二人は今宵も呑まれてる

作:Nar9912




 其(そ)の日にも、
 特別な筈の其の日にも、
 変わらぬ二人で在ることが、
 果たして二人で在る故(ゆえ)か。

 彼が成人の後(のち)にては、
 格段(かくだん)珍しからぬ故、
 殊更(ことさら)言い繕い(いいつくろい)も無く、

 女は男の居(きょ)を訪ね、
 男と共に呑(の)んでいた。

 居こそ女の打ち出せし、
 自明に過ぎし解なれど、
 男と女は呑み続く。

 分明(ぶんめい)ならぬことは無く、
 未だ(まだ)猶(なお)二人は呑み続く。

 酒精(しゅせい)と時を流し込む、
 特別な筈の其の日にも。
 徒(ただ)流し込む、時と酒。


 女は流れる時惜しみ、
 遅きに逸した感有れど、
 竟(つい)には聲(こえ)を掛けようと……


「……ねぇ、横島クン?」


 くいっとばかりに何十杯、
 或いは百の桁に迄、
 達したやも知れぬ杯(はい)、
 またもや一気に呑み乾して(のみほして)。

 呑み乾す可き(べき)は他に有り、
 知れども女の術(すべ)は唯(ただ)、
 呑みつつ聲を掛けるのみ。


 男の仕事とばかりにか、
 応える(いらえる)彼の其の聲は、
 然れども(されども)疾う(とう)に時遅く。


「何っしゅか? みきゃみさん?」


 端(はな)には燃えし煩悩さえ、
 飲酒と共にちびちびと、
 鎮火間近に追い込まれ、
 呂律(ろれつ)回らず返す聲。


 然れども未だ(いまだ)終わらぬと、
 用意してきた切り札を、
 切り出す女のその姿、
 直向き(ひたむき)とでも謂う(いう)可きか。


「……今夜は泊まってくるって、ママ達に言ってきたのよ?」


 一大決心である故か、
 杯を口唇(こうしん)に遣る(やる)腕(かいな)、
 一時(いっとき)留まり(とまり)さえもして、
 操られたかの如き(ごとき)にも、
 視る者居れば思うやも。


「そーですか……それじゃあ、朝まで呑み明かしましょう!!」


 恋人居ては彼なのか?
 カリカリしとってこそ彼か?
 誰ぞ(たれぞ)思うて居るのやら、
 操作されたが如き所為(しょい)。

 共に踏み出す時逸し、
 何時(いつ)まで続くこの宴(うたげ)、
 応える者は其処(そこ)に無く、
 唯唯瓶(びん)の有るばかり。

 夜は更け更け、更け行きて、
 通り過ぐるも無為なるか、
 明くる朝の目覚めにて、
 彼の脳裏に遺り(のこり)しは、
 またもや寝酒になったかと、
 己からさえ逸らす其れ、
 想いを逸らす其ればかり。

 事実を識る(しる)は女のみ?
 事実は転がる瓶が識る。

 霊気で融けた瓶の群れ、
 早速(はやばや)失策理解して、
 猶猶何かに期待して、
 多少勢い衰えて、
 其れこそ丁度良いなどと、
 己にさえも嘘を吐き、
 過飲を嘘で塗り固め、
 在る可き結果を導けど……。

 然れども逆ギレ常のこと、
 何が故にか持参済み、
 神通棍を鞭と化し、
 彼の悪因悪果とばかり、

 呑みの数刻前にては、
 大掃除との怪異経て、
 奇跡とばかり場所が出来、
 呑み乾していた其の部屋で、
 惰性で応える男へと、

 空き瓶だけの光景に、
 見守られた其の部屋で、
 邪悪な霊に比して猶、
 強き力を籠めし鞭、
 振るうた力を持つ女。

 此れ(これ)は疾うに常なれど、
 寝酒と思うた横島は、
 何も覚えちゃいやしない。

 唯唯壊れた大量の、
 瓶だけが知る其の事実。

 何時しか時が満ちし日に、
 二人で共に祝い酒、
 呑むことを唯夢に見て、
 すれ違いさえ亦(また)楽し、
 思うは他人ばかり也。

 思うは他人ばかり也。

 二人で共に祝い酒、
 呑む日は何時になるのやら。


(了)



【管理人からのコメント】
 漢字のルビは、rubyタグに編集し直すことが多いのですが、今回は原稿どおりの表記としました。
 ポエムのようなこの作品は、括弧(かっこ)付きの方が味わい深いと思います。


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