君ともう一度出会えたら

作:湖畔のスナフキン

(15)




 南極から戻った俺は、精密検査のため入院することとなった。
 文珠で他人と合体するなど、医学の想定外のことをしてきたわけだから、いろいろと調べることがあるのだろう。
 もっとも担当の白井医師は、「医学はああっ、現代医学は敗北せんぞーー」と廊下で(さけ)んでいたから、いろいろとジレンマを抱えているようだ。

 俺自身は体調に異常があるわけではなく、一日グッスリと眠ったらほぼ回復した。
 前回は体力が余りまくっていたから、看護婦さんを相手にナンパ&セクハラしてしまったが、今回はそんなことはしていられなかった。
 次の決戦に備えるため、一人で作戦を練り、また様々な準備をした。
 もっとも入院中だから、準備といっても大したことはできない。
 外部の協力者を必要としていたが、一番頼りになるヒャクメが、衰弱して眠りっぱなしの状態になっていた。

 そう言えば、こっちから声をかけていないのに、何人かの看護師さんと仲良くなった。
 彼女たちは、「若いのに落ち着きがあるし、しっかりしているわねー」と俺のことを()めてくれたし、一人は携帯のメルアドまで教えてくれた。
 以前にハヌマンの下で修行をしていた時に、「追いかけるから逃げるんだ。黙っていても女が寄ってくるくらいの男にならんかい」と説教されたが、俺も少しは成長したんだろうか?
 まあ外見は十七歳でも、精神的には二十二歳だからな。




 退院が間近にせまったある日のこと、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。

「どうぞ」

 ガチャリとドアを開けて部屋に入ってきたのは、いつものボディコンスーツを着ていた美神さんであった。

「もう退院したんですか」

「ママのことも気になるから、無理言って検査のスケジュールを早めてもらったの」

 美神さんは、果物とお菓子の入った袋を手にしていた。

「お花も買ってこようと思ったけれど、明日には退院するからかまわないわよね」

「俺は全然気にしないッス」

 美神さんはベッドの脇の椅子に腰掛けた。

「何か飲みますか?」

「お茶がいいわね……。あっ、いいのよ。私がいれるから」

 ベッドから起きあがろうとする俺を、美神さんが手でおさえた。

「すみません」

「いいのよ。病人は寝ててちょうだい」

「俺、まったく元気なんですけど……」

 実際、どこも悪くないのだから美神さんに悪い気がしたが、お茶をいれている美神さんはどことなく嬉しそうだったから、素直に甘えることにした。

「はい」

 俺は、いれたてのお茶が入った湯呑みを、美神さんから受け取った。

「お茶うけも必要ね」

 そう言うと美神さんは、見舞いの品の中からリンゴを取り出し、果物ナイフで皮をむき始めた。
 俺は思わず、目を丸くしてしまう。

「どうしたの?」

「い、いえ。珍しいこともあるんだなぁと思って……」

 おかしい。美神さんの様子が変だ。そう言えば、南極に行った時からおかしかった。
 前回の時は、こんな行動はなかっはずだが……?

「そ、そうかしら?」

 俺がじっと美神さんの顔を見ていると、美神さんの頬がほんのりと赤く染まった。

「あのね、横島クン。前世を見に行った時のこと覚えている?」

「あの時、途中で意識を失ったんで、俺自身は最後まで覚えてないんスですけど」

「その、南極でアシュタロスの霊波を浴びた時に、ヒャクメでも(のぞ)けなかった前世の意識や記憶が、一気に(よみがえ)ったのよ……」

 美神さんの(ほほ)がいっそう紅潮し、口調もたどたどしくなった。
 これって、もしかして……!?

「つ、つまりね、大昔に私、あんたのことが──」

 そこまで言うと美神さんは、顔から湯気が吹き出そうなほど赤くなってしまった。
 言葉が詰まってしまい、下を向いてしまう。
 ひょっとして、ひょっとしたら、俺は告られているのだろうか!?

「えーと、美神さん。俺も多少は覚えているんですよ」

「!!」

「俺自身は覚えていないんですけど、南極でアシュタロスのコピーをした時に、ヤツの記憶の一部を受け継いだんです。
 まぁヤツの知っていることはたいてい……」

「……」

 俺の言葉を聞いた美神さんは、ますます体を固くしてしまった。
 俺もその先の言葉が続かなかった。

 そう言えば前回も、退院した時に似たような会話をした覚えがある。
 あの時は、余計なことは口にするなと釘をさしたのだと思った。
 その後、この件についてはお互いに触れなかったから、真意はずっとわからなかったが。

 ひょっとして以前の時も、そういう含みがあったのだろうか?

「……あの、美神さん」

 一分近い沈黙ののち、ようやく俺は口を開いた。

「すいません。しばらく考える時間をくれませんか? 突然のことで、気持ちの整理がつかなくて」

「そ、そうよね。あの魔族の女性のこともあるでしょうし……」

 美神さんの告白は、正直いってうれしかった。ルシオラに会う前は、やはり美神さんにあこがれていたから。
 ただ今は、ルシオラのことが一番気になっている。

「すみませんが、ルシオラたちがどうなったかわかりますか?」

「GS本部の取り調べはすんでいるはずだけど、詳しくは私も聞かされていないの。
 ママが復帰するまで、西条さんが仕切っているはずなんだけど」

「いえ、いいんです」

 西条が仕切っているんなら、おそらく前回と同じような行動をとるだろう。
 こっちは、そんなに心配しなくてもよさそうだ。

「じゃあ、退院する時にまた来るわね」

 美神さんは、そそくさとした足取りで部屋を出ていった。




 翌日の朝、俺は退院の準備をした。もっとも荷物がバック一つだけだから、すぐに片付いてしまう。

「さてと、あとは美神さんが迎えに来てくれるのを待つだけだな」

 手持ち無沙汰だった俺は、ジュースを買いに行こうとして、ドアのノブに手をかけた。
 しかし俺がドアを開く前に、外からドアが開けられる。

「横島さん、面会ですよ」

 ドアの外にいたのは、この病院の看護師長であった。
 美神さんが来るには、少し時間が早い。
 いったい誰だろうといぶかしんでいると、相手がいきなり胸に飛びついてきた。

「ヨコシマ!」

「ルシオラか!」

「GS本部の許可が出たの。私たち、一緒に暮らせるのよ!」



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