GS美神 福音戦士大作戦!

作:湖畔のスナフキン

第二話 −鳴らない・電話!?−





「横島くん、パイロット続けてくれるんだって」

 憔悴した顔で司令室から出てきた横島を、美智恵が呼び止めた。

「よかったわ〜。さすがに初号機なしだと、戦力的に厳しかったのよ。
 やっぱり、彼女のためかしら」

 美智恵のいう彼女とは、ファーストチルドレンのルシオラのことである。

「は、はあ。まあ、そうッスけど」

「さすが、愛の力は偉大ね。でも、あまり彼女とラブラブしてると、令子が焼き餅を妬くわよ」

「へっ!?」

 横島はきょとんとしていた。
 なぜ美神が焼き餅を妬くのか、横島はまったく理解していない。

「ま、彼女も記憶が戻っていないみたいだし、すぐにはラブラブにはならないわね。
 それから、横島くんの住居なんだけど」

「とりあえず、屋根のある場所ならどこでもいいッスよ」

「それなら、私と同居ね。よし、決定!」




 美智恵と同居する件について、横島は最初は驚いていたが、すぐに自分を取り戻した。
 令子の母親であるとはいえ、推定年齢は40歳前後。
 しかも、肌の張りは30代半ばといったところであり、プロポーションは、令子の母親だけあって抜群である。
 つまり、少し枠は広がるが、彼女は横島の射程圏内に入っていたのであった。

(今まで隊長は、難攻不落の美神さんのさらに上を行ってると思ってたけど、同居を誘ってること
 からして、これはひょっとして、ひょっとしたら……ウハウハな目にあったりするかも!?)

 横島の脳内では、タンクトップにショートパンツ姿の美智恵が、おはようのキスをしてくれたり、風呂上りに色っぽい格好で部屋の中を歩いたりするなど、桃色の妄想が次から次へと湧き上がっていた。

「ついたわよ」

 美智恵が運転していたコブラが、コンフォート17というマンションの前で停車した。
 美智恵は11階までエレベーターで上がると、その階の一室に入った。

「お邪魔します」

「違うでしょ、横島くん」

 玄関から部屋に上がろうとした横島を、美智恵が呼び止めた。

「ここは、これからあなたの家なんだから、“た・だ・い・ま”でしょ?」

「た、ただいま」

「おかえりなさい」

 にっこりと微笑む美智恵を前にして、横島の煩悩は、はちきれんばかりに膨れ上がった。

(くーっ、これや、これ! まるで新婚家庭みたいやーーっ!)

「横島くんの部屋は、廊下を突き当たって右側の部屋を使って。
 それから、左側の部屋には入っちゃだめよ」

「は、はあ。わかりました」

「じゃあ、ちょっとシャワーを浴びるから、それまでテレビでも見ててちょうだい」

 鼻唄まじりで美智恵が脱衣所に入ったあと、横島の目がキラリと光った。

(くくくっ。これは、早くもチャンス到来か!?)

 横島は、忍び足で脱衣所に近づくた。
 そして、風呂場のドアが閉じる音が聞こえた後、音をたてずに脱衣所とキッチンの間にあるアコーディオン・カーテンを開く。

(ここでは初めてだから、万が一にも失敗しないように……)

 横島は文珠を生成すると、そこに『覗』の文字を込めた。

(お宝、おがませていただきます!)

 横島がギュッと手を握って文珠を発動しようとしたとき、突然背後からトントンと肩を叩かれた。

「横島さん、ダメですよ。隊長さんを覗いたりしたら、美神さんに怒られちゃいますよ」

「止めないでくれ、おキヌちゃん!
 男には、是が非でもやらなければいけない時があるんだ……って、えっ!?」

 横島が背後を振り向くと、ネルフのオペレーターの制服を着たおキヌの姿があった。

「お、おキヌちゃん!」

「はい。ネルフの技術部オペレーター兼、横島さんのクラスメートの氷室キヌです。
 よろしくお願いします」

 おキヌがペコリと頭を下げた。つられるようにして、横島も慌てて会釈をする。
 おキヌがオペレーターと学生を兼務しているというのは、実にいい加減な話のように思えるが、この人事を決めたのは実はアシュタロスだった。
 どうやら「フケツです」というセリフが、某童顔オペレーター(謎)とつなっがったらしい。
 アシュタロスは復活した際、いろんな事が吹っ切れた反面、怜悧だった彼の頭脳はずいぶんと軽くなったようであった。

「で、おキヌちゃんはどうしてここに?」

「隊長さんから聞いてなかったんですか。私もこの家に同居するんですよ」

「それじゃあ、俺の向かいの部屋って……」

「はい、私の部屋です♪」

(道理で、隊長が無警戒だと思った……)

 ニコニコと笑顔を見せているおキヌの前で、横島がガックリと肩を落としていた。




「センターに入れて、スイッチ」

 横島がインダクション・レバーのスイッチを引くと、初号機が持っているパレットガンが火を噴いた。
 グラフィック画面の中で、発射された弾が使徒に命中して爆発する。

「よし、次」

 今度はかなり離れた場所に使徒が現れたが、横島は一発でコアに命中させた。
 死津喪比女との戦いで、一発でライフルの弾を命中させたように、横島は射撃がかなり得意である。
 今もゲームセンターの射撃ゲームのような感覚で、射撃シミュレーションを楽しんでいた。

「なかなか、順調じゃないか」

 作戦部長補佐のワルキューレは、ケージ横の制御室で訓練の様子を見ていた。

「ところで、学校の様子はどうなんだ?
 通話記録を見る限り、ほとんど電話をかけていないようだが」

 ワルキューレが、オペレーター兼、横島のクラスメートであるおキヌに尋ねた。

「大丈夫ですよ。学校のクラスメートは、もともと横島さんの友達ばかり集めていますし。
 通話が少ないのは、横島さん元々お金が無くて、自分の携帯を持ったことがないからだと思います」

 横島の生活はもともと厳しく、今まで自分専用の携帯をもったことがなかった。
 事務所で渡された業務用の携帯では、美神から私用の電話をかけることを禁止されていたため、今まで携帯を十分に使う機会がなかった。
 今もっている携帯も、ネルフから渡されていた物品のため、私用電話禁止と勝手に思い込んでいるようであった。

「そうか。ならいいのだが」

「ですが、ただ……」

「ただ?」

「ルシオラさん……いえ、ファーストチルドレンとの会話が、うまくできていないようです」




 横島の生活環境は、劇的に改善されていた。
 朝食はおキヌの手作り、昼もおキヌが作った弁当、夕食は主に美智恵が担当し、美智恵の帰りが遅い日はおキヌが作る。
 某S少年のように、ネルフの訓練で疲れた体を引きずりながら家事に励むなどということは、まったくない。
 最初に夢見ていたウハウハな出来事こそなかったが、横島は一週間も経たないうちに、今の環境にすっかりなじんでいたのだが、一つだけ気がかりなことがあった。

「おはよう」

 横島は、第壱高等学校の2−A組に編入していた。教室に入って挨拶をすると、

「おはようさん」

「うーっす、今日も元気か」

「横島が元気じゃない日なんてないだろ」

「そうだな、ハハハ」

 などという声が、教室のあちこちから帰ってくる。
 クラスメートにはおキヌ以外に、男子ではタイガー、女子ではおキヌの友人の弓や魔理、そして机妖怪の愛子の姿も見られる。
 ちなみにタイガーは、おキヌと同じくネルフのオペレーターも兼務していた。
 どうやら影の薄さが、某ロンゲオペレーターと共通していたのが理由らしい。
 だが、横島が窓際の席に目を向けると、そこには横島が教室に入ってきたことにも気づかず、ひたすら本に目を向けているルシオラの姿があった。

(今日もダメか……)

 横島は何度かルシオラに声をかけたが、彼女は必要最小限以外のこと以外は話しをしなかった。
 たとえ記憶が戻っていなくても、彼女と再び会話できることを楽しみにしていた横島だったが、現状ではその願いがかなう見込みは、まったくなさそうである。
 落胆した横島は、自分の席に着くと、はぁっと大きなため息をついた。

「おうっす」

 威勢のいい掛け声とともに、一人の男が、教室の中に入ってきた。
 どこかで聞いた声だと思った横島が顔を上げると、上下黒のジャージを着た雪之丞だった。
 ちなみに、関西弁は話さない。

「なんだ、雪之丞か。おまえも、こっちに来てたのか」

「俺も一度、普通の高校生ってのを体験したくてな。それより、横島。ちょっと、ツラ貸せや」




 横島が雪之丞の後について屋上に上がると、雪之丞がいきなり殴りかかってきた。
 不意打ちの攻撃を横島はかわしきれず、頬に一発食らってしまう。

「おいっ! 雪之丞!」

「じゃかましいっ! 俺はおまえを一発殴らんと気が済まねえんだ!」

「だから、俺がいったい、何をしたっていうんだよ!」

「横島、おまえ前の使徒戦で、ビルを幾つかぶっ倒しただろう」

「そりゃ、何個か壊したかもしれんが」

「その中になあ、俺が弓と見に行くのを約束していた映画館があったんだよ!」

「はあっ!?」

 雪之丞の発言を聞いた横島は、思わず呆気(あっけ)に取られてしまう。

「映画館が壊れてデートが流れた後、弓が機嫌悪くして、俺にずっと口聞いてくれないんだ。
 このやり場のない怒りを、どうしてくれる!」

「つまり……俺は八つ当たりの対象ってわけか」

 あまりのバカバカしさに、横島の脳裏にヒューッと木枯らしが吹いた。

「とにかく、食らえっ! 愛と怒りの必殺……」

「これ以上、付き合ってられるか」

 拳を振り上げながら殴りかかってくる雪之丞に向かって、横島はサイキック・ソーサーをぶち込んだ。
 魔装術はおろか、防御を何もしていなかった雪之丞は、サイキック・ソーサーのカウンターを食らい、そのまま真後ろに吹き飛ばされてしまった。

「よしっ! これで悪は滅びた」

 横島が、パンパンと手で服についたほこりを払っていると、不意に、背後から誰かの視線を感じた。

「ヨコシマ」

 横島が後ろを振り返ると、そこに立っていたのはルシオラだった。

「非常召集。先、行くから」

 ルシオラはそれだけ横島に伝えると、踵を返して階段を駆け下りていった。




『目標を光学で補足。領海内に侵入しました』

 発令所のスクリーンに、新たな使徒の姿が映し出されていた。
 その姿は、イカというより巨大なプラナリアのように見える。

「総員第一種戦闘用意!」

 不在のアシュタロスに代わって、副司令の横島大樹が号令をかけた。

「それにしても、司令の留守中に第四の使徒到来か。思ったより早かったわね」

「前回の使徒から、たったの三週間だからな」

 戦闘指揮を担当する作戦部長の美智恵と、作戦部長補佐のワルキューレが、発令所の巨大なメインスクリーンに見入っている。

『使徒、第3新東京市上空に侵入しました』

『兵装ビル、攻撃を開始します』

 兵装ビルと、山間に設置されたミサイルランチャーから、対空ミサイルが一斉に発射される。
 だが、使徒に有効なダメージを与えることはできなかった。




 ネルフ本部に到着した横島は、プラグスーツに着替えると、すぐさま初号機に搭乗した。

「いい、横島くん。敵ATフィールドを中和しつつ、パレットの一斉発射。練習どおり大丈夫ね?」

「はい」

「初号機、発進!」

 美智恵の号令とともに、初号機が地表に射出された。

『最終安全装置解除』

 初号機のロックが外れると、横島はビルに設けられた射出口から飛び出し、使徒の前面に回り込んだ。
 そして、使徒のATフィールドを中和すると、パレットガンをフルオートで発射した。

「バカッ! 弾着の煙で敵が見えない!」

 劣化ウラン弾の弾着で発生した粉塵で、使徒の体が見えなくなった。

「わかってます」

 横島はいったん使徒から離れると、使徒の側面に回りこんだ。
 そして、パレットガンを構えて、粉塵が収まるのを待つ。

 シュパァッ!

 だが、粉塵の中から現れたのは、光る二本の鞭だった。
 迫り来る一本の鞭を、横島はパレットガンで受け止めようとしたが、パレットガンはその鞭によって真っ二つに切られてしまう。
 そして、もう一本の鞭が初号機の足に絡まり、初号機は空高く投げ飛ばされてしまった。

 ズーーン!

 投げ飛ばされた初号機は、郊外にある山の中腹に背中から叩きつけられた。
 シンクロによって初号機の衝撃を感じた横島は、思わず口から肺の中のLCLをガボッと吐き出してしまった。

「ちくしょう!」

 横島は反撃に転ずべく、初号機を立ち上がらせようとする。
 だがそのとき、横島は初号機の左手の下に、雪之丞と弓がいるのを発見した。




「あの子たちは!」

 二人の姿は、発令所でもすぐに確認された。
 MAGIで画像を調べるまでもなく、二人が誰であるかはすぐにわかった。

「まずい! 使徒が来てるわ!」

 ふと気がつくと、使徒が初号機のすぐ目の前にまで移動していた。
 横島は接近した使徒が振るった二本の鞭を、とっさに初号機の両手で掴み取った。

「横島くん! 今の内に、二人をエントリープラグの中に入れて!」

 横島はエヴァをホールドさせたまま、エントリープラグを半分外に出した。
 美智恵が二人に外部スピーカーで呼びかけると、二人はエントリープラグまでよじ登って、中に入る。

「キャッ!」

「ぶわっ! 中は水じゃないか!」

 エヴァの仕組みを知らない二人は、初めてのLCLに驚いたが、すぐに冷静さを取り戻した。
 この程度の異常事態で慌てるようでは、GSなどという職業に携わることはできない。

「手間かけさせやがって! 後でたっぷりと事情を聞かせてもらうからな!」

 二人を収容すると、横島はエントリープラグを戻して、再び使徒と対峙した。
 横島はいったん使徒を引き寄せると、使徒を足で強く蹴って、近くの兵装ビルにぶつけた。

「隊長! このまま接近戦に移ります」

「大丈夫なの、横島くん!?」

「ええ、いけます!」

 横島は肩のウェポンラックから、プログレッシブ・ナイフを取り出すと、右手でそれを握った。
 もともと横島は、生身で西条が撃った弾丸をすべて弾き飛ばしたり、第三使徒の光線をその場で見切るほどの回避能力をもっている。
 先ほどの攻撃を受けたのは、劣化ウラン弾の粉塵で視界が遮られたためであり、視界がクリアな今では何の問題もなかった。

 ダンダンダン!

 突進する初号機が使徒の間近まで迫ったとき、使徒は二本の鞭を初号機の腹めがけて真っ直ぐに繰り出した。
 使徒の鞭の速さは、最速で音速を超えていたが、しかし横島はその鞭の動きを見切っていた。
 一歩だけ右にずれて使徒の鞭をかわすと、横島は左手で使徒の体を掴んでから、右手のナイフを使徒のコアに突き刺した。

 ギャリリリリ!

 超振動で動く刃が、硬い使徒のコアを確実に削り取っていく。
 やがて赤かった使徒のコアが灰色に変わり、使徒の動きが完全に止まった。
 しばらくして、内臓電源で動いていた初号機も、電池切れで動かなくなった。

「やれやれ。戻るのは回収班待ちか」

 横島は軽くため息をつくと、座席の背後にいた雪之丞と弓の方を振り向いた。

「で、何であんな場所に、二人でいたんだ?」

「それはだな……」

 雪之丞が口を開きかけたとき、

「ああ、おまえは言わなくてもわかってるって。
 どうせ、エヴァと使徒の戦闘と直接見たかったんだろう」

 そう横島がいうと、弓がコクコクとうなずいた。

「それで、シェルターに雪之丞がいないことに気づいた弓さんが、雪之丞の後を追って地上に出たと」

 再度、弓がうなずいて、横島の発言を肯定する。

「ま、そんなことだろうと思ったよ。でも、もう二度とするんじゃねーぞ。
 雪之丞はともかく、弓さんの悲しむ顔は見たくないからな」

「ちっ、しょうがねえな」

「しょうがねえなじゃねえだろう。それより、お二人さん。仲直りはできたのか?」

 横島がそう言うと、雪之丞はばつの悪そうな顔をし、弓がはにかんだ表情を見せた。

「はいはい、わかりましたよ。どうもご馳走さま」

 横島はわざとらしく、二人から視線をそらせる。
 だが、胸のうちから湧いてくる、やるせない感情は抑えることができなかった。




 回収班の手で初号機のエントリープラグから出た横島は、ネルフ本部へと戻った。
 報告のため発令所に向かおうとしたとき、途中の廊下でばったりルシオラと会った。

「……」

 いつものように、ルシオラが無表情であることに気がついた横島は、そのまま通り過ぎようとしたが、すれ違った時に、ルシオラが呼び止めた。

「私なら……」

 ルシオラが話しかけてきたことに驚いた横島は、その場で立ち止まってルシオラの方を振り向く。

「私なら、あんな無様な戦い方はしない」

「……」

「もうすぐ零号機の起動試験があるわ。それが終わったら、絶対にあなたには負けないから」

 それだけ言うと、ルシオラはその場から立ち去っていった。
 後には、目が点になった横島だけが、その場に一人残っていた。




【あとがき】
 ルシオラの綾波レイ化が進んでるように見えますが、現状は仕様どおりです。
 次の第五使徒戦後から、少しずつ性格が変わっていく予定です。


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