竜の騎士
第一章 『再会』 −6−
(えっ……ゆ、夢だったの!?)
ルシオラの意識は、まだ完全に戻っていない。
(えっと……上空で戦っていて……突然目の前が光って……)
そうだ。攻撃しようとしたら、突然爆風で吹き飛ばされたのだ。
しかし、その後の記憶がない。
(え……、あれ!?)
ルシオラは、まだ少し混乱していた。
とりあえず起き上がろうと体を動かすと、胸に痛みを覚えた。
傷を負っているようだ。爆発に巻き込まれたときのものであろう。
ルシオラは痛みをこらえて起き上がり、周囲を見わたすと、すぐ横の木の根元に見覚えのある男がいた。
(この人……)
夢の中に出ていた男によく似ていた。
ただその表情は、夢の中のそれよりも幾分幼さが抜けており、精悍さがただよっていた。
ルシオラはしばらく男の顔を見つめていたが、ピクリとも動かない。
(ひょっとして生きていないかも……)
ルシオラは彼に近づき、そっと体をゆすってみた。
戦場から離脱したメドゥーサは、同じく戦場から脱出してきた部下たちの数を数えた。
ハーピーが4鬼、ベルゼブルが4鬼。半数近い損害であるが、それよりも衝撃であったのは……
「ルシオラが戻ってきてない!?」
意外であった。ルシオラは初陣とはいえ中級魔族である。ハーピーやベルゼブルとは格が異なる。
考えられるとしたら……
(ヨコシマのヤツか!)
ハーピーたちの話を聞くと、味方の撤退を助けるため、最後まで戦場に残っていたようだ。
(バカなヤツだね)
ルシオラの少し気取ってはいたが、生真面目な顔を思い出した。
(そんなことしても、誰も評価しないのにね)
ただ悪い気分はしなかった。
実際、一番恐れていた敵の追撃が、今のところはない。
しかしこのまま待っていては、いつ敵の追撃部隊に追いつかれるかわからなかった。
メドゥーサが引き上げの準備に入ろうとした時に、通信鬼に連絡が入った。
「司令部からメドゥーサへ。応答せよ」
メドゥーサが通信鬼を手にとる。司令部の
「メドゥーサです」
「状況を報告せよ」
「残念ながら撃退されました。敵に与えた損害は竜騎士を空中で4騎・地上で1騎。
こちらの損害はハーピーが4鬼・ベルゼブル3鬼。
それから、ルシオラが現在未帰還。撃墜されたか捕らえれたかは不明です。以上」
「ちょっと待て。アシュタロト様に報告する」
しばらく待ったのち、通信鬼に別の男が出てきた。
「私だ」
「アシュタロト様!」
「確認したい。ルシオラは敵に捕まったのか?」
「いえ、不明です。ルシオラは最後まで戦場に留まっていたので、死んだのか、捕らえられたかまではわかりません」
「ルシオラが戦死していれば問題ないが、敵に捕らえられていた場合、重要な機密が漏れる恐れがある。
ルシオラの生死を確認し、敵に捕まっていた場合は抹殺せよ!!」
「しかし、私の隊は戦力が半減し、私自身もダメージを負っています。今、敵の主力に見つかれば、全滅の恐れがあります」
「わかった。増援を送る。敵に見つからないよう、潜伏しながら捜索活動をするように」
「了解しました」
ルシオラが生きていたとしても、敵に捕らえられていた場合は抹殺せよとの指令が下ったのだ。
万が一、自力で脱出できなければ、彼女には死の運命しか待っていない。
彼女が生き延びる確率は、かなり低いであろう。
(短いつきあいだったね・・・)
メドゥーサは心の中で、そうつぶやいた。