フェダーイン・横島
作:NK
未来編 第3.5話
「なあルシオラ……まだ買うのか?」
「何言ってるのよヨコシマ。こうして買い物するなんて久しぶりなのよ。ねえ、小竜姫さん」
「ええ、ルシオラさんの言うとおりですよ、忠夫さん。凄〜く久しぶりに服なんて買いましたもの」
「小竜姫まで…………」
荷物をこれでもか、というぐらい持たされた横島の懇願するような情けない声を、見事に息のあったコンビネーションで却下する奥さんズ。
妙神山に滞在して3日目、この日横島達は実に2年ぶりに繁華街へと繰り出していた。
横島のスーツ等は、仕立てに時間がかかるので後日取りに来なければならない。
さすがに年齢的にもスーツの数着は持っていないとまずいので(今後の事を考え)、奥さんズに無理矢理作らされたのだ。
ああでもない、こうでもない、とさんざん二人のオモチャにされた横島は少し疲れていたが、ルシオラと小竜姫が自分のためにいろいろと考え、世話を焼いているのを理解しているので為すがままにされていた。
漸く横島の買い物が終わりホッとしたのも束の間、それまでの何倍も時間のかかる二人の買い物にさすがにゲンナリした表情を隠せなかった。そして……。
「…ま……まさか…………ここに俺も……一緒に入るの…?」
「当然よ♪ だって私も小竜姫さんもヨコシマに見せるために着るのよ。ヨコシマが気に入ったもの
じゃなきゃ意味無いモノ」
横島は先程文珠を使って大量の荷物を妙神山へと転送していた。
漸く両手が空いた彼はホッとしながら二人に付いて来たが、その店を眺めて引きつった顔と共に足を停め、イヤイヤをするように拒絶の意を示す。
いくら何でも、こういう店に入るのは勘弁して欲しかった。
それでもお前は特命課の課長か! とキーやんやサッちゃんに言われようが、仕事でもないのにこういう店に足を踏み入れるのは嫌だった。
だがさり気ないルシオラの一言に、両腕をガッシリと奥さんズに絡められた横島は、ズルズルと店内へと連行されてしまう。
そこは…………色とりどりのランジェリーが飾られている女性専用のショップであった。
男がポツネンと佇んでいるのは、明らかに違和感バリバリである。
「うそっ!? 私のサイズってCカップなの!?」
「本当ですね!? Cなんですね? 私…すっとBカップでしたのに、どういう事なのです?」
そんな居心地の悪さを味わっている横島を尻目に、驚いたような二人の声が聞こえてくる。
本当に久しぶりにランジェリーショップに入ったルシオラと小竜姫は、自分のサイズを店員に告げ、さらに店員にサイズを測られたりしていたが、貴方にフィットするサイズはこれですと言って見せられた商品を見て驚愕していた。
心の中で、せめてCカップのブラを身に付けたい、と切望していた二人の前に、垂涎の的であった品物が差し出されたのだから……。
「最近は昔に比べますと、大体1サイズ大きくなっています。お客様でしたらサイズ表を見て頂いても
分かると思いますが、サイズは70-Cがちょうどいいと思いますよ」
「小竜姫さん!」
「ルシオラさん!」
「「私達も遂にCカップの仲間入りね!」」
ガッシリと手と手を取り合い、感涙にむせび泣く二人。
前に買いに来た時より、実際少しは大きくなっている。
さっそく試着へと臨む二人の背中には、かつてない緊張と喜びが見て取れた。
そう、横島との初夜の時を思い起こさせるような……。
Cカップのブラが最適サイズと知ってそれほど嬉しいのだろうか?
横島はそんな二人を呆れたように見詰める。
ルシオラは再生の際に強く願った事でバストが昔より少し大きくなり、30年間加速空間で修行している時に横島からの愛情を受け、現在はトップバストが84cmになっていた。
無論、絶対値として考えた時、この数字は決して大きいものではない。
だがアンダーバストが69cmと細いため、結局トップバストからアンダーバストを引いた数値は15cmとなる。
小竜姫はルシオラより背が小さいため、それぞれの数値はルシオラのものから1cm程小さい。(トップバスト83cm、アンダーバスト68cm、それでも差は15cmあり互角)
実は二人とも、各サイズが身長から算出される理想のプロポーションにかなり近い数値をマークしていたのだ。
『二人とも、もの凄くバランスが良いからプロポーション素晴らしいんだけど、自分の事って良く
分からないのか?』
日頃彼女たちのありのままの姿をよく見ている横島は、何を今更、という眼差しで試着室に消えた二人の奥さんを眺めていた。
なぜなら、横島は二人の胸の形、感触、大きさ、それに感度も全てこの上なく気に入っていたから。
しかしそれが女性の心理というものなのか、と改めて発見したような気にもなっていた。
ひとしきり感動に浸ったルシオラと小竜姫は、それまでのブラジャー全てを一気に買い換えるべく、相当数の商品を買い漁り始める。
その勢いは何者にも止められない、と感じ少しだけ退いてしまう横島。
こう言うところは神族だろうが魔族だろうが、女性という点では何ら変わりないのだろう。
結局、横島はさんざんブラを批評させられた挙げ句、相当数の荷物を持つ羽目となった。(無論、ブラだけではなかったが……)
さすがの横島も精神的にかなりのダメージを負った事は言うまでもない。
「義兄さん……姉さんがえらく機嫌がいいけど、一体何があったの?」
「そうでちゅ。ルシオラちゃん、えらく機嫌がいいんで不気味でちゅ……」
その夜、あまりにご機嫌なルシオラの様子に、ベスパとパピリオが恐る恐る尋ねる。
姉に聞こえぬよう、横島の傍にやって来て小声で尋ねる辺り、ルシオラの姉としての威厳はかなり大きいものなのかもしれない。
「うっ……まあ…………その……何だ……。女性は常に自分を美しく見せたいと努力するもん
らしい……。それが何らかの形で結果が出て、他人に認められれば嬉しいだろう?」
「まあ……そうでちゅね」
「今日の買い物で実感できる事があったってことだ……」
「ひょっとして…………胸かい…?」
パピリオは横島の言葉の裏を察する事はできなかったが、ベスパは何となくピンときたようだ。
「ああ……。適正サイズはCカップなんだそうだ……」
「「はあ…………」」
「おわっ!? こ、虹姫さん!? い、いつの間に……?」
いきなりベスパと一緒に溜息を吐くもう一人の存在に、それまで気が付かなかった横島が慌てる。
「……今来たんです。何だか帰ってきてから小竜姫が不気味でして……。
ニコニコと妙に機嫌が良いようなので、一体買い物に行って何があったのか訊こうと思いました
が、よーくわかりました……」
「そ、そうですか…………」
「私の方が……小竜姫より少しだけ年上なんですが……抜かれちゃいました…………」
少しだけ自分の胸に眼をやり、次に恨めしそうに横島を見上げる。
小竜姫にその結果を出させたのが横島だと知ってどこか責めるよな眼差しを送ると、もう一度溜息を吐いて虹姫はフラフラと自分の部屋へと帰っていった。
小竜姫とほとんど同じ身長なのに、明らかに差を付けられたのが悔しいのだろう。
小竜姫の話では、今のところ虹姫に愛する相手はいないとのことだ。
「Cカップ…………。終わった筈のルシオラちゃんが……Cカップ…………。
でも私は負けまちぇん……」
さらに眼を転じると、隅の方では何やらショックを受けた末妹が床に体育座りをしてブツブツと呟いている。
どうやら未だツルペタな自分の姿を思い起こしているらしい。
「まあ……とにかく姉さんのコンプレックスが少しでも解消されるなら、私は問題ないよ……」
ベスパの台詞を聞きながら、これは余裕からくる発言だな、と内心考える横島だった。
なぜなら、ベスパの誇る胸は数値というか大きさの点で(形は見ていないのでわからないが)、未だルシオラを圧倒的に凌駕しているから……。
だがそうは言いながらも、ベスパもイヤイヤをするように首を横に振ると、力無い足取りで引き揚げていく。
姉の浮かれっぷりに何やら思うものがあるのだろう。
しかしベスパは全然別の事を考えていた。
自分も明日、人界のランジェリーショップというものに行ってみよう、と。
そしてパピリオに近付くと何やら耳打ちをする。
「パピリオ、姉さんに場所を聞いて、明日その店に行ってみない?」
悪魔の囁きについ頷いてしまうパピリオ。
だが、次姉と一緒に行ってもダメージを受けるだけなのに気が付かないのだろうか?
「そうだね、虹姫も一緒に誘おうか」
一瞬考えを巡らせたパピリオは、その危険性に思い当たったのかベスパの追加提案に素直にコクンと頷いた。
『フフフ……姉さん、私も負けないよ!』
何やら危険なライバル意識を燃やすベスパだった。
ベスパとパピリオのひそひそ話を横目で見ていた横島は、何やら悪寒を感じると同時に昼間の疲れがぶり返すかのような感触を受ける。
「はあ……俺も寝よう……」
「駄目」
精神的な疲労を色濃く感じ、そう呟いて居間を後にしようとした横島は、いきなり後ろからルシオラに腕を廻され拘束されていた。
「ル、ルシオラさん……? な、何かな……?」
「あら、今晩は私の番よ♪ それとも忘れちゃったの、ヨコシマ?」
「今日は買い物で(精神的に)疲れたんだけど……」
「駄目よ♪ さあ、今日買ってきた中で一番セクシーなのをみ・せ・て・あ・げ・る」
ルシオラの一言に、これは逃れられないと覚悟を決める横島。
そのままズルズルと引きずられていく横島に、小竜姫が声を掛ける。
「忠夫さん♪ 明日は私の番ですからね〜。楽しみにしていて下さいね♪」
コクコクと頷きながら横島はもはや平穏な夜を諦め、せめて状況を楽しもうと気持ちを切り替え、普段は表に出さないようにしている心の中の獣(ケダモノ)を呼び覚ます。
心の奥底から浮かび上がってくる凶暴な野獣!
それはかつて煩悩と呼ばれた彼のもう一つのエネルギー。
ゆっくりと開放させつつあるそれは、ルシオラの部屋に入る頃には完全に主人格の一部として表面に顔を出した。
そして部屋に入ったルシオラが恥ずかしそうにしながらも、今日買ったセクシーな下着姿を披露した時、横島の心は素直にその獣を全面開放した。
最愛の女が自分のためにこんな格好を見せてくれるのだ。
男としては燃えて当然だろう。
「……どうかしら、…ヨコシマ…?」
「綺麗だよルシオラ……。……フフフ、そちらから誘ったんだ、今晩は寝かさないぞ。覚悟は出来て
いるんだな?」
「えっ!? やだっ! ヨコシマったら……。…………あ、当たり前じゃない」
頬を赤らめたルシオラにもの凄く満たされた思いを感じる横島。
だが今は、目の前にいる美しい奥さんを可愛がる事しか頭にない。
スッとルシオラに近づくと、優しくその身体を抱き締め、廻した両手でサワサワと悪戯を始める。
そして可憐な桜色の唇に、自分のそれをゆっくりと重ねていく。
暫くは声が止み、別の音が控え目に部屋を支配していたが、やがて再び二人の声が聞こえた。
「う……ううん…………ヨコシマ……」
「ルシオラ……綺麗だよ。この下着……下品じゃないけどセクシーだね。実際に着てみると、
やっぱりずっと良いね……」
「そ、そう……? ヨコシマに…見て貰いたくって……一所懸命…選んだの……」
「そうなんだ。じゃあご褒美を上げないとね」
「あっ、あん♪」
・
・
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部屋中が桃色のオーラに満たされる中、ルシオラの部屋のドアは固く閉められ朝まで開く事はなかった……。
翌朝、妙にスッキリとした横島と何となく腰の辺りが充実しているルシオラの姿に、改めて溜息を吐く妹達。
一緒に住むようになれば、かなりの頻度でこういう状況に遭遇することを理解したのだ。
ルシオラが幸せである事には、ベスパやパピリオも何ら異存はない。
だが、人の色恋沙汰を目の前で見るのは無性に腹が立つと言う事を、二人の妹が実感した事を責める者はいないだろう。
そんな横島達を優しく暖かい眼差しで見守る小竜姫。
そこには嫉妬の感情を見る事ができない。
しかしその夜、小竜姫の部屋でも殆ど同じ事が繰り広げられた事は言うまでもない。
(後書き)
幕間的な短い話で済みません。未来編はどちらかというとシリアス系の話になりますので、こういうギャグ的な話は殆どないと思います。
まあ、そんなわけで修行期間終了直後の横島と奥さんズの話を書いてみました。小竜姫の分が全然無いじゃないか! というお叱りはご勘弁の程を……。
何しろルシオラは本編の方で身体がまだありませんし…………。
さて、未来編の方もきちんとした続きを書かなければ…………。
【管理人の感想】
ルシオラと小竜姫は微○派というのが定説(※)ですが、な、なんと二人ともCカップ!
これは、かなりうらやましい構図ですね。
その二人にライバル心を燃やす虹姫さんとパピリオがグッドでした。
べスパは……まあこのひとは、余裕のレベルが違いますから。(;^^)
※ルシオラは、コミック29巻でパピリオの「ペチャパイ」や「ルシオラちゃんみたく、もう終わって」
というセリフがあるので確定なのですが(;^^)、小竜姫については、原作に裏づけとなるセリフは
特にないようです。
まあ見た目で判断された結果、SSではそれが定説となったのでしょう。
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