フェダーイン・横島

作:NK

第1話




「もうすぐ到着だな……」

 磯竿を入れるケースに愛刀の“飛竜”を入れ、僅かばかりの衣類や道具を入れたバックパックを背負い険しい山道を登っていく一人の男。
 16歳となった「横島忠夫」である。

 未来の自分自身の霊体と融合し、未来の自分が手に入れた様々な知識を活用して一人修行してきた3年間。
 手に入れた知識のおかげで中学生活は成績優秀者として過ごしていたが、勉強などほとんどせずに余暇は全て修行に廻していた。
 その甲斐あって身体能力は格段に向上し、基礎霊力も霊圧が当初の40マイトから70マイトへとパワーアップしていた。
 またかつて自分が雪之丞達に教えた念法の修行を再度自らに課し、チャクラも第5チャクラ(喉)まで廻す事ができるようになっている。
 もし戦いとなればチャクラを廻し350マイトまで霊圧を引き上げる事ができる。
 本来であれば既に第7チャクラまで廻せるようになっていたはずであったが、身体が子供のものであったため肉体的、霊的な基礎を作ることに時間が掛かってしまい、身体と霊能力のバランスが取れるまで体内の気を操作する修行に入れなかったのだ。

 しかしそのおかげで、かつての自分に比べかなり少ない霊力で修行しなければならないため、一体化している未来の小竜姫の指導もあり、少ない霊力を練り上げて昇華させる事に重点を置いた修行を行い、かつてより霊力のコントロールと集中させる能力は向上していた。
 “溜め”を作る時間さえあれば、霊気を練り上げて霊格を上げ、70マイトの霊圧でも実質倍近くのダメージを与える攻撃が可能なのだ。

 さらに非常時には自分の霊基構造とルシオラと小竜姫の霊基構造(コピーだが意識を持っている)を共鳴させ、最大でさらに4倍まで霊圧をアップさせる事が可能だが、肉体的に数十分が限界である。
 つまり現時点での横島の霊力は、基礎霊力の霊圧70マイト、チャクラ全開時350マイト、最大攻撃霊力560マイトというのが公称である。
 この時点で短時間でも中級神魔に匹敵する1,400マイトの霊力を持っている事がわかるのは得策ではないため、よほどの事が無い限りハイパーモードを使う事は無いのだが………。

『久しぶりの妙神山ですね……。何か過去の私と会うのは妙な気分です』

 融合した小竜姫の意識が戸惑ったように話しかけてくる。

「それは無いでしょう、俺は3年も前にそれを経験しているんスよ」

 苦笑しながら答える横島。

『でもここで修行すれば、基礎霊力が上がってチャクラも全部廻せるようになるんでしょ?』

「多分ね。今回は別に急いでいるわけじゃない。じっくりと修行をさせてもらうさ。
 目標は基礎霊圧150マイトと全チャクラの解放だからな」

 ルシオラの意識の問いかけに答える横島。

『そうですね。
 私達の霊基構造が忠夫さんに比べて少ないので、未来の忠夫さんのように最大霊圧100,000マイト
 というのは無理ですけど、4,200マイト(ハイパーモード最大霊圧)を目指して頑張りましょう』

『確かに、完璧な文珠六芒星背光陣は不可能でも、“集束”の双文珠6個を使った背光陣は使える
 ようにしないとね』

「確かに今後の事を考えるとその程度はできないと辛いんだ。
 まあ全チャクラを解放すれば何とか6個の双文珠を制御できるだろうけど」

 これからの未来を考え微かに横島の表情に不安がよぎる。

『大丈夫よ、アシュ様が動き出すまで1年はあるわ。ヨコシマなら必ず成し遂げられるわ』

『そうですよ。私達も全力でサポートしますから。そしてこの世界の私を見事モノにしてくださいね』

 その事を察したルシオラと小竜姫の意識に励まされ、横島は再び歩を進め目的地へと辿りついた。

 「妙神山修業場」
 と書かれた看板が寺の山門に似た門の上に掲げられている。

 「この門をくぐる者、汝一切の望みを捨てよ 管理人」

 と書かれた張り紙をボンヤリと眺める横島。
 取り敢えず門に施されている鬼の顔の事は無視する気らしい。

「この台詞ってキリスト教のヘブンズ・ドアから持ってきたのかな?」

 呑気に呟きドンドンと門を叩く。

「たのも〜! たのも〜!」

 声は大きいが、何となく呑気な口調で中の人を呼び出そうとする。

「この無礼者めが〜!」

「ここをどこだと心得ておる!」

 いきなり門に設置してある鬼の口が動き怒鳴りつける。

「おっ! 門が喋った。」

 惚けた事を言いながら、横島は懐かしそうな眼差しで鬼門を見る。

「お前のような未熟者を通すわけにはいかん! 早々に立ち去れい!」

 等とお決まりの台詞を鬼門が喋っているが、横島は聞き流している。
 だがその門がいきなり開かれる。

「あら、お客様?」

 そう言って顔を出したのは古風な胴衣を身に着けた小柄な女性である。
 やや赤っぽい髪を肩のあたりで揃え、鱗模様のヘアバンドをして2本の角を生やしているが文句無い美人だ。
 年の頃は18〜20歳くらいに見える。

「小、小竜姫様! 不用意に門を開けないで下さい!」

「我々にも役目というものが!」

 騒ぎ立てる鬼門を余所に女性は外に出てくる。

「カタイ事ばかり申すな。ちょうど私も退屈していたところです。」

 そして笑顔で横島をしばらく見詰めると、お決まりの質問をしだした。

「あなた……名は何と言いますか? 紹介状はお持ちでしょうね?」

「俺の名は横島、横島忠夫です。これまで独学で修行してきたので紹介状はありませんが、是非
 この妙神山で修行したいと思ってやってきました」

 軽く頭を下げて自己紹介をする横島。
 その返事を聞いて一瞬キョトンとした表情をしたものの、すぐに笑顔に戻って口を開く女性。

「それはそれは………。紹介状も何も無しで修行を受けに来るとは変わった方ですね。
 普通ですとお断りするのですが、貴方は本当はかなりの実力をお持ちですね。
 興味が湧きましたのでテストに合格すれば特別に許可しましょう。
 私も退屈続きでしたからちょうどいいですし。」

 穏行の法で霊力を数マイトに抑えていた横島だったが、小竜姫はその実力を看破したようだった。

「では貴方達、早くやってください。」

 そう言って鬼門に話しかける。

「はっ! わかりました。」

 門の鬼の顔が答えると、両脇に立っていた4〜5mもあろうかという頭の無い巨人が動き出す。

「ふーん、ひょっとして門に付いている鬼の胴体ですか、これ?」

 のほほんと2体の巨人を指差して尋ねる横島。

「えぇ、頑張ってくださいね。」

 相変わらずニコニコ顔で答える女性。
 2体で挟み込むように動き、その重い拳を叩きつけてくる鬼達。
 その攻撃を巧みな足捌きですり抜けると、横島は両手を前に掲げる。

 シュウゥゥゥ

 するとその手にスーパーボールより少し大きめの球体が現れた。
 そしてそれぞれを鬼に向けて念を込める。
 込められた文字は『縛』。
 地面を大きく抉ったものの目標を見失った鬼達の身体に、文珠から発した霊気の縛鎖が絡みつく。
 2体の足はいきなりピクリとも動かす事が出来なくなり、慌てた鬼達はバランスを崩し地に倒れた伏す。

「グッ!?……これはどう言うことだ? 足が…動かん!?」

 ゴロゴロと鬼達の巨体が転げまわり、門の鬼の顔に狼狽が浮かぶ。
 だが奮闘空しく、鬼達の足は全く動かない。

「勝負有りですね。6秒ですか………新記録更新です。でも今貴方が使ったのは……文珠ですか?」

 溜息をつきながら、しかし何百年も生きている彼女ですら初めて見る霊的アイティムに驚きの視線を送る。

「そうです。俺の霊力を凝縮し具現化させた珠にキーワードを入力する事でその力を発揮させる
 文珠。今使ったのは一文字の漢字を込める普通の文珠ですが、俺は2文字の漢字を入力できる
 双文珠を作り出す事も出来ます」

 そう言って未だ『縛』の文字が浮かぶ文珠を女性に放る。

「これが文珠………。初めて見ました。貴方は随分稀少な能力をお持ちですね」

「俺も自分以外でこの能力を使う人の事は知りません。
 えーと……小竜姫様でしたっけ? 貴女がここの管理人なんですよね?」

「はい、私が当妙神山修業場の管理人、小竜姫です。
 試験にも合格しましたし、それでは中へどうぞ。
 ……そうそう、鬼門達は何時になったら動けるようになりますか?」

 踵を返して中に入ろうとした小竜姫だったが、倒れたままの鬼門達が眼に入り尋ねる。

「あぁ、文珠の効果はそんなに長時間持ちませんから、後30分ぐらいで消えますよ」

「それを聞いて安心しました。ではこちらへ」

 そう言って小竜姫は横島と共に中へと入っていく。
 後には未だに悪戦苦闘している鬼門が残された。






 スタスタと歩きながら小竜姫はチラチラと横島が背負っているケースを見ている。
 その様子を見て苦笑しながら横島が水を向ける。

「小竜姫様、これが気になるようですね?」

 そう言ってケースを肩から外し、手に持って差し出す。

「すみません。でも先ほどからかなりの霊力が感じられるので気になって……」

 盗み見していたことがバレた為に僅かに頬を赤くする。

「立ち止まってもらえれば中をお見せしますよ」

 横島の言葉に歩を止めて向き直る。

「ではお言葉に甘えて中身を見せていただきます」

 その言葉に頷きながら、ケースのジッパーを下ろし中から一振りの木刀を引き出す。
 そしてそれを小竜姫に手渡し、空のケースを再び肩にかけた。
 丁重に木刀を受け取った小竜姫は、手馴れた様子で木刀を検分する。

「これは………かなりの念というか霊力が込められていますね……。
 しかも相当霊格が高い霊気です。
 霊や神魔に対しては普通の霊刀よりも遥かに強力な武器になります。
 一体どうやって手に入れたのですか?」

 何度か軽く手にした木刀を振り、その能力を確かめた小竜姫が問う。

「今はいない俺の師匠に教わって、この3年間の修行を通して作りました。
 尤も文珠を使ったんで反則なんでしょうけどね」

 真実の一部を隠して事実を告げる。
 確かにこの愛刀“飛竜”はこの3年間、横島が霊力を込め続けて作った霊刀である。
 ただし、未来の横島が残した2個の双文珠を使い(『霊力』『付与』)、ルシオラの知識を使って作り上げたのだ。
 未来で使っていた獅吼剣と同じように増幅した全霊力を刀身に込めて攻撃すれば、今の段階でもメドーサ・レベルの魔族に大きなダメージを与えられる。

「このような霊刀を自分で作るなんて凄いですね。貴方の実力を見るのが楽しみです」

 “飛竜”を返しながら笑顔でそう言う小竜姫。
 再び歩き出した二人はやがて銭湯そのままな外見の木造建築物の前に着いた。

「これって銭湯ですか?」

 わかっていながら、その事をお首にも出さずに尋ねる横島。

「いいえ、ここが修業場の入り口です」

 その問いをニッコリと笑顔で切り返す小竜姫。
 さすがの横島も突っ込み様が無く、はぁ、と頷く。

「ではここで俗界の服を着替えてください」

 そう言って番台へとよじ登る小竜姫。
 一方、中に入ったがどう見ても銭湯の脱衣場としか思えない室内で佇む横島。

「ところで、当修業場には様々なコースが存在します。一体どのような修行をお望みですか?」

 そんな横島に小竜姫が声をかける。

「そうですね。別に急いでいるわけではないので、霊力の向上と肉体の鍛錬、身体能力の強化と
 チャクラの解放を教えてください」

 その要望に小竜姫は微かに目を細める。

「珍しいですね。霊力のパワーアップを望む方は多いですが、肉体の強化と共に霊気との同期、
 コントロールを関連付けて修行する方は滅多にいません。
 わかりました。今日からここに泊り込みで修行を行う事を許します。食事や寝床と言った最低限の
 衣食住はこちらで用意します。
 それでは、私は一足先にこの奥の修行場に行っていますので、霊衣に着替えたらそちらに来て
 下さい」

「解りました。では、これからよろしくお願いします」

 深々と頭を下げる横島に笑顔を見せると、小竜姫は奥へと消えていった。

「うーむ、結構プレッシャーを感じるな。でも不思議な感覚だ。
 あの小竜姫様と俺の魂に同化している小竜姫も、本来同じ存在なんだろうなぁ……」

 ブツブツ言いながら着替えをしている横島。

『忠夫さん、どうですか過去の私は?』

 いきなり小竜姫の意識が問いかけてきた。

「そうですね。
 俺としては初めて小竜姫様の実物を見た事になるんでしょうけど、想像以上の美人でしたね」

 横島の返事を聞いて、『そんな……想像以上の美人だなんて…』と嬉しそうにしている小竜姫の意識。
 ルシオラの意識が『そんな場合じゃないでしょっ!』と突っ込みを入れている。
 一方、横島は、

「でもやっぱり相対してみると、その霊圧の高さと強さに圧倒されるな。
 あの小竜姫様より強い未来の俺って凄かったんだなぁ……」

 等と自分に感心していた。

『忠夫さん、今は修行の事だけを考えてください。私をモノにするのはその後でじっくりと……』

 現実に戻ってきた小竜姫の意識が結構危ない事を言う。

「そうスね。得るものは大きいんですから、頑張って修行しないと!」

 そう言うと着替え終わった横島は表情を引き締め、“飛竜”を持って外へと出た。


「ああ、来ましたね」

 扉の向こうでは小竜姫が待っていた。
 横島は知ってはいたが怪しまれないように軽く辺りを見回す。
 そこはかつて何度も入った事のある、果てしなく続き地平線が見えるような広大な白い世界だった。
 床には何かで仕切りがしてあったり、不思議な方円が書いてあったり、岩のような物が置いてあったりもしているが、やはりインテリアの類はほとんど無く全体的に寂しい感じがする。

『懐かしいですね……。ここは変わっていません』

 等と呟く小竜姫の意識はこの際無視する。

「なるほど、異空間で修行を行うんですね?」

 横島がそんなに驚いた様子は無いため、少し気になった小竜姫が尋ねる。

「そう言えば横島さんはお幾つですか? 見たところ15〜16歳ぐらいですけど……」

「俺は16歳ですよ。ついこの前中学校を卒業しました。
 両親は仕事で海外に行ったんスけど、俺は将来成りたい物があるって言って、一人で残った
 んです。尤もGSが坊主に近い物だって説明したら驚いてましたけどね。
 だから高校には行って無いッス」

 裏の無い笑みを浮かべて答える横島。
 最初は反対した横島の両親だったが、自分の息子がかなり頭が良くその辺の大学出の新入社員よりよほどしっかりしている事に気がついており、中学生になってからは態度が変わって黙々と一人で鍛えている事を知っていたので、渋々許可を出したのだった。
 この年齢でこれだけの霊能力に目覚めていれば、横島のいう事にも一理あると思って小竜姫は頷いた。

「ではまず横島さんがどれだけの霊力をもっているか確認します。
 まずは普通に霊気を出してください」

 その言葉に頷いた横島は、特に気負った様子も無く気合を入れる。
 ブワッと噴出す横島の霊気。

「成る程……。大体霊圧70マイトぐらいですね。
 人間であればGSの中でもかなり高い霊力を持っている事になります。
 しかも穏行の法も修得しているとは……。わかりました、では全力でやってみてください」

 小竜姫に促された横島は、頷くと目を瞑り一瞬精神を集中させる。
 すると次々と体内のチャクラが廻り出し、霊力が練られ増幅していく。
 小竜姫の眼には輝きながら廻る5つのチャクラが見えていた。

「凄いですね……。独力で第5チャクラまで廻せるようになっているとは…。
 しかもかなり霊力を練り上げています。単純に見れば霊圧は350マイトですが、実質はその1.5倍
 ぐらいまで霊圧を上げる事ができそうですね」

 つまりチャクラを全開にし霊力を練り上げる時間があり、それを集束して導くものさえあれば、横島の霊圧は500マイトを超える威力を持っている事になる。
 感心して横島を賞賛する小竜姫。
 これだけの素質を持った人間に会ったのは初めてだった。

「霊力と文珠は理解しました。他に使える霊能力はありますか?」

 小竜姫の言葉に、横島は霊波刀とサイキック・ソーサーを出して見せる。
 さらに霊力を練り、集束させた強力な霊波砲を放って見せた。

「人間としては信じられない能力です。貴方は霊力を集束する能力に秀でているようですね。
 霊力のアップは後回しにして、まず残る2つのチャクラの開放を目指しましょう」

 小竜姫は当面の修行方針を決定した。
 さっそく霊力を抑制するリストバンド(竜神の武具の一種。呪で霊力を抑制させている)を手渡し、座禅を組ませて体内の霊気のコントロールの修行を開始する。

「そうです。体内の霊気の流れをしっかりとイメージするのです。
 そしてそれをより強固に練り上げて少ない霊気でも技を出したり、疲労を回復させたりできるように
 するのです」

 横島の体内の霊気の流れを霊視し、時には竜気を持って正しいイメージを教える小竜姫。
 そして効率的にチャクラを廻し、霊力を増幅する術を教えていく。
 この方法は、かつて未来の横島が斉天大聖老師と小竜姫に教わった事なので、その効果を知っている横島は黙々と霊気をコントロールし、練り上げる修行を行った。





 そして1ヶ月後、かつて同じ修行をしたことのある横島は修行に没頭できる環境にいたせいもあり、第7チャクラの解放を成し遂げていた。

「素晴らしいですね、横島さん。
 独力で第5チャクラまで解放していたとはいえ、まさかこれ程短期間で全てのチャクラを廻せる
 ようになるなんて、私の予想を大きく上回ってくれました」

 チャクラは身体の上にいくほど、廻せるようになるのは難しい。
 普通ならばせいぜい第2(丹田)か第3(臍)まで、才能があり修行を積んでも第4(胸)のチャクラを廻せるようになるのが精々なのだ。
 小竜姫から見れば、独学で第5チャクラまで廻せるように成った横島は驚異に値する。
 しかしそれでも額の第6、頭頂部の第7チャクラを廻すことは至難の技に思えたのだ。
 その誉め言葉に素直に喜んで見せる横島。

「ありがとうございます。これも修行に専念させてくれた小竜姫様のおかげです」

 そう返されて小竜姫も師匠として誇らしい。
 そしてこのような素質ある若者に修行を付けられる事を喜んでいた。
 今や横島の基礎霊力は、竜気溢れる妙神山で霊力を抑えての修行によって基礎霊力も80マイトまで自然に上がっていた。
 さらに全てのチャクラを廻す事を可能にしたために、普通にチャクラを廻して560マイト、精神を集中して霊気を練り上げ昇華(増幅)させる時間がありさえすれば、愛刀“飛竜”によって約1,700マイトもの霊力を攻撃、防御に使う事ができる。

「これで霊力のコントロールと増幅に関する修行は一段落しました。後は日々鍛錬を繰り返すだけ
 です。ところで横島さん、貴方の剣術の腕を見ていなかったのですが、これから私と少し手合わせ
 をしてみませんか?」

 漸く自らの目標を一つクリアし、霊力を抑えるために装着していたリストバンドを外してホッとしていた横島はこの申し出にギョッとする。
 何しろ未来でも純粋な剣術では小竜姫に未だ適わなかったのだ。
 今の自分では到底勝ち目は無い。

「あのー、今からでしょうか、小竜姫様……?」

 珍しくオズオズと尋ねる横島に楽しそうな表情を見せる小竜姫。

「はい。私は元々武神で本来は神剣の使い手なんです。
 この1ヶ月程、あまり身体を動かす修行がなかったので横島さんに少しお相手してもらおうと
 思いまして」

 にこやかに話す小竜姫だったが、その意思は固そうでとても諦めそうに無かった。
 未来の記憶と照らし合わせても、こうなった小竜姫の意思を変えさせることは難しいと思い出した横島は、渋々と立ち上がる。

「わかりました、俺ではとても相手にならないでしょうが、宜しくお願いします」

 そう言って愛刀“飛竜”を取り出す。
 最近では文珠同様、意識下にしまえるようになった為常に手元に置いてあるのだ。
 そして修行場で向き合い、お互いに剣を構える二人。
 お互い申し合わせも何も無く、滑るように動くと激しく剣をぶつけ合う。
 まるで流れるような美しい動きでさらに2回打ち合うと、再び元の位置に戻る二人。
 一見互角に見えるが、横島の頬を冷たい汗が流れ落ちる。

『やはり剣術に関しては小竜姫様は強い。
 俺の未来での記憶があるためにその太刀筋を知っているから受けられたが、まともに切り
 結んだら勝てない!』

 正眼に構えたまま対峙する横島だが、その実打ち込めずに攻めあぐねているのだ。

「不思議ですね……。まるで私の太刀筋を知っているような動きです。でも剣術の腕も中々ですね」

 一瞬不思議そうに小首を傾げた小竜姫だったが、久しぶりに強い相手と戦える事の嬉しさが勝ったのか意識を切っ先に集中させる。

『おそらくまだ超加速を使うことは無いだろう……。ならば次は変則的な太刀筋で来るだろうな』

 そんな事を考えていると小竜姫が自分の神剣の切っ先をスッと地面に着けるように下げ、そこから一気に踏み込んで剣を跳ね上げる。
 その強烈な一撃に“飛竜”を跳ね上げられた横島は慌てて間合いを取ろうとする。
 しかし小竜姫は振り上げた神剣を即座に振り下ろしてきた。
 佐々木小次郎が得意とした“燕返し”を使ってきたのだ。
 瞬間、小竜姫の意図を悟った横島は“飛竜”を離し、全霊力を足の裏に集めると弾けるように加速して小竜姫の懐に飛びこみ体当たりを見舞う。

「キャッ!」

 叫び声を上げる小竜姫ともつれ合って倒れる横島。
 すぐさま小竜姫の腕を取って神剣を奪おうとする。
 だがふと気がつくと今の体勢は正に抱き合っている状態だ。
 いかに未来で小竜姫と夫婦であり夜の営みを行った経験を記憶しているとはいえ、今の横島は肉体的には15歳であり、女性経験など無い。
 しかも未来の横島の影響で煩悩が低下し、美人と見れば飛びつくような事は無くなったが健全な肉体を持つ青少年である事に変わりは無い。
 美人な小竜姫の顔がすぐ傍にあり、肉体が密着した状態では当然の反応が起きてしまう。
 バッと考えられないようなスピードで立ち上がり距離を取る横島。
 そして慌てふためいて謝り始める。

「す、す、済みません小竜姫様!
 成り行きとは言え押し倒した上に抱き合うような事になってしまって!!」

 いきなり剣を取ろうとしていたのに自分から離れ、謝り始めた横島をキョトンとした眼差しで見詰める小竜姫。
 立ち上がって埃を叩き横島に視線を戻した瞬間、事の次第を理解しその顔を紅く染める。
 小竜姫もこれまで修行一筋で来たため、男女の関係には疎いところがあったのだ。

「い、いいえ……。今のは剣術の修行中のやむを得ない事態です。
 ……どうかお気になさらないよう……」

 そう言うものの未だ小竜姫の顔は真っ赤であり、とても修行の継続などできない状態であった。

「す、済みません。今日はもう終わりにしていいでしょうか?」

 狼狽しながら尋ねる横島に頷いて了承の意を伝える。
 それぞれが妙にぎこちない動作で修行場を後にするのだった。


「ふー、あの状況で俺があんなに狼狽するなんて思わなかったなー。
 俺だって記憶では小竜姫やルシオラと何度もヤッているはずなんだが……。
 身体と記憶のギャップが激しいんだよなー」

 そう言って空を見上げる横島。
 修行の後の温泉に入っているのだ。
 タオルを頭に乗せ、ブツブツと文句を言っている。
 尤も内心では小竜姫様の身体は柔かかったな…等と考えていたのだが。

『何を悩んでいるのよ。情けないわね』

「うわっ!? 突然なんだよルシオラ?」

 いきなり話し掛けて来たルシオラの意識に驚く。

『それにしても私が知っている昔の忠夫さんとはえらく態度が違いますね……。
 まぁ考えている事は忠夫さんらしいですけど』

 溜息をつくように小竜姫の意識も横島の意識の表層に現れる。

「な、何を言っているんだ、小竜姫!
 あのまま下手な事をしたら、竜の姿になって大変な事に成ったかもしれないんだぞ!」

 未来の記憶から、逆鱗に触れなくとも極度の興奮状態(いわゆるプッツン。夜の営みの際は別)では竜化する事を覚えていたのだ。

『それはそうかもしれません。恐らく今の私は忠夫さんに好意は持っているでしょうが、未来の私の
 ように愛しているわけではないでしょうしね』

 クスクスと笑いながらそう言う。

「わかっているならからかわないでくれ〜。俺だって自分の反応に戸惑っているんや〜。
 若さがなくなってしまったンかなぁ……」

 複雑な表情で溜息を吐く横島。

『駄目よそんな事で悩んじゃ! どうであれ、それが今のヨコシマだという事なんだから。
 今のヨコシマは未来で私達と連れ添ったヨコシマとも、この過去にいたヨコシマとも別の、新しい
 ヨコシマなんだから』

 ルシオラと小竜姫の意識に励まされ、普段の自分に戻っていく横島。
 自分の心に共に存在する二人に感謝しつつ、湯船から立ち上がると外へと向かった。


 一方同時刻、壁を隔てて女湯に入っていた小竜姫は思いがけない自分の反応にやはり戸惑っていた。
 横島が慌てて離れた理由を理解した時、何だかとても恥ずかしかった反面、ちょっと残念な気持ちを感じたのだ。
 確かに自分は横島という修行者(すでに弟子と言っても良い)に好意を持っている。
 素質がある上に、ひどく暖かい雰囲気で接してくるのだ。
 おそらく彼も自分に好意を持っているのだろう(そのレベルはわからないが)。
 最近、彼と一緒に修行をする時間が楽しくてしょうがないのだ。
 それはこれまでの自分の経験からも、考えられない程の高揚感だった。

『私……横島さんの事を好きなのかしら?』

 しかし男女の心理には疎い小竜姫は、自分が抱いた感情がLikeなのかLoveなのかはわからない。
 今後もずっと横島と一緒に修行をしていきたい、一緒にいたいという気持ちは確かにある。
 だが横島は人間であり自分は神だ。
 寿命も違うし、何より横島は修行が終わればこの地を去り、人間の生活が待っている。
 これ以上深く関わってはいけない。
 そう自分に言い聞かせる小竜姫であった。
 彼女は未だ知らない。
 すでに分かれてしまった未来と異なり量は少ないものの、横島の魂には神族因子と魔属因子が混ざっており純粋な人間のモノではない事を……。
 彼が望む姿にまでは普通の人間のように成長するものの、神族や魔族と同様永い時を生きる存在である事を……。




【管理人の感想】
 未来の横島と融合した時点で、既に最強化決定かと思いますが、それでも妙神山に修行にいくんですね。
 ということは、狙いは小竜姫のゲットでしょうか?(笑)

 まぁ、私は小竜姫も好きですので、何の問題もありませんが。(;^^)


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