竜の騎士

作:男闘虎之浪漫

第一章 『再会』 −4−




 ルシオラは戦闘空域(コンバットエリア)に入ると、敵に目立つようにわざと速度を落とした。
 案の定、正面から一騎の竜が近づいてくる。
 ルシオラは逃げずにその場で立ち止まると、竜にまたがる竜騎士の目を見据えた。

 ゴオオォォ!

 ルシオラを軸線上に捉えた竜は、そのまま突っ込んで絶妙のタイミングで炎を放った。
 ルシオラの姿が、竜の炎に呑み込まれる。だが次の瞬間、ルシオラの姿が炎の中に溶けるようにして消えてしまった。

 思いもよらない事態に、その竜騎士は周囲をきょろきょろと見回した。
 そして背後を振り向いたとき、気配を隠しながら相手の背後に回ったルシオラが、首筋に手を伸ばす姿が見えた。

 バチバチッ!

 ルシオラの手から電撃のような光が放たれる。
 電撃をくらった竜騎士は意識を失ってしまい、(くら)の上でうつ伏せになって倒れてしまった。
 魔力で(くら)の上につながれているため竜から振り落とされることはなかったが、指示する者がいなくなった竜はそのまま戦場を離脱した。
 幻術で敵を撹乱(かくらん)させ、その隙に接近して相手を麻痺(まひ)させる攻撃を、ルシオラは一番得意としていた。




「あの娘も、なかなかやるね」

 ルシオラの攻撃を受け、戦場を離脱する竜を見ながらメドゥーサがつぶやいた。

「こっちもそろそろ本気を出すか」

 メドゥーサは、無雑作に敵に近づいた。
 魔族の接近に気づいた竜騎士は霊体ボーガンで破魔矢を放つが、メドゥーサは手にしていた(ほこ)で難なく打ち落とす。

「今度はこっちの番だね。いくよ!」

 メドゥーサは得物(えもの)を構えながら念をこらし、超加速に入った。
 メドゥーサの周囲の空気が粘りを増した。周囲の時間の流れが相対的に遅くなっているため、高速で移動するのと同じ効果を発揮するためである。

 メドゥーサは体に大きな抵抗を受けながらも、()を描くように移動して竜騎士の背後についた。  そして脇腹にある(よろい)の継ぎ目に(ほこ)を突き刺す。
 (ほこ)を抜いて超加速を解くと、その竜騎士は口からドバッと血を吹き、前のめりに倒れた。おそらく致命傷であろう。


 メドゥーサはその場を離れ、次の敵を探しはじめた。
 超加速は魔力を大量に消費するためそう何度も使えないのだが、今が勝負どころであるとメドゥーサは判断した。
 また別の敵を見つけると、再度超加速に入る。

「死ねええええっ」

 掛け声を上げながら一気に突進し(ほこ)を突き刺そうとした瞬間、メドゥーサの(ほこ)は横から振り下ろされた霊波刀によって打ち落とされた。

「ヨコシマっ!!また貴様か!!」

「ヘッ、そう露骨にイヤな顔をするなよ」

 ヨコシマの左手には『加』『速』『飛』『翔』の四つの文殊が握られていた。

「何度も何度も何度も、アタイの足を引っ張りやがって!」

「そう固いこと言うな。こっちにもお前のやりたい放題にはさせとけない事情があるからな」

「うるさい! 今日こそ死んでもらうからね!!」

 メドゥーサはいったん飛び下がって間合いを確保すると、連続して突きを入れてきた。
 ヨコシマはその攻撃を、左手に構えたサイキックソーサーで受け止める。
 そして、四度目の突きを受け流したあと右サイドに回り込み、今度はこちらから斬りつけた。

 メドゥーサはその斬撃を受け止めると、(ほこ)を振り回してヨコシマの足をなぎ払おうとする。
 ヨコシマはその攻撃をバックステップしてかわし、霊波刀とサイキックソーサーを構え直した。


 ヨコシマとメドゥーサの闘いは、さらに続いた。
 純粋に技だけで比較すれば、メドゥーサの方が若干上であろう。
 激しく切り合いながらも、メドゥーサの方がヨコシマを押していた。
 ヨコシマはメドゥーサの攻撃を右に左にかわしつつも、後退を続ける。

 ヨコシマはメドゥーサの(すき)をみて間合いに飛び込み、霊波刀で斬りかかった。
 メドゥーサはヨコシマが頭上に撃ちこんできた霊波刀を、(ほこ)で受け止める。
 ヨコシマは力で押しきろうとするが、メドゥーサは必死に(こら)えた。
 メドゥーサは腕に力を入れてこらえつつも、ヨコシマの(すき)をみて腹を蹴り飛ばした。
 ヨコシマは姿勢を崩し、後方に吹っ飛ばされる。

「もらったあ!!!」

 (ほこ)を振りかぶって、メドゥーサがヨコシマの(ふところ)に飛び込もうとする。だが、その時……

「文珠発動!」

 ヨコシマが手にしていた文珠が光るやいなや、メドゥーサの動きが止まった。
 ヨコシマが手にしていた文珠には『専』の字が出ていた。

「なっっ……」

 とっさのことで、メドゥーサは声がでない。

「かかったな。超加速に入る前にシュルガの上に『糸』の文珠を発動しておいた。そしてこれが『専』、そしてお前が『`』なんだ」

「きっ……貴様……」

「合わせると『縛』の効果を発揮する。後はシュルガと俺とお前が同一線上にくるように誘い込んだというわけだ」

「くっ……くそうぉ……」

 メドゥーサの反応を無視して、ヨコシマはサイキックソーサーに霊力を集中させた。
 サイキックソーサーは徐々に大きさを増し、そして元の大きさの2倍になったところで、メドゥーサに投げつけた。
 メドゥーサはたまらず吹き飛ばされてしまう。そこで集中力を切らしたのか、メドゥーサの加速状態が解けた。

「おっと、こっちもそろそろ限界だな」

 ヨコシマも加速状態を解いた。
 メドゥーサは攻撃の余波で、大きく吹き飛ばされていた。
 すかさず追い討ちの攻撃をかけようとするが、一瞬早くメドゥーサの姿が消えた。
 メドゥーサの逃げ足の速さは超一流である。もっともそれがあるからこそ、メドゥーサは今まで生き延びてこれたのだろう。
 強さだけでは長く生きられないのが戦場なのだ。




「撤退だ……。全員引き上げ……るように……」

 かなりのダメージを受けたのか、メドゥーサの声は苦しそうだ。
 だがメドゥーサは撤退の指示を出すと、何とか自力で戦闘空域を離れた。

 メドゥーサからの撤退の指示を聞いたとき、ルシオラは戦闘空域の真っ只中にあった。
 撤退するにしてもうかつに敵に背中を見せては、追撃にあって大損害が出てしまう恐れがある。

(私が敵を引き付けて、その間に逃がすしかなさそうね)

 ルシオラはそう決断した。自分一人ならば、幻術もあるし逃げ切ることは不可能ではない。

 ルシオラは戦闘空域に留まり、周囲の敵を自分に引きつけた。彼女が戦っている間に、一鬼・ニ鬼とハーピーたちが離脱していく。
 何鬼かのハーピーが、離脱せずに戦場に留まるルシオラを奇妙な目で見ていた。
 魔族は上下の統制こそ厳しいが、他は徹底した個人主義であることが多い。

(そこが魔族と人間の違いみたい...)

 ルシオラは“敵”である人間の行動様式についての知識ももっていた。
 例外もあるが、彼らは共に戦う仲間を助けあう習性がある。
 時には仲間を助けるために、自らの生命を危険にさらすことすらあった。

 もっとも魔族であっても、肉親には強い(きずな)を感じることが多い。
 彼女はともに育った姉妹であるベスパ・パビリオに強い(きずな)を感じていた。
 その気持ちは、ベスパやパビリオも同様である。

 彼女たちは、生まれてから数ヶ月続いた訓練期間中、常に三人固まって行動していた。
 姉妹で結束する分だけ、仲間意識の低い他の魔族たちとは一線を引いていた。
 ひょっとしたら他の魔族に対して、一種の嫌悪感を感じていたのかもしれない。
 そういう意味では彼女の心は、魔族よりも人間よりであると言えよう。

(ベスパやパビリオがいたら、この場に一緒に残ってくれたかしら...)

 ふとそんな考えが脳裏に浮かんだ。




【後書き】
 対メドゥーサ戦ですが、原作とほとんど変わらない展開になってしまいました。
 文珠の効果的な使い方って難しいですね。
 何でもアリの文珠であるだけに、リアルな描写をしようとすると、かなり使い方にかなり困ったりします。
 メドゥーサについてですが、この後も何回か登場する予定です。


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