GS美神 福音戦士大作戦!
作:湖畔のスナフキン
第三話 −決戦! 第三新東京市[下]−
横島の乗った初号機が、地上に向けて射出された。
だが、初号機が地上に近づくにつれて、芦ノ湖上空にまで侵攻していた使徒に、異変が発生する。
『目標内部に、高エネルギー反応!』
「なんですって!」
『周縁部を加速。収束していきます!』
「まさか、加粒子砲か!?」
ワルキューレの指摘は当たっていたが、時は既に遅かった。
使徒の前方にあるハッチが開き、初号機が地上に姿を現す。
「ダメっ! 横島くん、よけて!」
「へっ!?」
横島の危険度感知センサーが最大限の危険を知らせたが、どうしようもなかった。
例えて言えば、スーツケースの中に隠れていたところを、鎖でがんじがらめに縛られて海の中に放り込まれたようなものである。
地上に射出された初号機は、最終安全装置が解除される前に、使徒の加粒子砲の直撃を受けてしまった。
「ぐわああああっ!」
横島の胸に、焼け火箸が突き刺さったような痛みが走った。
横島は痛みを堪えきれず、エントリープラグの中で悲鳴をあげた。
「初号機のATフィールドは!?」
「前方に展開していますが、効果ありません!」
「初号機を下げて!」
初号機を載せたリフトが、下ろされた。
使徒の加粒子砲が初号機を追って軌跡を変えたが、初号機が地下に隠れると、加粒子砲の攻撃も止まった。
「横島くん、生きてる?」
「な、何とか……」
激しい衝撃と痛みにも関わらず、横島は意識を保っていた。
日頃の令子による拷問もどきのしばきを耐えてきた、成果とも言えるかもしれない。
「初号機を第7ケイジに格納します。医療班は、パイロットをすぐに病院に運ぶこと。いいわね」
病院で検査を受けた横島は、検査が終わった後も病院のベッドでごろごろとしていた。
次の作戦まで待機しているよう美智恵から言われてたことと、最後にはアシュタロスが究極の魔体で何とかするだろうと、高をくくっていたからである。
そろそろ夕飯でも食わせてくれないかと、ベッドに腰掛ながらぼんやりしていた時、夕食のトレイをもって病室にルシオラが入ってきた。
ルシオラはトレイをベッドの脇にある机の上に置くと、ポケットからメモ帳を取り出して、伝達事項を読み始めた。
「横島・ルシオラの両パイロットは、本日17時30分、ケイジに集合。
18時00分、エヴァンゲリオン初号機および零号機起動。
18時05分、出動。
同30分、二子山仮設基地に到着。以降は別命あるまで待機。
明朝日付変更と同じに、作戦行動開始」
「わかった」
「何か質問は?」
「ルシオラはもう、食事とった?」
「ええ。さっき食堂で」
ルシオラはそう返事をすると、部屋から出て行った。
横島はそっかとつぶやくと、ルシオラがもってきたトレイを手元に引き寄せて、一人寂しく夕食を食べ始めた。
二子山の山頂には指揮車が置かれ、臨時の指揮所となっていた。
その他、数多くの電源車両が、山頂から麓に至る道に並べられている。
初号機と零号機で二子山まで移動した横島とルシオラは、そこで美智恵たちから次の作戦について説明を受けていた。
「使徒は現在、ネルフ本部の直上にて、直径17.5メートルの巨大ブレードでネルフ本部に向かって穿孔しています。
これに対し我々は、エヴァによる超長距離射撃で、使徒を殲滅します」
美智恵は指揮車の脇の地面に置かれた、巨大なライフルに視線を向けた。
「これがポジトロン・ライフル。戦自研の試作品をネルフで借りてきたの。
計算上ではこの超長距離からでも、敵のATフィールドを貫くことができるわ。
もとが精密機械のうえ急造仕様だから、野戦向きじゃないのが難点だけど……」
「敵の攻撃はどうするんですか? さっき出撃したときは、初号機のATフィールドが全然役に立たなかったんですが」
横島が、美智恵に質問した。
「そこで、この盾。こちらも急造仕様だけど、もともとスペースシャトルの底部で、超電磁コーティングされているし、敵の砲撃にも17秒は耐えるわ」
「技術部・3課の・保証付きです」
美智恵の説明を、技術部所属のマリアが補足した。
これがカオスの保証だったら、横島はケツをまくって逃げ出していたことだろう。
「横島くんは、初号機で砲手を担当」
「わかりました」
「ルシオラさんは、零号機で防御を担当して」
「はい」
「横島・さん。陽電子は・地球の自転・磁場・重力の影響を受け・直進しません。
その・誤差の・修正をするのを・忘れないで・ください」
「でも、そんな練習は、今までやったことがないけど?」
マリアの説明を聞いていた横島が、けげんな表情を浮かべる。
「大丈夫・です。テキスト・通りにやって・最後に・真ん中の照準に・マークが集まったら・引き金を・引いてください。
あとは・機械が・自動補正・します」
横島は、射撃の腕にはかなり自信があった。
今までのMAGIの仮想空間での射撃訓練も、高得点を叩き出している。
「もし、一発目が外れたら?」
ただ、不足の事態が起きるといけないので、念のために確認した。
「二発目を撃つには、冷却や再充填等で20秒かかるわ。その間は、盾に守ってもらうしかないわね」
「……」
横島は美智恵の返答を、神妙な表情で聞いていた。
作戦を開始する前、横島とルシオラは仮設基地のブリッジの上で待機していた。
初号機と零号機用に設置された仮設のブリッジは、膝を抱えた姿勢で地面に座っていた二機のエヴァの横に別々に建てられている。
初号機と零号機が並べて置かれたため、二本のブリッジの間は数メートルしか離れていなかった。
「ルシオラはさ、なぜこれに乗ろうと思ったんだ?」
横島が、ルシオラに尋ねた。
「……絆だから」
「アシュタロスとの?」
「ええ、そうよ」
はっきりと断言するルシオラを前にして、横島は次の言葉が浮かんでこなかった。
だが、しばらく沈黙が続いたあと、今度はルシオラから話しかけてきた。
「私には、わからない。なぜ前の私が、そしてメフィストがアシュ様を裏切ったのか」
「うーん。たしかに何でだろうなあ?」
裏切る原因の一つを作っておきながら、横島は今までまったくの無自覚だった。
だが、しばらく首をひねっているうちに、なんとなく思い当たる事柄を見つける。
「前のアシュってさ、そう、なんて言うか今のルシオラと似てるんだよな。
自分の生きる道は、これしかないって感じがさ」
「……」
「俺は何でもできるんだぞって顔しておきながら、案外余裕なかったし。
まあ、今のアシュは余裕あるから、頼もしいっていえば頼もしいかな」
「よく、わからないわ」
「そのうち、わかると思うよ。おっと、そろそろ時間だから、スタンバイするか」
「ええ」
横島とルシオラは、出撃準備のためエントリープラグに向かうが、ルシオラがエントリープラグの中に入ろうとした時、横島が声をかけた。
「ルシオラ」
呼ばれたルシオラは、一瞬、横島の方を振り向いた。
「ルシオラは、俺が守るから」
ルシオラは正面を向いて横島から視線を外すと、エントリープラグの中に入っていった。
「時間です」
ジークが美智恵に、作戦開始時刻になったことを告げた。
「横島くん、あなたに日本中のエネルギーを預けるわ」
「はい」
横島が、やや緊張した声で答える。
「ヤシマ作戦、スタート!」
美智恵の指示とともに、二子山の斜面の道路にびっしりと並んでいた電源車両が、いっせいに大きなうなり声を上げた。
「撃鉄おこせ」
ガシャンと音をたてて、初号機がポジトロン・ライフルの撃鉄を引いた。
「第七次最終接続」
パイロットシートが変形し、横島の目の前にヘッドマウントディスプレイが配置された。
そのディスプレイに、ポジトロン・ライフルの照準画面が表示される。
「地球自転誤差修正、プラス0.0009」
「全エネルギー、ポジトロン・ライフルへ。発射まで、あと10秒。9・8・7・6……」
「目標に高エネルギー反応!」
使徒の様子をモニターしていたおキヌが、慌てて美智恵に報告をした。
「大丈夫よ。ヤツより先に撃てば、勝機はあるわ!」
そして、カウントが0になると同時に、美智恵が発射の号令をかけた。
「撃てっ!」
カッ!
横島がインダクション・レバーの発射ボタンを押した。
ポジトロン・ライフルの銃口から閃光が発し、エネルギーの奔流が放出される。
だが同時に、使徒も加粒子砲を発射していた。
ブォン
芦ノ湖上ですれ違った二筋の光線は、お互いが干渉し合って射線にズレが生じた。
使徒の加粒子砲は、初号機から見て数十メートル右側の地点に着弾し、爆発した。
一方、ポジトロン・ライフルの攻撃も、使徒から外れて後方の外輪山に命中してしまう。
「しまった。ミスったか!」
横島の表情に、焦りの色が浮かんだ。
「第ニ射、急いで!」
横島は撃鉄を引いてヒューズを交換した。
そして発射までの時間を稼ぐため、斜面をすべり降りて移動すると、伏せ撃ちの姿勢で銃を構える。
「目標に再び高エネルギー反応!」
(やばいっ!)
無防備の初号機に使徒の加粒子砲が襲い掛かろうとしたその時、ルシオラの乗る零号機が盾を構えて、初号機の前面に割り込んだ。
ズバババババッ!
「まずいわ! このままでは盾がもたない」
加粒子砲の攻撃は零号機の盾に命中し、激しい火花を撒き散らした。
だが、使徒の加粒子砲の威力は、当初の想定を上回っていた。
白熱した盾の表面が、見る見るうちに溶け出していく。
(まだか、クソっ!)
横島は焦ったが、照準を示す三つのマークが、なかなか中央に集まらなかった。
(ダメだ! このままじゃ、盾が溶ける方が早い!)
横島はそう判断すると、ポジトロン・ライフルを脇に抱えて立ち上がった。
そして、溶け落ちる寸前となった盾を構えている零号機の腰を抱えると、横っ飛びになって敵の射線から逃げた。
ドーン!
背後で地面が爆発したが、エネルギー切れとなったのか、使徒の攻撃も数秒後に止んだ。
「隙を見て、これで使徒を撃つんだ。いいな!」
横島は初号機が持っていたポジトロン・ライフルを零号機に渡すと、アンビリカル・ケーブルを外し、そのまま山を下って使徒目掛けて走り始めた。
「横島くん!」
「俺が囮になります!」
敵まで数キロメートルの距離があったが、全長40メートルの初号機が駆け出すと、みるみるうちに距離が縮まっていった。
「目標に高エネルギー反応!」
「横島くん、避けて!」
前回と違い、行動の自由を得た初号機は、使徒の的ではなかった。
己が持てる回避本能を全開にした横島は、「おわっ!」「うわわわっ!」「ひゃあっ!」と叫びながらも、攻撃の瞬間に飛んだり跳ねたりしながら、加粒子砲の攻撃をすべて避ける。
やがて使徒に接近した横島は、加粒子砲の攻撃を大ジャンプしてかわすと、そのまま空中で一回転してから足を前に突き出し、飛び蹴りの姿勢をとった。
「ヨコシマ・キーーック!」
月面でメドーサにした時と同じセリフを吐いたが、今度は股間を直撃することもなく、見事に使徒を蹴飛ばした。
斜め上から初号機のキックを食らった使徒は、地下のネルフ本部に向けて穿孔していたドリル・ブレードを折られて、地面に横倒しになってしまう。
「横島くん、使徒の側面にある加速器を壊して!」
「わかりました!」
横島は初号機からプログナイフを取り出すと、上下の四角錐が合わさった部分にある加粒子砲の加速器に、プログナイフを突き刺した。
「零号機、ポジトロン・ライフル発射用意!」
零号機がポジトロン・ライフルを構えた。
使徒はその攻撃に対抗しようとするが、加速器を破壊されたうえ、初号機に押さえ込まれたため、身動きが取れない。
「横島くん、離れて!」
初号機が使徒から飛び下がると同時に、ポジトロン・ライフルが発射された。
使徒は浮遊して回避しようとするが、時すでに遅く、ポジトロン・ライフルから発射されたエネルギーが、使徒の中心部を精確に貫いた。
翌朝、横島はネルフ本部内にある病院のベッドで目を覚ました。
昨夜は、ネルフ本部に回収されてから簡単な検査を受けた後、そのまま病院のベッドで眠っていたのである。
起きてから私服に着替えて、しばらくベッドでぼーっとしていると、ルシオラが横島を訪ねてきた。
「なぜ……」
「ん?」
「なぜ、あなたは、命令どおりに行動しなかったの?」
部屋に入るとすぐに、ルシオラは横島に話しかけてきた。
のほほんとした表情の横島と違い、ルシオラはまだ昨晩の戦闘の余波が残っているようである。
「ポジトロン・ライフルの射撃準備が整う前に、零号機の盾が溶けてなくなりそうだったからかな。
まあ、現場の判断ってやつだよ」
美神除霊事務所で数多くの除霊をこなしてきた横島は、立案した作戦どおりに事が進まないときもあることを知っていた。
美智恵には言わなかったが、こうなることもあるだろうと事前に考えていたのである。
「私は魔族よ。たとえ体がバラバラになっても、アシュ様がいれば元どおりに治してくれるわ」
「そういう意味じゃ、ないんだけどなー」
思いが伝わらないもどかしさを感じたのか、横島が片手で頭をポリポリとかいた。
「目の前でさ、誰かが危ない目に会いそうになったときって、思わず手を出したりしない?」
「代わりに、自分が危ない目に会ったとしても?」
「どうだろう? まあ俺なんかは、後先考えずに助けちゃったりするけど。特に、相手が美人の場合には」
照れを隠そうとして、横島はハッハッハとわざとらしく笑った。
この行動が、多くの女性に誤解を持たせる主な原因になっているのだが、本人は自覚ゼロのようである。
「でも、いちおうお礼だけは言っておかないとね」
「?」
言葉の意味を計りかねたのか、横島が首をかしげる。
「助けてくれて、ありがとう。ヨコシマ」
そう言うと、ルシオラは横島に向かって微笑を浮かべた。
それは、横島が記憶していたかつての彼女と、まったく同じ笑顔だった。
BACK/INDEX/NEXT