我が読みにくさはーーー、世界一ぃいーーーーー。
椎名作品を彩る要素の一つはパロディでしょう。
にしてもこれらを持ち出す私……祟られる? 神父、除霊を!



 モンジュは反則異聞 絶対なんて無い

作:Nar9912

あまり(01)




 さて此処からは、横島が口に出していた支離滅裂妄想思考の全てを、視てみるとしよう。

 ……

 …

 確かに、来る未来を隠したのは美神美智恵そして美神公彦ではあり、その時点で人界に駐留出来る神魔を含め人界に介入出来る誰もが魔神と人間が戦う未来など知らなかったであろう、
 仮に知っていたとしてもその情報を自覚出来なかったのかも知れず、知ってしまった以上隠していたかも知れぬ所ではあろうが。

 実の所知っていたであろう最上層部はその束縛からそうそう動く訳には行かなかった。
 月の件で人界に駐留する留学生であり半ば以上神魔に於いて中立の立場なジークへ漏らした言葉、

 ……宇宙を維持していく責任がないさかいな

 が成り行きをある程度は知っていた可能性を暗示してもいる。
 宇宙の維持責任即ち宇宙意思に従う義務が最上層部には課せられているのだろう、常に。

 また最上層部が知らなかったのならば月の事件以降にあれだけ時間があったにも関わらず、魔神達を殲滅し得なかった不可思議が説明し難い。
 確かに勢力としては激減させたであろう、だが中枢は逃げ延びながらも逆天号を完成した。
 魔界の正規軍がその様な失態を犯しそのままとするのだろうか。
 人の世の物分かりが悪い上司でもあるまい、戦い勝つ事を第一義とするならば上申し許可を得て徹底した戦力投入すらおかしくは無いのだ。
 だが魔の最高指導者は許可しなかった筈だ、どの様に却下したかは謎に包まれているのだが。
 神族に於いても同様だろう。元より魔族の問題であり神族は手出しを控えていたのだから。
 挙げ句、適いはしないだろう人界に駐留出来る程度の戦力で魔神へ立ち向かわせたのだ。
 一方それは妨害霊波が効果を発揮する直前に最低限の戦力が投入されたとも取れよう。
 ともあれ最高指導者達ならば魔神を殺す事も不可能ではなかった筈だ。
 魂の牢獄は直ぐに働きはしないと推測出来る、人の輪廻が直ぐには為されない事同様。
 故にエネルギー結晶内在者と魔神やその部下とが同一の時代に存在しなければ反乱自体何時までも起きぬ未来があり得た筈だ、ハルマゲドンを起こさぬようバランスを取り続ける今同様。
 それ以前に復活するとは言え殺されて良い気はしないのが普通であり殺しても復活するとなれば罰として相応しい手段は幾らでも増える、小突き回した挙げ句に死なれても殆ど問題無いのだから。
 そう、小突き回すと魔族最高指導者が言った様また世界中の神魔が八つ裂きにすると美智恵が言った様に、殺したからと問題など生じはしない、手出しを控える理由など無い筈なのだ。

 なのに、そうはしなかった。

 魔神以上の力を持つ魔神が自身の代わりとして魔体を用意する程の者達としては、随分とおかしな話ではないか、たとえ如何に最上位神魔がそうそう動く訳には行かずとも。
 まさか魔神を見縊っていた訳では無かろうに。

 尤もそれらは説明し得なくもない。
 魔神達を殲滅し得なかったのは切り捨てられた殆どの勢力がダミーとは思えなかったと、
 魔神が全霊力を以て遁走し隠密活動をしていた以上殲滅しきれなかったと、
 またそれ故に、魔神が隠密する為に全霊力を傾けその力がすり減っていたと見たが故に、人界駐留者達で対抗可能と考えたと。
 魔神は秘密兵鬼の維持に霊力を割かれ平安時代の無制限なそれと比して相当弱っていたのだ、
 そして更に力は落ち続けていき限界が一年後となる筈だったのがその前に落ちていた力を視て、人界駐留戦力で対応可能としたと言えるのだ、魔神が美神に来て欲しいと言った様に衰えていた筈だから。

 そして混成部隊を派遣し遂に捉えようとした時、反乱が起きたと。

 或いは力が衰えた点を指摘して徹底した戦力投入を却下したかも知れない、人界は中立地帯であり其処へ無闇矢鱈に神魔を大量投入する訳になど行かないのだから、デタントと魔神を比べ大事なのはデタントの筈だから。
 月の件ではその中立性故に人間である美神と横島に……キヌが行こうかと発言したそれを危険と否定しており横島なら大丈夫との思いが表れている……任されたとの実例がある。

 ……しかし、魔神の力は霊力でなく魔力である筈なのだが魔であれ神と名付く程であればその力は霊力とさえ言えるのだろうかそれともルシオラの霊基構造で自分が支えられている様に霊力も魔力も元々は同じもので使う者の方向性のみ異なるだけなのか、いや今それは問題では無い……。

 同じく開戦の口実となり得る人界への派遣に、慎重にならぬ方がおかしいとさえ言えよう。
 秘密兵鬼があるなどそれが妨害霊波を発するなど知らなかった筈なのだから、力が落ちてきた魔神などと考えておかしくなかったのである、最高指導者で無くとも。
 そも現実にかなり追い詰めた様にしか見えなかったのかも知れない、他の神魔にも。

 また戦力の点に於いては美神美智恵が殆ど勝てそうになっていた事で説得力が出ようもの、
 そしてそれを知っていたなら、それを知っていたのなら十分な戦力を投入しなかった事で各々の世界即ち神界と魔界に住まう神魔からの不満をぶつけられずに済む。
 美智恵より霊的スペックの高い彼等なら創意工夫で勝てる戦だったと言い得るから。
 更に殲滅し得なかったが成果があったとも言い得る。何故なら美神令子暗殺に対して魔族正規軍は先手を取ってワルキューレを護衛として差し向けた。
 巧妙に立ち回っていた魔神の情報が漏れたと言う点、その点に於いて魔族には相応に行動したと言える根拠がある。
 一度は情報を握った以上更に情報を得て対策を取るのは部下の仕事としておかしくない。
 その情報が十分で無かったからこそ最上層部は動かなかったとも言い得よう。

 知っていようと違おうと最高指導者に落ち度がある様に思えないのがポイント。
 それ故にこそ全て乃至ある程度知っていたのではと疑いたくなろうもの。
 或いは、最高指導者達には魔神を魂の牢獄から脱却させてやろうとの慈悲を持っていたのでは無かろうか、事の始まりから。
 何しろ全てを鑑みるに実に実に出来過ぎた事が多過ぎるのだ。

 宇宙意思や神魔の最上層部にラプラスの様な或いはそれ以上の予知過去知があるのかははっきりしない。
 それは人界に於いてのみならず神界や魔界に於いても明確では無い事。
 神魔の中に居てさえ彼等は神秘であり雲の上の存在なのだから。
 だがラプラスに完全な予知が出来るならば、宇宙意思の代行者たる最上層部に出来ない方がおかしい。
 彼等でさえ全て知っている訳では無いのだろうが、余人が思うより知っているであろう。
 そう示す証拠は幾つかある……

 何故に、ジークと最高指導者達の会話、ラプラスとの名などが浮かんだのかさえ分からないまま、更には自身知らない筈の出来事が何故浮かんだのか分からないまま、
 横島は妄想いや霊感に導かれた考えとさえ思える思考に埋没し続けた、何時もの癖が出てもいたが。

 …

 …

 事は遡り時間移動能力者が追われていた頃、美神美智恵は死んだ事としてそれを巧く逃れ得たのであるが、それは真に美神夫妻だけで成し得たのか、たった二人の人間が魔族を騙し得たのか。
 葬式を行えばそれで納得したのか。
 如何に公彦のテレパシーが強けれど如何に美智恵が能力経験に恵まれようと、GSやオカルトGメンなど霊能業界全て武闘派魔族全てを欺き得たのだろうか。

 いや欺きもしなかったとも考えられる、未だ時間移動能力が発現していなかった美神への攻撃をなるべく遅らせ、横島達GSの戦力が整うまでの間は彼女さえ知らぬところで魔族と戦っていた可能性もあるのだ、己自身を鍛える為にも。
 ハーピーさえ一度は復活を許した己を、5000マイトのキャメランをも一撃で倒せる迄に鍛える為にも。

 そう、キャメランは一撃で倒された。其処から考えるに魔体もまた本体の防御力は大した事など無くその防御は唯一向にバリアのみに頼った可能性もある。
 いやそうではないだろう、キャメランはルシオラが即席に術で強化しただけなのだ。
 魔神が二千年もの時間を掛け魂を焼べて作り上げていた更にその後もヒャクメの機転で跳ばされた未来にいや現代から見たなら過去なのだが、
 その時代からも尚養分となる魂を焼べ続けて来たであろう魔体を、単にちょちょいのちょいとばかりにルシオラが術を掛けたそれと同列に考える事は、無理が有り過ぎるだろう。

 そう言えばエネルギー結晶は魂を精製して出来ていた、平安時代から跳ばされたその後のアシュタロスの行動には或いは世界大戦を待ち魂を大量に刈り入れ魔体を育てるとの意味もあったのでは……
 いやそれはまず確実にあった筈、平安時代での魔体は未完成だった、後千年とも言われたそれを完成へと至らせるには、多くの魂を必要とした筈だから。
 一方こうも考えられる。世界大戦を利用しエネルギー結晶を再度、作ろうとしたと。
 そうすれば月の件の様にエネルギー結晶内在者即ち美神の転生など待たず、反乱を起こせるのだ。
 起きなかったところからすれば魔体の完成……バリアに穴があったが……で手一杯だったのであろう。
 世界大戦では魔族が戦争の凄惨に取り憑かれた者達の魂を奪っていたと思える。
 そして神族が大量のそれを防止しようとしたとも。
 また情に流され人間の動きからである戦争を止めてしまわない様その可能性が高い人界常駐組は拠点から動く事を禁じられていたのだろうとも。
 人に拠る人同士の戦いであるからこそ従来より神族は手出ししないでいたのだろうから。
 そう取れば小竜姫が江戸しか知らなかった即ち戦争が頻発する様になった時代を知らないでいた理由さえ説明出来るかも知れない。
 あの時期、人界に多くは来ない神魔が戦争に介入したが故にデタントを厳しくせざるを得なくなる結果を招いたのかも知れない。
 誰も反乱を知らない筈だからこそ過去から無数にあった戦争同様手出しさせない方針だったが思いの外魔族が動いた故に、
 神話や伝承が実在した時代と異なり人界に手出しし難い状況となったからこそ、長い寿命から気も長い筈の魔に武闘派などいよいよ台頭したのだとも。

 如何に美智恵であろうと世界大戦を起きなかった事とするには無理があるだろう、過去には跳んでもその時点で彼女は全く無名の霊能者だ、一介の拝み屋に言われ世界が纏まるなら疾うに世界は平和になってもいるだろう。
 ラプラスに拠るその知らせは、名指したかは別として強大な神魔の力が関与している為、不可避な戦争であるとの決まった未来だったのでは無かろうか。
 そうでも無ければ無駄であれ努力するのが人の性である、努力する程に人死にが増えるなどとの罰則などあるとは限らないのだから。
 だがそれが神魔の力に因るものであれば、そうならば信仰持つ者はそれを自然災害に等しい神の御意思と取ってしまいかねない。
 故に二度の大戦を知らされた者が自殺を選んだのでは無かろうか。
 如何に魔の神だろうが主の聖域であるバチカン内での死であるならば魂を利用されるなど無いと考えての。
 そう非ずばカトリックの教えに反して自殺した説明が付くと限らないのだ、信仰を裏切ってまで自ら死を求めるなどとの。
 いやそれこそ最高指導者達が関わっていた証拠ではないだろうか、断言するに弱い根拠だが。

 仮定の範囲を出る事は無い憶測を行うなら、世界GS本部などもまたある程度真相を知っていた可能性がある、いやむしろ可能性は高いのではないか。
 それを齎したのが神魔であれ美智恵であれ、或いはGS本部付きの予言者であれ。
 全てを知ってはいなかっただろうが……全てを知っていたのなら生命に被害が生じる事を最低限に抑える対策を為していただろう、いや知っていて皆に気付かせず可能なだけ対策を為していたかも知れない。

 美智恵が世界に名立たるとまで……ヨーロッパに居た唐巣へ噂が届く程にまで……至っていたGSであるならば、その呆気ない死に対して何も調べずにいただろうか、死んだ筈の美智恵がいきなり現れただけでICPOが全権を委任しただろうか、
 責任には弱い日本政府が許可を出しただろうか。

 更には喩え様も無く高価であろう強靱な結界……キャメランに対して用いただけでも3000マイトの結界であり魔体対策のそれなら何万マイトいやそれ以上に対応出来るだろうそれ……を用意、
 更には電力変換の為だけにミニッツ級空母を徴発し、その甲板に美神ですら何日も徹夜しなければならなかった魔法陣より更に巨大なそれを、
 何時の間に用意していたのか。

 世の中にはコストの問題がある。
 余分な事に金と時間と労力を掛ける事はそう歓迎されない、特にそれが公費で賄われるなら。
 魔族との戦闘など日常茶飯事ではない、美神でさえそうそう魔族と戦った経験が無かった事からも分かる。

 であるなら何故に、数千マイトの結界など作られていたのか。

 スペックだけで戦闘が行われる訳ではなく霊圧の差を殆ど無視する事でさえ可能だとはキャメラン戦での美智恵や他の雑魚怪物に於ける西条、魔神戦での“模”が示している。
 だが数千マイト級の敵との無いかも知れない戦いを想定していただろうか。

 ……バチカン地下に封じられた悪魔は必ずしも人間が戦い封じたとは限らない、それはパイパーが美神や唐巣達それも当時の彼等を指し過去にいなかった強力な悪魔払いと言った事からも……。

 美神をしてさえキャメラン戦で霊圧の差に戦意を失った程なのだ、GS協会でさえ魔族とまともに事など構えると考えていなかった証明では無かろうか、なのに装備は用意されていた。
 美智恵や横島など例外はあるが霊圧の差は無意味ではない。だがそもその様な相手と戦う可能性を如何に得たと言うのであろう、危機管理にしてもやり過ぎの感が強いいややり過ぎと断言出来よう。
 神無き世ならばともかく。にも関わらず備えは為されていたのだ。

 更に根拠となるのが何時の間に誰が空母に魔法陣を描いたのか、美智恵専用とも言えるそれが、妨害霊波無くして無意味とさえ言えるそれが何時どう描かれたのかとの点。
 そも魔法陣は施術者乃至その使役者が描かなければ意味が無かったのではないか。

 その根拠はアルテミス召還の魔法陣。

 あの時、見張りで徹夜さえ嫌うあの美神が独りで描いたのだ、幾日も徹夜して。人狼の長老そして横島とキヌが居たにも関わらず。見張りであれ牽制であれ、最初から手伝いもしない意味は見出せない。
 考えてみるとあの際の仲間達の行動も独りで描かなければならないとする以外に説明し難い点がある。
 まずGSは報酬が無ければ原則動かない、それはプロである以上は当然。だがあの時は報酬ならば西条が一億出すと言ったのだ。
 犯人逮捕に成功した者と限定したが共同逮捕であっても山分けくらいした筈だ。
 入院した西条と冥子は直ぐには霊能が回復しなかったのかも知れないがマリアは時間的に十分直る余裕があり怒り心頭と化していたカオスまた一方的に破れた事を気にしていたエミが、
 更には弟子が危機に飛び込むその様を見ていた唐巣が、何故に手助けしなかったのであろう。
 其処に幾つかの仮説がある。
 例えば横島やキヌでは知識また技能的に魔法陣を描けはしなかったとする説。
 だがこれは少々不審な点が残る。美神自身がカンペを手に描いた魔法陣、知識など本当に必要だったのか。
 念を籠めて発動させる前の魔法陣は単なる紋様に過ぎないのではないか。
 今も尚多く残る土着の伝統工芸品には魔除けのそれもありそれらは別段霊能者が作る訳では無い。
 寺社のお守りであれ祈祷して初めて意味を持ち、製造自体は工場乃至は手工業である事も多い。
 巫女が神主が手ずから行うそれにより御利益はあるのだろうがそうで無いから無効とはされない。
 他に仮説があるだろうか、勿論仮説であればまだある。
 例えばアルテミスは女性にしか召還出来ず、その魔法陣もまた女性で無くば描いてはならないとする説。
 だがそれは予めアルテミスの性格を知っていなければ女性だけで描こうとはしないだろう。ましてそれであれば未だ生き返っておらず霊的には地脈の堰無くしては特攻さえ出来ないキヌは除外出来るであろうがエミが参戦しない理由が全く無いのだ、
 マリアに霊的な装備が何時実装されたのかは不明であるが嘗てを鑑みるに精霊石など用いるだけなら知恵の神に囚われたカオスを救出する件で行っており、GS試験では道具はマリア自身しか使えなかった為に当時の装備では攻撃出来なかっただけとも。
 何故なら魔神との戦いに於いて退魔フィールドバリヤーなる霊的装備を用いたのだから。
 マリアは置くとしてエミにはそれらの制約が無い。
 仮にカオスや唐巣に男性故に不可能との制約があったとしてもエミは全ての条件をクリアするのだ、知識ならば美神と比べてもエミやカオスは劣らないだろう。
 GSは試験を通り研修の上で認められる事で漸く成れるプロだ。そのプロが関わった仕事の仲間と連絡を行わないでいる理由が無いのだ、特にこの場合人手が欲しいのだから。
 美神であれば呼ぶだけ呼んでその手伝いをさせた挙げ句、報酬は難癖を付け自分だけのモノと動く方が余程、らしいだろう。
 これらを総合するに仲間達に連絡したが皆足手纏いになる事を懸念し、また自分達も敵に取っては獲物な点を考慮し応援に向かわなかった乃至は応援の為に装備を調えていたと見るべきでないか。
 あの美神が独力で描く事に拘ったのだ、詰まる所、魔法陣は独りで描く物と考えるべきであろう。

 さて美智恵が用いたそれは電力から霊力への変換魔法陣である。
 その様な代物は美神家以外の誰に意味があるのだろう。そも世にそうも都合の良い魔法陣などあったのか。
 美神家独自と考える方が自然では無かろうか。ならば元より他人には描けない可能性さえある。
 無論術者自身が描く事から始めた方が効果もあろうもの、巫女や神主が手ずから作ったお守りに御利益がより宿るとされるそれと同じ事である。
 此処で前述の問題が出るいや更に深みを増すのだ。
 一体、何時の間にアルテミス召還のそれを遙かに上回る規模の魔法陣を描いたのだろうか。
 描き始める時点から空母が徴発されていないとおかしい点を考慮すると……
 予め死んでいたとされる間にも己の技を鍛えその力を最大限に発揮する魔法陣を研究して練り上げた上で、根回しを行ってアメリカ海軍さえ反論出来ない強大な力で以て徴発しておいた空母に、
 何日いや何ヶ月も時間を掛けて、独り延々と描いていたとするのが自然な帰結では無かろうか。
 美智恵に十分な権力があったなら話は別だがそう無くば後ろ盾は必須。

 他にも謎がある。美智恵は、キャメランに勝っているのだ。
 神の装備を持っていた以上人間の出力は軽く越えていただろうが、美智恵と美神とで基本霊圧がそれ程に差があるとは思えない、
 尚キャメラン戦で美神はニーベルンゲンの指輪を防具として用いた為竜の牙のみ用いた美智恵との間で攻撃に関しての霊力増強に差は無かっただろう。
 だが何故に竜の牙が、変幻自在の神の剣であると、美智恵は知っていたのか。
 無論美神が知った様に調べれば分かるかも知れないが手元で調べた美神でさえも武器になるらしいとしか判断出来なかった。
 そも小竜姫達と組む事が多かったヒャクメが知らなかった事実を何故手元には持っていなかった美智恵が知っていて直ぐ使いこなし得たのか、
 前もって訓練を積んでいたからではと思う事に、その存在と効果を知っていたと思う事に、否定の材料はあるのか。

 張り詰めた横島は可能性有る者が増えていくその思考を止められない。

 幾ら魔法陣の中では7000マイト以上の力を持ち得るとしても、どうやって三姉妹を呼び寄せるのか。
 更にキャメランと比べて確実に上であろう三姉妹の本気に勝てるだろうか、更にその上である魔神には。
 いやそも魔法陣の中でなら一体相手なら三姉妹に勝てるとの根拠は何処にあったのか、彼女達は一度さえ美智恵の前で戦っておらず本気で戦った事などそも無かったのだ、ヒャクメが見誤った程の実力を何故に想定し得たのか。
 ヒャクメは、神族の調査官とは、人間に軽く劣るのかいやそんな事は無いだろう。

 斯様に空母と魔法陣を用いたその戦略には用意に際して都合の良い仮定が多過ぎる。
 用意させるに足る説得力に欠けるのだ。
 例えば一国の電力全てを使わねば勝てなかった可能性を考慮しなくて良い前提など、いや世界中のそれを注ぎ込まない前提を、美智恵そして許可を出した者達は果たして何処から得ていたのだろう。
 美智恵の身体が耐えられないとしても何時そう確かめたのか。
 空母で無ければ被害も大きかっただろう、だが戦争に於いて被害など考えるのは終わってから行えば済む話である。
 例えば大都市一つの生き物全てを避難させた上で融通出来る限りの電力を集めるなどの選択は当然あり得た筈なのだが、そうしない選択は何処から来たのか。
 どのみち用意する手間はある。ならば米国に借りを作るより自国内で電力供給源と近く条件に合う地域に空母のそれよりさえ巨大な魔法陣を描き迎え撃つ戦略はあり得ないだろうか。
 撃沈し墜落しようと再開発の口実にさえなるでは無いか。
 戦争や災害は被害を引き起こすものであるが其処には必ず復興の為の資金投入があり思い切った再開発もまた行える上、景気回復へ気勢を上げる事さえ不可能ではない、特に相手が魔族であれば。
 世界も援助を惜しまないだろう、自らの国土を犠牲に世界を救った救世の国に。

 その上、三姉妹を一体ずつ誘き出す手があったとして……実際には修理するルシオラ以外即ちパピリオも同時に赴いた可能性がある……敵が何度も同じ手に引っ掛かる程に馬鹿だと何故に言えよう。
 一体だけなら倒し得ても原子力を動力とする空母を空を自在に動き人外の強力な力を持つ魔族に対しての武器とするのは相当に危険がある、動力部が破壊されたなら放射能汚染が免れない事もあって。
 大量殺戮兵器やその運搬に使える装備を動かすに当たっては細心の注意とあらゆる事柄を想定する必要があり通常軍隊というものはそうしようとする。
 攻め込む名分ならば歴史が示す通り適当であろうが放射能汚染を引き起こす撃沈の可能性が通常より高いであろう魔族との戦いに用いる決断など直ぐに出来ようか。
 離れた地域にある発電所からの電力なり用いたならその危険は減らないか。
 確かに適いもしない戦力を投入してと油断させる効果や実際の攻撃から目を逸らす効果はあるだろうが。
 その効果は国内に描いた魔法陣の周囲を自衛隊と安保条約そしてICPOからの要請で呼んだ軍隊で覆い尽くす事と比べ、どれ程高いのだろうか。
 発信器を用い出向かずとも上に伝えた様いざとの際に娘を殺す覚悟があったなら囮として使い呼び寄せるくらいは出来ただろう。

 無論全て仮定に過ぎず空母で無ければならなかった可能性もあるが……。
 そも空母でのそれでなくば逆天号で出向いて来る可能性自体は低いだろう。
 エネルギー結晶探しは三姉妹の一人……大抵はベスパかパピリオ……と雑魚怪物とが通常だった。
 だがそれこそ思うつぼとなり得る筈なのだ、人類側にとっては。
 雑魚怪物ならば横島からの弱点情報さえあれば西条や他の者達にも容易に倒せるだろう。
 更に検査される詰まりは獲物の方から今度はこちらから攻める番などと安い挑発をされたならどうか。
 リングを使わずとも三姉妹は霊力の大小がある程度分かる、雪乃丞達のそれからも。
 ならば美神が霊力を抑えもせず神魔のアイテムを持ちもしなければ本物と判断するだろう、当然の事だが本物に間違いないのだから、より。
 判断されてから発動させれば問題は無い筈だ。いや其の必要さえ実際無用であろう、本人が準備万端の積もりで待っていると思うだろうから。
 ならば普段の様に横島に任せてさっさと還りなどしない。美智恵は空母のそれより強い電力を霊力変換し、ただ迎え撃てば良いのだ、無論周囲に軍勢を配置して其の全てに銀の銃弾を装備させて動きを止めもして。
 仮に二人同時に来ようとその一方がパピリオなら対処の仕様もあろう。
 パピリオは南極でのそれの様にGS単独の霊力で霊波砲をずらされた程に力は強くないのだから。
 むしろ雑魚怪物の方が単純なマイト数では上かも知れない程に。
 無論パピリオは弱くなど無い。横島に与えた一撃は死ななかった横島の方が異常なのだろうし、彼女には尋常でないタフさと弱点が無いとの雑魚怪物には無い特長があるのだ、弱くは無い。
 だがトップクラスの者達なら単独で攻撃を逸らし得るなら美智恵はもう一体に専念出来る。
 一体ずつ倒せば良いのだ。
 無論一体倒した時点で逆天号が出て来る事もあろうが、その時こそ時間移動応用技を実施すれば良い。
 弱点を聞き出せる程の立場に居るのなら横島百の必殺技の一つハッタリで、ルシオラとベスパの組合わせ回避も不可能ではないだろう。
 尚百の必殺技のうち同期合体や“模”、煩悩全開など以外は不明である。
 “爆”はともかく派手で無いとなると必殺技とはしたくないだろうから、ヒーローとしては。

 そも未だ核ジャックを行ってもない間に米国から空母を徴集する程オカルトGメンには力があるのか。
 魔法陣の戦略には妨害霊波が前提と見えるが実はそうでもない。実力を引き出してベストをさえ超えてのコンディションで戦う為との理由がある以上は魔法陣を描く事に反論は無いだろう、その効果を責任者に示していたのなら。
 だが空母を徴発して其処に描いていた事がおかしいのだ、数ヶ月前に知っていなければ対処し得ないとの、時間的に重大な問題が存在するのだから。
 いや美智恵は未来に跳べるだけでなく時間の流れを自由自在に動けるとしたら、そうであれば妨害霊波の発生前に、その数ヶ月前に戻って手を打つ事は出来る。
 だが其処まで都合の良い能力を持つのか、単にその時点から特定の未来に跳び戻る、それだけで無いのか。
 だがそれでは魔法陣製作に謎が残る事となるのだ、神魔の霊感でさえ知り得なかった情報を予め知ってもいたとする仮定と自由自在に時間の流れを動き得たとする仮定、どちらに無理が無いのか。
 その前に時間移動は妨害されていた筈ではないか。

 竜の牙を使うと言え……竜の牙が作戦の前提である事こそ前以て知っていた証とならないか……魔法陣を出た瞬間1000マイト程度と、優秀だが人間のGSが成せる出力に落ちてしまうハンデは相当のものがある。
 そもあまり目立ちはしていないがルシオラには下位魔族を作る力がありキャメランを作った、その者達でさえ数千マイトだったのだから彼女はそれ以上、ベスパはパワーに於いて彼女以上だ。

 もしルシオラがパワーでベスパを上回っていたなら……いやそれでも魔神にパワーアップ処理を為された以上、力は逆転しただろう。

 三姉妹の実力を知らなかった筈の美智恵は、キャメラン以上であろうその力をどう推測したのか。
 如何な考えに拠りあの組合わせを選び得たのか、知っていたのではないか。
 だからこそ海兵隊に特製の銀の銃弾を十二分に与え、ベスパの動きを押さえる作戦に出たのではないか。
 知っていたからこそ適切な対応が取れたのではないか。
 知らされていたからこそICPOもGS本部も従ったのでは無かろうか。
 そしてその海兵隊の変装は、ヒャクメをして気付きもさせなかった程の代物。
 それだけの備えがある時突然に出来たとでも言うのだろうか。
 随分とおかしな話ではないか。
 ヒャクメは視る事に関し無能ではない、ピントを霊波に合わせていた筈のその時点のヒャクメなら中身と外見が一致しない……女性の姿をした者の霊波が男性のそれとの……事は気付けた筈だ、単なるザンスの変化マスクならば。
 エクトプラズムスーツであった所で通常品ならヒャクメの眼は誤魔化せないだろう。

 いやヒャクメも実は知っていたのでは無かろうか、視る事が出来て調査官であるヒャクメ。一見軽いその態度さえ仮面では無かろうか、神魔なら自己暗示などどうとでも出来るだろう。
 ワルキューレの人界での姿、春桐魔奈美は随分本人とは性格が異なった気がする、あれは自己暗示などでは無かろうか。
 仮に演技であれ美神さえ簡単に騙し得たのは何故か。いや当時の美神は人工幽霊一号に守りを頼っていた節も少なからずある。幾度か破られはしたがそれでも普通の結界より強いのだから。
 神魔の限界など人知を超えているのだ、ヒャクメにもそれくらいは……何かが強烈に否定してもいる気がする、あの性格は生まれ持ったものでありワルキューレのそれこそ演技と。
 だがそれがヒャクメの巧みさでは……いややはり本質だろう。
 ならばヒャクメが誤魔化された以上、海兵隊のあれは霊波変質の効果持つ変装となる。
 敵方の能力がはっきりしない以上は万全を期したと言えようものだがそれだけの人数にそれだけの装備を用意する理由としては些か弱くは無かろうか、それも急な話で。
 いや急な話自体非常に疑わしい、或いは横島がキヌと出逢ったいや美神と出逢った事自体用意されていた運命では無かろうか、昔から。
 そう言えば時空内服消滅液の件ではどう帰還したのだろう。
 状況から美神が物心付かぬ状態の恐らくは未だ目が開いたばかりの乳児である横島へとキスをした事実に他ならないだろうか。


「いや俺はロリコンじゃないから三歳児の美神さんにキスされても嬉しくなんか……なんか……。」


 なれば美神との縁は前世ばかりか今生でまで魂が予約済みであったのか。
 いや今はルシオラ、彼女が何故死ななければならなかったかだ。



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