ルシオラ・もう一つの物語
作:男闘虎之浪漫
−7−
美智恵は事務所の庭から、時空移動で元の時間に帰っていった。
もちろん『雷』の文珠を使ってである。
帰る間際に美智恵の死のカラクリに気づいた令子が怒ったが、すぐに建物の陰から出てきた現在の美智恵になだめられ、結局誤魔化されてしまった。
もともと令子は美智恵に頭が上がらなかったし、さらに美智恵が妊娠していたということもある。
その場はそれで何とか収まった。
事件の後始末も少しずつ進み、横島たちも日常の生活を取り戻していった。
あとは、彼女の帰りを待つばかりであった。
アシュタロスを倒してから一月ほどたった日の夕方、横島は東京タワーの展望台の上に向かった。
夕陽を見つめながら、一人たたずんでいた。
(ここで何度か二人で夕陽を見つめて……、そしてアイツに見送られて、俺は最後の決戦へと望んだ……)
甘美で、そして凄烈な記憶が、横島の脳裏をよぎる。
(俺は……少しはアイツにふさわしい男になれたんだろうか……)
カツン……
その時、小さな足音が横島の背後から聞こえた。
カツン……
もう一つ聞こえた。
横島の胸が期待で大きく高まる。
カツン……
もう一回聞こえた時、横島は万感の思いを込めて振り返った。
横島の視界に入ったのは、間違いなく“彼女”であった。
「ルシオラ!!!」
「ヨコシマ……今帰ってきたわ」
「おかえり」
二人は一歩踏み出せば相手を抱きかかえられる距離で立ち止まった。
そのまま無言で、しばらくみつめあう。
やがてルシオラが唇を開いた。
「あのね、ヨコシマに会ったら言いたいことがいっぱいあったんだけど、いざ会ってみたら何も言葉が出ないの……」
「いいのさ。こういう時は、たぶんそれでいいんだよ」
ルシオラの目には涙がうっすら溜まっていた。涙目のまま、軽い上目づかいで横島をみつめる。
横島が耐えきれなくなって、一歩踏み出した時……
「ヨコシマー、会いたかったでちゅよー!」
空を飛んできたパピリオが、そのまま横島の腰に思いきり抱きついてくる。
不意をつかれた横島は、東京タワーの鉄の支柱に叩きつけられてしまった。
「痛ってーーー」
「パピリオ! 横島が怪我をするでしょ!」
大事な場面を邪魔されて立腹したのか、ルシオラも少し怒ったような口調である。
しかし、パピリオは横島の腰をしっかりと掴んだまま離さない。
「あ、俺は大丈夫だよ。それにパピもきっと寂しかったんじゃないかな」
そう言いながら、横島はルシオラにウィンクする。
それに気づいたルシオラは、近寄って横島の体を軽く抱きしめた。
「これからもよろしくな、ルシオラ。それにパピリオ」
横島の表情には、あたたかな微笑みが浮かんでいた。
−完−