GS美神 福音戦士大作戦!

作:湖畔のスナフキン

第三話 −決戦! 第三新東京市[上]−





 第四使徒を殲滅してから、数日たったある日のこと、横島はケージでエントリープラグの整備をしていた。
 同じケージの少し離れた場所でルシラオも作業をしており、横島はチラチラと彼女に視線を向けていたが、ルシオラは横島に対して一瞥すらしなかった。

(はーあっ。実際、まいるよな。ホント)

 彼女と親しくなるどころか、現状では彼女の方が横島をライバル視する始末である。
 ルシオラとの関係改善を願っていた横島にとって、まさに難題山積だった。

「ん? あれは……」

 横島が顔を上げると、アシュタロスがルシオラに向かって近づいていく様子が見えた。
 ルシオラもアシュタロスに気がつくと、笑顔を浮かべながらアシュタロスの元へと駆け寄る。
 二人が仲良く会話する姿は、遠目に見るとまるで本当の親子のようであった。

(ルシオラを造ったのはアシュタロスだから、まあ父親みたいなものなんだろうけど)

 だが、前のルシオラとアシュタロスの仲が決して良好でなかったことを知る横島は、どこか違和感のようなものを感じていた。

(やっぱり、前のルシオラと今のルシオラは違うのかな……)

 横島の胸の内に、寂寥感が広がっていった。




 その日の夜、横島が住むアパートにカオスとマリアが来ていた。

「部屋はネルフの官舎じゃが、昔と違って家賃はタダだしな……(ハグハグ)
 ネルフの食堂に行けば、いつでも飯は食えるし……(モグモグ)
 別に食事に困っているわけではないのだがな……(フガフガ)
 まあ何というか、たまには食堂やマリア以外の人の料理も食べたくなるわけじゃよ」

「人んちに押しかけてきて、飯をたかるセリフがそれかよ」

 カオスはおキヌの作ったカレーライスを、皿に山盛りにして食べている最中だった。

「ドクターカオス。少し・食べすぎ・です。
 以前のように・食いだめ・する必要は・ないのですから」

「ほれみろ。マリアだって心配してるじゃないか」

「まあまあ、いいじゃないですか。カレーはまだまだ残っていますから」

 おキヌは大鍋で、三日分のカレーを作っていた。

「む、少し食べすぎかの。それにワシとて、タダ飯を食いにきただけじゃないぞ。
 ちゃんと、オフィシャルな用事だってあるわい」

 カオスはそう言うと、懐から一枚のIDカードを取り出した。

「これは、ルシオラの……」

「今のカードの有効期限が今日までなんじゃが、ついうっかりして、渡すのを忘れ取ったんじゃ。
 明日、彼女に渡しといてくれんかの?」

「そりゃ、まあいいけど」

 横島はルシオラの新しいIDカードを手に取ると、カードにプリントされている写真をじっと見つめた。

「どうした。そんなに彼女のことが気になるのか?」

「というかさ、ルシオラと話をしてないんだよ。
 何か話そうと思っても、全然会話がかみ合わなくてさ」

「ふむ……まあ、記憶が戻らない以上、今の彼女は小僧の知っている彼女とは別人だろうて。
 もう一度、ゼロからやり直すくらいの努力が必要じゃな」

 カオスの話を聞いた横島は、手にしたカードをギュッと握り締めた。




 翌日、横島はルシオラの家へと出かけた。
 ルシオラは、横島が住むコンフォート17とは別のネルフが借り上げたマンションに住んでいる。

(402号室……ここだよな)

 横島は、ルシオラの部屋の前に立つと、玄関のインターフォンのボタンを押した。

「あれ?」

 横島はボタンをカチカチと何度か押すが、応答がまったく無かった。

「出かけてるのかな?」

 横島が試しにドアのノブを回すと、ドアがスッと開いた。

「お邪魔します……」

 ルシオラの部屋はワンルームだったが、部屋の広さは割と広めだった。
 部屋にはベッドと衣装ダンスと机以外、めぼしい家具は見られない。
 ルシオラの部屋というと、かつての美神事務所の屋根裏部屋以外は覚えがなかったが、あの屋根裏部屋と同じくらい簡素な感じがした。

「出かけるとき、鍵をかけ忘れたのかな?」

 横島が部屋の中を物色していると、部屋の入り口近くにあったアコーディオン・カーテンが開く音が聞こえた。

「えっ!?」

 横島が振り返ると、そこにはバスタオルを胴に巻き、別のタオルで髪をぬぐっているルシオラの姿が目に入った。

「ル、ルシオラ……居たのか……」

 ルシオラは無言のまま、横島の顔をじっと睨む。

「あ、あのさ……届け物を持ってきただけなんだ……その、覗くつもりはなかったんだけど……」

 もし相手が美神であれば、問答無用でルパンダイブを決行したであろうが、今の横島は強い罪悪感に捉われていた。
 横島がおキヌの覗きを絶対にしないのと、同じ理由である。

「なら、それを渡して」

「あ、ああ」

 横島はルシオラに、新しいIDカードを渡した。

「じゃ、じゃあ、俺はこれで」

 横島はルシオラの脇をすり抜けて、部屋の外に出て行った。




「はーあ。何やってんだろ、俺」

 横島はマンションの外に出ると、近くの自動販売機でジュースを買った。
 ジュースを一気飲みすると、ようやく気分が落ち着いてきた。

(これじゃあ、ゼロどころかマイナスからの出発だよ)

 彼女が気分を害したであろうことを考えると、暗澹とした気分が広がってくる。

「何とかして、この失点を取り戻さないと……おっ」

 横島が顔を上げると、マンションから出てきたルシオラの姿が目に入った。
 今日、零号機の起動試験が入っており、自分もスタンバイすることになっていたことを思い出した横島は、ルシオラの後を追いかけ始めた。




 横島とルシオラは、一緒にネルフへと向かった。
 途中で横島は、何度かルシオラに話しかけようとしたが、ルシオラがずっと読書を続けていたため、タイミングが掴めなかった。
 だが、ネルフ本部に入って、長いエスカレーターに乗っていたときに、ルシオラの方から話しかけてきた。

「あなた、一人目の私とつきあってたんですって?」

「あ、ああ。覚えていたんだ」

「いえ、私は知らない。ただ、アシュ様からそう聞いただけ」

 横島は戸惑いを感じた。
 少なくともアシュタロスは、以前のことを意図的に隠してはいないようだ。
 だがルシオラは、なぜ自分に心を開いてくれないのだろうか?

「前の私が何を考えていたのか、私は知らない。今の私はアシュ様を信じる。ただ、それだけ」

 ルシオラはそれだけ伝えると、横島と別れるまでずっと口を閉ざし続けた。




 やがて、零号機の実験開始時間となった。
 横島も、ケイジ横の制御室に入って、不測の事態に備えた。

「なあ、アシュタロス」

 横島は、零号機の起動実験の視察にきたアシュタロスに、小声で話しかけた。

「どうした、横島君?」

「いったい、ルシオラに何したんだ? 前と全然、性格違うじゃないか」

「ふむ、そのことについてだが……」

 アシュタロスは横島から視線を外すと、ケイジに固定されている零号機に目を向けた。

「メフィストに続いて、ルシオラの裏切りにショックを受けた私は、新たな対策を考えた。
 ルシオラを復活させた私は、彼女を人目につかないよう、セントラル・ドグマに閉じ込めて
 大事に大事に育てあげたのだ。まあ、人間の社会で言うところの、箱入り娘というやつだな。
 お陰でルシオラは、素直で父親想いのいい娘に育ったよ。
 ちょっとだけ、視野が狭くなってしまったかもしれんが」

「あのなあ、アシュタロス……」

 アシュタロスの話を聞いていた横島は、次第に頭が痛くなってきた。

「おまえ、ちーーっとも、ルシオラを手放す気ないんだろ!?
 ルシオラを報酬になんて言っておいて、酷いやつだな」

「私はこれでも寛大でね。別にルシオラとの交際を、禁止したりはせんよ。
 ルシオラの記憶を戻すのも、ルシオラが願いでた時にすることにしよう。
 これなら、文句はあるまい。横島君」

(くっそーっ! 絶対、こいつをもう一度、極楽に送っちゃる!)

 横島が内心で怒りを燃やし始めた時に、零号機の起動試験が開始された。

『第一次接続開始』

『主電源コンタクト』

『稼動電圧、臨界点を突破』

『了解。フォーマットをフェイズ2に移行』

『パイロット、零号機と接続開始』

『パルスおよびハーモニクス正常。シンクロ問題なし』

『オールナーブリンク終了。中枢神経に異常なし』

『1から2500までのリストをクリア』

『絶対境界線まであと2.5……0.5……0.4……0.3……0.2……』

 三人のオペレーターが、次々にデータを読み上げていく。

『ボーダーラインクリア。零号機起動しました』

 実験成功の報告で、制御室の雰囲気がホッとした時に、緊急連絡用の電話のベルが鳴った。
 アシュタロスの斜め後ろに立っていた大樹が、その電話を取る。

「なにっ!? ……そうか、わかった」

 大樹は受話器を置くと、アシュタロスに電話の内容を告げた。

「未確認飛行物体が、ここに接近中だ。おそらく、第五の使徒だ!」

「テスト中断! 総員、第一種警戒体制!」

 報告を受けたアシュタロスは、即座に実験の中断を決断した。

「零号機は、このまま使えんのか?」

「まだ戦闘には無理だ。初号機を使おう。準備はどれくらいでできる?」

「380秒で準備できるじゃろ。横島が、とちらんかったらな」

「やかましい!」

 カオスの発言に、横島はすかさず言い返した。

「よし、出撃だ!」



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