「えっと…ここは?」

「いったいどこ…?」

 周りをレンガ造りの家、そして道路もレンガの町の中で二人はそう呟いた。





 ゴーストスイーパー美神 GOS

作:ガイギス

第18話






「…さて、後は待つだけと…」

「お疲れ様です、メド」

 ヴォルツがそう言うとメドーサに微笑んだ。
 メドーサはフンと鼻で笑うが、その顔は紅かった。

「そ、それよりもそっちはどうなんだい?」

「4人の意識は完全にあの『ワンダーランド』の中に行きました」

「それにしてもまったく…あいつは私の事を便利屋か何かと思ってんのかね〜?」

「あははははは……けど眷属を持っているのは今の所メドしかいませんね…
 私も何か選んだほうがいいんでしょうね」

「けどお前が眷属って…想像すら出来ないぞ?」

「そうなんですよ…」

 ヴォルツはそう言うとハアとため息を付いた。
 メドーサはやれやれと首を振るとこの話の発端を思い出した。




「すみませ〜〜ん!!」

「なんだい? 新聞ならお断り…あんたは確か…ルシオラ?」

 メドーサが現在佑輔が持つ複数のアジトの中の一つで寛いでいるとそのドアがどんどん叩かれた。
 うるさいから出てみるとそれはルシオラだった。

「どう…したんだい?」

 ルシオラは一人ではなく背中に横島を背負っていた。
 メドーサはとりあえずルシオラを中に入れると横島を受け取りヴォルツを呼んだ。

「実は…」

 ルシオラはデジャブーランドでの事を話した。

「その後家に帰ったら行き成りヨコシマが倒れて苦しみだして…
 天狗さんにもらった霊薬と文殊で何とか苦しそうなのは収まったんだけど…」

「メド、とりあえず私は佑輔様のほうへ連絡を取ります。
 横島さんをベットに寝かせて置いてもらえまあせんか?」

「あ、手伝います」

 ヴォルツの指示でメドーサとルシオラが部屋に備えられているベットに横島を寝かすと、
 しばらくたってヴォルツが戻ってきた。

「なんだって?」

「今ゲートをこちらと繋げているそうです…それにあの装置を使うそうです」

「…大丈夫なのかい?」

 メドーサが眉を寄せてそう訊くと、

「多分…試運転はしましたし……」

 ヴォルツはそういって頷いた。

「あの、ヨコシマは大丈夫なんでしょうか?」

「こちらも手は尽くします」

「とりあえず落ち着きな、慌てたって事態がいい方向になんて向かわないよ」

 ルシオラの不安そうな声にヴォルツとメドーサはそう返した。
 その後少ししてルシオラ達は家の中にある扉を開け、異空間へ横島と共に入っていった。




 ルシオラ達が入った空間はかつてルシオラが復活したあの二本のチューブらしきものがある部屋だった。
 佑輔はルシオラたちを出迎えると早速横島を黒いチューブに入れるよう指示をした。

「今零が検査の準備をしている…あ、マスク忘れるなよ? 
 俺の予想とあってんなら…まあ死ぬ事は無い」

「本当ですか!?」

 ルシオラがそう訊くと佑輔は黙って頷いた。
 その後横島が入ったチューブは液体で満たされ、検査が始まった。

「ヨコシマ………」

「零、どうだ?」

「体外損傷は右腕部のみ、これは軽い打撲ですね。
 …体内の損傷は殆ど無しです。
 ………ですが霊的損傷はあります…酷いとまでは言いませんが日常生活に支障が出てしまいます」

「そんな…」

 ルシオラは零の診断結果を訊いて顔を青くした。

「何か、何かきちんと直す方法はあるんですか!? お願いします、私は何でもします! だから…」

「まあ落ち着いて…予想したものよりもかなり良い結果だから」

「こちらの予測範囲の大きく内側に属する事例です。
 この分だと本当に霊力と魔力の再調整だけですむかもしれません」

 ルシオラが佑輔に縋る様な目で訴えると佑輔と零はそういって安心するよう言った。

「てことはあれは使わないのかい?」

「いや…多かれ少なかれ変調はあった…」

「これからの事を考えると?」

「ああ…メドーサ、ヴォルツ用意してくれ」

「「了解」」

 二人はそう言うとその場を後にした。

「あれってなんですか?」

 置いてきぼりの形になったルシオラが佑輔にそう聞くと、

「それは後でのお楽しみだ」

 佑輔はそう意味ありげに笑いながらいった。




「…あれ? 俺はいったいどうしたんだ?」

 横島は見た事のある暗闇にいた。

「この感覚は、あの時と……そうか、ルシオラが連れて来てくれたんだな。
 …あいつに心配かけちまったな」

 横島はそういってため息を付くと何処からともなく声がした。

「おいっす、説明は必要か?」

「あ、長田さん」

「思ったよりも再調整に時間がかかるみたいだな」

「俺どうなったんすか?」

「一時的に魔力を使っただろ? 慣れない事して体の霊気構造が少し不安定になったんだ。
 まあほっとくと後遺症が出るだろうが…その様子なら問題はなさそうだな」

「そうなんすか、すみません」

「いや、こちらも魔力を使うななんて言ってなかったからな…
 とりあえず体のほうは魔族に近くなっちまったが…構わないか?」

「ま、魔族にっすか!?」

「と言ってもほんの少しだけな…文殊で年取ったように見せれば寿命以外は殆ど人間さ」

「つまりあれっすか? 天狗の仲間入り?」

「…そこでなぜ天狗かはわからないが…それともあの長い鼻って憧れ?」

「いや、なんとなく…」

「もしご希望なら鼻長くするけど?」

「いやいやいや!! 全然希望とかじゃないんで!!」

「了解…」

「そういやなんで長田さんは俺と話できるんすか?」

「あのパイプは別に2本だけって事は無い。
 とりあえず試運転も兼ねて俺が転送用のにはいってるんだ」

「転送?」

「ま、それはじきにわかるさ…とりあえ」

「ヨコシマ!!」

 佑輔がさらに何か言おうとしたらルシオラの声にさえぎられた。

「ルシオラ!?」

「ヨコシマ大丈夫!?」

「ああ…痛みとかは無いし大丈夫だけど…ルシオラどうやってここに?」

「今チューブに入ったんです」

 横島の質問に零が答えた。

「それではいきます」

「頼むわ」

「え? え?」

「なにがですか?」

 横島とルシオラは混乱していたが、それには答えてもらえなかった。




「………成功…か?」

「ええ」

 零はそう言うと少し離れた所にいる横島達を見ながらそう言った。
 横島とルシオラはあたりをきょろきょろと見渡していた。

「いったいどういうことっすか?」

「ここは何処なんですか?」

「ここは…なんて言ったらいいか…異世界、だな」

「「異世界!?」」

「またはパラレルワールドとも言います」

 零がそう言うと二人はどこかで聞いた単語を聞いた気がして互いに考え込んだ。

「俺はそれを『ワンダーランド』って名前付けたけど・・・元はアシュタロスの作品だと思う」

「アシュ様の?」

「偶然奴の研究所の一つを見つけてな、まあ機能は停止してたが資料があったんだ」

「その中で今回使う事になったこの『ワンダーランド』の母体となるものを見つけました」

「宇宙の卵ね」

「だな」

「あ、結局名前はそれになったんだ?」

「けどあれは体ごと入るもんじゃなかったか?」

「そうよね…」

「ああ、けどこの体は仮初だ」

 佑輔がそう言うと横島とルシオラは自分の体を動かした。

「…特に変ったとこは」

「ないみたいだけど…?」

「主な変化は二つあります。
 一つはこちらの規制内での体の変化…つまり病気の人でも中では健康な体を得ます。
 と言っても転送時にその調整をしなければなりませんが…」

「ふ〜ん…」

「もう一つは?」

「これだ」

 佑輔はそう言うと懐から金貨を出した。

「何だコリャ?」

「変化と言うには変ですが、『ワンダーランド』はいくつもの複数十、
 いえ、数え切れないほどの数の『異世界』になっています。
 もちろん使う貨幣にも違いが出てきます」

「その為に機械でそこで通用する貨幣を調べて調達、
 自分で持っている分と同じ価値の貨幣を自動的に送られるってワケだ。
 ただし持っていたお金と交換でな」

「どれどれ…」

 横島がそういってポケットをまさぐると数枚の銀貨が出てきた。

「お、確かに変ってる」

「それじゃいくぞ?」

「行くって何処へ?」

 佑輔は横島の質問ににやっと笑って、しかし答えず先に進んだ。
 横島達は不安な顔をしながらも佑輔と零に付いて行った。




「さて、ここがこの世界での俺達の家だ」

 佑輔はそう言うと仮設住宅を改造したような家の中に入っていった。
 メインストリートとも敷き場所は舗装されていない土だが人に踏み鳴らされたようできれいに整っており、
 ストリートの両側にある住宅は粗末ではあるが生活の匂いがしている。
 そんなとおりにある一軒の家だった。

「ずいぶんと、その…」

「ぼろいか?」

 佑輔がそう言うと横島は首を縦に振った。

「ま、元々急ごしらえの家を改造しただけだそうだからな…
 だけど結構ここら辺は治安がいいんだ。
 近くに教会…いや、孤児院があるせいかな」

 佑輔はそう言うと零がお茶を四人分持ってきた。

「あ、手伝います」

「大丈夫」

 ルシオラの申し出に零は微笑みながらもやんわり断った。
 零が入れたお茶で一服した横島とルシオラはとりあえずいつまでこの世界にいるのかを訊いた。

「時間にしたら1年…てとこか?」

「ただしこちらの時間で…ですが」

「てことは…」

「私達の世界だと1ヶ月ぐらいです」

「ま、別に俺達の体が体験するんじゃなくて精神が体験する時間な」

「1年もっすか!?」

「ついでにどうやらそれが最短なんだよ、『ワンダーランド』を出るのには」

 佑輔がそう言うと横島とルシオラは顔を見合わせた。

「え?自由に行き来できるんじゃないんですか!?」

「あ〜…まあね、アシュタロスの技術って意外に高くって…」

「私達ではこれが限界…」

「そうっすか…」

「けどいつか自由に行き来できるようにさせます」

 零はそう珍しく意気込んでいった。

「ま、その間どうせ暇だし…この後案内がてらちょっと出かけるか」

「おねがいします」

「あ、そういえば」

「ん、何?」

「ここってなんて地名ですか?」

「ここはグーデリア市、『マガイモノ』と『魔法』が存在する世界だ」

「正確に言えばここはそのグーデリアの郊外にあるウエンタウン(おできな街)と言う場所です。
 ここは私達のような他の所から来た人や資金に余裕が無い人の集まり」

「つまりスラム街っすか?」

「まあね、ただ治安はここらへんはいいよ」

 佑輔はそう言うとその場で背伸びをした。




「で、どこにいくんすか?」

「マガイモノがいっぱいいる図書館さ」

「私もある意味マガイモノなのね」

 佑輔と横島が話している横でルシオラが零からマガイモノの説明を受けていた。
 マガイモノはいうなればホムンクルス…つまり人口的に作られた、いわば錬金術の一種である。

「例えなんであろうと、俺はルシオラの事が好きだぜ?」

「クス、ありがと」

 横島とルシオラがそう言ってラブラブな雰囲気をかもし出しながら、4人はグーデリアの街を歩いていた。

「それでいったいどこにいくんすか?」

「この街にある図書館の一つだ」

「げ…、俺活字ばっかの本はちょっと…」

「そこには何があるんですか?」

「いろいろさ、この街の歴史とか魔法の書とか…古いものならかなりの数ある筈だ」

「……ふ〜ん」

 ルシオラはそうきの無い風に答えたが、その目からは興味ありと解るほどきらきらしていた。

「と言うか俺達ここの文字がどんなのか知りませんが?」

「それは大丈夫です」

 横島の疑問に零が進行方向を視ながら答えた。

「ここに入る時、到着地点の半径10qで使われている最も多い言葉を自動的に私達にインプットされています。
 ですのでものを書く場合も私達が普段使っている文字を書いても、
 その文字はインプットされた文字ですし、もちろん読みに関しても同じです」

「ヨコシマ諦めて、ね?」

「ううう………」

 そうこういうまに横島達4人は目的の図書館の前に立った。
 そこは地上二階建て、日に焼けてハチミツ色になった外壁、赤レンガの屋根。
 その外装はよく言えば年季と伝統のありそうな―――率直に言えば古ぼけて、時代遅れなモノだった。

「なんかこう…」

「ぼろい?」

 佑輔がそう言うと呆然とその建物を見上げた横島は一回頷くがルシオラに肘で突かれ慌てて首を横に振った。

「ま、中の職員には言うなよ?解っていても他人から言われると反発しやすいからな」

 佑輔がそう言うと横島は重々しく頷いた。
 佑輔がそれを確認すると零が先頭となってその図書館の中に入っていった。




「いらっしゃいませ!!」

 中に入ると、犬耳の少女が元気良くカウンターから挨拶をした。

「とうケリポット図書館にどのようなご用件でしょうか?」

「図書館の会員になりたくてね」

「説明、お願いできますか?」

「あ、はい!! 少々お待ちください!!」

 犬耳の少女はそう言うとカウンターの奥に声をかけた。
 横島がそちらをみるとそこには岩のような厳つい顔と体格の老人ゴーレムが出てきた。

「いらっしゃいませ、お一人ずつの登録となりますので少々お待ちください。
 それではそちらのお二人からでよろしいでしょうか?」

 そのゴーレムはそう言うと佑輔と零をカウンターへ誘った。

「それでは当館の会員の入会費と年間費で銀貨五枚です。
 貸し出し期間は二週間、それ以上の延滞には督促状が輸送されます。
 また………」

 ゴーレムが佑輔に説明している横で犬耳の少女も零に説明していた。

「………では、ここに署名をお願いします」

「ほいほい…っと、これで良い?」

「はい、有難うございます。
 お待ちのお客様、どうぞ」

 ゴーレムのほうが若干早く終わり、続いて嫌がる横島をルシオラが押した。
 どうやら横島は犬耳の少女のほうに行きたかった様だが、それは叶わなかった。




「あの、魔法関係の本はどちらの方にありますか?」

 ルシオラが手続きを終えた後犬耳の少女に行った。

「あ、それでした…」

「こんにちわ美しいお嬢さん、よければお名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?
 私は当図書館の館長、レクト・ルードワーズとい言うものです」

 そこに現れたのは十代後半程度の、中肉中背の男。
 寝癖みたいに外に跳ねた薄茶色の髪、口には火のつおてない煙草を咥え、
 趣味の悪いサングラスをかけていた。
 そして、黒を基調としたスーツをだらしなく着崩し、解けたネクタイがだらりと首から垂れ下がり、
 腰にはベルトとチェーンという服装だった。
 その男が優雅にお辞儀をしながらルシオラに訊いた。

「こんにちわ、私はルシオラ。
 出来れば魔法関係の書物の所まで案内してくれませんか?」

「それはおやすい…」

「ちょっと待った〜〜!!」

 ケリポットの館長、レクトが返事をしつつ手を指し伸ばそうとしたらその横から横島が間に入った。
 なお佑輔と零はその頃別のケリポットの職員に案内されそれぞれ別方向へと姿を消していた。

「ま、これから一ヶ月、退屈せずにすみそう…かな?」

 佑輔は行きがけにレクトをふっと目にしそんな事を呟いた。
 その後しばらく横島が一人でやいのやいのと騒いでいたら、

「な〜に恋人同士にちょっかい出してる、この浮気モノののろくでなしの駄目館長!!」

 その場になにやら威勢のいい女性の声が響いた。




(あとがき)
作者>ううう…進まないよ〜
横島>ルシオラは渡さん!!
ルシオラ>クスクス、大丈夫よ。私にはお前だけなんだから
横島>それでもルシオラに他の男が一緒だなんて…
ルシオラ>………ありがと<そう言うと横島の頬にキスをする
横島>あ…う…
作者>そ、それじゃ次回!! 次回は何とか話を収集…
横島>お前の技量じゃ難しいだろ
ルシオラ>そうね
作者>あう…


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