君ともう一度出会えたら
作:湖畔のスナフキン
(25)
「横島さん、ケガはないですか?」
文珠で瞬間移動すると、目の前におキヌちゃんの姿があった。
周囲を見渡すと、狭い部屋に雪之丞や唐巣神父、冥子ちゃんにエミさんなど、いつものGSメンバーが揃っていた。
ヘリの爆音が聞こえるところを見ると、どうやら大型ヘリで移動中らしい。
「無事だったのね、横島君」
ヘリの中には隊長の姿もあった。
「令子のマンションに向かった西条君から連絡があって、皆に非常召集をかけたわ」
「そうだったんですか」
「それで、状況は?」
「俺とルシオラが地下から強襲(をかけたんですが、アシュタロスとベスパが待ち伏せしていました。
文珠もジャミングされて使えず、やむなく逃げてきました」
「令子のマンションに出現した、あの構造物は何なの?」
「あれは、コスモ・プロセッサ。宇宙の構成を自由に組み換える装置です。
ヤツがエネルギー結晶を狙っていたのも、あの装置を動かすためだったんです」
「アシュタロスの目的がわかった以上、是が非でもそれを阻止しなくてはいけません。
このまま敵に接近し、攻撃を開始します!」
隊長が、ヘリの中にいるメンバーに告げた。
「了解」
「やるっきゃないワケね」
「仕方ないですノー」
「ま、待って! ほっといたら、令子ちゃんが、令子ちゃんが死んじゃうわ〜〜〜〜」
ヘリの片隅に美神さんの肉体が、毛布に包まれて寝かせられていた。
そしてその傍で、冥子ちゃんが半ベソをかきながら立っている。
やばい。どう見ても暴走寸前だ。
「大丈夫。冥子ちゃん、落ち着いて。美神さんは必ず助かるから!」
「本当なの〜〜横島ク〜〜ン」
「美神さんの魂は、エネルギー結晶とともにコスモ・プロセッサに吸い込まれたけれど、
まだ消滅していないから、魂を取り戻せば助かるんだ!」
「令子ちゃん、死ななくてすむのね〜〜」
冥子ちゃんの表情に、笑顔が戻った。
とりあえず一安心だな。こんな狭い場所で暴走されたら、戦う前に全滅しかねないし。
まあ、いざとなったら、エミさんが平手打ちして鎮めると思うけど。
「だが急がないと、令子ちゃんの肉体の方がもたない。
無理やり魂を引き剥(がされたから、生命エネルギー不足で、代謝活動が停止する恐れがある」
様子を見ていた西条が、横から口をはさんできた。
「それも大丈夫だ。打つ手はある。おキヌちゃん、ちょっと」
「何ですか、横島さん?」
「美神さんの魂が戻るまで、美神さんの体に憑依(してくれないかな?」
「私の体なら幽体離脱に慣れているから、問題ないですね」
「おキヌちゃん、悪いけど令子の体は頼むわね。
それからマリアは、病院におキヌちゃんの体を運んでちょうだい」
「イエス、ミセス美神」
俺たちの会話をじっと耳を傾けていた隊長が、指示を下した。
やはり美神さんのことが気になっていたのか、緊張した表情がいくぶん和(らいだように見える。
「あの、隊長。もう一つだけ、言いたいことがあるんですが」
「何かしら、横島クン?」
「このままヘリで移動すると、目立ち過ぎます。
離れた場所で降りて、地上から接近した方がいいと思います」
「それもそうね。この辺りで着陸しましょう」
しばらくして、俺たちの乗っていたヘリは、近くの公園に着陸した。
アシュタロスのいる場所まで少し離れているが、徒歩でも近づけないわけじゃない。
俺たちが地上に降りている間におキヌちゃんは美神さんの体に憑依(し、残った体はマリアが病院へと運んでいった。
「横島クン、ちょっと」
ヘリから降りた俺を、隊長が呼び止めた。
「何でしょうか?」
「少し話があるんだけど」
ちょうどよかった。俺とルシオラは、皆とは別行動を取ろうと思っていたから。
そう考えた俺は、隊長と二人で皆から少し離れた場所に移動した。
「これも、あなたの予定なの?」
突然、隊長が懐から銃を抜くと、俺に突きつけてきた。
まさか、隊長まで……
「ヒャクメが昏睡(状態に陥(る直前に、私に話してくれたわ。
あなたが未来から来たこと、そして何か目的をもって動いているということもね。
答えてくれるわね。横島クンの目的は、いったい何なの?」
「皆を助けるためです……と言っても、信じてくれませんよね」
俺は、一人苦笑した。
「ルシオラね?」
「わかりますか」
「あなたが誰に一番執着しているか。それが見えれば、すぐにわかるわ」
さすが隊長だ。その洞察力には、本当に頭が下がる。
もっとも傍(から見れば、見え見えだったのかもしれないが。
「あなたが経験した未来で何があったのか、今は聞かないでおくわ。
けれども、そんなにルシオラって娘(が大事なの!? 令子をあんな目にあわせてまでも!」
隊長が厳しい口調で、俺を問い詰めた。
「隊長……俺は、隊長だけは分かってくれると思ってましたよ」
「いったい、何のこと?」
「隊長は知ってますよね。どうすれば、アシュタロスを確実に倒すことができたか」
「……」
意表を突かれたのか、隊長の詰問がそこで止まった。
俺の胸に突きつけていた銃口も、いくぶん下がっている。
「今となってはもう遅いですが、アシュタロスを倒すには、美神さんの暗殺が一番確実な手段でした」
「……そうね」
「でも隊長には、それだけは絶対に受け入れられなかった。
それで手段を選ばず、アシュタロス打倒の道を模索した。俺を犠牲にしてもいいと思ったこともあるでしょう」
「それについては、否定はしないわ」
「俺にとっては、ルシオラがそうなんです。
あいつを助けるためなら何だってする、一時期は本気でそう思ってました」
「今は違うって言うの?」
「俺は結局、甘チャンな人間なんですよ。とても隊長のように、非情には徹(しきれない。
だから美神さんに負担をかけないよう、別の道を選ぼうとしました。
けれでも、今のやり方を決めたのは、美神さん本人だったんですよ」
「令子が……」
隊長が、驚愕した表情を見せた。
美神さんが俺の正体を知っていたことについては、まったく気がついていなかったらしい。
「美神さんとルシオラは、俺の秘密を知っています。
その上で、美神さんはこの方法を取ることを主張しました。それが、一番確実だからって。
俺は反対したんですが、聞き入れませんでした。
勝つために手段を選ばないなんて、本当に隊長にそっくりなんですよね、美神さんは……」
「……令子は助かるの?」
「美神さんの意思が強ければ、そう簡単に魂は分解されません。急げば、まだ間に合います」
「わかったわ」
隊長は銃口を下げると、銃にセーフティロックをかけた。
その時、俺の背後から、ガサッと草木がゆれる音が聞こえてきた。
「誰!?」
「すみません、立ち聞きするつもりはなかったんですが……」
公園の植え込みの中から出てきたのは、ルシオラだった。
「隊長、俺とルシオラは別行動を取ります。隊長たちは、後から来てください」
「私たちを囮(にするつもり? ま、いいわ。その代わり、令子のことは頼むわね」
「任せてください!」
俺はルシオラの手を取ると、二人でその場から駆け出していった。
隊長と別れたあと俺とルシオラは、アシュタロスのいる美神さんのマンションに向かって移動を始めた。
(このまま進んでいくと、また東京タワーの近くを通るな……)
前回の記憶が、俺の脳裏をチラリとかすめる。
「ヨコシマ。悪霊が、皆のいる方角に集まってきているわ」
「向こうも前進を開始したみたいだな。雑魚(は隊長たちに任せよう」
その時、俺は強い魔力をもつ何かが、こちらに接近してくるのを感じた。
「何か近づいてくるわ!」
「悪霊なんかじゃないな。たぶん、復活した魔族だ」
数分もしないうちに、二叉(の矛(を手にした若い女の魔族が、俺たちの目の前に現れた。
「メドーサ!」
「アンタは、人が考えていることのウラをかくのが得意だからね。
たぶん他のGSたちとは、別行動をしていると読んだのさ」
「やはり、復活してたんだな」
「アタシだけじゃないよ。他にも大勢よみがえっているはずさ。
どっちにしても、こうして生き返ったからには……」
メドーサは矛(をかまえると、その先端を俺に向けた。
「横島ァ! 真っ先にアンタを殺す!」
「そんなこと、させるもんですか!」
俺の横にいたルシオラが、俺をかばうようにして一歩前に出た。
「おまえ……たしかアシュ様直属の……」
「ルシオラ。悪いけど、ここは俺にまかせてくれ」
俺はルシオラを下がらせると、霊波刀とサイキック・ソーサーをかまえた。
「復活直後だからそれほど強くないはずだけど、それでもメドーサの技量は侮(れない。俺が前に出る」
「ヨコシマ、気をつけて! 絶対に無理はしないでね」
前回ルシオラは、メドーサとの戦いでダメージを負ってしまった。
そのダメージが、ベスパとの戦いで不利な要因となった可能性がある。
「フン。正面から向かってくるとは、いつになく勇ましいね。
二度も私に勝ったからって、次も勝てるとは限らないよ!」
「違うな、メドーサ。俺はお前を三回倒している。今度で四回目だ」
「何を、わけのわからんことを──!」
メドーサが自分の間合いに飛び込むと、矛(を突き出した。
俺はサイキック・ソーサーでその攻撃を反らすと、霊波刀で鋭く斬りつける。
メドーサは上半身をひねってその攻撃をかわすが、俺は続けざまに二度・三度と攻撃していった。
「この太刀(筋は、小竜姫の……」
「この五年間、俺は必死になって修行したんだ。おまえにも、ベスパにも、アシュタロスにも負けないために!」
「クッ……」
メドーサは間合いをとるため、いったん後ろに下がった。
すかさず俺は、サイキック・ソーサを投げつけると、空いた左手に文珠を作って握り締める。
「ウオオオォォォッ!」
メドーサが矛(でサイキック・ソーサーを受け流した隙(に、俺は間合いに踏み込んで頭を狙って斬りつけた。
ガッ
霊波刀の一撃を、メドーサが矛(を振り上げて受け止める。
そのため、胴がガラ空きをなった。
「これで、終わりだあああぁぁぁっ!」
俺は左手に握り締めた文珠を、メドーサの腹に叩(きつけた。
「ま……また、こいつに……」
メドーサはガクガクと膝(を震(わせると、バタンと地面に倒れた。
「死んだの?」
「いや。文珠で『眠』らせただけだ。たぶん明日の朝まで、目を覚まさないと思う」
「このままで、大丈夫かな?」
「アシュタロスさえ倒せば、他は問題ないよ。俺たちが勝てば、メドーサも自分で生きる道を探すと思う」
「ヨコシマって優しいのね。メドーサには、ずいぶん苦しめられてきたんでしょ?」
「メドーサを倒したのもこれで四回目だから、いまさら命までとろうとは思わない。
メドーサの方で、どう思っているかまではわからないけど」
そういえば最初の頃って、メドーサには手も足もでなかったんだよな。
実力からすれば小竜姫様と同じくらいだから、当たり前と言えば当たり前なんだけど。
それになんといっても、はじめてディープキスをした相手だしな……
「ディープキスがなんですって……」
えっ!? なんでルシオラが、拳(を握り締めているんだ?
「さっきから、全部聞こえてるのよ……」
ハハハ……久しぶりに、やっちゃったみたいだ。
考えていることを口にするクセは、もう治ったと思っていたのに。
「あとで、ゆっくり聞かせてね」
バチン!
ビルの谷間に、俺の頬(が張り飛ばされる音が鳴り響く。
とりあえずこの場では、一発だけでルシオラに勘弁してもらった。
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