竜の騎士
作:男闘虎之浪漫
第二章 『暗殺者』 −7−
二鬼の魔族が、シュルガの炎に巻き込まれる寸前に、空中に飛び出した。
二人とも女の魔族であった。どちらも姿は似ており、同族のようである。
背中からやや小ぶりな羽根が生えており、一人は剣を、一人は短い槍を構えていた。
「シュルガ、反転するぞ」
(承知!)
シュルガは二鬼の間を通り過ぎると左にロールし、大きく弧(を描きながら反転した。
シュルガは大きく横に回った。敵になるべく横腹を見せないように注意する。
竜の体は大きいので横から攻撃されると命中しやすいが、正面からの攻撃は投影面積が小さくなるので、命中しにくい。
ゴオッ!
シュルガは近くにいた方の魔族に炎(を吹きかけた。敵はあわてて回避行動をとる。
「そこだ!」
炎(から逃げた敵を、すかさずヨコシマが霊波砲で狙い撃ちした。
攻撃は命中するが相手はすかさず両腕でガードし、ヨコシマの攻撃を堪(えきった。
「ハーピーのようにはいかないか」
相手がハーピーやガーゴイルであれば、おそらく今の攻撃で撃墜できたであろう。
だが今戦っている魔族は、そう容易(い相手ではなかった。
ドン!
その間にもう片方の魔族がシュルガの右側に回り込み、霊波砲で攻撃してきた。
シュルガのわき腹に命中するが、ウロコの防御力が勝り攻撃は斜めにはじかれる。
「シュルガ、大丈夫か?」
(大丈夫だ。少しウロコが痛んだかもしれんが)
しばらくの間、シュルガは敵に追いかけられた。
相手の方が小回りがきくため、なかなか振り切ることができない。
竜の巨体が仇(となるかたちとなった。
バシュッ!
敵の攻撃が、ヨコシマのすぐ脇をかすめる。
シュルガは右に左に方向を変えて振り切ろうとするが、相手はピタリと追尾している。
敵の攻撃もシュルガよりも、乗り手のヨコシマやルシオラを狙った攻撃が多くなってきた。
(敵の狙(いは、たぶん私ね)
今のままではヨコシマの身まで危なくなる。
ルシオラはそう判断すると、座席のロックを解除し空中へと飛び出した。
「私はここよ!」
ルシオラは、追跡してきた魔族たちに呼びかけた。
相手の狙いはヨコシマやシュルガではなく、自分にあると確信している。
「あんただね、ターゲットは。自分から飛び出してくるとはいい度胸だ」
槍を構えた方の魔族がこたえた。
「ジニー、竜騎士の方を頼むよ。その間に私がこの女を片付けるから」
「おいしいところを持っていくんだね。まあ今回は貸しにしとくよ、アビ」
ジニーと呼ばれた槍を持った魔族の方が、ヨコシマとシュルガの後を追ってその場を離れる。
「さて、覚悟はいいかい」
「そっちこそ、覚悟をきめたら」
ルシオラとアビは円を描くように少しずつ移動しながら、相手の隙(をうかがう。
しばらく膠着(した状態が続いたが、やがてルシオラが先に行動を起こした。
ルシオラは牽制(のために、軽目の霊波砲を放つ。
その攻撃をアビがかわした瞬間に、ルシオラが霊波砲の速射攻撃を浴びせかけた。
ドン! ドドドドドドドドドド……!
激しい爆炎と爆風が巻き起こる。だがその爆風の中から、アビが剣を構えて飛び出してきた。
ダメージを負っているが、致命傷にはほど遠い。
「よくもやってくれたね!」
アビはルシオラにむかって斬りかかっていく。
一閃ニ閃と剣を振るうが、ルシオラは後退しながらその攻撃をかわした。
やがてアビとルシオラはお互いに間合いを空けると、壮絶な霊波砲の撃ち合いをはじめた。
「ルシオラ!!」
ヨコシマは、ルシオラがシュルガから離れたことにすぐ気がついた。
敵の攻撃が一時途切れた隙(に、シュルガを反転させる。
「そうはいかないね。私が相手になるよ!」
だがもう一鬼の魔族ジニーが、シュルガに追いついた。
ジニーはシュルガの背後につくと、霊波砲で攻撃を仕掛けてくる。
バシッ!
ヨコシマは自分を狙ってきた攻撃を、サイキック・ソーサーで受け止めた。
「このままじゃ、らちがあかない。シュルガ、フォーメーションAでいくぞ!」
(承知!)
ヨコシマは『飛』『翔』の文珠を生成すると、空中へと飛び出した。
ヨコシマが飛び出したあと、シュルガは上空へと離脱する。
「馬鹿な! 人間が空を飛べるなんて──」
「あいにく俺は特別なのさ」
「そうか、あんたが『文珠使い』だね。あんたを討てば、私も手柄(が立てられるというものさ!」
ジニーは持っていた槍を構えると、ヨコシマに向かって突き出した。
ヨコシマはサイキック・ソーサーでその攻撃を受け止めると、霊波刀で相手に斬りかかる。
ジニーは槍を素早く手元に引き戻すと、槍の柄(で受け止めた
「そらっ!」
ジニーはヨコシマの腹を蹴飛ばすと、槍を手繰(り寄せ腹部を狙って突いてくる。
ヨコシマは後方に飛び下がり、その攻撃をかわした。
ドン! ドン!
ジニーは片手を槍から放し霊波砲を連続して撃つが、ヨコシマはサイキック・ソーサーでその攻撃を受け流した。
ジニーは槍の穂先をヨコシマに向け、両手で構え直す。ヨコシマもサイキック・ソーサーを大きく広げると、半身の姿勢をとった。
二人はその姿勢のままジリジリと動き相手の隙(をうかがっていたが、やがてヨコシマは上空にチラリと視線を向けた。
(そろそろだな)
ヨコシマは左腕を大きく振りかぶると、サイキック・ソーサーを相手に投げつけた。
バン!
ジニーは、槍でサイキック・ソーサーの攻撃を跳(ね除(けた。しかし──
「そこだ!」
ヨコシマはジニーの一瞬の姿勢の崩れを逃さなかった。
『斥』の文珠を生成すると、ジニーに向かって投げつける。
バシュッ!
『斥』の文珠の効果で、斥力(が発生した。
文珠に反発する力が発生し、ジニーは後方へと弾き飛ばされる。
「クソオォッ!」
文珠の斥力(の力はすさまじかった。ジニーは体の制御も思うようにできないまま、後方へと飛ばされていく。
そこに上空で待機していたシュルガが、まっしぐらにジニーに向かって突っ込んでいった。
(これが狙いだったのか!)
シュルガが軸線上に、ジニーを捉えた。
ジニーは力を振り絞り、文珠の斥力(から逃れようとする。
ゴオオオォォォッ!
だが間に合わなかった。シュルガの炎(がジニーに襲いかかり、全身を包み込んだ。
シュルガの巨体が通りすぎた後、炎(に包まれたジニーとおぼしき物体が、地上めがけて落下していった。
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