君ともう一度出会えたら
(13)
「……どうやら着いたみたいね」
東京を出発した俺たちは、政府の用意したチャーター機に乗って南極へと向かった。
「……誰か先に降りなさいよ。到着よ」
「お先にどうぞ」
「じゃ、俺から降ります」
前回は俺も一緒になってぐずっていたが、先の流れがわかっているから、今回は「!!」
空間の
「バベルの塔か……」
「異界空間に、こんな巨大な構造物を……」
「遅かったね。待ちくたびれたよ」
ふと気がつくと、目の前にベスパとパピリオの姿があった。
「ベスパ! それにパピリオ! お前たちも無事だったんだな」
「黙れ、裏切り者!」
「ルシオラの姿が見えないね……。やはりダメだったのか」
「『
「ルシオラちゃんは、生きてるんでちゅか!」
「喜ぶのはまだ早いよ、パピリオ。ポチが本当のことを言っているか、まだ信じられないからね」
「事情があって、ルシオラはここには連れてこなかった。だが事件が片付けば、ルシオラともまた会えるさ」
「私たちはルシオラに会えるだろうが、お前たちはここでアシュ様に始末されると思うけどね。まあ、いいさ。ついてきな!」
「異空間の中は、暖かいわ〜〜〜〜」
「とりあえず、このブサイクな服は脱げそうね」
「横島クン、これからはちゃんと私の
「止まれ!」
塔の入り口で、ベスパが口を開いた。「この先は、美神令子ひとりだ。こい!」
ベスパが美神さんの手を引っ張った。「いかん! 彼女と横島クンを離すな!」
西条が俺の後ろで叫ぶ。「おおっと!」
俺は「ふーっ」
俺はガラス窓にぶつかる寸前で停止した。
「無茶するね、ポチ。もしガラスの中に突っ込んでいたら、
「
「この中には、宇宙のタマゴが入っているのさ」
「宇宙の……タマゴ?」
「このタマゴは新しい宇宙のひな形さ。うかつに近づくと別世界に引き込まれてしまうんだよ」
「新しい宇宙って、まさかこれが全部そうなの!?」
「とにかくポチ、お前は外へ出ろ! 美神令子だけを連れて来いという命令だ」
「待った! そうはいかないわ!」
「そっちの頼みをきいて、わざわざやってきたのよ。そう何もかも、あんたたちの言いなりにはできないね!」
「立場がよくわかっていないみたいだね。この場で決着をつけてもいいんだよ」
「あの時はルシオラに邪魔されたけど、今度はそうもいかないようだね」
「……仕方ないわ。やるわよ、横島クン!」
『かまわんよ、ベスパ!』
「アシュ様……」
『彼らの言い分はもっともだ。私を倒すために、何か準備をしてきたようだしね。人間の身で何をするのか私も興味がある。二人とも連れてきたまえ。私の専用通路を使うといい』
「よし、中に入れ。美神令子とポチ」
俺と美神さんは、その「アシュ様、メフィスト──いや、美神令子が参りました」
アシュタロスの足元にいる土偶羅が、そう告げた。「……神は自分の創ったものすべてを愛するというが、低級魔族として最初に君の魂を作ったのは私だ」
アシュタロスはこちらに歩み寄り、階段の上でその歩みを止めた。「よく戻ってきてくれた、我が娘よ。信じないかもしれないが、愛しているよ」
美神さんの足が、突然ガクガクと震えはじめた。
「大丈夫ですか、美神さん」
「か、体中の力が抜けていくわ……なぜ!?」
「おまえは私の作品だ。私は『道具』を作ってきたつもりだったが、おまえは『作品』なのだよ。この違いがわかるかな?」
「道具は目的のために機能するだけの存在だ。一方『作品』には作者の心が反映される。意図しようがしまいがね」
美神さんの足の震えが、いっそう強くなる。
「千年前、おまえにやられた時には
「
「!!」
アシュタロスの霊波に包まれた美神さんの目が、一瞬大きく開かれた。「ア……アシュ様!」
これは大きな賭けだ。今の時点でアシュタロスの行動を「前世の記憶を取り戻したんだ。こいつは美神令子であると同時に、かつてアシュ様の部下として造られた魔族メフィスト・フェレスなのさ」
俺の横で、ベスパがそうつぶやいた。「おまえの裏切りを私は許そう。おいで、我が娘よ」
美神さんが、ふらりと足を前に進めた。
「美神さん!」
「……正気を失っているわけじゃないのよ、横島クン。ただ、全部思い出しただけ」
「遠い昔、私がメフィストだったこと。その頃の私は、アシュ様が絶対の存在だった。そのアシュ様に捨てられた私は、前世のあんたに優しくされて……そしてあなたを愛した。そうよね、高島殿」
「た、高島!?」
「でも、そのアシュ様が私を許してくれるって。愛してくれるって。だから、私は……」
だが美神さんは、アシュタロスの一歩手前で立ち止まると、大きな声で叫んだ。「ざけんな、クソ親父!!!」
その場で勢いをつけると、美神さんがアシュタロスに向かってヘッドバットを食らわせた。
「いくら私を造ったからって、好きになった男を目の前で殺されて、平気でいられるとでも思ってるの!? 冗談じゃないわよ! 思い出した以上、なおさらアンタをぶっ殺す!」
「ほう、さすがに私が造っただけのことはあるよ。ますますいいね」