(最初に)
 あったかも知れない原作の裏側な過去プロトタイプむしろプロット未満。
 『絶対なんて無い』の横島の妄想が、殆ど真実を言い当てていたとの前提に基づいています。

※管理人注
 「モンジュは反則」は、Nar9912さんが『ザ・グレート・展開予測ショー』に投稿している作品です。



 モンジュは反則異聞 美神家の戦い

作:Nar9912




「やっと、本当に、やっと、終わった……。」


 事が起こる数年前に結果について抑え切れぬ感情を籠めた呟きを漏らすとの少し許り常軌を逸した発言を為した彼女は、先程まで“居た”時間軸に於ける“現在”への思考を止められはしなかった。
 その直後、たった今口から漏れ出た言葉が如何に相応しくないかを悟ったが。


「……………………。」


 神魔の最高指導者までもが顕現するとの思い掛けぬ事態にまで発展した否むしろ相手を考慮すればそれこそが順当な展開だったのかと今更ながら勝利を掴めたこの奇跡の余韻に唯埋没していたいと、
 覚悟はしていたものの終わり無き苦悩を抱える思考が要求したが、まずは帰還と成功を告げようと愛する夫の許へと歩み始めた美智恵。

 彼女に科せられたものは一人の人間には大き過ぎる程の結果と……原因。

 それは単に結果に過ぎず其処に生じる諸々の思い無くせば如何な結果もただ有った事実に過ぎない。
 だが彼女が自らに科したものは大きくもし支える者が居なければ彼女でさえ自滅するかも知れない。
 何となれば彼女が自らその原因の一端乃至は大部分を構築せねばならない故に。

 彼女が自滅してしまえば、彼女達一家を含めたほんの一握りの人類が犠牲となる事に拠って魔神の反乱が失敗に終わる公算もまた高く。

 自らに癒やす術の無い痛みを与えると容易に想像が及びつつ彼女はその原因を作らざるを得ない。
 これが時間移動能力者の業なのかと、時間に手を出す事はそれ程の罪なのかと、もし全てを知っている者が居るとすればいや居らずとも転嫁したいと考えても誰も責められないであろうその経緯。
 心弱い者であれば神魔の最高指導者達を宇宙意思をも憾んでおかしくはないその状況。
 更にはそれを紡ぐ側に回らなければならぬと神魔と自らが科した外せない枷。

 しかし一方であの“現在”を知る者の多くがその経験してしまった凄絶な喪失を迎えた彼でさえも、己が自滅乃至失敗すれば巻き込まれるほんの一握りの犠牲に含まれるだろうと、思考が及ぶが故に。

 例えばそも出逢わなかったとしたならばそれだけで世界は滅んでおかしくなく。
 例えば喪失に向かって鍛えなければ宇宙意思の加護を得られずに途中で命を落として不思議はなく。
 ……実際に己が関与する娘の初めての時間移動で、それが一度は起きるのだ。

 故に、彼女には止まるという選択肢など、あり得べくも無かった。

 彼を生き存えさせた、もはや東京は疎か田舎でも見る事はそう出来もしない儚いそれの化身である彼女の遺志さえ知らされているが故に、
 知りたくも無かった全てを知らされてしまっているが故に、
 たとえそれが必要に応じて浮かぶという指導者達に許されたなけなしの温情を伴っていようとても、
 その悪意に満ちたとさえ思える“ゲーム”は既に千年も前に守るべき者自身の手で開幕を経ており、それは時間移動との因果律さえ覆す極限の力を持つ彼女でさえ、止められない決定事項なのだから。
 乗り気などでは決してないが降りる事は出来ない“ゲーム”。
 不可避のそれに、しかし、挑み勝つ事こそが両親から或いは祖父母先祖から連綿と受け継いできた美神家の、一時は撤退する事もあれど最後には勝つその美神家の戦い方で挑むしか無いのだ。

 全ての事情を知らぬ者がある程度の情報を得る事が有れば己と家族を憾むかも知れない。
 そしてそれは事実無根などでは決してなく自ら選択する業である。
 だが肝心の娘は、近しい誰しもが分かり切っている娘が愛する彼は、その様に弱くは無いだろう。

 己に対する言い訳ならば神魔が与えてくれもした。
 曰く、そも美神家はメフィストの、葛の葉の家系。自身の家系に子孫として生まれ変わるなど至極ありふれた事ではあるが、それから分かる様にあの戦いを作った大きな要因は他ならぬ横島の前世。
 神魔が告げた美智恵の側に偏った観点からは横島の魂こそが全てを紡ぎ出したとさえ言い得る。
 神魔から見た際には事の根源など追及するだけ無意味であるが人の世では無知は罪との風潮があり、それ故に教えると。
 全知ではない人という種は間違える事もあり、全知であるが故に動けないものもまた存在する。
 最高指導者でさえ完全な全知ではなく、誰が悪いでは無く不幸を繰り返さない対策こそが肝要と。
 何故魔女狩りが放置されたのか、何故戦争が放置されてきたのか、その答えが其処にある様にさえ思えるが、美智恵には言い訳の種自体を含めて興味の無い事ではあった。
 己自身と己がそうあって欲しい者達が認めてくれるならば、それだけで良いのだから。
 巻き添えで命や財産を失う者達には気の毒ではあるが、それは生きる以上未だ不可避の無常。
 どう言い繕おうと誰もが直接にしろ間接にしろ命を奪わなければ生きてはいけないのがこの世界。
 ならばこそ、人生は辛く苦しいものではあるが人生を笑い飛ばす強さを持てば良い。
 聖書級崩壊の後には完全なる平等の世界が訪れるのかも知れないが、今は今を生きれば良いだけ。
 現世利益最優先、それが美神家のやり方。

 それでも、本来ならば、あの時間にそのまま存在していたかった。
 如何に弱くは無いと雖も、あの子達はまだまだ未熟。
 大人である己が、たとえ忌み嫌われようとも傍で見守ってやるのが本来有るべき行動だろう。
 だが今回は娘を捨て置かねばならなかった否ならない“今”とは異なる。
 あの“現在”の己が正しく導くだろう、そしてまた頼もしく成長した自慢の弟子が。
 もはや隠す意味も無いが故に、それでも不足ならば師である神父や六道夫人が、誰より愛する夫が。
 ……“今”の己が居らずとも子供達は大丈夫な筈だ。

 もし子供達があまりにも未熟ならば、“現在”の己が自身の死を以て安易な解を与える事もあろう、否如何に未だ未熟と雖も彼等もまたGS、その様な短絡などまず無いだろうが。
 己のそして娘の、人を見る目と縁に、美神家の運に狂いなど有る筈が無い。
 各々が自らを責めてしまう事こそ最も恐れる未来ではあるが、そうはさせないとの神魔の言を今は信じてみよう。
 己が挫けないで居られたならば、神魔が真に指導者の呼称に相応しい存在ならば……
 だが、今の己にはもっと身近、ひたすら信じる事の出来る確固たる存在が必要だ。
 無様な話ではあるが己自身、未だか弱い未熟者に過ぎないのだから。

 あの子も弱さを認める強さを早く身に着けて欲しいけれどと、今正に捨て置く事が決定している娘、何よりも大切な娘に、その資格は無いかも知れないとの感情を抑え、時を超え願いよ届けと……
 と、今はしかしその時ではない。
 今は己の傷を一時であれ癒やして、己に痛みを与え続けるだろうこの傷を自ら抉り刻むにも斉しい雌伏の時を過ごさなければならない。

 なればこそ、今は唯愛する夫を求めようと彼女は自ら選んだ道を歩み続けるに足る力の根源を求め、人に正義があるとすればそれが単純にして最後の解であろう愛を求め、
 生まれ故郷であり出逢いと別れの多くを見守って来た日本を、離れるに至るのだ。


本来ならここから話が膨らんで……

 無事に公彦と再会し、舞台の裏側で“現在”の横島の妄想にほぼ一致した暗躍を為しつつ、時には


「公彦さん! 何故、貴方は美神毛じゃないのーーーっ!?」


 などと心の通じた相手であってもあまり受け止めたくないかも知れぬヒステリーなど起こしつつも。
 時には何処やらの煩悩魔人の如き勢いで、


「毛なんて飾りですっ。エラい人にはそれが分からんのです!!」


 そしてまた時には少し捻くれてしまってはいるが、自慢の弟子が浮かべる様なニヤリ笑いと共に、


「だから、僕は美神の籍に入っているだろう? まさか、もうボケが……」


 などの余人に見せない夫の可愛い反応に満足しつつ、実は結構面白可笑しい暗躍の身であったりもする美智恵であった。
 尤も何れにしろ取り敢えずシバいてみたりする辺り、見る者がいれば血縁を考察したかも知れず。

と言った感じで、原作を美智恵視点でなぞる話が本題ですが、まずは絶対なんて無いの描写で代えさせて頂きます。


 四半世紀に近いと評したなら呪いを掛けられそうな程には久方ぶりの懐妊は、それでも疲弊してもいた彼女の精神に、大いなる安らぎをもたらした。
 事態の大枠は知っていたものの、まさか自らが懐妊で癒やされるなどとは思いも寄らなかった現実。

 そして、娘が“今”の己と再会した際に出すだろう答えも、手に取る様に分かってしまった。

 貴女は本当にそれで良いの?と、しかし尋ね答えを得る事は決して適わない。

 時間移動が許されるとしても、彼女自身がそれを許しはしないから。
 それでも示されるだろう可能性に、戦い続けて来た美智恵の傷は漸く癒やされたのだ。
 五年という人には長い時間、それこそが、己が甘受すべき贖罪の序章と考えていた。
 しかし狡猾にも慈悲深い神魔の思惑は、そうでは無かったのだ。

 いつの日か、愛と希望が存在するが故に地獄であるこの世に於いて、その全ての思い出を笑い話に変えてしまえる事を夢想しつつも、美神家の戦いは終わる事無く続いていくであろう。

 願わくば、いや願いはあれど誰に何に願えと言うのか。
 願うならば、行動もまた起こそう。
 運命は自ら切り開く。

 ……それが他人を利用するものであれ何らかの道に外れるものであれ。

 如何に定められたレールを唯走るだけとしか思えずとも、走るという選択は自らが行うものだから。
 戦いは最後に立っている者が勝者であり、美神家は否GSは勝たなければならないのだから。

 …

 ……

 それでも……全ての準備を終え、只心穏やかな日々を過ごしながら再会を待つ緑溢れる地のとある夕べ。
 ふと、考える。
 神魔が存在するこの世界で、自らに縁の深い者達へ、せめてささやかな幸せをと願うその思考。
 如何に自己欺瞞に満ちていようと、たとえ不幸をもたらす要因が自分自身の存在と行動であろうと。
 その思考は、その思考だけは、唯ひたすら純粋に願い続けるその思考だけは、それが有限なる刹那の断片の積み重ねであって永遠では無いが故に、唯美しく尊いと。
 自ら選んだ業でさえ浄められるのでは無いかと思える程にまで尊くあるのではないかと。

 昼と夜の一瞬の隙間…

 何処からか“声”が聞こえた気もしたが、それが霊感に拠るものであれ己の願望であれ美智恵にはどちらであっても良かった。
 GSになるとの己の道を選んだその日から、変わらぬ願い。
 希望を持ち実現すべく努める事だけは、どんな境遇にあっても許される事と思えたから。
 今、業であると同時に救世すら成した力でもある扱いきれない時間移動能力を、唯、考える。

 そうして未来を次の世代に委ねられた事を、世界を存続させ得るに至ったその業をさえ愛おしいと、只、そう考える事が出来たのだ。

 再会を待つ夕べ、文明の光がさほど毒していないその地に、儚い光がほんの一瞬、瞬いて。

 この文明の許では居続けられない小さな儚い光は、それでも横島君の両親も見ているかも知れない、他愛も無くそう思えた。

 それは再会も間近に迫ったとある夕べ。
 パピリオから横島にあの服が贈られた日なのかは定かではない。

 ……

 …

 或いはその時の思考こそが“悟り”の境地であるかも知れぬのだが、その“瞬間”は全くの瞬間で、現実は止まらず時を刻み続け……

 今日も今日とて隣からは、騒音公害で訴えられそうな騒音と阿鼻叫喚がイヤでも耳に入ってくる。

 つい先日しおらしい声で電話を掛けてきたばかりなのに……まあ本人達は意識して無いんだけど。
 自慢の弟子が作成しただけに間違いなど有ろう筈も無い書類に形だけであれど目を通す為の集中がいとも容易く断ち切られて、何となく大きく伸びをした美智恵であった。

 日々が唯有る事。
 幸も不幸も綯い交ぜの日常が戻った事。

 それさえも宇宙意思の思惑であるとの確かめようの無いが故に無為なる迷いを捨て、彼女は今日もその脆弱な全知全能を、自ら愛する者達の為に、
 未熟であった日に思い描いたそれとは異なれども、
 変わらず正義であると言い切れる強さを備えた自らへの誇り、その強さを支える愛する者達の為に、決して迷いを見せる事無く、振るい続けて行くのだ。

 何故ならそれが、美神家の戦い方なのだから。

 …

 …

 たとえ、次の世代である成人した娘に、大いなる不安があるにせよ。
 たとえ、その戦いでの戦力が魔神との戦いに比してさえ、見た目に反して貧弱であろうとも。

 そうして、

 たとえ、その戦いに勝利したならば生まれ来る孫娘が為に、美神家が横島チックなギャグ家系……

 ……それはちょっと、出来れば、勘弁して欲しいわね。

 大きな冷や汗と共に浮かび上がった未来へのささやかな願望に、答える者はしかし誰も居ない。
 彼女がその件について諦めと享受の境地に達する事が出来るのか、そもその戦いに美神家の常勝は通用するのか、それはまた別の話。


(美神家の戦い 了)



いつか、この内容で長編を書いてみたいと思いつつ、それが自作でなくても構わないとも思ったり。


カウンタ


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