恋人たちの一日
作:男闘虎之浪漫
(朝)
その日の朝は、いつもとは少し違っていた。
やかんでお湯が沸騰している音、食器がかちゃかちゃと鳴る音が横島の耳に聞こえてくる。
うっすら目を開けると、みそ汁の香りがただよってきた。
横島がむくりと布団から起きあがった時、そこには思わぬ人の姿があった。
「おはよう、ヨコシマ」
「あれ!? ルシオラ何でここに……」
「今日は一日空けといてって言っておいたじゃない。今日は朝から私の時間なんだからね……」
横島は状況をよくわかっていなかったが、とりあえず朝からルシオラの顔を見れるのは悪い気分ではなかった。
しかも、朝メシの準備までできている!
横島は起きあがって布団をたたみ、押し入れに入れた。
その間にルシオラがちゃぶ台を出して、その上に朝食を並べる。
「あまり料理をつくったことがないから、味付けは保証できないけど」
焼き魚に冷奴、それにみそ汁の朝食だ。
作り方さえ知っていれば、まず間違えることはないだろう。
横島はメシをほお張り、みそ汁を一口飲み込む。
「おいしい?」
ルシオラがにっこり微笑む。
横島は軽くうなずくと、がっつくように朝食を食べつづけた。
「ルシオラは、本当にそれだけでいいなのか?」
食事が一息ついた時、横島がルシオラに声をかける。
「人間の食べ物も食べられないわけじゃないけど、今のところこれが一番合うの」
そう言って湯のみに入った白湯を一口飲んだ。湯には、大量の砂糖をとかして混ぜている。
「でも、俺ばかりいい目を見ているようで、なんだか悪い気がするな」
「いいのよ、好きでしているんだから」
この言葉には意味がある。
ルシオラはもともと知的で仕事熱心な性格である。
秘書としてはうってつけであり、外で除霊の仕事をしていない時は、とかく滞りがちな事務所の事務処理を一手に引き受ける形となった。
そうなると、もう一人の女性従業員であるおキヌは、事務仕事よりも家事に専念することが多くなった。
横島が事務所で待機している時など、さりげなく横島の世話をしている。
横島も以前からそうであったため、特に違和感なく受け入れていた。
その光景を身近で見ざるをえないルシオラは、複雑な気持ちになっていた。
食事が終わると、ルシオラは食器を洗い始めた。
横島は朝のニュースを聞きながら、新聞を広げる。
本人たちは気づいていないが、第三者がもしその場に居れば、新婚夫婦のように見えたかもしれない。
実に自然な雰囲気であった。
「ルシオラ、今日どうする?」
「フフッ、いろいろと考えていたんだから。まず映画を見て、その後レストランで食事をして、それから海辺の公園を二人で歩くの♪」
横島は苦笑した。
まるで絵に描いたような、マニュアルどおりのデートコースである。
「いいけれど、そんなことどこで勉強したのさ?」
「いろいろよ。美神さんやおキヌちゃんとおしゃべりしたり、テレビのドラマや雑誌を見て研究したの」
「ま、いいか」
食後の一服を終えると、横島は出かける支度をはじめた。