ルシオラ・もう一つの物語

作:男闘虎之浪漫

−5−



 横島は、後方から究極の魔体(アシュタロス)に接近する。
 ほどなく、究極の魔体(アシュタロス)もこちらの接近に気づいた。

 ガアァァァ!

 究極の魔体(アシュタロス)から、無数のエネルギー弾が発射される。
 かわす隙間もないほど、弾幕の密度が高い。
 横島はその攻撃を正面から受け止めた。

「サイキック・シールド!!!」

 突き出した左手から霊気のシールドが円錐状に広がり、横島の全身をカバーする。
 そのシールドに当たったエネルギー弾は、すべて弾き返された。

「横島君、その技は──」
「隠れて雪之丞と練習していたんですよ。普段のパワーでは雪之丞の攻撃を防ぐのがやっとでしたけど、さすがに今のパワーは桁が違いますね」

 シールドを張ったまま、究極の魔体(アシュタロス)の背後に回り込んだ。
 横島は右手に霊気を集中させ巨大なエネルギー球を作り出し、相手に投げつけた。

「散!」

 エネルギー球が究極の魔体(アシュタロス)のバリアに触れる直前に、エネルギー球を破裂させる。
 大部分はバリアに吸収されてしまったが、一箇所だけバリアに触れずに通過していく場所があった。
 その場所を通って、横島はアシュタロスに肉迫する。

「アシュタロス……貴様もこれで終わりだ!!」

 横島は渾身の力を込めて、霊波砲を撃ち出した。
 その一撃は、大砲の付け根のエネルギーパイプを見事に撃ち抜いた。
 究極の魔体(アシュタロス)からエネルギーが漏れだし、大爆発を引き起こす。

 グオォォォ……ガアァァァ!

「こ、こいつ最後の一発を!」

 究極の魔体(アシュタロス)は残った最後の力を振り絞って、エネルギー砲を発射した。
 究極の魔体(アシュタロス)から放たれたエネルギー波は、東京方面に向かってまっしぐらに伸びていく。


「隊長! アシュタロスの攻撃がこちらに向かってきます!」

 アシュタロスから放たれたエネルギー波は、東京アクアラインに沿って設けられた結界装置によって一瞬食いとめられる。
 しかし装置はたちまち限界に達した。

「こ、このままでは、結界がもちません!!」

 その時、第二の奇跡が起きた。
 海上に巨大な二つの発光体が現れる。
 それはアシュタロスから放たれたエネルギー波を受け止め、そして消滅させた。

「ぎりぎり、間に合いましたね」
「正直ヤバかったわ。あいつが弱っていなかったら、支えきれなかったで」


 究極の魔体は幾度も爆発を繰り返した。巨大な体が崩れ落ち、やがてその姿は海中へと沈んでいく。

(アシュ様……そんな姿になってまで滅びたかったのですね)

 ルシオラ・ベスパ・パピリオの三姉妹は、海中に沈んでいくアシュタロスの姿を最後まで見守っていた。




「アシュタロス……」
「アシュタロスよ……、聞こえますか」

 究極の魔体の奥深くに沈み込んだアシュタロスの深層意識に対して、呼びかける二つの声があった。

「私を……、私を呼ぶものは誰だ」
「アシュタロスよ、私たちはあなたに神界・魔界の決定事項を伝えにきました」

「私はいよいよ滅びるのだな……そして我がくびきから解放されるのか──」
「アシュタロス、神界・魔界・人界の秩序を乱したお前の罪は極めて重い。だが……」
「多くの者たちの活躍により、あなたの表面的な目的は阻止されました」

「我らは『最高指導者』という肩書きは持っているが、この宇宙の理法(ダルマ)を変更することはできない」
「それゆえ、このままでは理法(ダルマ)の力によってあなたは再び復活してしまうでしょう。しかし……」
「我らは、お前の……」
「あなたの罪を許すことにしました」
「我らは、お前を滅ぼし尽くすことはできない。それゆえ……」
「あなたを、永き眠りにつかせることにしました」

「抹消しないのか……お前たちにはそれだけの権限があるはずだ……」
「苦悩に満ちたそなたを抹消してしまうほど、我らは……」
「私たちは傲慢ではありません。」
「今はお前の望む世界ではあるまい。しかし、遠い未来のことは我らにもわからない……」
「それゆえ、あなたが必要となる時まで、永き眠りについてもらいます」

「眠りは、小さな死」
「そして死は、大いなる眠りです」
「そうだな……永き眠りは死と変わることはない……今は眠らせてもらうことにしよう……」
「時の流れのはるか彼方で……」
「再び会いましょう。アシュタロス……」



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