捏造 V2
作:Nar9912
捏造。
人の世では時に、その様な代物が必要とされる事もある。
…
…
魔神の反乱。
それはGSの業界は疎か、世界の歴史否三界の歴史にも、そうそう例の無いむしろ初めて起きた大事ではあった。
だが時は流れ続け、あれから幾星霜もの時間が過ぎ去って、人界には、当時は無かった余裕が生まれていた。
霊能力者達の霊力が衰えていく中、反乱にこそ原因があったとする研究者もおり、派閥も乱立した。
嘗て存在した時間移動能力が最早存在しないとされる以上、推測するしか無い事柄も多い。
然れども、どの其れであろうと証を意義を求める為、その反乱を精査していた者は相当数に上った。
大筋に於いて発表された通りとの結論となるのが常であるが、とある研究者の遺した記録、其処には……
…
……
記録は残っている。
記録は単なる記録に過ぎず其れ以上でも以下でも無い。
大抵の場合は其処に著者の意思が存在するであろうが、存在しないかの様に記述する術が世にはある。
知らないが故に乃至は知っているが故に、真実存在しない意思が、読み取れてしまう事もある。
記録は残っている。
簡潔な記録。メモ用紙やIT上の情報としてでなく、一枚の紙を使っている事でさえ勿体ない程に、平易な内容。
だが、もし其処に幾許かの真実があったならば。
この記録こそが、世界を崩壊させる綻びをもたらす可能性すら。
冗談では済まされない出来事と言うものは実存し、魔神の反乱は正にその類であろう。
もし、この“記録”が虚偽ではなかったとしたなら。
もし、神魔が顕れなくなった事を含めた諸事情がこの記録と合致すると見たなら。
記録は残っている。
記録は内容を伝達する手段ではあるが書き手と読み手の解釈が一致するとは限らない。其処には……
“美神美智恵は古の大女神アスタルテである。
美神公彦は後にアスタルテに取り込まれた男神アシュタルである。”
記述はそれだけであり、詳細は其れが存在しない理由の記述を含めて存在しない。
もし、この記録に僅かばかりの真実が含まれていたとしたなら。
歴史は、運命は、宇宙意思は、何故に今になってこの埋もれていた“記録”を世に出すのであろうか。
研究とは真実の探究であり、故にこの記録は公開された。
オカルトに関連する多くの者達は、煩悶の日々を過ごす事となる。
時間移動能力は人界にては既に保有する存在が無く、神魔も真実を話すともそも知るとも限らない。
既に没した記録の当事者は其れを遺した程には研究者であり、故に内容の公正さについては問うまでも無く。
……
…
故に、この“記録”は、捏造で無ければならない。検証に因り得られる結論に関わらず。
研究とその記録は正しくなければならないが、其れこそが大いなる害悪をもたらす事例など嘗て無かった訳でも無い。
故に、この“記録”は、その真偽を問わず、捏造で無ければならないのだ、今を生きる者達の為に。
…
斯くして、その“記録”は公的に確認される事は無かった。
余談ではあるが、そう言った“記録”は他にもある。例えば……
“星は何でもヒャクメは全て知っている”
何故か、完膚無きまでに捏造であると、誰もが信じて欠片程も疑わなかったのではあるが。
だが或いは其れこそが他の“記録”を……
…
ヒャクメは全て知っている
(了)
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