フェダーイン・横島

作:NK

序章




「ウオォォォォ〜! 文珠六芒星背光陣!」

 身体に金色の霊気を纏った横島の後ろで、文珠で作り出した六芒星が光り輝き周囲の地脈のエネルギーや霊気を一気に集め霊力へと変換されて体内へと流れ込む。込められた文字は『集束』、『変換』、『伝達』。
 さらに六芒星の周囲には『誘導』、『吸収』の文珠が光りながら浮遊している。
 最終奥義によって横島の霊力は20,000マイトから一気に200,000マイトまで上昇する。
 あまりの霊力に身体が耐えられず激痛が襲う。
 だがそれに耐えながら身体に湧き上がった霊力を手に持つ獅吼剣へと誘導していく。

「小竜姫、獅吼剣の霊力コントロールは任せる。ルシオラ、『縛鎖』の文珠を発動させてくれ」

 痛みに耐えるために半眼になりながらも、己の魂と一体化している大事な想い人に話しかける横島。

『わかりました、忠夫さん。こちらは任せてください』

『わかったわヨコシマ。コントロール可能な攻撃用文珠を全部使うわね』

 両肩のレンズ状の部分に浮かび上がる小竜姫、ルシオラの顔が答える。
 先ほどから『雷撃』の文珠で全包囲攻撃を加えられていたパズスは、かなりのダメージを受けながらも未だ戦闘可能な状態を維持しており、霊波シールドの保持に全能力を傾けていた。

『縛鎖!』

 雷撃が止んだ為、遂に横島が弱ってきたのかと考え攻撃に意識を集中させるパズス。
 だがいきなり身体の自由が失われる。

「な、何だこれは!? しまった、ヤツの捕縛術か!!」

 周囲を囲んでいた数十個の文珠から霊力の鎖が伸びて自分の身体に巻きつき拘束しているのを確認したパズスが叫ぶ。
 無論、300,000マイトという圧倒的な魔力を誇るパズスを長い間捕縛しておくことなどできない。
 横島にとってその効果は数十秒保てば良いのだ。
 小竜姫の手で獅吼剣へ蓄積された六芒星からの霊気は、集束され既に250,000マイトの霊圧に達している。
 左手をスッと前に突き出し、霊力で満たされた獅吼剣を持った右手を引き構えを取る横島。

「殺!!」

 掛け声と共に意識加速で周囲の時間の流れから外れた横島は、止まっているに等しいパズスとの間を詰め身体の捻りを十分に加えた刺突を繰り出す。
 全包囲に張られていたパズスの霊波シールドは、獅吼剣の切っ先に集約された250,000マイトの霊力を防ぐことができず、横島の突きはパズスの身体に深深と突き刺さり貫く。
 例え神魔であろうともその魂を切り裂き砕く獅吼剣の一撃をまともに食らったのだ。
 パズスの体内で霊基構造が連鎖崩壊を始める。
 奥義を放ったために肩で息をつきながらも、すかさず剣を抜き間合いを取る横島。

「バ、バカなっ!? この私が……このパズスがこの程度のヤツに敗れるはずがない!!」

 突き刺された個所を手で押さえながら苦悶するパズス。

「…確かに俺の霊力は最大でも100,000マイト。お前の1/3程しかない。
 だが文珠を使えば一時的に2倍程度まで霊力を上げられる。
 そして霊力を一点に集束させた攻撃ならば、ただ全包囲に展開したお前のシールドを破ることなど
 難しくはない。」

 完全に回復はしていないが冷静に答える横島。

「…な、成る程……。人間どもが好んで修める武術の応用か………。
 貴様は元々人間だったのだな……。見事だ。
 だがこのまま終わりはしない。貴様も共に滅してやる」

 そう告げるとパズスは聞いたことのない言葉で呪文を唱える。
 第六感が危険を告げ、横島はその場から離れるべく行動を開始する。
 その時、パズスの前面の空間が歪み黒い穴のような物が出現した。
 それに引きずられるように引き寄せられる横島。

「クッ!? これは一体?」

『ヨコシマ、これは時の狭間に通じる穴よ!このままだと霊体を飲み込まれてしまうわ!』

『忠夫さん、全ての霊力を文珠回転結界陣に集めて防御障壁を!』

「わかった!」

 二人のアドバイスにしたがって全力で防御に入る横島。
 全霊力を防御障壁に廻すが、圧倒的な超重力に障壁が歪み始める。
 ジリジリと引き寄せられながら傷ついていく横島だったが、後少しで吸い込まれるというところで黒い穴は消滅した。
 パズスが完全に消滅したのだ。

「…ふう……何とか助かったみたいだな……」

 そう呟くと力なく落下をはじめる横島。
 何とかスピードを軽減させて地面へと降り立った横島だったが、ガックリと膝を突きそのまま座りこんでしまう。
 既にチャクラは全開で廻っており、体内の残り少ない霊気を練り上げ回復に努める。

『大丈夫ですか忠夫さん?』

 小竜姫の霊基構造コピーが心配そうに訊いて来る。

「あぁ、何とかね。でも最後の攻撃で霊体の一部が引き裂かれた……。
 量的には少しだから、暫く休めば回復するはずだ」

『そうね、5%ぐらいの霊体が失われたわ。でも大丈夫、2〜3日安静にしていれば問題ないから』

 ルシオラの霊基構造コピーが分析の結果を告げる。
 例えコピーとはいえ、横島のハイパーモード時はそれぞれの本体と意識がリンクするのだ。
 横島の状態はすでに二人とも知っており、やがて駆け付けてくるだろう。
 意識が急激に遠のいていく中、ふっと頭をよぎったのは引き千切られ時の狭間に飲み込まれた自分の霊体がどうなるのか、であったが疲れ切った身体はそれ以上の思考を許さなかった。






「ここはどこだ?」

 覚醒した俺は周囲を見まわした。
 周囲は暗い。どうやら夜のようだ。
 おかしい……確か俺は復活したばかりの古代魔神・パズスと戦いこれを倒したはずだ。
 ヤツの最後の切り札、時の狭間に通じる穴に吸いこまれそうになったことは覚えている。
 だが今いるのはどこか懐かしい感じのする公園だ。
 ふと自分の身体を見ると、何と半透明ではないか!

「これは……実体じゃない? 霊体の状態なのか?」

『どうやらそうみたいね』

『ええ、今の私達は実体ではありません』

ルシオラと小竜姫の声が聞こえた。どうやら二人とも意識を取り戻したらしい。

「よかった……二人とも無事だったんだな」

 心底ホッとしたような口調で呟く。

『何とか無事だけど、一体どうしちゃったのかしら?』

『私は大丈夫です。忠夫さんは?』

「俺も大丈夫だよ。でも一体どうなったんだろうなぁ……?
 ここは何となく覚えがあるような場所なんだが……」

 横島は返事をした後で考え込む。

「ああっ! まさか……でもやっぱりここは!」

 そう言って少し大きな声を上げる横島。

『何かわかりましたか(わかったの)?』

 同時に訊いてくる二人。

「あぁ、ここは俺が中学時代まで住んでいた家の近くだ。
 東京に引っ越してきて両親がナルニアに行くまで住んでいた場所だよ」

 そう言って歩き始める横島。
 だが実際は実体が無いため、空中を移動している。
 目指しているのは、彼がかつて住んでいた家(会社の社宅のマンション)だ。

「あった。あまり変わっていないな……」

 そう言ってマンションを見上げる横島。

『へぇ……ここがヨコシマが小さい時に住んでいた家?』

『小学生の忠夫さん……』

 小竜姫は少し違うことを考えているようだ。

「あぁ。ここの305号室だった」

 そう言って上昇し、壁を抜けて扉の前に立つ。
 しかしそこには………。
 「横島」
 の表札が掛かっていた。

「はぁ……? どういうことだ?」

 しばらく呆然と眺めていた横島だったが、状況を確かめるべく室内へと入っていった。


「まさか………。でもこれは……中学時代の俺?」

 ベッドで気持ちよさそうに爆睡している少年を見下ろしながら愕然としている横島。
 救いを求めながら振り向いた先のカレンダーは自分たちが過去へと戻ってきた事を告げている。

『かわいい! これが中学生の忠夫さん(ヨコシマ)?』

 一方、ルシオラと小竜姫は違うことに心を奪われている。
 フラフラと窓から外に出る横島。
 もっと寝顔を見せろと二人が文句を言ってくる。

「それどころじゃなかろうが! 二人とも、本体とリンクできるかどうか試して見てくれ」

 横島にそう言われて渋々と従う二人だったが、表情が真面目になる。

「やっぱりできなかったか」

 横島の言葉に頷く二人。

「どうやら本当に過去に飛ばされたみたいだな。しかもどうやら霊体の一部だけが……」

『そのようですね。
 やはりあの時の狭間に霊体の一部が引き千切られて飲みこまれたのでしょう……』

『どうするのヨコシマ? このままじゃ長くは保てないわよ?』

 本体がなく霊体(しかも一部だけ)のみの時間逆行である。
 霊体だけでは現在の霊格も霊力もあまり長くは維持できない。

「そうだな。どうやら5%分ぐらいが引き千切られたみたいだな。
 大体霊力は最大で5,000マイトぐらいだしな。でもそこまで出力を上げたら消えちまうのは確実だ」

 自分の霊力を確かめてから現状を冷静に分析する横島。

『ということは忠夫さん自身の基礎霊力は最大約50マイトというところですね』

「うん。でもそれはちぎれた時に最大霊力を出していたからだ。
 まぁその時の状態で死んだ幽霊みたいなものだからな。
 霊体を維持するとなると30マイトぐらいがせいぜいだよ。しかしこれからどうしようか……?」

 現状は理解したが、さてどうすれば良いかということは別問題である。

『一番良いのはこの時代のヨコシマと融合することよね』

「そうだけど、そうすると未来が変わってしまわないか?」

『既に我々が逆行したことでこの世界は我々が経験した過去とは分岐し、平行世界の一つになって
 います。このまま我々が消滅すれば元の通りの歴史を歩む可能性は大きいですが……』

 ルシオラと小竜姫の言葉に暫く考え込んでいた横島だったが、やがて考えが纏まったのか顔を上げる。

「このまま黙っていれば、またルシオラが消えてしまうところを見なければならない。
 それにアシュタロスによって妙神山が吹き飛ばされ小竜姫がダメージを負う事を黙って見ることに
 なる。そんな事は嫌だな。
 明日過去の俺に話をしてみよう。できれば納得した上で融合したいからな」

『確かに私達がいればこの世界では悲劇を減らすことができるかもしれません。
 でも神魔族の上層部がどう動くかですね』

 小竜姫が心配そうに言う。

『そうね。おそらく神魔族上層部では私達が現れたことを察知しているかもしれないわ』

「その可能性はあるが、今の俺達は世界をどうこうできる程の能力を持っているわけじゃないし、
 不安定な霊体に過ぎない。
 このまま霊力を抑えて融合してしまえば、アシュタロスが動き出すまでは誤魔化せるさ」

 そう言って横島は双文珠を作り出す。
 霊力の消耗を抑えるために、明日までこの中に入って待とうというのだ。

「とにかく消耗を抑えるために休もう。どうなるにせよ全ては明日だ」

 霊体がマンションの屋上に転がる淡く輝く珠に吸いこまれ、再び屋上は静寂に包まれた。





「いやぁ、漸く学校が終わった」

 かったるそうに歩いている横島忠夫(過去・中学1年生になったばかり)。
 異性に興味はあるが、さすがにまだ高校生の時ほど本能に従って生きてはいない。
 それでも綺麗な女性が歩いているとふらふらと視線がその姿を追っている。

「ただいまぁ〜」

 そう言って自宅のドアを開けた横島に母親の声が聞こえる。

「おかえり忠夫。ご飯はもう少し掛かるから部屋に行ってなさい」

「わかった、早くメシにしてくれ〜」

 そう返事をして自室へと向かう。
 ドサリと机の上に鞄を放りだし、制服からジャージに着替えるとベッドに転がる。
 その姿はごくごく普通の中学1年生だった。

「よぉ、お帰り横島忠夫君」

 いきなり上から聞こえた声に反応して飛び起きる。

「だ、誰だっ!?」

 周りを見まわすが誰もいない。

「ははは、驚かせてしまったな。今姿を見せるよ」

 そう言って霊力に目覚めていない中学生の横島に見えるよう、姿を半実体化させる横島。
 空中に浮かぶ幽霊(としか言いようが無い)を呆然と見詰める中学生の横島。

「よぉ、初めまして、になるのかな?」

 気さくに声をかけてくる幽霊に、一見うろたえていないように見えるが単にフリーズしていただけの横島は我に帰った。

「ま、ま、ま、……まさか幽霊なんか?」

 震える手で指差す過去の自分を見て苦笑する。
 まぁ当たり前の反応だろう。

「そうだな。実際には幽霊ではないんだが似たようなものか……。
 安心してくれ、君に危害を加える気は無い。」

 そう言って笑みを浮かべる幽霊にちょっとホッとする中学生横島。

「信じられんが実際に見てしまうと信じるしかない……。でも俺に霊能なんてあったんか?」

「あぁ、今は発現していないがお前の潜在能力は凄いのさ。
 尤も今は普通の人間でも見えるように姿を現しているから見えるんだがな」

 相手の態度から敵意や害意を感じられなかったためか、少しだけ冷静になる中学生横島。

「それで俺に何の用なんだ?」

「まず正体を先に明かすと、俺は未来のお前自身の魂の一部だ。
 未来ではお前は霊能に目覚め多くの出来事を経験する。
 無論、楽しいことばかりじゃなく身を切られるような哀しい経験もするがな」

 正体を尋ねてくる中学生横島に、いきなり爆弾発言をする横島。

「俺の未来の魂………? でも何でそんな変な格好をしとるんだ?」

 両肩にレンズ状のものをくっ付けて、特撮ヒーローのようないでたちを見て質問する中学生横島。
 未来でこんな格好をする羽目になるのか、と嘆いているのは秘密だ。

「話すと長いぞ。だが君には聞く権利があるよな。それを聞いた上で俺の希望を話そうと思う。
 いいかな?」

 幽霊(未来の自分)の申し出を暫く考えた上で了承する。
 未来の横島過去の自分と精神をリンクさせ自分の経験を見せ始める。
 無論あまりにも情けない部分はカットし、小竜姫によって霊能力に目覚めたこと、それによってGSの助手として過ごしたこと、アシュタロスという魔神が世界を滅ぼそうとしたこと、その部下であるルシオラという魔族の少女と愛し合ったこと、そしてルシオラが自分を守るために消えてしまったこと、自分が彼女を助けるために人間ではなくなったこと、自分を助け、想ってくれるもう一人の女性、師匠でもある小竜姫と共に歩いていくとを決心したこと。
 そこまで話し終えた横島は一度精神リンクを切り、中学生の横島に今聞かせ見せた事を整理する時間を与える。

「……いろいろな事が起きるんやなぁ……。」

 中学生横島の第一声がこれだった。
 あまりにも非現実的な未来を教えられ、彼の脳は飽和状態なのだろう。

「でも本当に未来の俺はあんな綺麗な姉ちゃん達と一緒になるのか?」

 次の言葉がこれなのはさすがに横島といったところか………。

「あぁ本当だ。奥さんを二人貰ったっていうのはな」

『その通りよ、初めまして忠夫君』

『可愛いわ〜、初めましてヨコシマ君』

 肩のレンズ状の部分が輝き、先ほど見せられた二人の女性が腰までのミニチュアサイズ(大体1/2ぐらい)で半実体化し、細い紐のような霊体で繋がったまま横島の前まで近寄ってくる。

「ずっと前から愛してました〜!!」

 いきなりなフレーズで二人を抱き締めようとするが、その手は空しく宙を切る。
 尤も、力加減はきちんと二人のサイズに合わせて無意識のうちに調節しているのは器用だと言える。

「うーむ……さすが俺だ…。やっぱりここは過去なんだな……」

 変に納得しながらも感心する横島と、クスクスと笑っているルシオラ、小竜姫。

「あのなー、最初に幽霊みたいなモノだと言っておいたろう……。
 今のお前じゃ触る事はできないんだよ!」

 そう言われて漸く冷静になる中学生横島。

『だめよ〜。初対面なんだからきちんと挨拶しないと〜』

『そうですよ。私も未来の旦那様がきちんと挨拶ぐらいできないと困りますわ』

「あっ、初めまして……。えーと、小竜姫さんにルシオラさん?」

 美人二人に気軽に声をかけられ、やや冷静になったため少し照れる中学生横島。

「さて、これで俺のことは理解できたかな?
 もし大丈夫なら引き続きなぜ俺達が過去に来たのか見せようと思うんだが」

 その言葉に頷く中学生横島。
 その心の中はシリアス半分、二人の綺麗な女性と一緒になるという嬉しさ半分と言うところだ。

「じゃあ続けるぞ。精神リンクを繋げる」

 そう言って再び流れ込んでくる映像と声。
 それは神魔人となり特命課を率いて戦う横島の経験。
 最後に古代魔神・パズスとの戦いのシーンが登場する。
 魂の一部が時の狭間に飲みこまれたところでリンクが切れる。


「わかったかな? この事が原因で未来の俺の魂の一部が過去へと飛ばされたんだ」

 何とか見せられた出来事を理解しようとしている中学生横島が落ち着くのを待って、横島は声をかける。

「とても信じられんが………あれがこれから起こり得る未来なんだな……」

 そう言って未だ実感が伴わないのだろう、首を捻って再び考え込む。

「まぁ一度に全て理解する事はできないさ。ところで俺からのお願いを言ってもいいかな?」

 頃合だと思ったのだろう、横島がいよいよ本題に入ろうとする。
 だが帰ってきたのは彼を驚かせるものだった。

「何となくわかる……。俺と同化したいっていうんだろ?」

「ほう、よくわかったな。」

「あの過去…いや俺にとっては未来か……。
 あれを見せられて、ルシオラさんが消えた時の事を考えれば何となく……。
 そのままだといずれ消えてしまうんだろ?」

「俺とは思えないぐらい頭の回転が速いな。その通りだ。恐らく後2日ぐらいしか俺は保たない。
 これから起きる未来を考えると、俺としては悲劇を再び繰り返したくないし、お前にも選択肢を
 増やしてやりたい。
 まぁそれ以上にお前に力と自信を持てるようにしてやりたいんだ」

「うーむ、あんな極貧生活をしとーはないな……。
 それに頑張れば綺麗な二人の奥さんを手に入れる事ができるんだし……」

 再び考え込む中学生横島。

「もし俺と融合してもお前が吸収されてしまうわけじゃない。
 かなり俺の影響を受けるが、俺の能力と知識、そして未来の俺程ではないけどルシオラと小竜姫
 の能力と知識を得た新しい横島忠夫になるだろう。
 まぁ煩悩とかはかなり抑えられると思うけどな。」

 それを聞いてさらに考え込む中学生横島。

「さすがに今すぐに決めることはできまい。といっても俺に残された時間もそう長くは無い。
 明日の夜にもう一度来る。その時に返事を聞かせてくれ」

 そう言うと横島は姿を消して部屋から出る。
 屋上に着くと文珠の中へと入り休息する。

『過去のヨコシマは私達を受け入れてくれるかしら?』

 ルシオラの意識が心配そうに尋ねてくる。

「多分大丈夫だと思うけどな……。あまり悲惨な体験は見せていないし」

『大丈夫だと思いますよ。中学生とはいえ彼も間違いなく忠生さんなんですから』

 横島を信じているのか、楽観的な小竜姫。

「まぁルシオラの心配もわかるさ。
 この頃の俺はGSなんて知らないし、霊だとか魔族だとか神族なんていると思っていないからな。
 でも小竜姫は何でそんなに言いきれるんだ?」

『この頃の忠夫さんは煩悩がメインですから。だからこそ私とルシオラさんの姿を見せたんですよ』

『確かにそうね。高校生の時ほどじゃないけど、ヨコシマの煩悩は強力だから』

 クスクスと笑う二人にちょっと拗ねる横島。

「二人とも俺の事を何だと思っているんだ?」

『優しいけど煩悩全開の中学生!』

 二人のユニゾンした返事に本格的にいじけてしまう横島だった。





 土曜日のため半日で帰ってきた中学生横島は、ベッドに寝転びながら考えていた。
 昨日見せられた未来の映像、あれは恐らく本当の事なのだろう。
 幽霊の正体が未来の自分の魂の一部、というのも胡散臭いはずなのだが信じられる。
 まぁ自分自信なのだから信じても当然かもしれないが、彼が提示した未来が魅力的である事も事実だった。
 ルシオラという女性が消えてしまった時の身体を凍りつかせるような哀しみや、アシュタロスとの戦い、地獄の修行などの映像と想いを考えれば逃げ出してしまいたくもある。
 おそらく彼が否と言えば、未来の自分の霊体は無理強いをしないだろう。
 だが来るべき大きな事件のために準備する時間があるのだ。
 さらに未来の出来事に対する知識やどうやって能力をアップさせるかの知識もある。
 これまで目的というものを持っていなかった自分。
 もし受け入れれば、初めて明確な目的と目標を持って人生を生きることができるかもしれない。
 あれこれ考えているうちに夕食の時間となり、いつもと違ってボンヤリと食事を終えた彼は部屋へと戻ってきた。
 母親が珍しく考えにふけっている息子を見て、病気なんじゃないかと考えているのはお約束である。
 再びベッドに転がり天井を見上げていた中学生横島は、ふと何かの気配が傍に寄って来た事に気がついた。
 起きあがりその方向に顔を向ける。

「へぇ、俺の存在に気が付いたか。俺と接触した事で霊能力に目覚め始めたのかな?」

 そう言いながら半実体化する横島。
 中学生横島はさすがにその光景を見ても驚かない。慣れたのであろう。

「それで答えは決まったか?」

 尋ねてくる横島に頷いて見せる中学生横島。

「アンタと同化するよ。俺だってなるべく不幸が少ない未来がいいしな」

 珍しく凛々しい表情で答える中学生横島に、レンズ状の部分から眺めていた小竜姫とルシオラが格好良いじゃない、と惚れ直している事は置いておいて、横島はジッと過去の自分を見詰めた。

「一度同化、いや融合したら二度と引き離す事はできないぞ? それでもいいんだな?」

 それは過去の自分に対する確認だった。

「あぁ、構わないさ。どうせこのまま黙っていても巻き込まれそうだしな。
 それなら自分で自分を守れるようにしたいし。」


 答える表情を見て安心したように頷く横島。

「しっかりと決心したようだな。ならばあまり時間もないし融合を始めようか。
 そうすれば恐らくお前の霊能力は開花し、40マイト程度の霊力を手に入れる事が出きる。
 後は俺達の知識に従ってきちんと修行すればどんどん伸びていくはずだ」

 そう言って中学生横島に近付いた横島は双文珠を4個ベッドに投げる。

「これは?」

 怪訝そうな表情で尋ねる中学生横島。

「さすがに剣の修行は木刀をつかうしかないだろう?
 でもただの木刀じゃあ面白くない。これで木刀に霊力を付与して霊刀を作ろうと思ってな。
 後の『記憶』と文字が入った文珠は未来のルシオラと小竜姫の記憶だよ。
 時期が来て俺と二人の間に信頼関係が生まれ、真実を話して受け入れてくれた時に渡して
 やってくれ。」

 使い方は融合が終わったら自然にわかるさ、と言われ取り敢えず納得する。

「ではいくぞ!」

 そう言って未来から来た横島の霊体が中学生横島に重なり、ゆっくりと体内へと消えていく。
 時間にして数分だったが、横島には1時間近くにも感じられる奇妙な感覚を伴った出来事だった。
 完全に融合したのだろう、急に身体が軽くなる。
 その途端、昨夜見せられた未来の出来事が記憶として湧き上がってきた。
 そのリアルさに頭を抱えて転げまわる横島。
 やがて頭痛も治まり目を開けた時には、一人の男として目覚めた横島忠夫がいた。

「うまくいったみたいだな……。
 特に変わったような感じはないけど、明日になったら色々試して見よう。
 ルシオラさんと小竜姫さんの意識も微かだが感じられる」

 自分自信が中学生という事もあり、微妙に二人の事を“さん”付けして呼んでしまう。
 暫くあれこれと考えていた横島だったが、かなり疲れていたのだろう。
 睡魔に負けて意識を失っていった。






【管理人の感想&あとがき】

 NKさんの作品です。
 ここまで読んだ方は既にお分かりかと思いますが、横島最強化&逆行のお話です。

 実は以前からファイルを送ってもらっていたのですが、細部の修正にいろいろと時間がかかり、公開が遅くなりました。

 それから気になる点を一つ述べますと、私はこの手の話は全然問題なく読めるのですが、原作の設定を大きく逸脱した作品に対して、一部の読者の方が激しい拒絶反応を示すことが稀にあります。
 どのサイトか、またどの作品かについては触れませんが、そういう出来事を何度か目にしていますので、個人的に憂慮していました。

 作品を読んでいろいろと思うこともあると思いますし、時には反対意見も作者にとって良薬となることもあります。
 ですが、過剰なパッシングについては、控えてくださるようお願いいたします。

 既に続きのファイルも頂いていますので、HTML編集が済み次第、順次公開していきます。


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