竜の騎士

作:男闘虎之浪漫

第一章 『再会』 −5−




 ヨコシマは飛行中のシェルガの上にいったん戻った。
 周囲を確認すると、既に敵は撤退(てったい)をはじめている。

「やれやれ、メドゥーサを追っ払ったから一安心だな」

(いや、まだだぞ)

 シェルガがヨコシマに話しかけてきた。

(ヨコシマも見ただろう、竜の防御を打ち破るほどの強い光を。あれはメドゥーサではないはずだ)

 メドゥーサは確かに強い。しかし彼女の攻撃は接近戦が主体である。
 霊波砲を撃つこともあるが、接近戦の攻撃に比べればさほどの脅威(きょうい)ではなかった。
 もちろん、竜のうろこを貫通するほどの威力はない。

(もう一鬼いる。それも桁外(けたはず)れの力をもったヤツだ)


 相手はすぐに見つかった。
 体から(あわ)い光を発しており、霊視ゴーグルを通さなくても見ることができた。
 相手は素早い動きで味方を撹乱(かくらん)し、追撃にかかろうとする味方を足止めしていた。

「いくぞ!」

 ヨコシマとシュルガが攻撃に加わった。
 シュルガは翼を強く羽ばたき、戦闘空域へと突入していく。
 素早く飛び回るルシオラに対して、シュルガは()(えが)きながら接近した。
 そして軸線上に目標を捉えると、すかさず炎を放つ。

 ゴオッ!

 シュルガの炎が飛行中のルシオラの姿を包んだ瞬間、その姿があたかも炎に溶けたかのように、かき消えてしまった。

(幻術か!)

 戦士の直感が、ヨコシマに警告を発した。
 精神を集中し、必死になって敵の気配を探る。
 数秒後にわずかな気配を察した。
 その気配はヨコシマに急速に接近していた。

「そこだ!!!」

 ヨコシマは振り向きざまに、文珠を投げつけた。

 出鼻をくじく、という言葉がある。
 敵に攻撃を加える瞬間、攻撃側はまったくの無防備になる。
 その瞬間を捉えることができれば、絶対にその攻撃は外れることはない。
 ヨコシマは(まさ)にその瞬間を捉えていた。
 文珠の表面に浮き出ていた文字は……『爆』。

 ドオォーーン

 閃光(せんこう)と同時に、衝撃波と爆風が巻い上がった。
 ヨコシマは、サイキックソーサーをすかさず上半身を(おお)うほどの大きさまで広げ、爆風をしのぐ。
 しかし不意を突かれたルシオラは、そのまま(さけ)び声をあげつつ、爆風に吹き飛ばされてしまった。

 数秒後に爆風が収まった。
 爆風が収まるとヨコシマの視界に、気を失って空中を落下していく一人の女の姿が見えた。
 今攻撃してきた魔族に間違いなかった。

 落下していく女性の体はうっすらと光っており、顔には(はかな)げな美しさがただよっていた。
 戦いの最中であるにもかかわらず、ヨコシマの目が彼女に強く引き寄せられた。
(あれは敵だ、敵なんだ)

 湧き上がる感情を抑えるため、ヨコシマは心の中でそうつぶやいた。

(敵……そうだ敵なんだ……しかし……)

 その瞬間、ヨコシマの記憶がフラッシュバックを起こした──





 そこは船体の上部であった。
 空中を飛行するその船体は、今までに見たこともないような巨大な大きさをしている。
 だがその船体は、敵の攻撃を受けたのか装甲(そうこう)が大きく破られ、あちこちで火を()き出していた。

 目の前で先ほどの魔族の女が、修理作業をしていた。俺もその女の作業を手伝っている。
 首に頑丈(がんじょう)な輪がかけられているところを見ると、相手の捕虜(ほりょ)となっているのだろう。

 しかし次の瞬間、船体が激しく振動し、そのはずみで女が空中に吹き飛ばされた。
 俺はすかさず手を伸ばして、女の足首を捕まえたが……

(今この手を離せば、俺は逃げられるかもしれない)

 俺の手の力がゆるんだ。
 女が一瞬、おびえたような眼差しで俺を見つめる。
 だが俺は、もう一度強く女の足首を(にぎ)りしめ、全身の力を振り絞って女の体を甲板(かんぱん)の上に引っ張りあげた。

「おまえ、ひょっとしてバカじゃないの?」

 女は不可解といった表情をしていた。

「一瞬迷ったんでしょ!? なのになんで……」

「夕焼け……好きだっていっただろう」

「えっ?」

「一緒に見ちまったから……、あれが最後じゃ悲しいよ……」

「おまえ…………」





 ヨコシマは我にかえった。
 脳裏(のうり)に流れ込んだ映像の中に、確かにあの女の姿があった。

(助けないと……)

 まだ先ほどの『飛』『翔』の文珠の効果は続いている。

「シュルガ、後を頼む!」

 ヨコシマはシュルガにそう伝えると、空中に飛び出していった。




 ヨコシマは、落下していくルシオラの後を追っていった。
 やがてルシオラに追いついたヨコシマは、彼女の体を両腕で抱きかかえる。

(どこかに着地するか……)

 ヨコシマは落下速度を抑えながら、着地に適した場所を探した。
 だがその時、背後から遅れて脱出してきたハーピーが、ヨコシマたちに向かって急接近してきた。

「ヤバイ!!」

 ハーピーが攻撃した。
 ヨコシマは攻撃を避けようとするが、飛行速度を落としていたため、回避行動が間に合わない。
 ヨコシマはとっさに自分の体でルシオラの体をかばったが、そこにハーピーが放ったフェザー・アローが襲いかかった。
 フェザー・アローは、ヨコシマの肩と背中に突き刺さってしまう。

「グッ!」

 ヨコシマはその衝撃(しょうげき)で、文珠を手から離してしまった。
 文珠による浮遊力を失ったヨコシマは、ルシオラを抱えながら、きりもみ状態で落下していった。


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