君ともう一度出会えたら

作:湖畔のスナフキン

(外伝02.未来から来た少女[4])




》》Yokoshima


 俺とルシオラと蛍華の三人は、銭湯を出ると、いったん俺のアパートに戻った。

「ルシオラ、これからどうする?」

「着替えも持ってきてないし、美神さんの事務所に戻る」

「そうか。今日はありがとうな」

「ううん、気にしないで」

 そう言って、ルシオラが玄関から離れようとしたとき、蛍華がルシオラの服のすそをギュッと掴んだ。

「ねえ、ママ。今から一人でお出かけするの?」

 蛍華が寂しそうな目つきでルシオラを見上げる。
 蛍華の視線を感じたルシオラは、立ち止まってから蛍華の顔をのぞきこんだ。

「大丈夫よ。今日はもう、どこにも行かないわ」

「ママ、本当!?」

「おいおい。ルシオラ、大丈夫か?」

「後で事務所に電話を入れるわ。それから、何か寝巻き代わりになる物を貸してくれない?」

「ああ、いいよ」




 結局、ルシオラは俺の部屋に泊まっていくことになった。
 ルシオラには、俺のパジャマを着てもらった。
 もちろん子供の寝巻きもないので、蛍華は学校の体操着と短パンに着替えさせる。
 布団は、この部屋には二組しかないので、二枚の敷布団をピッタリとくっつけて、その間に蛍華を寝かせる。
 寝るには少し早い時間だったが、蛍華がもう眠たそうだったので、電気を消すことにした。

「ヨコシマ、起きてる?」

「まだ起きてるよ」

「今日は、いろんなことがあったね」

「ああ、そうだな」

「この子が来てから、ずっと慌しいことの連続で……でも、不思議。迷惑だなんて、全然思わないの」

「子供の世話って、そういうもんだと思うよ」

「パピリオの相手してるときは、面倒に感じることもよくあったんだけど」

「そうかな? 俺はパピリオと遊ぶのも、けっこう楽しいよ」

「ヨコシマは、もともと子供好きだから」

「でも、自分の子供だと思うと、感じが違わない?」

「そうかもしれない……けど、私の子供だっていう実感がわかないのよ」

「蛍華は、間違いなくルシオラの子だよ」

 俺はスースーと寝息をたてている、蛍華の寝顔を覗き込む。
 その表情には、ルシオラを幼くしたらこうなるだろうと思われるほど、ルシオラの面影がはっきりと残っていた。

「蛍華の着替えが必要だな。明日は買い物に行かないと」

「私だけだと、ちょっと自信ないな」

「おキヌちゃんにも、手伝ってもらったらいいさ」

「そうね、私から頼んでみる。それじゃあ、もう寝るわ。おやすみなさい、ヨコシマ」

「おやすみ、ルシオラ」




》》Lucciola


 翌朝、皆より先に目が覚めた私は、寝巻き姿のまま台所に向かった。
 この部屋にエプロンが無いことは知っていたので、エプロンを着けずに料理を始める。
 しばらくして、食事のにおいに釣られたのか、横島が布団からむくりと起き上がった。

「おはよう、ヨコシマ。ご飯できるまで、もうちょっと待っててね」

 ヨコシマが目をこすりながら、私の姿を注視した。
 昨夜、寝る前にメイクを落としてからそのままだったので、ちょっとだけ恥ずかしい。

「も……」

「も?」

「萌えーーーっ!」

「キャーッ!」

 ヨコシマが目を血走らせながら、いきなり飛びかかってきた。
 私は体を捻って、ヨコシマの体当たりをかわす。
 ヨコシマは顔面から壁に激突し、そのままズルズルと床に落ちた。

「もう! いきなり何をするのよ!」

「だって、ルシオラが……」

 ヨコシマの話によると、私の服装がヨコシマの萌え心(なにそれ?)をくすぐったらしい。
 ちなみに一番が裸エプロンで、二番目がだぶだぶのシャツ。三番目が男物のパジャマとのこと。
 二番目と三番目はともかく、一番目はちょっと……

「でも、寝る前と同じ格好だけど?」

「わかってないなー。その服で台所にいるのがポイントなんだよ」

 ヨコシマがチッチッとつぶやきながら、指を横に振る。
 でも、ヨコシマが男女のシチュエーションに、こんなにこだわりをもっていたなんて、今まで知らなかった。
 今度、時間をみつけて調べてみよう。




》》Yokoshima


 朝ごはんを食べたあと、俺たち三人は買い物へと出かける。
 駅でおキヌちゃんと合流してから、駅前のデパートに入って、子供服売り場へと向かった。

「ルシオラさん。この服なんか似合うと思うんですけど」

「あ、けっこう可愛いわね。それじゃ、スカートはこの色に合わせた方がいいかしら?」

 ルシオラは、始めて足を踏み入れる子供服売り場で戸惑う様子を見せていたが、やがておキヌちゃんと一緒になって、熱心に子供向けの服を探すようになった。
 俺はというと、服のことはからきしわからないので、少し離れた場所で熱心に買い物をする二人の様子を、ぼーっと見ている。

「パパーーっ」

 蛍華はしばらく二人と一緒にいたが、俺の所に来たところを見ると、着せ替え人形にされるのに飽きたらしい。

「退屈しちゃった。ねえ、蛍華と遊んで」

「遊んでと言われてもなー」

 デパートの中でどうしようかと思って周囲を見回すと、フロアの一角にある施設が目に入った。

「よしっ! あそこに行こうか!」




 俺は蛍華の手を引いて、子供服売り場と同じフロアにあるこども広場に向かった。
 そこには、すべり台やブランコ、ミニトランポリンなどの遊具施設が置かれている。
 また絵本やブロックなど、座って遊べる玩具も用意されていた。

「蛍華。どれで遊ぼうか?」

「あれがいい!」

 蛍華は俺の手を離れると、すべり台へと近づいた。

「パパは、下で待っててね」

 蛍華は「うんしょ、うんしょ」と言いながら小さなはしごを上まで上ると、下で待っている俺のところにスーッとすべり降りた。

「楽しかったか?」

「もう一度やる〜〜」

「よーしっ。それじゃあ、また下で待ってるからな」




》》Lucciola


 買い物を終えた私たちは、駅でおキヌちゃんと別れたあと、いったんアパートに戻ることにした。
 服や靴、それから玩具まで買い揃えたので、両手に買い物袋をぶら下げている。
 ヨコシマはというと、肩車をしていた蛍華が、ヨコシマの肩から降りようとしないため、袋を一つだけ持ってもらった。

「ねえ、ヨコシマ」

「なんだい?」

「今の私たち、他人から見てどう見えるのかな?」

 私たち三人が珍しいのか、すれ違いざまに私たちにチラリと視線を向けたり、信号待ちをしている時に、こちらを見ながらヒソヒソと会話する人たちの姿が幾度も見られた。

「どうだろうね。ルシオラはともかく、俺と蛍華じゃとても親子には見えないだろうな」

 私が知る限りでも、肉体年齢十七歳では、父親になるには早すぎる年齢だ。
 せいぜい、歳が離れた親戚のお兄さんといったところだろう。
 私にしても、四歳の娘がいる女性には見えないだろう。
 年齢は別にしても、やはり子供のいる女性というのは、どこか雰囲気が違うものだ。

「帰りは、ヨコシマと手をつなぎたかったな……」

 ひょっとしたら、私はヨコシマを一人占めする蛍華に、焼き餅を妬いているのかもしれない。
 蛍華に聞こえないよう、私は小声でそっとつぶやいた。



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