愛ゆえに

作:ウルズ13




彼女は歌っていた

切なく 激しい 恋歌を




─────なにゆえに 人は生まれ出で
     
     なにゆえに 人は生きるのか・・・・・・?




“彼”に出会うまで “彼女”はこのような意識を持つことすらなかった

“彼女”は 創られた存在だったから

“あの目的”の達成の為 “魔神”によって創られた存在だから

ただ そのための道具でしかなかったから

在り続ける事を 初めから否定された存在であったから




だが “彼女”は出会った

出会えたのだ

“彼”に

誰よりも優しい “彼”に




“彼”は “彼女”の危機を 救ってくれた

“彼女”は“彼”にとっての

いや

“彼”が属する種族全てにとっての

敵であったのに




その時だった “彼女”が“彼”に恋したのは

未来を持たぬ生の中で 恋を見つけたのは


しかしそれは “愛”では無かった

互いの情を認め合い高め合う

愛では無かった

恋に恋した

そんな状態だった





─────それは愛 愛ゆえに

この命を投げ出そう

私が愛する 貴方の ために ─────




だから 責めることは出来ない

残り少ない生命を生きるより

愛する者に抱かれて死ぬ道を

“彼女”が 選んでしまったことを

感情の押し付けに過ぎないその行為を

選んでしまったことを











だが

“彼”は“彼女”の願いを拒絶した

自分にそんな価値はない

おまえを抱く資格など無い と




そして誓ったのだ

俺が戦う

俺が倒す

俺が護る と




絶望的な運命

それを覆さんとする

男の誓い

宿命を打ち破らんとする

男の叫び



その時 “彼女”の恋は 愛へと昇華した













時は流れ

“彼”は “彼等”は

“魔神”を倒した

夢にすら見ることの無かった日々

平穏で 幸せで

“彼”と共に時を過ごして・・・・・・
































それは 幻想だった

再び迫る “魔神”の手

“彼女”は 死を覚悟した

“彼”の 愛する“彼”の 生の為なら─────




だが

またしても“彼”は “彼女”を救った

“妹”の放った破壊の“力”を 自らの身に 受けることで




“妹”の妖毒により 死にゆく彼

気も狂わんばかりの焦燥感の中

“彼女”は・・・・・・・・・・・・





─────誰よりも大切な 貴方の ためなら

私は 死ねる─────




『死なせない・・・どんなことをしてもよ・・・!!』

(生きて、ヨコシマ・・・!!)













目を覚ました“彼”を説得し あの悪夢の装置へと向かわせる

“彼女”は満足していた

“彼”ならばやってくれるだろう

そう信じられたから

“彼”を騙したことが 少しだけ 心残りだったが








“彼女”の意識は そこで途絶えた・・・・・・・・・・・・































「ルシオラ?」

『え・・・ヨ、ヨコシマ!?』

背後から掛けられた声に、彼女は──ルシオラは、慌てて振り向いた。

聞き間違えるはずの無い、愛しい彼の──横島忠夫の、その声の内に、喩えようも無い悲しみを感じて。

『どうしたの?』

「凄く綺麗な歌声だった・・・。けど・・・。」

そこまで言って、彼は口をつぐんだ。

「何でもねぇ。悪かったな、邪魔したみたいになっちまって。」

歌、上手いんだな

彼はそう言って去った。どこか、逃げるようにして。

『ヨコシマ・・・・・・?』








「そっか・・・・・・。あんたは知らされてなかったのよね・・・・・・。」

あの後。
横島の態度がどうしても理解できず、かといって彼に直接尋ねるのはなんとなくはばかられたルシオラは、美神令子に相談を持ち掛けていた。
自分より遥かに長い時間を彼と共に過ごした彼女なら解るかもしれない。
そんな、鈍い痛みを伴う想いを隠して。

先ほどのいきさつを話すルシオラの言葉を酷く真剣な表情で聞いていた彼女が、溜め息と共に吐き出したのが、その一言であった。

『知らされてなかったって・・・何を?』

彼女は戸惑った。

(私が知らされてなかったことって・・・?私の何がヨコシマを悲しませたの・・・?)


「あいつはね、あんたと別れた後・・・・・・。」

美神は語った。
アシュタロスからの逃走劇。
自身との再会。
ルシオラの再生を待たず、彼を外へ引きずり出したアシュタロス。
圧倒的という言葉すら生ぬるいほどの魔神の力。
宇宙の反作用。
発動した、横島の“奥の手”。
彼の手に渡った、エネルギ−結晶。
世界か恋人か、という、この上も無く残酷な選択。

「・・・・・・そしてあいつは、世界を選んだ・・・・・・。」

目を伏せ、あくまで淡々と語る美神。
ルシオラは、一言も発することが出来ずにいた。
自分が彼に背負わせてしまった物の大きさを知って。
しかも美神の話によれば、その選択を強いたのは他ならぬ彼女自身の残留思念だったという。
“自分”は言ったらしい。『約束、したでしょ?』と。

「あいつがあんなに辛そうにしてるのを見るのは、あの時が初めてだったわ・・・・・・。」

美神の言葉が、僅かに揺れる。
あの時の彼の姿が、脳裏に浮かんだ。

「あいつは悲しんでた。・・・・・・ううん、自分を呪っていたって言ってもいいわ。
ヤリたいだのなんだのと言ってばかりで、あんなに俺を想ってくれた女を最後には見殺しにした、俺には女の子を好きになる資格なんて無かったんだ、ってね・・・・・・。」

ルシオラの瞳から涙が溢れる。自分はなんと残酷なことを・・・・・・。
今、ようやく解った。彼が見せた悲しみの理由が。
彼は・・・・・・。

「あんたがその歌を歌っていて、あいつがそんな顔をしたなら・・・・・・。
多分、いえ間違い無く意識しちゃったのね。あんたが自分の為に死んだってことを。
それに・・・・・・。」


自分が 彼女を捨てたのだということを───


「あいつは不安なのよ。“次”があった時、自分はルシオラを護れるんだろうかって。
また、あんたを犠牲にしてしまうんじゃないかって。
あんたが歌ってた歌で・・・・・・その不安が大きくなったんでしょうね。」



あんたの 自分への思いを知ってるから

自分と結ばれる為に ためらいなく命を捨てようとしたあんたを

自分を救う為に ためらいなくその命を投げ出したあんたを 知っているから



その言葉だけは、美神は喉の奥に飲み込んだ。
言う必要も無いことだったから。




何も答えられず、自らの罪の大きさにただうずくまっているルシオラ。
そんな彼女に、美神はあえてそっけなく告げた。

「何してんのよ?」

『え・・・・・・?』

涙に濡れた彼女の顔を見て、美神の苛立ちは加速度的に増大していく。
それを必要以上に出さぬようなんとか抑え込んで、彼女はルシオラを急かした。

「さっさと行って、その口ではっきり約束してやりなさい!!
もう二度と生命を粗末にしたりはしない、ずっと一緒にいるからって!!
あいつの心を本当に救えるのは、他の誰でもない、あんただけなのよ!?」


ズキリ


胸の痛みを自覚する。
OK、認めよう。自分はやはり彼に惹かれているのだ。自分の気持ちに嘘はつけない。
それなのに自分のやっていることといえば・・・・・・。

(何やってんのかしらね、私は・・・。)

内心で苦笑し、胸の痛みを誤魔化す。



『はいっ!!
・・・・・・あ、でも、ヨコシマは今どこに居るのかしら?』

「さっきの話があって、この時間帯。
解らない?多分あそこよ。」




















彼女たちの会話からしばらく後。
夕刻の東京タワ−。
その最上階よりさらに上、一般人には決して立ち入りの許されない筈の場所に、彼は居た。
ズボンのポケットに手を突っ込み、ただ夕陽を眺めて立っていた。


ふと、彼が身じろぎする。

「ルシオラか?」

『ええ・・・・・・。』

ふわり

蛍の化身が、彼の後ろに舞い降りる。
そのまま二人は一言も発しない。
ただ、じっと夕陽の沈む様を眺めていた。






夕日がその輝きの最後の一筋を投げかけ・・・・・・
ルシオラは戸惑っていた。

(何を・・・何て言ったら良いのかしら・・・・・・。)

言わなくてはならないのに、言葉が見付からない。

と。


「昼と夜の一瞬の隙間・・・
短い時間しか見れないから・・・きれい・・・・・・。」


『!!』

それはかつて、彼女が彼に語った言葉。
そして、死にゆく彼女の唇から零れ落ちた、自らの生を夕陽に喩える辞世の詩。

ここで初めて、横島が彼女の方を振り返る。

「おまえが言ったことは正しいんだろうな。
ほんの一瞬の、けど力強い輝きってのは、確かにキレイだよ。
けどな・・・。」

彼の顔が歪む。

「俺は、おまえに生きていて欲しい。おまえと一緒に居たいんだよ。

・・・・・・あの時、おまえがどんな気持ちで俺を見送ったのかぐらい、俺だって解るさ。
それでも!!」

『っ!?ヨコシマ!?』

いきなり抱き締められ、彼女は真っ赤になり・・・・・・。
しかし、己の背に回された恋人の両腕の震えを感じ取り、すぐに心が静まっていく。

「あの歌、歌わないでくれよ・・・・・・。頼むからさ・・・・・・。
おまえが歌うと、シャレにならねえだろうが・・・・・・。」

彼女を抱く腕に、さらに力がこもる。

「俺は、おまえを失いたくないんだ・・・・・・。」



『うん・・・・・・ゴメンね・・・・・・。』

そっと目を閉じる。
それ以外の何を言っても、今以上に気持ちを伝えることなど出来そうに無かった。



















「・・・そろそろ戻ろうか。送ってくよ。」

『うん・・・。』










帰り道。
ルシオラは、ほっそりとしたその腕を恋人の腕に絡め、歩いていた。
横島は随分照れていたが。

「そういや、どうして俺があそこにいるって解ったんだ?」

『美神さんが教えてくれたのよ。多分あそこだって。』

そう。
彼女が教えてくれたのだ。
自分には見当もつかなかった、彼の居場所を。
彼等の間にある強い絆を、あらためて意識した。・・・・・・いや、意識させられた。
それでも。

『美神さんには負けないからね。』

それでも、彼女の気持ちは変わらない。
これからの生を、“彼”と共に。
それが、彼女のたった一つの、そして何よりも大事な願い。

(負けないんだから。)

彼等の絆。
その強さは認めよう。
だが、それならば、自分はそれよりも強い絆を築いて見せる。
最強のライバルへの決意を、胸中でもう一度繰り返す。

一体どうしたんだと困惑気味に尋ねてくる彼に、自分の最高の微笑みを見せるルシオラ。
それを見て、なんだかどうでもよくなってしまった横島。
それよりも、せっかく助かった彼女との時間を少しでも有意義に使おう、そう思った。





恋人達の未来は、未だ定まってはいない。
この先彼等がどうなるのか、それは誰にも解らない。





だが、今は。
幸せいっぱいに歩いてゆく、二人の姿を見守ることにしようではないか・・・・・・・・・・・・。




























後書き

読者の皆様こんにちは、ウルズ13です。
あの名作「サクラ大戦」の名曲のうちの一つ、「愛ゆえに」を元にして書きました。
・・・が、何と実は「歌詞の直接引用はNG」なんだそうで(汗)
元々は直接引用してあったんですが、今回男闘虎之浪漫さんに投稿するにあたって差し支えの無いよう歌詞をいじりました。
元の歌を知ってる方は、そちらを思い浮かべて頂けると幸いです。

最後に一言。

「ルシオラに幸あれ!!」

・・・脈絡無し(爆)


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