恋人たちの一日
作:男闘虎之浪漫
(昼) Side B
10時少し前くらいにルシオラと一緒に部屋を出た。
今日の予定は、映画と食事と海辺の公園の散歩か。けっこう綿密にスケジュールを組んでいるみたいだ。
最近は仕事が忙しくて休日の予定まで頭が回らなかったから、すっかりルシオラまかせになってしまった。
次のデートは俺が考えなくてはとも思うが、よく考えたらどこに行けばよいかわかっていない。
今までは女の子をゲットすることばかり考えていて、ゲットした後どうするかについては全然考えたことがなかった。
おっと、このことはルシオラには内緒だ。まぁ成功率は限りなく0%に近かったから、たぶん大丈夫だろう。
駅までルシオラと一緒に歩いていった。
歩道の幅が狭く二人で並べないので、ルシオラは俺の斜め後ろの位置で歩いている。
ルシオラが飛んでいけば早いのにねと言ってきたが、ちょっと恥ずかしいからやめようと返事をした。
俺も文珠を使えば飛べるけれど、二つも消費するし、できれば緊急時のために文珠はストックしておきたい。
そうなるとルシオラにつかまって飛ぶことになるが、アレはけっこう恥ずかしいのだ。
逆ならいいな。俺がルシオラをお姫様だっこして、東京の夜空を飛んでいく。
ルシオラが俺の首に手をまわし、俺はルシオラの柔らかい体の感触を腕と胸に感じて……、うむいいぞ。
突然ルシオラが俺の服を引っ張った。おっと、目の前の信号が赤になっている。
いつのまにか妄想モードに突入していたらしい。ルシオラが一緒にいてよかった。
駅で電車に乗り、映画館のある街まで移動する。
電車に乗ると、若い男たちが俺たちの方にチラチラと視線を向けてきた。
いや、正確にいうと俺たちではなく、ルシオラの方を見ているんだ。
はっきりいってルシオラは『美人』だ。いや別に自慢しているわけじゃないぞ。でも事実だ。
最近茶髪が増える中でこれ以上はないくらいの黒髪。スマートで小顔な顔つきは、ショートカットのヘアによく似合う。
そしてモデル顔負けのスレンダーな体型。彼女のいない若僧が、ルシオラに視線を向ける気持ちはよくわかる。
もう少し胸があったらいいなと思うことも……げふんげふん、今のもルシオラには内緒だ。
どっちにしても、ルシオラは俺のだ! 汚らわしい視線を向けるんじゃない!
少し凄みながら、こちらにチラチラ視線を向けている連中を2〜3人睨みつけてやった。
映画館に入った。
見る映画は出かける前に決めてある。忍者の子孫が、転校先の高校を舞台に活躍する学園モノだ。
アクションもラブコメシーンも盛りだくさんに入っているから、けっこうお得な作品だという評判である。
実は雪之丞から情報を仕入れた。
雪之丞は彼女(弓さんだ)と映画にいくと、アクション映画か恋愛モノを見るかでいつももめるらしいが、この映画はどちらも満足できたらしい。
上映がはじまった。
事前に情報を仕入れておいてよかった。まぁまぁ面白い。
途中でそっとルシオラの方を見ると、食い入るような視線でスクリーンを見ている。
ちょっと安心した。俺は面白くても、彼女の方がさめているようでは失敗だもんな。
山場のシーンに入った。俺も知らず知らずのうちにスクリーンに引きずりこまれる。
「女の命が惜しければ、おとなしくダイヤを渡せ!」
「ダイヤはねぇ!」
「それじゃあ、取引にならねぇな」
「私のことはいいから、はやく逃げて!」
よくあるシーンのはずだが、どこか引っかかる。
ああそうだ、エネルギー結晶を手にしていた時と少しだけ似ている。
あの時もルシオラは「私のことはいいから、結晶を破壊して!」と言った。
映画では主人公が活躍してヒロインを助けるのだが、俺はそうできなかった。
俺は世界とルシオラとを秤にかけて、そしてルシオラを捨てたんだ。
ルシオラは、あの時のことを一言もたずねてこない。
何事もなかったかのように俺に接している。
だが俺は、まだ自分からは口に出せないけれど、あの時の選択のことを忘れてはいない。
ルシオラは俺を愛している(と思う)。だが俺は本当にルシオラを愛しているのか!?
いや、それ以前に彼女を愛する資格があるのだろうか……。
映画が終わった後、食事をするためにレストランに入った。
レストランといってもファミリーレストランだ。
本当は少し洒落たレストランにでも行きたかったのだが、あいにくと先立つものに乏しい。
それに情報誌だけを頼りにして店を選ぶと、外した時のことが恐いので無難なファミレスで落ちつくことにした。
一度きちんと正装したルシオラをつれて、その手の店に入ってみたいと思う時もあるのだが、それは男の見栄なのだろうか!?
今度西条にでも聞いてみよう。(あいつは俺とルシオラがつきあい始めてからは、手のひらを返したかのように友好的な態度を取っている)
俺はメニューを見て、ハンバーグステーキランチを注文した。
ルシオラは、何かを探すかのようにメニューをじっくりと見ている。
きいてみたら砂糖水が見つからないと言っていた。
砂糖水は普通のレストランのメニューにはないと言ったら、甘いものが飲みたいというのでミルクティーを注文した。
それからチョコレートパフェも注文した。ルシオラは甘いものが好きみたいだから、これならルシオラも食べられるかもしれない。
ルシオラが注文したパフェを、スプーンにすくってそっと口にはこぶ。
おっ、なんだか意外な表情をしている。そのまま二口・三口と続けて食べた。
どうやらルシオラの口にあったみたいだ。後できいてみると、甘味の刺激がすごく新鮮だったとのこと。
よかった。外食をするにしても、俺だけ食事をするのも気がひけるからな。
食事を終わって、外に出た。
海辺の公園に向かって、ルシオラと並んで歩いていく。
歩いているうちに、さっきのことが脳裏に浮かんできてしまった。
俺は……ルシオラのことが好きだと思う。でも俺には彼女を好きになる資格があるのだろうか?
また何かあった時に、俺は再び彼女を見捨ててしまうのではないだろうか?
出口のない考えが、頭の中をグルグルと回る。
そんな俺の顔を、ルシオラが心配そうにのぞき込んできた。