「ヨコシマ……ヨコシマ」

「ルシオラ……ルシオラ」


そこは光の中、一組の男女が体を重ねあっていた。





 ゴーストスイーパー美神 GOS

作:ガイギス

第1話






「ルシオラ〜〜〜!!! …………夢か」


 横島忠夫、アシュタロス戦にて最も重要な役目を果たし、一部では英雄として扱われるもの。

 ここはその彼の部屋、事件からまだ1ヶ月と達っていない。

 この日彼は夢精していた。








「う〜ん、今朝はなんかいいような悪いような夢を見たような……」

 横島はそういいながら美神除霊事務所にはいっていった。

「おはよう、横島君」

「おはよう、横島さん」

「おはようございます美神さん、おキヌちゃん。
 それで美神さん、今日の仕事は?」

「それがさっぱり、この頃はちょくちょく来てたんだけどまたパタッとやんじゃったのよ」

「どうしたんでしょうね?」

「わかんない、ママにも訊いてみたけど解かんないって」

「そうですか……」

「美神様、お客様です、どうやらご依頼の様子ですよ」

 横島達がそう言っていると人口幽霊1号がそう話しかけた。

「ほんと? すぐお通しして!」

「解かりました」

 人口幽霊1号がそう言うとしばらくしてダウンコートを着込み、帽子を目深にかぶった男が入ってきた。
 手には重そうな旅行用スーツケースが二つあった。

「いらっしゃいませ、私は当美神除霊事務所の所長、美神玲子です」

「アシスタントの横島忠夫です」

「同じく氷室キヌです」

「皆さんの噂はあちこちで聞いてますよ」

 横島達が挨拶するとその男はそう言った。
 声の質から大体20才ぐらいだと解かった。

「それで今回はどのようなご依頼でしょうか?」

 美神は営業用の声で話した。

「その前にまずは依頼金、先払いでもよろしいでしょうか?」

「あ、はい……」

 美神がそう言うと男は旅行用スーツケースを寝かせてふたを開けた。
 そこには1万円の札束がどっさりとあった。

「一応詰めるだけ詰めて来ました。」

「え、え〜と……それでどのようなご依頼ですか?」

 美神はその大金に目がくらみその場で硬直、かわっておキヌが男にそう言った。

「実はそちらから人員1名1ヶ月貸していただきたいのです」

「「え?」」

「…………ええと、それはどういったご用件でしょうか?」

 美神はここで急にすに戻った。

「詳しくは受けてくださってから話します」

「内容は……」

「聞いてからキャンセル、というのはなしでお願いします、よろしいですか?」

 男がそう言うと美神達はしばらく待ってくださいといって3人で緊急会議をした。

「まずくないですか? 1ヶ月もなんて」

「う〜ん、これで考えられるケースは長期的に何か払うとか、護衛とかね」

「お、俺は嫌っすよ? 1ヶ月も野郎と一緒だなんて」

「私だって嫌よ……」

「けど何で1ヶ月なんでしょう?」

「だけどあの金額見てよ、どう見ても1億2億じゃ聞かないわよ?」

「なら受けるんですか?」

「勿論♪」

 美神がそう言うと横島たちははあとため息をついた。

「お待たせしました、仕事はお受けします」

「ふう、そうですか……」

「それで、依頼内容を教えていただけませんか?」

「依頼内容は2つ、そのうちで1つと半分を達成すればそちらの依頼は完了としてこれと同じ金額を
 お渡しします」

 男はそういいながらスースケースを指差した。

「それでその内容とは?」

「一つはあなた方のある霊の退治の経験談、それと護衛です」

「期間は1ヶ月ですね?」

「はい……その間この事務所との連絡は絶って貰います。
 ですが安心してください、最長で1ヶ月であっておそらくそれより早く終わるでしょう」

「解かりました……」

「それとこちらに来る人員は横島忠夫君でお願いします」

「え? 俺っすか?」

「はい……何か問題あるでしょうか?」

「そ、そんな、横島さんと1ヶ月もなんて……」

「こちらのほうは問題ありませんわ」

「「美神さん!?」」

「今のところ霊の依頼が全然ないんだもん、しかも見てよこの金額!
 これと同等の金額が入ってくるのよ、最長で1ヶ月後には!」

「ううう、けど俺学校が……」

「あ、それは……多分2〜3日すれば安定するはずですので後は朝と夜だけ来ていただければ、
 昼間は学校に言っても大丈夫ですよ?」

「あ、そうなすか」

「ただしくれぐれもこのことを外部に漏らさないように……ご学友などにくれぐれも言わないよう
 に……話していいのはこの依頼が終了時にお願いします」

「了解っす」

「それじゃあいつからかしら?」

「そうですね、出来れば早いうちにお願いしたいのですが……」

「あ、それじゃ今からでどうでしょう? 俺は荷物が少ないんで……」

「お願いします」

「それじゃ横島君しっかりね」

「横島さん……あの、私も」

「すみませんがこれの人員は一人までです」

 男はそう言うと丁重に頭を下げた。
 おキヌはそれを聞いて仕方なく引き下がった。




 都内某所雑居ビル、この一階部分に男は横島をつれて入っていった。

「うお」

「どうしました?」

「ここのドアから結構な霊圧があるんですが」

「あれ? ちゃんと押さえていたはずなのに……」

「てか気付きません?」

 横島はそう言うと男を見た。
 男はそうですかと首をひねった。

「普通の人だったらまず気付くと思うんですが、おかしい事に」

「どのようにですか?」

「……なんか殺気を感じます」

「……だったら多分すぐに消えますね」

「え?」

「大丈夫です、私の後についてきてください」

 男はそう言うと部屋のドアを開け中に入った。

「こ、こんに…………え? あれ?」

 横島はあたりを見渡した。
 そこにはビルの中には入りきらないほどの空間が広がっていた。
 小竜姫の修行場と同じように異世界へと飛ばされたのは解かったがその場所はあの修行所とはまったく違っていた。
 まずあそこは殆ど何もなかったがここは逆であちこちに機械があった。
 また奥のほうになにやら人一人が入れそうな大きなチューブらしきものが二つあり、ひとつは黒く、一つはうす緑色をしていた。

「そ、それでまず俺は何をやればいいんすか?」

「まあまあ、あ、それよりもまず扉を閉めてください」

 男がそう言うと横島は今まで開けっ放しだったドアを閉めた。
 扉を閉めると突然よこから人の気配がした。

「うお!」

「よお横島……痛い!」

「痛いじゃねえぞ、メドーサ!」

 男はそう言うといつの間にか新たに出てきた人物、メドーサの頭を両こぶしで挟み込んだ。
 格好は大体18歳ぐらいの格好だった。
 相変わらず見事なプロポーションで横島は少し見とれていた。
 特に揺れる胸を。

「メ、メドーサ! 何でお前、死んだんじゃ……」

「痛い痛い痛い……」

 メドーサはあまりにいたいのだろう、暴れると男の帽子が飛んだ。
 そこには堀の深いが普通の人の顔だった。
 横島は普通の人がメドーサを手玉にとっていることに驚いていた。
 さらにメドーサの揺れる胸に目がいっていた。

「…………あ、あんたはいったい……」

「ん? まあちょっと待ってくれ」

 男はそう言うと最後に力を入れメドーサが叫ぶと手を離しどこかへと消えた。

「イタタタタ……」

「メドーサ、大丈夫か?」

「……ふん、相変わらずあまちゃんだね、横島。
 あたしの心配よりも自分の心配をしたほうがいいんじゃないかい?
 なんたって何度も命を奪おうとした相手がいるんだからね」

「え?」

 横島はそこではじめて身構えたがすぐにといた。

「どうしたんだい? 構えないのかい?」

「流石にあれを見ればね」

「……確かに」

「さてと……メドーサ、こっちに来たときお前殺気飛ばしてただろ?」

「うわ、いったいいつ……ってなんすかそのカッコ!」

「はい…………申し訳ありません」

 メドーサはそう言うと男に向けて頭を下げた。
 その男の格好は昔のパピリオの着せられたものに似て黒いマントを着ていた。

「まあメドーサのお仕置きはさっきので済ましたからいいとするか。
 横島君、こっちに来てくれ」

「え、あ、はい……」

 横島はそういいながら男の後についていった。

「まず本当の目的を君に告げたいんだが」

「本当の目的?」

「ああ、まずは蛍の化身の復活だ」

「蛍の化身……ルシオラか!」

「へ〜、ルシオラっていうんだ彼女……」

「復活できるのか! 嘘じゃないだろうな!」

「協力してくれればな」

「するする!」

「まあ安心しな、どうやらあたしで一回実験したみたいだからね、この魔王は」

「へ〜そうな……魔王?」

「ああ、といってもその残りかすと言うか分身というか、それの人が混じったバージョン……らしい」

「なんかすごいっすね……」

「殆ど人と変わらなかったんだけどね……アシュタロスの影響で魔族因子の方がどっと活性化
 しちゃって……
 けど上手く体になじんだというか……それに色々な知識、力も手に入ったし」

「その力を使って最初にやったのがこのあたしの復活って訳さ」

「まああの時見てましたからね、戦い」

「あ、そうだったんすか」

「ただちょっと俺が活動する時には悪霊が寄って来てしまって……
 まあそれを利用してパワーアップしちゃったりもしてるんですけどね」

「今じゃ下手な中級神魔よりも上だよ、まったく……」

「元魔神……名前はムドーだったかキドーだったか……」

「……で? 俺は一体どうすればいい? どうすればルシオラに合える!?」

 横島が男に詰め寄ると男はまあまあと手を出して押しとどめた。

「話、というか見た限りではその蛍の娘、ルシオラさん……だったかな?
 彼女はあなたに殆ど霊気を与えそして消えて小さな蛍になった……で良いんですね?」

「ああそうだ」

「その蛍はある?」

 男がそう言うと横島は懐から大事そうに蛍を出した。

「その蛍を黒いチューブのほうに入れてくれ」

「おう」

 横島は言われたとおり黒いチューブに蛍を入れた。
 するとチューブ内に入った蛍はしばらくしてわずかに光りだした。

「……うし、反応あった、それでは横島君はこっちのチューブに入ってくれ」

「この中にですか?」

「この中の上部、ほらこれだ、これをつけて入ってくれ」

 男はそう言うとチューブ上部にあったマスクを伸ばして手渡した。

「これですか?」

「そ、中に特殊な液体入れるから」

 横島は素直にマスクをかぶりチューブの中に入った。

「これからしばらくあなたの基礎霊力から復活に必要な分を引き出します。
 おそらく一時意識を失うでしょうけど……多分その間に会えるんじゃないかな?」

「マジっすか!」

「これは推測だけどね、一時つながるんだしね」

「ま、まずはやってみるか……メドーサ、液体注入」

「了解」

 メドーサが近くの機械をいじくると足元から液体が入ってきた。
 横島はしばらく溜まるのを待って目を閉じた。




「……シマ、…………ヨコ……マ………………ヨコシマ!」

「ルシ……オラ? ルシオラ!?」

 横島はあわてて目を開けた。
 そこには泣きそうな顔ですがり付くルシオラの姿があった。

「ヨコシマ〜!」

「ルシオラ!」

 ルシオラは横島が目覚めると抱きつき、横島もきつく抱き返した。

「幻じゃないんだな!? 本物だよな!?」

「ヨコシマ、ヨコシマ〜」

 二人はそうやってしばらく強く抱きしめあった。
 しばらくして二人はどちらからともなくゆっくりと抱きしめる腕を解いた。
 しかし完全に離れるではなく、ルシオラがそっと横島に寄り添うようにして、二人の手は繋がれた。

「ごめんなさい、嘘をついて」

 ルシオラはそう言うと顔を横島の胸に押し付けた。

「俺のほうこそごめん、見殺しにするような事をして」

「ううん! 違う!!」

 ルシオラはそう言うとガバッと顔を上げ横島を見上げた。
 その顔にはまるで懇願するような顔だった。

「ルシオラ?」

「ヨコシマは悪くない! 私は願ったんだよ、横島の為ならこの体が消滅してもいいって!!
 けど、けどそれはあなたにとって辛い決断だった……あんな事、あんな選択させてごめんさい。
 私自分の事しか考えてなかった、ヨコシマが助かれば自分なんてって……
 その結果あなたには辛い目にあわせてしまって……」

 ルシオラがそこまでいうと横島は力いっぱいルシオラを自分の胸に押し付けた。

「…………そんな事ないよ」

 ルシオラはさらに謝ろうとしたがその前に横島に止められた。

「それよりもさ、これからの事考えようぜ?」

「ヨコシマ……」

「な?」

 横島はそう言うと腕の力を少し抜き、ルシオラに笑いかけた。
 二人はしばらく見詰め合った後どちらからともなく口付けした。




「けど大丈夫なのかい? こんな事やって」

 メドーサは傍らいにいる自分の体を作った男に言った。

「俺の魔族としての本体は元々魔界最高責任者に弓引く存在だった。
 それは今も変わらん……別に許可があろうとなかろうと関係はないよ」

「妨害とかはないのかい?」

「ここの迎撃はそう簡単には打ち破れんさ」

 男はそう言うと笑った。
 その前には黒いチューブと薄緑色のチューブがあり、どちらも中の様子は見れなかった。

「さて……この次の目標、俺の最大の目的がかなった暁にはメドーサ、その技術を応用して作って
 やるよ、お前の伴侶」

「あたしの予想は絶対無理だと思うんだけどね〜本当に出来るのかい?」

「やってみなければわからないさ、上手くいくか、いかないかは」

「そりゃそうだけど……」

「人って奴はそうやってここまで発展してきたんだぞ?」

「あんたは魔人だろ?」

「今はな、が根本的な所は人だ。
 そして完全に魔族になろうともこの根底は変えるつもりはない」

「いや、根底変えないと魔族になれないから」

 メドーサはそう言っててを手をパタパタさせたが男はそれに対して含み笑いを漏らすだけだった。




「……ここでいったんお別れね、それじゃあまた後で」

「ああ……」

 横島とルシオラはしばらく口付けを繰り返した後そっと離れた。
 その次の瞬間横島は現実に戻ってきた。

「おかえり」

「え? ああ……ただいま……ってそうじゃなくて大丈夫なのか!?」

 横島はそう言ってメドーサに詰め寄った。

「大丈夫だよ、心配性だね。
 このあたしを復活させたんだ、殆ど何もなかったはずの私を……
 それに比べりゃあのルシオラって娘は十分すぎるほど整ってるよ、復活の条件も、理由もね」

「が、しばらくは待っていてもらいたい……ここ2〜3日が勝負なんだ」

 男はそう言うと目の前の機械を色々と操作していた。
 横島はメドーサに謝ると気にするなとメドーサは返した。

「俺に何か出来ることはないっすか?」

「今はない、しばらくここいらへんでも散策してな、じっとしてはいられない筈だからな」

「あたしが案内するよ」

「……そうだな、よろしく頼む」

 男は機械に顔を向けたままそう言った。




 メドーサはまず横島を彼にあてがわれた部屋へと案内し、中で着替えてくるように言った。
 横島の体はいまだに液体で濡れていたからである。
 横島が部屋に入ると、そこは世間一般的な2LDKの部屋だった。
 家具はととのっていて、冷蔵庫には食材がそこそこ、賞味期限を見るとまだまだ持ちそうなものばかりで、その全てが人間世界で一般に知られているものばかりだった。
 さらに戸棚には、おそらく男が買ってであろうカレーやシチューのルーが入った箱やカップラーメンなどもあった。

「ルシオラ……あと少し出会えるぞ……」

 横島はそう言って着替え始めた。
 メドーサの案内でこの異空間の部屋割りなどを全体のほんのわずかだが案内された。
 その中にはルシオラが復活した時に使われる部屋があった。
 その部屋は横島の部屋と隣り合い、寝室はつながっていた。

「戻りました」

「ん〜」

 メドーサと横島がルシオラのいるチューブまで戻ると男はいまだ機械と格闘してあちこち計器やバルブをいじったりしていた。

「あの、すみません」

「ん〜?」

「ルシオラは後どれくらいで出てきますか?」

 横島はそういいながら黒いチューブを見た。

「まだ体の内部が出来てなくてね……
 見てないからわかんないけどたぶん体の形は完璧に戻っているはずだよ」

「そうっすか」

「焦る気持ちは解かるが少し待ってな」

 男はそう言うとまたなにやらキーボードに打ち込み始めた。




「これでいいはずなんだが……」

「出来たんすか?」

 横島がこの異空間に入ってから3日、その間横島は食事以外の殆どをルシオラの傍ですごした。

「ああ……最終調整が終わると自動で開く仕組みなってるから…………ついでに」

 男は横島に耳打ちした。

「彼女裸だから俺は退散してるな」

 横島がエッといって横を見ると男はもうそこにはいなかった。
 その数分後黒いチューブが少しずつ下がってきた。
 横島が駆け寄るとルシオラは気絶しているらしく前に倒れこんだ。
 横島は倒れこむぎりぎりの所で体を入れて抱きとめた。

「あっぶね〜……ルシオラ、大丈夫か?」

 横島はそういってルシオラに呼びかけるがしばらくルシオラは目を覚まさなかった。
 横島が不安に思っていた時、ルシオラはゆっくりと目を開けた。

「ヨ……コ……シマ?」

「ルシオラ、わかるか! だいじょうぶか!?」

 ルシオラはしばらくぼうっと横島を見た。
 横島はルシオラに自分の上着をかぶせるとお姫様抱っこで自分の部屋へと連れて行った。
 しばらくして部屋からルシオラの僅かなあえぎ声が聞こえていた。




「……さて、静かになったな」

「けどたちが悪いね〜あんたも」

「くくく……」

 男はそう言うとたくらみが成功した悪役のように笑った。
 あの液体は魔族が心を許した人の肌に触れると強烈な媚薬効果があるっていう副作用がある。

「で? いつになったら入るんだい?」

「いや……流石に最中に乱入はしたくないから」

 男は横島の部屋の扉の前で入るのをためらっていた。
 メドーサは男にそういいながらも自分も入ろうとはしなかった。
 どうやらメドーサも最中に乱入はしたくないようだ。
 二人は横島の部屋の前で3時間入るかどうかで押し問答した。
 どうやらどちらが先に入るかで揉めている様だ。




「はいるよ」

 メドーサはそう言うとドアを開けた。
 なお男との決着はじゃんけんで決まった。
 ドアを開けるとそこにはなか良さそうに食事をしている横島とルシオラの姿があった。

「…………どうしたんすか?」

「ええと……」

「…………食事終わったら集合して」

 男はそう言うとその場を後にして、メドーサもあわてて後を追った。
 残る二人はきょとんとして互いの顔を見つめあった。




「それでいったいどうしたんすか?」

 横島はそう言った。
 ここはルシオラの体が作られたホール、そのルシオラはしっかりと横島の腕を抱きしめていた。

「これからそこにいるルシオラの頭脳も借りようと思ってね」

「え? 私の?」

「ルシオラになにさせようっていうんすか?」

 横島はルシオラを守るように一歩踏み出した。

「実はちょっとじん……いや神体練成をね」

「「神体練成?」」

「そ、神族をつくろうって魂胆さ、しかもこの方の伴侶のね」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ、あなたって魔族なんでしょ?」

「魔族因子が大いにあるが全部じゃないぜ?」

「それで私はいったい」

「ちょっとこれ計算してくれ」

 男はそう言うとルシオラに紙を渡した。
 横島が横から覗いたがなにが書いてあるかちんぷんかんぷんだった。

「横島はルシオラのサポート……これが終われば契約完了だ」

「了解っす」

「さて、あたしはなにをすればいい?」

「計算が終わったら教えてくれ……人の体じゃなくても3日間の徹夜は辛い」

 男はそう言うとふっと消えた。




「……よしこれで、ヨコシマパイプをあけて」

「おう」

 二人はせっせと計算、作業を行い調整をしていた。

「どんな調子だい?」

「予定肯定の80%超えました」

「それじゃあ呼ぶよ?」

「はい……そういえば彼の名前は?」

「あ、そういや聞いてなかったな」

 ルシオラがそう訊くとメドーサは考え込んだ。

「それがよくわかんないんだよな、もう人じゃあないし、けど魔族と言い切れない部分もあるし……」

「人魔ってことか?」

「そんなところ……かねぇ」

「それで人としての名前は?」

「……そういえばなんだったっけ?」

 メドーサがそう言うとヨコシマとルシオラはずっこけた。

「おい!」

「まあそれは来た時に訊けばいいよ」

「は〜……そうだな」

「それじゃあ呼んでくるからね」

 メドーサはそう言うと奥へと続く扉に消えた。

「彼女ってああいう性格だったの?」

 ルシオラが横島に聞くと横島は首をかしげた。




「お、できたか」

「後はあなたがあそこに入るだけよ」

 ルシオラはそう言って黒いチューブを指差した。

「なあその前に、あんたの名前教えてくれない?」

「俺の名前?」

 男がそう訊くと横島とルシオラが首を縦に振った。

「魔族名はよくわからないが……人間名は長田(おさだ)長田佑輔(おさだゆうすけ)だ」

「ふうん、普通だな」

「人だからな、名づけられた当時は」

 そう言って男、佑輔はチューブの中に入って行った。




「ヨコシマ……」

 ルシオラは心配そうに横島に話しかけた。
 現在佑輔は『想像上の人物を魂付きで作り出す』というなかば創造神紛いなことを始めている。
 これは強制力とか世界意思の反抗とかいろいろと障害が出る。
 しかしそれを無効化するためユウスケは色々と手を回していた。
 まずエネルギー……あるものを出したとすればそれに伴うエネルギーを別の所で補う……
 これを『悪霊吸引』という形で代用した。
 『悪霊』の中の神因子(悪霊といえど元は人)、何かを守りたいなどという感情がその類だが、それを利用した。
 その結果が美神が言っていた『仕事がない』状態だ。

「生まれてきた命に責任はない、けどその後自由すら取り上げるのはおかしい」

「……あなたならそういうわよね」

 横島は悪巧みでもしているような顔をしてルシオラはため息をつきつつも参加するようだ。

「さてと……これでいいはずだよな……」

 メドーサはそう言いながら横島たちに近づいた。

「え、ええ……今の所は順調に進んでいます」

「これが終われば二人ともおさらばだね」

「メドーサはこれからどうするんだ?」

「あたしかい? ……そうだね〜」

 メドーサはそういいながら考え込むように腕を組んだ。

「あの方が施した制約もあるから人は襲えないし、まあ襲う気もないけど……」

 そういい名が佑輔の入ったチューブをメドーサは見た。

「制約?」

「ああ、いくつかあってね。守らなかったら死ぬんだよ」

「あ、なら一緒の来ないか? 俺の知り合いでそういうの得意な奴がいるんだ」

 横島はそう誘ったがメドーサは首を横に振った。

「いんや、やめとくよ。
 この制約は別に普段支障があるとかでもないし……というかあたし自身が戒めとして持っていたほうがいいようなもんだよ」

「けど……」

「まあ安心しな、少なくとも世間一般の人間が行うような事は全部大丈夫だからね。
 あんたら二人が再開した後したような事しても大丈夫だよ」

 メドーサはそう言うとルシオラと横島は顔を紅くした。

「やれやれ、バカップルとはこういう奴らの事を言うのかね〜?」

 メドーサはそう言うと伸びをしながらその場を去った。




「……後は形が整うのを待つばかりか」

 佑輔はそう言うと柔らかな微笑で空いていないチューブを見た。
 その表情を見た横島はこれから自分が行うことに対して罪悪感があった。
 佑輔のその顔は狂気がなく本当に穏やかだったからだ。
 そしてその目も…………

「大体からだが出来上がるのは明日の昼ぐらいです」

「部屋に戻って休んだらどうだい?
 これから一緒に歩むんだ、第1印象が悪かったらまずいだろう?」

 ルシオラがそう言うと佑輔はなんの疑いもなく頷き、メドーサに言われるまま一度部屋へと戻った。
 ……その日の夜、横島とルシオラは一人の女性を抱えてそのビルから静かに逃げだした。




「そう……か……」

 メドーサから報告を受けた佑輔は半ば放心状態となりつつもそう返事をした。
 佑輔の横には報酬となるスーツケースが二つあった。

「どうするんだい? 折角の伴侶が強奪されちまったよ?」

「彼女は意識はまだないはず……いや、ルシオラの奴が嘘を教えたのならそれもないか……」

 佑輔はそう言うとおもむろに立ち上がった。

「どうするんだい? 追うのかい?」

「いや……しばらく一人にしてくれ」

 ユウスケはそう言うとフッと姿を消した。
 メドーサはため息をついて自分はこれからどうするかを考え始めた。




「美神さんすみません!」

「すみませんじゃな〜〜い!!! 失敗しただ〜!!?
 じゃあ報酬は無しって事〜!?」

 横島は自分のボロアパートにルシオラと女性を残しまずは上司に失敗したことを伝えた。

「すみません」

「は〜〜……仕方ないわね、結局半月もしないで戻ってきたんだし」

 美神はそういいながらもショックを受けていたようだ。

「それで横島さん、一体向こうで何をやっていたんですか?」

 おキヌがそう横島に訊いた。

「いや……それは……」

「……まあいいわ、今日も仕事はないし、二人とも帰っていいわよ」

 美神はそう言うと机にがくっとうつぶせに倒れた。

「大丈夫ですか?」

「もう駄目、お金〜」

 おキヌは心配そうに美神を見た。

「そ、それじゃあお先に」

 横島はそう言うとさっさと事務所を出て行った。




「あ、ヨコシマ」

「ルシオラ? どうしたんだ? 何かあった?」

「ううん、彼女はよく眠ってるし……ちょっと様子を見ようと思ってね。
 …………やっぱり怒られちゃった?」

「というか完全に気落ちしてるよ、美神さん」

「あらら…………!! ヨコシマ」

「え? …………あ」

 横島とルシオラは公園の前に差し掛かった時急に立ち止まった。
 そして二人で顔を見合わせて公園の中に入った。
 二人は公園の木を注視した。
 ……二人とも別々の木を。

「出てこいよ、メドーサ」

 言葉を放つ。
 すると、それに反応するように木から飛び降りる影が現れる。
 …………横島達が見ているほうと反対側の木から。

「何処見てるか知らないけど、一応気づいたんだね?」

「……そっちかよ」

「え? そっち?」

 なまじ真面目に言い放っただけに、かなり恥ずかしいらしく二人とも少し照れていた。

「やれやれ…………何二人して同じように照れてるんだい?」

「それよりも何かようか?」

「あの子はここにはいないわよ」

「ふん、そんな事は関係ないね。
 あの方からの伝言だよ」

 メドーサはそう言うと手紙を二人に投げ渡した。




(あとがき)
 作者>という訳でやってきましたGS美神小説!
 ???>……そう
 作者>…………横島とルシオラによって奪われた(救い出された?)少女はどうなるのか!
 ???>……
 作者>そしてメドーサが渡した手紙の中身とは!?
 ???>……
 作者>……興味なしっすか?
 ???>……
 作者>返事ぐらいしてくださいよ
 ???>…………へぇ
 作者>シクシク……


【管理人の感想】
 最初からルシオラ復活(ついでにメドーサも復活)してますが、ラブっぽいので、これはこれで
 よしとしましょう。(^^)

 連れて逃げた少女、そしてオリキャラの佑輔の動きが気になります。
 続きも頑張ってください。(^^)


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