を何度も繰り返してきたのだ」

「アシュ様もそれらのことに関わっていたのですね」

「上級魔族の多くは支配意識や闘争本能の方が強いものだが、私は創造的な欲求の方が強かった。神族の干渉を排除しながら、自分の望む様々な生物を作り出していくことはなかなか楽しいものだったよ。しかしそうやって生み出していった生き物たちも、やがて神族たちとの戦いの中ですべてが滅んでいった。また別の時代では、神族たちが創造した生命体の命を私がこの手で絶っていったのだ……」

 アシュタロスの目に、わずかに悲しみが宿る。

「そういう衝突を何度か繰り返した後、魔族と神族の上層部で話し合いが行われ、ハルマゲドンの回避に向けて互いが自制することで合意した。それが今のデタントの情勢へとつながっている」

「アシュ様は反対されたのではないですか?」

「原則的に同意した。しかし最高指導者どうしの秘密会合の結果、生態系の進化と知性生命体の社会秩序構築に直接介入しないことを条件に、神族が主導権を握ることになったのだ。そうしてできたのが、今の地球の生態系と人間の社会だ」

「その結果にご不満があるのですね?」

「そうだ。不完全な進化と秩序なき発展を続ける人間たち、さらに神族と神族に支援されている人間たちを相手に勝ってはいけない戦いを繰り返す中で、私は彼等から邪悪な存在として扱われていたのだ」

「……」

「やがて私は決心した。たとえ魔族と神族を敵としようとも、多くの生命体を犠牲としても、我が理想とする世界を築き上げると!」

 ベスパがアシュタロスの目をじっと見つめる。

「アシュ様……。本当は、本当は別のことをお望みではないのですか?」

「ベスパ──」

「本心をおっしゃってください! アシュ様は本当は、もうどの生命も踏みにじりたくないとお思いではないのですか!?」

「私クラスの魔族は死ぬことができないのだ。神族との勢力バランスを保つため、たとえ死んでも強制的に復活するようになっている」

「その運命から……その運命から逃れたいのですね」

「踏みにじらないわけにはいくまい、私の死を神界と魔界の指導層に認めさせるには、相応の結果が必要になる……。だが私の目的を阻む者は、誰であろうと全力で排除する! たとえそれが私と同様に運命の束縛から逃れようとする者であったとしてもだ!」





「アシュ様の願いは新世界の創造か自らの死。そしてできることなら、自らの死を望んでいたんだ」
「そうだったんでちゅか。アシュ様は私たちの知らないところで、そんなに苦しんでいたんでちゅね……」
「アシュ様は、このことを他の誰かには話していないの?」
「誰にも話したことはないとアシュ様は言われた。本心を打ち明けてたのは、私がはじめてだそうだ」
「じゃ、このことを知っているのは、私たち三人だけってことね」
「しばらくは三人だけの秘密にするでちゅ」

 やがてルシオラ・ベスパ・パピリオは、都庁地下のGS司令部に着いた。
 そのまま美智恵のもとに向かう。

「ルシオラ、生きていたのね!」
「ルシオラさん、無事だったんですね。ずいぶん小さくなっちゃいましたが」

 美智恵とおキヌは令子からルシオラの死を聞かされていたので、一様に安堵と喜びの声をあげた。

「隊長さん、今はそれどころじゃありません。アシュ様の暴走を食いとめなければ!」
「ベスパちゃんが、何か話すことがあるそうでちゅ〜」

 美智恵たちは、その場にいたもう一人の意外な人物──ベスパに視線を向ける。

「あの究極の魔体は完全ではないんだ……。霊視では見えないけれど、腰の後ろの辺りにバリヤの穴がある。そこから大砲の根元のエネルギーパイプを狙えば、致命傷を与えることができるハズさ」
「あんた、アシュタロスを裏切ったのか?」

 普段から用心深い雪之丞が尋ねる。

「裏切ってはいないさ……ただ、アンタ達にはわからないよ」
「そうでちゅ。絶対わからないでちゅ」
「ごめんなさい、今は詳しい事情を話せないんです」

 ベスパをかばうルシオラとパピリオの態度に、一同は驚いた。

「俺は信じられねー、って言いたいところだけれど蝶の嬢ちゃんと蛍の姉ちゃんの言うことは信じるぜ。とくにアンタは横島の女だしな」

 そう言って雪之丞はルシオラは指差す。ルシオラの頬がわずかに紅くなった。

「そうね、今疑ったところで仕方がないわ。あなたたちを信じます。パピリオ、二人を令子と横島君のところまで連れていって!」
「わかったでちゅ」


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