恋人たちの一日

作:男闘虎之浪漫

(夕)



「ヨコシマ……、どうしたの?」

 ルシオラが横島の顔を、心配そうにのぞきこむ。

「いや、何でもないよ」
「何でもないって感じじゃないわ」

 昔からそうであるが、横島は自分の気持ちを隠すことができない。
 表情や態度にすぐに表れてしまう。(時には無意識に喋っていることも)
 誤魔化しきれないとわかると、横島は少しずつ話しはじめた。

「映画を見ていた時に思い出したんだ。以前のことを」
「以前のことって?」
「あの闘いの時のことさ。コスモプロセッサーを前にして、俺はエネルギー結晶を手にしていた。そしてアシュタロスは俺に選択を迫った。ルシオラの生命か、世界の運命かどちらかを選べとね」
「私はこう言ったはずよ。アレを壊してって……」
「よく覚えているよ。冷静に考えれば、そうするしかなかったってことはわかっているんだ。けれども結果として、俺はルシオラを見捨てる選択をした──」
「ヨコシマ……」
「ルシオラは今、俺の隣にいる。けれどもまた何かあった時に、俺はまたルシオラを見捨ててしまうんじゃないか。そんな不安が離れないんだ」
「ヨコシマがそんなこと考えていたなんて、少しも気づかなかった……」

 二人は既に公園の中に入っていた。
 ルシオラは、周囲に誰もいない芝生を見つけるとそこに座り込んだ。横島もルシオラの隣に座る。

「あのね……、ヨコシマにひどく心配させちゃったけど、私はあの時の自分の行動は全然後悔していないの」
「俺はすごく心配してたぞ」
「それにね、私は知ってたんだ……。ヨコシマは美神さんが好きで、おキヌちゃんが好きで、GSの仲間や学校の友達のことが好きで、この世界の人たち全てを好きなんだなってことを」
「そんなことないさ。嫌いなヤツだっているし、西条とか」
「何にでも多少の例外はあるわ。それにね、私はそういうヨコシマを好きになったの……。いつもみんなのことを考えていて、誰かを痛めつけるくらいなら自分が痛い目にあって、そして大事な時に力を発揮して、何とかしてくれるヨコシマをね」

 思わぬ告白に、横島の顔が紅くなる。

「だからね、私はヨコシマを守りたいって、ずっと前から思っていたの。あの時は本当に命を捨てる覚悟だった……。だからあまり自分を責めないで。ヨコシマが自分を責めていると私まで──」

 数秒間の沈黙の後に、横島は答えた。

「ルシオラ……ありがとう」



 わだかまりを解消した二人は、公園の中をゆっくりと散策した。
 しかし恋人たちがすごす時間はあまりにも流れが速く、ふと気がつくと時刻は夕刻となっていた。

「ヨコシマ、あそこに行かない?」

 ルシオラが指差したのは、公園の傍にある展望台のあるタワーであった。
 東京タワーほどではないだろうが、夕陽がよく見えそうな場所にある。
 二人で行ってみることにした。


「きれいね──」

 横島の腕を掴んだまま、ルシオラがうっとりとしたような声を出す。

「あのね、ヨコシマ」
「ん?」
「まだ私がアシュ様のところにいた頃は、夕陽を見ていても、あと何回見ることができるだろうかって、そんなことばかり考えていたの」
「すごく刹那的だな」
「でも今は違う。明日も明後日もそのまた次の日も、ずっとこうしていたいって思っているわ──」

 ルシオラは、そっと上目づかいで横島を見る。

「ヨコシマ……、最近はおとなしいのね」
「え!?」
「前はほら『今だ! 二人っきりだぞー!』って、やってたじゃない?」
「あの頃は、精神的な余裕がまったくなかったからなー」
「ヨコシマも少しは成長したのかしら?」
「前の方がよかったなら、今からでもそうするぞ」
「そんな意味で言ったんじゃないけど……、ただ流れを読んで欲しいなって思って──」

 少し鈍い横島も、その言葉の意味に気がついた。
 周囲を見回し、あたりに人影がないことを確認する。

「ルシオラ──」

 横島はルシオラを抱きかかえると、唇と唇を重ね合わせた。


(おわり)


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