竜の騎士

作:男闘虎之浪漫

第二章 『暗殺者』 −6−




 カラス神父が来た日の翌々日、ルシオラは都の王立魔法研究所に向かって出発した。
 護衛と監視のため、ヨコシマを含め3名の竜騎士が同行する。

 出発する日の早朝、ヨコシマはシュルガに二人乗り用の(くら)をつけ、ルシオラを自分の後ろに乗せた。

(この数日の間に、ずいぶん仲がよくなったみたいだな)

 からかうような口調で、シュルガがヨコシマに話しかける。

「いいじゃないか、別に」

(別に悪いとは言ってないぞ)

「それに、こっちもいろいろあったんだ。聞いているかもしれないが、駐屯地が魔族に(おそ)われたりしてな」

(その話は聞いている。ここを狙ってくるなんて、ずいぶん度胸のいいヤツだな」

「この前(おそ)ってきたのは一鬼だけだったが、どうも暗殺専門のヤツらしい。今までの常識が通用しないかもしれんぞ」

(国内とはいえ、安心できないということだな)

「そうだ」




「ずーっと森が続くのね」

 駐屯地を出発してから半日、眼下には広大な森が広がっていた。

「都まで竜に乗っても二日かかる。馬なら十日だ」

「この森はどこまで続くの?」

「しばらくは森が続いているけれど、もう少しすると森の合間に草原が広がる場所に出る。草原の先に行くと畑と牧場がだんだん多くなり、人家も増えてくる。そして最後に都につくわけさ」

「広いのね、この国は──」

「世界はもっと広いさ。除隊したらこの広い世界の隅々(すみずみ)まで見てみたい、そう思うときがあるよ」

「ヨコシマ、その時は……」

「え!?」

「ううん、なんでもないわ」

(まだ先のことは何もわからないもの……)

 ルシオラは自分の思いを、そっと胸に秘めた。




 出発してから七時間が経過していた。途中で昼食のため一回だけ地上に降りたとき以外、ずっと飛びつづけていた。
 森のところどころに集落や軍の(とりで)が存在していたが、今は周囲には森と草原が広がるだけで他に何もない。
 今日の目的地である城までは、あと一時間半はかかる。

(仕掛けてくるとしたら、この辺りではないのか?)

「たぶんな。おっと、お出ましのようだ」

 ヨコシマの持つスーパー見鬼が、十鬼ほどの敵の姿を捉えた。

「二時の方角から敵が接近。各自警戒態勢に入れ!」

 ヨコシマが携帯型通信鬼(つうしんき)で、他の竜騎士に呼びかける。

(敵の構成は?)

「ハーピーが四鬼で、残りは……たぶんガーゴイルだな。ちょっと厄介(やっかい)だぞ」

 ガーゴイルは石像に魔法で生命を吹き込んだ生き物で、ゴーレムと似ている。
 ゴーレムと異なる点は体の大きさが人間並みであることと、空が飛べることである。
 ゴーレムよりは知性が高く、ショックを与えて逆洗脳する技は効かない。
 また元が石像であるため、竜の(ほのお)への耐久性が非常に高かった。

「私も手伝うわ。ガーゴイルなら戦闘シミュレータで戦ったことがあるから」

「無理するなよ。とりあえずシュルガからは離れないでくれ」

 ヨコシマは通信鬼(つうしんき)で、仲間の竜騎士に呼びかけた。

「敵はハーピーが四鬼で、残りはガーゴイルだ。最初の突撃でハーピーを攻撃し、それから散開して各自でガーゴイルを(つぶ)そう」

「了解」

「こっちも了解です」

「よし、突っ込むぞ!」

 三頭の竜が旋回し、そのまま敵めがけて突っ込んでいった。

「ファイア!」

 ゴオオォォォッ!

 三頭の竜がいっせいに火を吹く。
 狙われたハーピーたちは散開して逃げようとしたが、一鬼だけ逃げられず(ほのお)に巻き込まれて、全身が火ダルマになった。
 そしてそのまま地面に向かって落下していく。

 ルシオラは、今更ながらに竜の力に驚いた。
 前回の戦いでは敵方であり竜の(ほのお)から逃げる側であったのだが、逆に守られる立場になってみると、竜たちの力に大きな信頼と安堵感を覚えた。







 シュルガを反転させて戦闘空域に戻ると、今度はガーゴイルたちが接近してきた。
 ガーゴイルには(ほのお)が効きにくい。
 ヨコシマは、剣を振りかざして突っ込んでくるガーゴイルに、霊波砲を放った。

 ドン!

 霊波砲を食らったガーゴイルは、胸に大穴が開いた。
 魔法によって与えられた擬似生命が尽きたのか、放物線を描いて落下していく。
 だがその間に、別のガーゴイルが肉迫してきた。ヨコシマに接近すると、剣で斬りつけてくる。

「サイキック・ソーサー!」

 ヨコシマはサイキック・ソーサーを出して、その攻撃を受け止めた。
 だがガーゴイルは、二回・三回と連続して斬りつけてくる。

「ヨコシマ、危ない!」

 ルシオラが、ガーゴイルが大きく剣を振りかぶった隙をみて、霊波砲を撃った。
 ルシオラの霊波砲の攻撃で、ガーゴイルは首から上がすべて吹き飛ばされてしまった。
 剣を振りかざした姿勢のままガーゴイルは元の石像に戻り、地上へと落下していく。

「サンキュー、ルシオラ」

「どういたしまして」

「他の連中はどうしてる?」

「みんなよく戦っているみたいよ」

 他の竜騎士たちも、霊体ボーガンを使ってガーゴイルやハーピーを撃退しつつあった。
 霊体ボーガンの矢には霊力が込められているため、魔法生命体であるガーゴイルに確実なダメージを与えられる。
 全身に数本の矢が刺さったガーゴイルが、一鬼また一鬼と撃墜されていった。

(ヨコシマ、我々を(おそ)うにしては敵の数が少なすぎないか?)

「そう言えば、そうだな」

 やがてハーピー三鬼とガーゴイル二鬼が逃走をはじめた。
 竜騎士たちも追撃にうつる。

「シュルガ、これはおそらく──」

(ああ、たぶん(わな)だろう)

 敵を追撃する竜騎士たちとヨコシマの間が開いたとき、スーパー見鬼が強い魔力の存在を感知した。

「地上に強度の魔力を感知。くるぞ!」

(承知!)

 シュルガは急角度で上昇をはじめると、左側に大きく体をロールする。
 地上から強力な霊波砲がシュルガめがけて発射されたが、紙一重の差で回避した。

「よし、反撃だ。(ほのお)であぶり出してやる」

 シュルガはそのまま上昇し、空中でループする。
 そして霊波砲が発射された地点めがけてまっすぐ突っ込み、広角度で(ほのお)を放射した。

 ゴオッ!

 シュルガの(ほのお)が地上に達する寸前に、二鬼の魔族が空中へと飛び上がった。



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