君ともう一度出会えたら

作:湖畔のスナフキン

(27)




》》Yokoshima


 俺とルシオラは、再びコスモ・プロセッサのある場所までやってきた。
 三重に並んだ鍵盤(けんばん)の前で、アシュタロスが立ちながら装置を操作している姿が目に入る。

「ダメだ……宇宙のタマゴ内部には、あらゆる可能性が無限に広がっている。
 外からでは異物を追尾しきれん。やはり、自ら中に入るしか……」

 その時、俺の足元の瓦礫(がれき)が、ガラリと音をたてた。
 その音に気づいたアシュタロスが、俺の方を振り向く。

「……やはり、生きていたか」

「べスパは死んだぞ。おまえのためにな」

「それも、おまえの予定の一つということか」

 アシュタロスは装置の前を離れると、俺の正面に立った。

「どうやら貴様が、私の最大の障害のようだな。これより、全力で排除する!」

 アシュタロスは身構えると、連続で霊波砲を撃ってきた。
 前回のように、半分なめた攻撃などではない。
 俺は空中に飛び上がってその攻撃をかわすと、急いで文珠に『転』『移』の念を込めた。
 前回と同様、一個の文珠に二つの文字が浮かび上がっている。

「ジャミングが効いてないのか!?
 ……そうか、ルシオラだな。貴様、ルシオラと融合したのか!」

 高速で移動したアシュタロスが、俺の前方に立ちふさがった。
 俺はすかさず文珠を使い、アシュタロスの背後の少し離れた位置に瞬間移動する。
 そしてアシュタロスが後ろを振り向く間に、『模』の文珠を作って能力コピーを行った。

「また貴様に、その手を使わせてしまうとはな!」

「悪いな、アシュタロス。本気になったおまえと互角に戦うには、これしか思いつかなかったんだよ」




 対峙していた俺とアシュタロスは、全力で激突した。
 『模』の文珠の特性上、半端な攻撃は我が身にもダメージとなってしまう。
 俺は一発・一発の攻撃に必殺の力を込めていたし、またアシュタロスの方も同様であった。
 全力で霊波砲を撃ち、相手の攻撃をかわす攻防を続けていたが、やがて戦局に変化が訪れた。

 ゴオオォォォッ!

 アシュタロスの鼻先をかすめるようにして、マリアが落下してきた。
 続いて数発のミサイルが、アシュタロスめがけて突っ込んでくる。

 ドーーン!

 ミサイルは見事にアシュタロスに命中した。
 一瞬、周囲の視界が、ミサイルの爆風でゼロになってしまう。

「今だ!」

 俺はこの(すき)を逃さず、宇宙のタマゴの中に飛び込んでいった。




 亜空間迷宮の中に俺は、すぐさま美神さんを探した。
 はるか遠くに美神さんの気配を見つけ、ほっと息をつく。

「ルシオラ。文珠の効果は、あとどれくらい続くかな?」

(亜空間迷宮の中では、時間の経過はあまり意味はないわ。
 ただ、どこかの空間に出れば、『模』の文珠の効果はすぐに切れると思う。
 融合の方は、もう少し長持ちしそうね)

「わかった。それなら、急いで美神さんと合流しよう」

 俺はアシュタロスに追いつかれないよう、亜空間迷宮の中を高速で移動した。
 そして美神さんが近づいたところで、手近な空間の中に飛び込んだ。




》》Reiko

 プログラムワームから逃げ回っていた私は、誰かがこの亜空間迷宮に入ってきたことに気がついた。
 よく慣れ親しんだ気配。それは間違いなく、横島クンのものだった。

 私はプログラムワームの追跡を振り切りながら、横島クンに近づいていく。
 そして彼が近くの空間に入ったので、私もその後をついていった。




 空間の中に入ると、そこは砂漠の真ん中のオアシスだった。
 そして目の前には横島クンの姿があった。

「よかった……美神さん……」

 横島クンの目が、涙でにじんでいた。
 横島クンが私のことを心配してくれていたことに気づいた私は、思わず(ほほ)がカーッと熱くなってしまう。

「横島クン! まずはこいつらを!」

 ピーッ!
 ピキューッ!

 私の入ってきた入り口から、複数のプログラムワームが侵入してきた。
 私は表情を誤魔化すために、慌てて背後のプログラムワームを指差した。

「任せてくださいっ!」

 横島クンは霊波刀を振るって、たちまちプログラムワームを倒した。

「ルシオラは一緒なのね?」

(そうですよ、美神さん)

 ルシオラがテレパシーで、私に直接話しかけてきた。
 対べスパ対策として、二人が融合することは、事前に聞いていた。
 しかし、合体で横島クンと一つになった感覚を知っている私は、少しだけルシオラに嫉妬(しっと)してしまった。

「外の様子は?」

「おおむね、予定どおりッス」

「それじゃあ、最後の詰めね。エネルギー結晶のある場所は、もう見つけてあるわ。さあ、急ぎましょう!」

 私たちは亜空間迷宮に戻ると、エネルギー結晶のある場所に向かって移動をはじめた。




「ここよ」

 亜空間迷宮の心臓部。八角形の形をした他の世界への入り口が無数に並んでいるその空間の中央部に、エネルギー結晶が浮かんでいた。

「美神さん、急ぎましょう」

 私は軽くうなずくと、腕を伸ばしてエネルギー結晶に指先を軽く触れた。
 そして魂の復活を、強くイメージする。

「逆操作成功ッスね」

 私の魂が下半身から再生され、元の身体へと戻っていくのがわかった。

「横島クン、最後まで油断しないでね」




》》Lucciola

 私たちの目の前で、美神さんの魂が再生されて元の身体へと戻っていった。
 しかしこれは、コスモ・プロセッサの動作に邪魔な美神さんの魂を除去するため、アシュ様が私たちの行動を黙認したからにすぎない。
 次は、私たちの排除を狙ってくるはずだ。

(ヨコシマ、アシュ様が来るはずよ。気をつけて)

 その直後に、突然背後の空間からプログラムワームが現れ、私たちの体を捕らえた。

「今のを見逃してやったのは、あの女の生死などどうでもいいからだ」
 メフィストは外へ出た。残ったおまえは、これから放り出す。泳がせるのもここまでだ!」

 私たちが本気になれば、プログラムワームなんてすぐに振り払える。
 しかしここは、アシュ様の策に乗せられたふりをする必要があった。

 万が一の不測の事態に備え、ヨコシマが『転』『移』の文珠を握り締める。
 やがてプログラムワームが、私たちを亜空間迷宮の出口へと引っ張っていった。




 ドガッ!

 プログラムワームが、勢いをつけて私たちを外の世界へと放り出した。
 ヨコシマは空中で回転して姿勢を整えると、地上にうまく着地する。

「横島クン!」

「横島っ!」

「横島さん!」

 私たちのすぐ傍に、美神隊長や西条さんなどGメンや他のGSたちの姿があった。
 どうやら、悪霊たちの防衛線を突破して、ここまでたどり着いたようである。
 もちろん、復活して元の体に戻った美神さんの姿もあった。

「ジャマ者は、これですべて排除した!」

 だが私たちのすぐ後から、アシュ様もコスモ・プロセッサの中から出てきた。

「「ジャマなのはお互い様よ。ここでケリをつけてやるわ、アシュタロス!」」

 美神隊長と美神さんが、親子で口を(そろ)えてアシュ様に啖呵(たんか)を切った。

「えらく威勢がいいが、それは何か根拠があってのことかね」

 アシュ様の顔に怒りの感情が現れていた。(ほほ)がピクピクと(ふる)えている。

「一つは横島クンね。あなたも彼の秘密には、気づいているんじゃないの!?」

 まず隊長が口火を切った。
 西条さんたちはその言葉を聞いて首をかしげていたが、美神さんだけは軽くうなずいている。

「ふむ。たしかに彼の知識は脅威だ。しかし今の出来事が、未来とまったく同じになるとは限らない。
 結果が変化した分だけ、その知識の価値は目減りしていく」

「それだけじゃないわ、アシュタロス!」

 次に口を開いたのは、美神さんだった。

「私は魂だけで、亜空間迷宮の中をさまよっていたわ。
 その間、ずっと感じていた。この宇宙は、おまえを認めないとね!」

 アシュ様の口元が、一瞬強く(ゆが)んだ。

「おまえのやってることは、宇宙のレイプよ! 世界の中で戦って目標を達成しようとするのでなく、
 ただ宇宙を自分の思いどおりに修正しようとするなんて!
 宿題やるのがイヤだからって、学校に火をつけるガキとどこが違うの!」

「フッ……おまえの言ってることは、正しいよ」

 いつも冷静なアシュ様の表情に、徐々に強い(いきどお)りの感情が浮かび上がってきた。

「宇宙を変換処理することは、非常に大きな反作用を生む。
 それが私を排除しようとする『宇宙意思』だ。
 だが、それがどうしたというのだ! 世界は過去も現在も未来も、腐臭(ふしゅう)を放ち続けている。
 それを正すのに、私はためらったりしない!
 神・人・魔、すべてを滅し消去する。私がそれを決意したのも、宇宙の意思なのだ!」

 アシュ様が、私たちに向かって一歩踏み出した。

「私には強固な意志とエネルギーがあり、残る障害はおまえらだけだ!
 人間のおまえらに宇宙が多少の悪運を授けたところで、これを防げるというのか!」

「待て、アシュタロス!」

 美神さんたちを攻撃しようとしたアシュ様を、ヨコシマが呼び止めた。

「ほう、私とやる気か? たしかに貴様なら、私と対等に戦うことができる。
 しかし、この場で私とおまえが全面衝突すれば、他の人間たちが巻き添えを食うぞ。
 それでもいいのか!?」

 アシュ様の言葉を聞いたヨコシマは、その場で動きが止まってしまった。

「ま、いいだろう。最後の慈悲だ。苦しませずに終わらせてやろう」

 アシュ様が、コスモ・プロセッサに向かって歩いていった。

「おまえたちの悪運につきあわされて、だいぶ時間を無駄にした。
 せっかく装置が正常に戻ったことだし、遅れを取り戻すことにしよう。
 私に抵抗する最後の勢力──GSを、この世から消去(デリート)だ!」

 バアァーーン!

 アシュ様が鍵盤(けんばん)を叩いた音が、周囲に強く鳴り響いた。

「えっ!?」

「何も起きませんね?」

 皆は、思わず目をつぶったり身構えたりしていたが、何も起きなかったことにかえって(おどろ)いていた。

「こ、今度はなんだーーっ! また悪運で、セコいトラブルでも発生したのかっ!」

「かかったわねっ、アシュタロス!」

 美神さんがニヤリと笑いながら、大きな声で叫んだ。

「作戦どおりってことさ。情報を制する者は宇宙を制す──世界からワンランクアップしたかな」

「き、き、き、貴様! 今度はいったい何をした!」

「こういうことさ」

 コスモ・プロセッサの中から、エネルギー結晶を掴んだ文珠のマジックハンドが飛び出してきた。
 私たちはその正面に回ると、さっとエネルギー結晶を(つか)み取る。

「貴様、それをよこせっ!」

「悪いな、アシュタロス。俺はおまえに時間を与えると、何をするのか知っている。
 だから、この場で──」

 ヨコシマが『破』の文珠を作り出した。

「チェックメイトだ、アシュタロス!!」

 ヨコシマが間髪いれずに、文珠を発動させた。

「や、やめろーーっ!」

 カッ!

 破壊したエネルギー結晶が、強い閃光(せんこう)を発した。
 私たちを中心にして、膨大なエネルギーが空中へと舞い上がっていく。

 ドン! ドンドンドンドン!

「横島クン、ここは危ない!」

 ミシッ!
 ミシミシミシッ!

 コスモ・プロセッサのあちこちで爆発が生じ、崩壊が始めていた。
 上部の(かさ)に当たる部分の根元に亀裂が生じ、そこから大きく傾いていく。

「緊急退避! 全員、急いでここから逃げて!」

 隊長の命令とともに、皆が一斉にこの場から逃げ始めた。
 私たちも急いで、この場から離れていく。

 ゴゴゴゴゴ……
 ズズズズシーーン…………

 私たちの背後でコスモ・プロセッサが、大きな地響きをあげて倒壊し、そして爆発・炎上した。




 気がついたら、私とヨコシマは分離した状態で倒れていた。
 どうやら爆発から逃げる途中で、『融』『合』の効果が切れたらしい。

「ヨコシマ、起きて」

「う……うーん」

 ヨコシマが小さな声でうなりながら目を覚ました。

「状況は?」

「とりあえず、1ラウンド終わったみたい」

 ヨコシマと私は、瓦礫(がれき)の山をよじ登って、皆の姿を探した。

「おーーい、こっちにいたぞー!」

「無事だったか、横島君!」

 瓦礫(がれき)の上には西条さんやピートさん、雪之丞さんたちの姿があった。

「美神さんは?」

「私はここよ!」

 マンホールの(ふた)が開いて、美神さんと美神隊長、そしておキヌちゃんが姿を現した。

「ヨコチマ、べスパちゃんは?」

 パピリオが、べスパの安否をヨコシマに尋ねた。

「すまん、パピリオ。べスパとの戦いは避けられなかったんだ」

「そうでちたか。それじゃあ、べスパちゃんは……」

「心配するな、パピリオ。べスパは必ず復活……」

 その時だった。瓦礫(がれき)の一角が崩れ、アシュ様が再び姿を現した。

「クックックックッ……フッハーッハッハッハッハ……」

 アシュ様は目が血走り、顔や手足にひびが入った、見るも無残な姿をしていた。

「ククク……よくぞここまで、俺の邪魔をしてくれたな、小僧!
 貴様さえいなければ、我が野望が潰えることはなかっただろう」

「どうだかな。俺がいなけりゃいないで、誰かが代わりを(つと)めたと思うぜ」

「貴様という存在を過小評価していたことを、心から()いているよ。だから……」

 アシュ様が、ヨコシマに向かって手を伸ばした。

「この場で完全に消し去ってくれる! 死ねいっ!」

「ダメーーーーッ!」




》》Yokoshima

 アシュタロスがクイックモーションで、攻撃してきた。
 ヤバイと思った瞬間、目の前に誰かが走りこんでくるのが見えた。

「ダメーーーーッ!」

「ルシオラ!!!」

 そんな……ウソだろ?
 目の前で、ルシオラの体が白く光り輝いて……
 まさか……そんな……

 ズキューーン!

 西条がアシュタロスの眉間(みけん)を銃で撃ち抜いたが、俺はそんなことはどうでもよかった。
 俺はルシオラの(かたわ)らに駆け寄ると、倒れているルシオラの体を抱きかかえた。

「ルシオラ、おい、しっかりしろ!」

「ヨコシマ……怪我は……ない……?」

「俺は大丈夫だよ。だから、しっかりしてくれ、ルシオラ!」

 ルシオラが苦しそうな表情で、俺の声に答える。
 俺は急いで『治』の文珠を作って、ルシオラに発動させた。だが……

「効かない……みたいね……
 アシュ様は……霊基構造にまで……ダメージを与える攻撃を……
 いくら文珠でも……魂まで修復することは……できないみたい……」

「ダメだ、死んじゃダメだ、ルシオラ!」

「歴史には……代償が必要だわ……これが……アシュ様を倒した代償……」

「わかってるよ、そんなこと! でもそうならないように、俺たち頑張(がんば)ってきたんじゃないか!」

「ヨコシマ……美神さんを……大切にしてあげてね……」

「頼む、死なないでくれ! ルシオラが死んだら、俺の今までの苦労はいったい何になるんだ!」

 俺はルシオラの体を、何度も()さぶった。
 ルシオラが優しいまなざしで、俺の顔を見つめる。

「また二人で一緒に……夕陽を見たかった……」

「ルシオラ、お願いだ、目を開けてくれ!」

「愛してるわ……ヨコシマ……」

 俺の腕の中でルシオラの体が発光し、そして消えていった。

「ルシオラーーーーッ!」



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