竜の騎士
作:男闘虎之浪漫
第一章 『再会』 −3−
城の周囲は森にわれていたが、森と城の間には数百メートルほどの幅の平地が広がっている。
その平地の中央部で一体のゴーレムが、地上に下りた三人の竜騎士と戦っていた。
三人の竜騎士たちはゴーレムを囲み、主に霊体ボーガンで攻撃を仕掛けていた。
竜騎士たちはエリート中のエリートであるとはいえ、ヨコシマやユキノジョーのように遠隔攻撃能力をもつ竜騎士の数は限られている。
遠隔攻撃能力を持たない竜騎士は、鉄の鏃に霊力を込めた破魔矢や、鏃(に精霊石をはめ込んだ矢を、霊体ボーガンで発射して攻撃を行う。
破壊力では精霊石の矢の方が圧倒的な破壊力を持つが、生産量が少なく値段が高価であるため無駄遣いはできない。
通常の攻撃には、破魔矢を使用することが多かった。
当初ゴーレムの周囲を警備していたゴブリンたちは、空から竜の攻撃を受け、ここでも壊乱(状態に陥(っていた。
ゴブリンに比べ体格と勇敢さで勝るホブゴブリンの部隊が、ゴーレムを援護するために地上の竜騎士を攻撃しようとするが、上空を旋回する三騎の竜騎士から攻撃を受けなかなか接近できずにいた。
ようやくメドゥーサとルシオラたち魔族の迎撃隊が森を抜けた時、既に二体のゴーレムが破壊・捕獲されていた。
「出遅れたね」
メドゥーサは軽く舌打ちするが、彼女は戦場経験豊富な指揮官である。すぐに冷静さを取り戻した。
自分たちが敵に発見されていないことを確認すると、奇襲の準備をはじめる。
敵に見つからないよう木陰に身を潜めながらベルゼブルとハーピーで隊を分け、攻撃を開始したらベルゼブルたちは地上の竜騎士を、ハーピーたちは空中の竜騎士を攻撃するように指示を出した。
「ルシオラ、やれるかい」
メドゥーサが飛行する竜を指差す。
ルシオラは空中を旋回する竜をしばらく見つめたあと、コクンとうなづいた。
ルシオラは右手を脇に引き寄せ左手を右手の下にあてて構えると、霊気を右の掌(に集中させた。
そして飛行中の竜が接近してルシオラの正面にきた時に、右足を踏み出して右手を大きく伸ばし霊波砲を放った。
ルシオラの放った霊波砲は夜空を一閃し、飛行する竜の脇腹に命中した。
竜のうろこは非常に硬くたいていの攻撃を跳ね返してしまうが、ルシオラの放った霊波砲の攻撃力は竜のうろこの防御力を大きく上回っていた。
霊波砲は竜のうろこを突き破り、竜の脇腹を大きくえぐりとった。
「突撃!」
メドゥーサは大声で指示を出すと、霊波迷彩マントを脱ぎ捨てて自らも空中へ飛び出した。
ベルゼブルやハーピーたちも、一斉に森から飛び出す。
ルシオラもマントを捨てて、空中へと飛び立った。
突然の攻撃を受けた竜は、空中で姿勢を大きく崩した。
あわや墜落(かと思われたが、何とか姿勢を取り戻すと滑空(して戦場を離れていった。
攻撃を受けた第三小隊の指揮官があわててスーパー見鬼のディスプレイを見ると、高速で接近する敵の姿が映っていた。
「敵だ! 霊視ゴーグルを装着しろ! 緊急回避!」
夜間の空中戦闘では、敵の姿を肉眼で捉えるのが難しい。
そこで妖力を視認できる霊視ゴーグルを使用する。
指示を受けた竜騎士たちはあわてて霊視ゴーグルを装着しようとするが、既に敵の魔族は彼らに急接近していた。
「遅いんだよっ!」
メドゥーサが先端が二股に分かれた愛用の矛(を突き出す。矛(は竜騎士の胸に刺さり、そのまま前のめりに倒れた。
飛行中の落下事故を防ぐため、飛行中の竜騎士は魔力で鞍(にくくりつけられている。
そのため外部からの力で、鞍(から体が離れることはない。
しかし乗り手の竜騎士が戦闘不能状態に陥(ったため、その竜はそのまま戦線を離脱した。
残りの一騎にも、ハーピーたちが襲(いかかった。狙いを定めて、数鬼のハーピーがフェザー・アローを放つ。
高速で飛来する数本のフェザー・アローのうち、一本は竜騎士が構えていた盾に当たり、残りは竜のうろこに命中した。
フェザー・アロー程度の攻撃では、竜のうろこはびくともしない。
またその竜騎士が持つ盾は魔術師によって魔力が付加されており、物理的な強度だけでなく霊的攻撃に対する防御力も上がっていた。
その竜騎士はハーピーからの攻撃を二度・三度としのぐと、態勢を立て直すためいったん戦闘空域(から離脱した。
「こちら第三小隊、敵多数から攻撃を受けています。二騎やられました。至急応援をお願いします」
「こちら第二小隊、ベルゼブル七鬼と交戦中。応援を頼みます」
相次いで敵襲の連絡が入ってきた。
特に第三小隊を襲(った敵は強力そうだ。一瞬のうちに二騎を倒してしまうとは、かなりの手練(れが混じっているに違いない。
中隊長は、個人戦闘力で一番優れているヨコシマの投入を決断した。
「こちら第三中隊長だ。第一中隊のヨコシマと第一・第四小隊は、第三小隊の援護に向かう。他のメンバーは、地上の第二小隊の応援に向かってくれ。以上」
上空で待機していた第一・第四小隊の六騎、そしてヨコシマを乗せ地上を飛び立ったシュルガが、第三小隊が戦っている戦闘空域へと向かった。
「そろそろ新手の敵がくるころだね」
メドゥーサは戦闘空域を離脱した敵の追撃をニ鬼のハーピーに任せると、残りのメンバーを集結させた。
「固まっていると竜の炎(の一撃でやられるからね。合図をしたら散開するんだ。こっちの方が小回りがきくから、相手の脇や背後から攻撃するんだよ!」
メドゥーサは指示を出している最中、高速で飛来する敵の気配を感じた。
「行くよ!」
メドゥーサと少し遅れて到着したルシオラ、そしてハーピーたちが迎撃に向かった。
第三中隊長はスーパー見鬼で敵を確認した。全部で八鬼いるが、うちニ鬼は魔力反応がかなり高い。
「スーパー見鬼で敵を確認。全部で八鬼だ。うちニ鬼は魔力が高い。攻撃に際しては注意せよ。第一小隊は、三角編隊(を組んで突っ込む。合図をしたら一斉に攻撃すること、以上」
第一小隊のメンバーは中隊長の斜め後ろにつき、三角形の隊列を組んで飛行した。
上空から降下しているため落下速度が加わり、突撃速度は勢いを増す。
やがて霊視ゴーグルにも敵の姿が見えてきた。
「ファイア!」
号令とともに、三体の竜から一斉に火炎が放射された。
敵も散開して攻撃をかわそうとするが、離脱に遅れた一鬼のハーピーが三本の炎(の渦(に巻き込まれ、火だるまとなった。
三体の竜はそのまま戦闘空域を高速で通過すると、散開して反転した。
そして別方向からきた第四小隊も攻撃に加わり、敵味方が入り混じった凄(まじい乱戦となった。
ルシオラは初めて経験する大規模な戦闘に、大きなとまどいを覚えていた。
戦闘訓練は何度も受けている。幻術(による戦闘シミュレータも数多くこなしていたし、実戦さながらの戦闘訓練も受けていた。
そしてそのいずれでも優秀な成績を修めていたのであるが、しょせんは訓練である。
実戦の生々しさは、彼女の想像を超えていた。
巨大な体の竜が轟音(をあげて空中を飛び交い、竜の吐き出す炎(が夜空を赤く染めあげていた。
魔族のルシオラといえども、竜の炎(をまともに受けてしまえば無傷というわけにはいかない。
おそらく、かなりのダメージを負うであろう。
ルシオラは高速で飛行しつつ、相手の隙(を狙って攻撃をした。
戦闘空域でぼやぼやしていると、敵の攻撃の格好の的となってしまうからである。
だが狙われる方もバカではない。正面から敵を攻撃しようとすると、竜の炎(が襲(いかかってくる。
竜の炎(の的にならないよう相手の正面を避ければ、今度は竜騎士が霊体ボーガンで攻撃してくる。
霊体ボーガンの矢が破魔矢であればたいした脅威にはならないが、精霊石の矢の場合はダメージも大きい。
(おかしい、体が思うように動かない。こんなはずでは……)
ルシオラは懸命に戦いつつも、かなりの焦(りを感じていた。
このままではいけないと思い、いったん戦闘空域を離れる。
安全な空域まで移動してから何度も深呼吸し、心を落ち着かせようとした。
「初陣(でだいぶ緊張しているみたいだね」
どこからともなくメドゥーサが現われ、ルシオラに近づいてきた。
「訓練を思い出すんだよ。実戦の迫力は訓練の比ではないけど、自分を見失ったらやられちまう。落ち着いて、自分が一番得意な戦法で思いきり戦ってみるんだ」
「ええ、そうするわ」
簡単なアドバイスであったが、ルシオラの心はだいぶ落ちついてきた。
ルシオラは初めて体験する戦場の迫力にとまどい、自分を見失っていたのだ。
息を整えると、ルシオラは再び戦闘空域へと向かっていった。
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