君ともう一度出会えたら

作:湖畔のスナフキン

(11)



「横島さん」

 隊長の部屋から出てきた俺を、ヒャクメが呼びとめた。

「ちょっと、お話が……」
「わかった」

 俺とヒャクメは、基地内にある打ち合わせ用の小部屋に移動した。

「悪いけど、結界を張るよ」

 俺は『結』『界』の文珠で、部屋の中に結界を作った。

「すごい結界ですね。これでは私の千里眼でも、中の様子がわかりません」
「他の人には、絶対聞かせられない話になるからな」

 俺の正体を知っているのは、今のところヒャクメだけだ。
 俺が未来から来たことが知れ渡れば、この時空にどんな影響が出るかわからない。
 用心の上に用心を重ねる必要があった。

「横島さんには、いろいろ聞きたいことがあります。先ず聞きたいのは、アシュタロスは次にどういう手を打ちますか?」
「アシュタロスが必要としているのは、美神さんの中のエネルギー結晶だ。血清でおびき出す作戦が失敗したとなれば、別の手を打ってくる。おそらく核ミサイルで脅迫(きょうはく)してくるだろう」
「核ですか!? アシュタロスが核兵器をもっていると!」

 ヒャクメが(おどろ)いた。アシュタロスが人間の兵器を利用するとは、予想していなかったようだ。

「いや、少し違う。アメリカやロシアの保有する原子力潜水艦をパピリオの眷族(けんぞく)で乗っ取り、その潜水艦がもつ核ミサイルで脅す作戦だ」
「関係各国に連絡して、警戒してもらわないといけないですね」
「おそらく無駄だろうな。人間の力ではパピリオの眷族(けんぞく)を防ぐことはできない。それに俺たちが守ろうとしても、原潜の居場所は国の最高軍事機密だから、そう簡単には教えてくれないさ」
「それでは、打つ手はないんですか?」
「いや。この機会を利用して、逆にアシュタロスを討つんだ」
「そんなことが可能なんですか? いくら横島さんが強くなったとはいえ、あのアシュタロスに勝てるとは思えないのですが……」

 ヒャクメが、不安げな表情を見せた。

「策はある。隊長も考えているハズだが、一つは俺と美神さんが合体して霊力を強化する方法だ」
「その方法で勝てるんでしょうか。アシュタロスの強さがけた違いなのは、横島さんもご存知かと思いますが……」
「たしかにその手では、ベスパやパピリオには勝ててもアシュタロスにはまだ及ばない。そこで、もう一つの方法を使う」
「……もう一つの方法……」
「今は言えない。ただ前はそれを使っても倒せなかったんだけど、うまくやればアシュタロスを倒せる可能性は十分にあるんだ」
「しかしその方法も失敗した場合には、最悪の事態になるのではないでしょうか?」

「だいじょうぶ。少なくともアシュタロスを足留めさせることができる。もしヤツを倒せなかった場合は、南極のアシュタロスの基地にありったけの核ミサイルをぶちこむんだ。これはICBMの照準を合わせるだけだから、今から各国にネゴを取れば十分に間に合う」
「わかりました。他にも聞きたいことがあるんですが、あまり長話(ながばなし)をしているとあやしまれますから、また今度お願いしますね」
「じゃ、結界を解くよ」

 俺は結界を解くと、ヒャクメと一緒に部屋を出た。




「おっ。こんなところにいたのか、横島クン」

 ヒャクメと一緒に基地内の廊下を歩いていた俺に、西条が声をかけてきた。

「ヒャクメ様も一緒だったんですね。ちょうどよかった。隊長が君を呼んでいるよ」
「俺を?」
「令子ちゃんも一緒だ。何やら重要な話らしい」
「横島さん、ひょっとしてさっきの……」

 先ほどの話を喋りそうになったヒャクメに、俺は視線を向けた。
 ヒャクメもすぐに理解し、そこで口をつぐんだ。

「とりあえず急ごう」

 西条を先頭にして、俺たちは隊長の部屋へと向かった。


「何度も呼んで悪いわね、横島クン」
「いえ、ちょうどヒマでしたし」

 ベッドで横になっている隊長の傍らに、美神さんが立っていた。
 何やら不満げな表情で、俺の顔を見つめている。

「さっきも話したけれど、私が回復したことがわかればアシュタロスは次の手を打ってくるわ。どちらにしろアシュタロスの狙いが令子にある以上、対決は避けられません。それで令子を強化するために今まで訓練してきたのですが……」
「思うような結果が出なかったわけですね」

 ヒャクメが口をはさんだ。

「そこで新しいアプローチです。令子のパワーに他人のパワーを上乗せします。霊波が共鳴すれば、相乗効果で数十〜数千倍のパワーを得ることができます」
「では僕のパワーを使ってください! 横島クンでは、まだまだ半人前です」
「それがそうもいかないのよ、西条クン。波長が完全にシンクロすれば、その効果は絶大です。しかし人間である以上、わずかなブレは不可避です」
「その壁をクリアーするには、文珠しかありませんね」
「そのとおりです、ヒャクメ様」
「でもやっぱり、私は納得いかないわ。ママは横島クンが私と対等以上の力があるっていうけれど、私にはとても信じられない」

 今まで黙って話を聞いていた美神さんが、そこで口を開いた。

「仕方ないわね。横島クン!」
「何でしょう?」
「さっきも話をしたんだけれど、令子がなかなか納得しないのよ。だから令子と立ち会ってくれない?」
「お、俺がですか?」

 俺は少し困った。フルパワーで戦えば一瞬で勝負がつくが、それでは正体を見破られてしまう。

「そう。百聞は一見に如かずよ」

 結局、俺は美神さんと手合わせすることになった。
 こうなったらパワーは上げずに、技で勝負するしかない。




 俺と美神さんは、美神さんが特訓で使用していた霊動実験室に入った。

「自信がなかったら、文珠を使ってもいいわよ」

 神通棍(じんつうこん)を構えた美神さんが、余裕ありげに話しかける。

「いえ、文珠は使わないッス」

 俺は霊波刀とサイキック・ソーサーを出現させた。
 そして5メートルほどの距離をおいて、美神さんと対峙する。

「それでは、勝負はじめ!」

 審判係のヒャクメが、勝負の開始を告げた。

「一撃で終わらせるわ!」

 美神さんが神通棍(じんつうこん)を振りかぶりながら、俺に向かって突進してきた。

 ガシッ!

 俺は美神の一撃を、サイキック・ソーサーで受け止める。

「まだまだ!」

 美神さんはその位置から足蹴りを加えるが、俺は後ろに跳んで、その攻撃をかわした。

「このっ、このっ!」

 美神さんは神通棍(じんつうこん)だけでなく、手と足まで総動員して攻撃をしてくる。
 俺はサイキック・ソーサと体術を駆使して、その攻撃をかわした。

「少しは、すばしっこくなったみたいね」

 美神さんは攻撃の大半をかわされためか、肩で大きく息をしていた。
 近距離戦闘の場合、攻撃をガードすればさほどでもないが、空振りさせるとスタミナの消耗が激しくなる。

「だけど、まだ負けたわけではないわ!」

 この負けん気の強さが、今までの美神さんを支えてきたと思う。
 だけど今の時だけは、もう少し素直になってもらわないといけない。
 俺は心を鬼にし、霊波刀を構えて突進した。

「……横島クンが私を越えたなんて、そんな怪奇現象、認められるわけないじゃない!」

 美神さんは神通棍(じんつうこん)を振りかぶると、俺の左肩めがけて振り下ろした。
 俺は頭を下げつつ右斜めに飛ぶと、すれ違いざまに美神さんの右脇腹を霊波刀で打った。

 バン!

 腹部を打たれた美神さんは、そのまま膝を崩し地面に倒れてしまった。




「……ここは?」
「医務室ですよ、美神さん」

 美神さんは戦いの最中に気を失い、医務室に運ばれた。
 念のため俺は、美神さんの傍で待機する。
 美神さんは腹部を強く打っていたが他に外傷はなく、しばらくしたら気を取り戻した。

「私、負けちゃったのね」
「偶然ですよ」
「それは違うわ。勝敗は偶然かもしれないけれど、横島クンが私とあそこまで対等に戦えるとは思ってもみなかった。十分、実力よ」
「ありがとうございます」
「ところで……横島クン?」
「なんでしょう」
「あの()は、いったい何なの?」
「あの()って……ルシオラですか?」
「そう。あの魔族の女よ。まさか横島クン、あの()と駆け落ちしてきたんじゃないでしょうーね?」

 美神さんの目が険しくなり、口調もやや鋭くなった。

「いや、その、なんていうか……」
「まあ、仕方ないわね。横島クンが人外にモテるのは、今にはじまった話じゃないし……」
「ス、スミマセン」
「横島クンが強くなったのは、ひょっとして彼女のため? でも、その方が横島クンらしいわね。世界とか人類のためなんて、ちょっと似合わないもの」

 美神さんは、ベッドの上でクスクスと笑った。



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