フェダーイン・横島

作:NK

第9話




「ふん、こんな所に人間がいるとは……。ここに来た修業者か? 私と出会ったのが不運だったな、
 死んで貰おう」

 そう言うと魔力砲を放つべくスッと手を前に出す。

「ま、まずい!こんな何も隠れるところの無い場所じゃ、ヤツの魔力砲を避けられない」

 手に持っている武器は神通棍と破魔札ぐらいであり、とても目の前の相手では通用しそうにない。
 美神は相手の霊格を、先程横島と戦った小竜姫と同じぐらいだと正確に看破していた。
 こちらが主導権を握れないでこんな相手と戦うのは自殺行為なのだ。

「さらばだ、人間」

 そう言って魔族の掌に光と霊力が集まり、ボッと言う音と共に強力な魔力砲(推定1,000マイト)が放たれる。
 その魔力の塊は大きく、どうやっても避けられそうにない。

『まさか……アタシの人生ってこれで終わり…?』

 ドオォォッ

 そんな事を思いながらも、迫り来る魔力砲を前に美神の身体は本能的に回避行動を取ろうとする。
 絶体絶命のその時、さっと目の前に立ちはだかる人影を眼が捉える。

「しょ、小竜姫様! 助かった〜」

 その人物が誰かを悟り安堵の声を上げる美神。

 バシュウゥゥゥ〜

「仏道を乱し、殿下に仇為す者はこの小竜姫が許しません!! 私が来た以上、もはや往く事も
 退く事も敵わぬと心得よ!!」

 神剣を正眼に構えて魔力砲を切り裂いた小竜姫が見得を切る。

「美神さん、この相手は危険です。ここは私に任せて殿下の方をお願いします」

 顔をマントの人物に向けたまま指示を出す小竜姫。
 ここで残っても自分にできる事は少ないとわかっている美神は、珍しく素直に従った。

「わかったわ! 先生とピートも鬼門に向かって!」

 駆けだしていく美神には見向きもせず、マントの人物は小竜姫を見据える。

「音に聞こえた神剣の使い手、小竜姫か…! お前と戦えるとは嬉しいぞ…!!」

「私を知っているところを見るとお前も竜族かっ!? 何者です!!名乗りなさい!!」

 メドーサだと知っているがそれを悟られるわけにはいかないので、敢えて知らない振りをする小竜姫。
 それに答えずに手をマントにかけると、敵は剥ぎ取ったマントを広げるように小竜姫に投げつける。
 明らかに小竜姫の視界を塞ぎ、その隙を狙ってマントの後ろから一撃を入れようとする意図が見え見えだ。

「マントを目眩ましに使っても無駄です!」

 跳ね上げる神剣でマントを切り裂き、その影から迫る双叉矛を瞬時に打ち下ろした一撃で防ぐ。
 この程度の事は今の小竜姫にとって造作もない。
 薄紫色の長い髪に蛇眼だが整った容貌を持つ女(やや年増だが)がその姿を現し、小竜姫を挑発する。

「やるね、エリートさん!! だがそんなお上品な剣じゃあたしは倒せないよっ!」

「お前は…竜族危険人物ブラックリスト“は”の5番! 全国指名手配中の女蜴叉(メドーサ)ですね?
 では私の剣がどのようなものか試してみますか?」

 すでに横島と実戦のための剣法を磨いてきた小竜姫は、何ら臆する事も気負う事もなく冷静にメドーサと向き合い剣を構える。

「はんっ! 多くの死闘を潜り抜けてきたアタシの前じゃ、アンタの剣法なんて所詮道場剣法さっ!!」

 そう言って双叉矛に霊力を込めて変幻自在に繰り出すメドーサ。
 だが小竜姫は冷静にその全てを捌いていく。
 その戦い方を美神が見れば、昨日見た横島の戦い方と同じようだと思っただろう。

『くっ!? コイツ意外に実戦を良く知っている!?』

 小竜姫が自分の思っていたより遙かに実戦慣れした剣捌きを見せる事に内心舌打ちをしているメドーサ。
 さらに自分の一撃を受け流して体勢を崩させると、一転して厳しい攻撃を繰り出してくるのだ。
 そしてメドーサがそれを防ぎきると、即座に受けに廻って再び隙ができるのを待ち防御に徹する。
 これを巧妙に繰り返すため、メドーサとしては小竜姫を倒すどころか頃合いを見て引き揚げる事さえ難しい。
 要はつけ込む隙もなければ逃げ出す隙もないのである。
 自分の役目は逃げ出した天竜童子を騙して雇ったヤームとイームが捕まえるまでの陽動なので、このまま小竜姫と戦って足止めさせる事ができれば目的を達する事ができる。
 しかし、ちょっとでも油断したり背中を見せたりすれば、ほぼ確実に小竜姫に斬られてしまうだろう。

『こりゃあ計算外だったね……。小竜姫がこんなに強いなんてさ。
 たんなる剣術好きのエリートさんじゃないって事か!』

 霊力も剣技も殆ど互角の戦いを繰り広げながら、メドーサはこの戦いを楽しんでいる自分を感じていた。






 鬼門を無事通過した天竜、冥子、おキヌは冥子の式神インダラに乗って山道を麓に向かって疾走していた。

「おお、なかなか速いの〜」

 さすがの天竜も式神に感心している。

「インダラは〜誰も乗せていなければ〜時速300kmで走る事ができるのよ〜」

 式神の自慢をしている冥子は未だにビーコンの電波に毒されている。

『このままデジャブーランドにまっしぐらですね!』

 そんな逃避行を続ける3人の前に怪しい風体の2人組みが立ち塞がる。

「い、い、いたんだな、アニキ……!」

「へっへっへっ…、捕まえるぞ!」

 小太りでモヒカン刈りのパンクっぽいチビと、ヒッピー風のサングラスをかけたノッポはそう言うと正体を現す。
 どちらも2本の角を持つ龍人の姿に戻ると、小さい方が頭を下げて角を走ってくる冥子達に向ける。

「食らえっ!」

 小太りの角から放たれた光線はインダラの目前に着弾し爆発する。

「きゃあ〜〜!!」

「何事じゃ〜!!」

『ほわわ〜〜!!』

 その衝撃でインダラが急に立ち止まり、霊力を乱した冥子達を振り落としてしまう。
 ドサドサと落馬して地面と抱き合う3人。

「痛い〜! …一体何が起きたの〜?」

 後の二人は目を回している。
 涙目で起きあがった冥子の前に竜族の二人が立っている。

「おやっ? 気が付いたみたいだぜイーム」

「ほ、ほ、本当なんだな、アニキ」

 一見魔族にも見える強面の外見にパニックに陥る冥子。
 さらに悪い事に、落ちたとき擦り剥いたのか肘と膝から血が……。

「そっちのガキを素直に渡せば、お前達には何もしねぇ。さっ! 大人しく……うん?」

 本体のまま顔を近付けて脅すヤームを最後の切っ掛けとして、冥子の心は一気にぷっつんする。

「うぅぅ…お化けが……血が……ふえっ! …ふえ〜〜ん!!」

 ドカーンという爆発と共に出現する式神12神将達。

「わー! 何じゃコイツは〜?」

「あ、アニキ…コイツら式神なんだな……」

 さすがの竜族二人も防戦に追い込まれる。
 しかし形勢が逆転したわけではない。
 暴走した冥子の式神は見境が無く、天竜童子の事も襲ってしまうのだ。

「何じゃ〜!どういう事なのだ〜これは〜!?」

『あーん! 冥子さんがぷっつんした〜!!』

 衝撃で目が覚めた天竜とおキヌは叫びながら逃げまどう。
 冥子はただただ泣き叫ぶだけでペタリと座り込んでいる。
 すでに戦況は修羅場となっていた。
 辺り構わず破壊の限りを尽くす冥子の式神。
 角から光線を出して応戦するヤーム達。
 そんな中、まさに突進してくるビカラに踏みつぶされようとした瞬間、天竜は自分の身体がひょいと持ち上げられたのを知った。

「全く…俺達が苦労して守ろうとしているのに、何だって出てきちまうんだ? それも冥子ちゃんや
 おキヌちゃんまで一緒に?」

 予想外の事態に首を捻りながらも、天竜の首根っこを掴んでぶら下げた横島はすでに安全圏まで逃げ出していた。

「ひえっ!? …むっ? 余は助かったのか?」

『横島さんっ! あの…恥ずかしいです……』

 両目を手で覆っていた天竜はやっと眼を開けて状況を確認する。
 おキヌも眼を開け事態を理解すると顔を赤らめる。

「こらっ! お前! 無礼であろう、離さんか!!」

 自分が子犬や子猫のようにぶら下げられていると知った天竜が暴れ始める。
 おキヌは反対側の肩に担がれており、大分扱いはいい。

「やかましいっ! 勝手に抜け出したくせに何言ってやがるっ!! 小竜姫様に言いつけて折檻して
 貰うからな! 覚悟しとけよっ!!」

 その横島の言葉に青くなる天竜。
 一気にビーコンの毒電波も抜けたようだ。

「や、や、やめてくれっ! しょ、小竜姫のお仕置きは…過激なのじゃあ〜〜!!」

 涙目で抜け出そうと暴れる天竜。

『そんなこたぁ良く知ってるよ…』

 と内心ぼやきながらも(未来での経験者である)他人事なのでさらなる脅しをかける。

「これ以上暴れると、スペシャル・フルメニューでやって貰うように小竜姫様に頼むぞ!
 少し大人しくしろっ!! おキヌちゃんもな」

 そう言うとぷっつんしている冥子と、式神達にボコボコにされ殲滅されゆくヤーム達を放って置いて修業場へと走り出す横島。
 天竜もおキヌも脅しが利いたのか大人しくしている。
 彼も結界が一部破られ、小竜姫の霊圧が高まり戦闘になった事を察知したのだ。
 それに先程の小竜姫の心の声も、彼に融合する小竜姫の魂(コピー)を通じて届いていた。
 霊波迷彩マントと穏行の術で岩肌に張り付き見張っていた横島が、修業場の異変と理由はわからないが接近してくるる冥子達に気が付いて穏行を解こうとした時に竜族の気配を感じた。
 そこで今暫く様子を見ていると現れたのがヤーム達だ。
 未来の記憶で、この二人は天竜を殺す気はないと知っていた横島は、どの程度のお仕置きにするか考えながら見ていると、冥子がぷっつんして式神の暴走に巻き込まれている。

『まぁ竜族だし死ぬ事もあるまい…。
 それより今は天竜を安全な所に運んで小竜姫様に加勢しないとな』

 そんな事を考えながら小脇に天竜を抱え、おキヌを肩に担いでかなりのスピードで走っている横島。

「天竜童子、今小竜姫様は妙神山に侵入した魔族と戦っている。さっきの二人組もお前を攫いに
 来たんだ。みんながお前を守るために戦っているんだ。それくらいわかるよな?」

 横島があまり感情を感じさせない声で話しかける。

「なにっ!? 小竜姫と魔族が!?」

「一体何で3人揃って外に出てきた……話は後だな。小竜姫様を振りきったらしい。敵が来るぞ!」

 そう言って立ち止まると天竜とおキヌを降ろし、来るときに見た木製の土管のようなものが置いてある道の端へ行くように指示する。

「そこの影に隠れているんだ。それと、俺が指示したらその通りにするんだぞ!」

 コクコクと頷く二人を確認して、修業場の方を向いた横島は自分の数十m先にメドーサを確認する。

「お前が今回の敵か。小竜姫様の手から逃れてここまで来るとは大した物だ」

 今の小竜姫の腕前を熟知している横島が褒める。

「ふんっ! アタシも引き揚げるタイミングが取れなくて焦ったけど、さっきこちらで霊力がいきなり
 跳ね上がったのを感じてヤツの注意がそれに向いた瞬間を狙って離脱したんだよ」

 おそらく小竜姫とやり合ってできたのであろう。多少服が切れたりしてボロッとしている。

『冥子ちゃんのぷっつんか…』

 原因を察して首を振る横島。
 小竜姫達は眷族のビックイーター達を使って足止めをしているんだろう。
 だが小竜姫ならすぐに駆け付けてくるはずだ。

「まあいい。今度は俺が相手だ……そういえば名前知らんな」

「冥土のみやげに聞かせてやる! アタシの名はメドーサ。元龍神の一族にして今は魔族さ!
 それじゃあ死になっ!」

 いかにも人間風情が! という舐めた感じで双叉矛を付きだしてくるメドーサ。
 それを右手に霊波刀、左手にサイキック・ソーサーを出して受け流す横島。
 相手をなめているときのメドーサなどあしらうのは簡単なのだ。
 数度の攻防によってメドーサは、この人間が剣技だけなら小竜姫と同じぐらいに強い事を悟る。

「ちっ、何なんだいお前は? 霊力も人間にしては大きいし剣術もかなりの腕前だ。
 しかもアタシ相手にかなり余裕があるとはね!」

 段々本気を出してきたメドーサだったが、その攻撃は横島にうまくベクトルを変えられ空しく宙を切る。
 横島は第3チャクラまで廻して戦っているため、現在の霊力は450マイト程度である。
 “飛竜”も出していないし、手の内を隠しまくっているが、これでもメドーサを倒す事はできなくても負けないように戦う事は可能なのだ。
 無論、その表情程余裕があるわけでもない。
 今回は時間稼ぎと割り切っているので少し気が楽なだけだ。
 一瞬でも気を抜けばやられてしまう状況である事は変わらない。
 一方メドーサもすぐに横島の隠している実力に気が付き、このままでは不利になる事を悟った。

「今の俺ではお前を倒す事はできないが、負けないように戦いながら時間を稼ぐ事ぐらいはできる。
 どうする? 小竜姫様がすぐに来るぞ?」

 ニヤリと笑いながらも隙を見せない戦い方は、まさに先程までの小竜姫と同じだ。
 そんな事はメドーサにもわかっているのだが、実際に聞かされると微かな焦りを感じてしまう。
 そうすると視線はどうしても遮蔽物に隠れた天竜童子の方へと向いてしまう。
 横島もメドーサの視線から何を企んでいるか理解した。

「サイキック・猫騙し!」

 一瞬距離を取ったメドーサを追撃せずに目眩まし技を使う。

「何っ!」

 閃光に目を覆うメドーサ。
 その隙に天竜達の所に走り込んだ横島は天竜とおキヌを抱え上げた。

「いいな、大人しく俺の言うとおりにするんだぞ! その中に入るから静かにしてるんだっ!」

 有無を言わせない迫力に頷く二人。
 そう言って素早く木製土管の中へと潜り込む。

「はんっ! そんなところに潜り込んで…隠れたつもりかい!?」

 接近してくる小竜姫の気配を感じて焦りを感じたメドーサは、いつもの彼女らしくなく相手の行動の裏を考える事を怠った。
 事態があまりにも自分の望む展開になったので思いこんでしまったと言ってよい。

「殿下ー! 殿下ー!」

 小竜姫が叫びながら全力で飛行接近する中、メドーサは双叉矛に霊力を込めて全力で土管に一撃を加えた。

「死ねっ! 天竜童子!!」

ドカァ!!

ズガアァァン!!!

 メドーサの双叉矛が突き刺さった瞬間、土管が大爆発を起こした。

「ば、馬鹿なっ!??」

 いきなり起きた大爆発の熱と衝撃をもろに受けたメドーサは吹き飛ばされ、激しく大地に叩き付けられる。

「うぅ……く、くそっ……一体何が…?」

 ヨロヨロと立ち上がったメドーサだったが、身体と霊体にかなりのダメージを受けており、すでに間近に迫っている小竜姫の事を考えるとここにこのまま留まるわけにはいかない。
 プロだけあって撤退すると判断すればその行動は素早い。
 未だ頭は混乱しながらも、そのまま空に飛び上がると一目散に逃げていった。

「殿下〜! 横島さ〜ん!」

 そのすぐ後に到着した小竜姫は、メドーサの追撃など忘れ天竜と愛しい横島の名を叫ぶ。

「小竜姫様〜ここです〜!」

 崖の上から手を振ると、天竜を連れて飛び降りる横島。
 おキヌは一緒に浮かびながら降りてくる。

「ご無事でしたか! 殿下も! …よかった……」

 端で見ていてもわかるぐらいホッとした表情をする小竜姫。
 そしておキヌ達が見ている中、天竜を降ろした横島に涙目で抱き付く。

「しょ、小竜姫様…」

 しっかりと抱き付く小竜姫に、嬉しいやら恥ずかしいやらで顔を赤くしながらも腕を廻して抱き返す。

「よかった…さっきの爆発を見たときはわかっていたのに心配しましたよ……」

 涙を流す小竜姫の髪を優しく撫でながら、不謹慎にもその身体の柔らかさに愛おしさを感じてしまい思わず押し倒したくなる。

『ヨコシマっ!気持ちはわかるけど今はそれどころじゃないでしょ!』

 内なるルシオラの声にハッとすると、自ら気持ちの良い体勢を解く。

「大丈夫ですよ、小竜姫様。何とかメドーサも撃退したし、みんな無事みたいですし。
 そう言えば冥子ちゃんはどうなったかな?」

 名残惜しそうにしている小竜姫に優しい口調でそう告げると、置いてきた冥子のことが気になってきた。

「それにしても…横島とか言ったな。一体何がどうなったんじゃ?」

 先程からの事に何が何だかわからなくなった天竜が尋ねる。

「あぁ、俺達が入った土管に一定以上の出力の魔力に反応して爆発するように細工した霊力爆弾を
 仕掛けておいたのさ。俺達が中に入って密かに転移した事に気が付かなかったメドーサは、自分の
 魔力で爆弾を起爆させちまったって理由だ」

「おぬしは人間なのに何故瞬間移動などできるのだ?」

「その種明かしはこれだ」

 そう言って双文珠を出して見せる横島。

「これは文珠。コイツに“転移”と込めて発動させただけだ。
 あの術は…微塵隠れの術と名付けよう…」

 昔見た忍者漫画を思い出し感無量の横島を余所に、文珠を初めて見る天竜は興味津々と言った感じでそれを眺める。

「殿下。横島さんは人界唯一の文珠使いなのです」

 小竜姫が補足の説明をする。

「残してきた冥子ちゃんが気がかりです。天竜童子を攫おうとした二人組と戦っていた筈なんで、
 ちょっと見に行きましょう」

 そう言うと文珠を出して転移する。
 続いて小竜姫、おキヌも姿を消した。


「これは……凄まじいですね……」

「うーむ、凄まじい破壊力じゃ…」

『うわー、相変わらず凄まじーですね…』

「さっさと離れてよかった…」

 大地が抉れ、あちこちに陥没の後が残る現場を見ての第一声である……。
 ようやく泣き止んで(自分の驚異となる可能性を持つ者を排除し終わった)誰もいない事に気が付きオロオロしている冥子の前に、文珠で転移してきた2人(おキヌは小竜姫が抱えてきた)と自力転移してきた小竜姫が現れた。
 そして漏らした台詞が上のものなのだ。

「あ〜! 酷いわみんな〜私一人を置いてどこに行っていたの〜」

 非難するような目つきで拗ねる冥子。

「どこって……天竜童子を安全な所に連れて行くのが任務でしょうに…。その途中、魔族と遭遇して
 戦っていたんスよ」

「何だ〜そうだったの〜。私、見捨てられたのかと思って……私〜」

 グシッと再び涙目になる冥子を優しく抱き締めて宥める小竜姫。
 このままでは横島が抱き締めるだろうと察知して、それを防ぐために先手を打ったのだ。

「大丈夫ですよ。みんな仲間なのですから…」

 背格好から言うと小柄な小竜姫なので本来は逆なのだろうが、小竜姫は母をも感じさせる優しさで冥子を包み込む。
 出番を取られてちょっと悔しい横島だったが、小竜姫にそんな事を言おうものなら後が怖いので黙っていた。
 完全に忘れ去られているが、ヤームとイームの二人はボロボロになって突っ伏している。
 すでに動く気配はない……。

『横島さーん、この人達反応が無いんですけどー』

木の枝で突っついていたおキヌが眼を開けたまま気絶しているヤームを指差して近寄ってくる(何気に酷い扱い…)。

「さて、こいつらを捕まえて戻るとしましょうか、小竜姫様」

 ようやく機嫌が直った冥子と小竜姫に近付くと、ボロ屑となった二人を顎で指して次の行動を促す。

「そうですね。でも美神さん達もこちらに向かっているはずです。もう少し待ちましょう」

 頷いた小竜姫だったが、美神達を思い出し横島を留める。

「そう言えばあの人達はどうしたんです?」

「メドーサが侵入したので私はあいつの迎撃に廻り、美神さん達には殿下を追うようにお願い
 したんです」

 小竜姫もまさか冥子が式神を出して逃走しているとは思わなかったのだ。
 暫く待っていると、美神、唐巣、ピートが苦しそうに走ってきた。

「…よ、よーやく追いついたわ……。って、何で小竜姫様や横島君がいるのよっ!?」

「天竜童子様! 無事でしたか!?」

「よ、横島さん…どうしてここに…?」

 息も絶え絶えに疑問を口にする。

「俺は最初から外で見張ってましたからね。それに小竜姫様には瞬間移動の能力がありますから」

 事も無げに答える横島。

「そ、そう言えばそーだったわね。ところで小竜姫様、あの魔族は撃退したの?」

「ええ、私は一瞬の隙をつかれて逃げられましたが、横島さんが撃退してくれました」

『そーですよ! 横島さんが“微塵隠れの術”で吹き飛ばしたんです!』

 凄かったんですっ、という眼で横島を見ながら興奮気味に話すおキヌ。
 よくわからん、という顔をして説明を求める美神達に先程の解説をする横島。

「ふーん、なかなかずるいというか…美神さんみたいな戦い方をしますね、横島さん」

 とっても素直な感想を漏らしたピートを殴り飛ばす美神。

「でもあの魔族、小竜姫様と互角の霊格だったわよ? そんなの相手に出し抜くなんて凄いわね」

「今回は準備する時間がありましたからね。いきなり戦ったらそうはいきませんよ」

「ところで横島君。あそこでボロボロになっている彼等は何かね?」

 唐巣が相変わらず動かない二人組みを指して尋ねる。

「あっ! 忘れてた。アイツらは天竜を攫おうとした連中です。どうやらあのメドーサとかいうヤツの
 手下みたいですね。冥子ちゃんのぷっつんでああなったみたいですよ?」

 その言葉に何故か頷く3人。
 自分の嫌な思い出と重なったのだろう。

「とにかく戻りませんか? 何で抜け出したのか冥子さん達から聞かなければなりませんし、
 あの二人も取り調べないといけません」

 ピートの言葉に頷くと、今度こそ横島の文珠で修業場へと戻る一行だった。





「ふーん…。テレビを見ていたら急に東京デジャブーランドに行きたくなったの……」

 呆れるような表情で冥子とおキヌから事情を聞いていた美神が呟く。
 美神の前には項垂れた二人が座っている。

「そうですか……どうしてもデジャブーランドとやらに行きたくなったと……」

 こちらは同じく天竜童子に話を聞いていた小竜姫。
 連れてきたヤーム達を縛り上げて、往復ビンタを食らわして覚醒させた横島も戻ってきて呆れていた。

「「自分達の置かれた状況がわかっていたの(です)かー!!」」

 続いて怒鳴りつけられた3人は首をすくめる。

「あ〜ん…令子ちゃ〜ん、怒っちゃ嫌〜」

『済みません美神さん……』

「余、余が悪かった! た、頼むから許してくれっ! 小竜姫!!」

 怒鳴られた方は三者三様の反応を返す。

「ふー、冥子! こんな様じゃ今回の依頼料は払えないわよ!」

『そうくるんかい!』

 唐巣、ピート、横島は心の中で突っ込んだ。

「そんなの〜いらないわ〜。だから〜令子ちゃん、怒らないで〜」

 両手を組み涙目で懇願する冥子。

「でもおかしくないですか?
 天竜だけならいざ知らず、冥子ちゃんやおキヌちゃんまでこんな行動を取るなんて」

 横島のその一言で、怒っていた二人もその異常さに気が付く。

「そういやそうね。冥子はともかくおキヌちゃんまで…」

 首を捻る美神と横島を見詰める小竜姫。
 再び項垂れる冥子とおキヌ。

「というわけで、おいっ! そこの二人!!」

「へっ、へいっ!」

「は、はい…なんだな…」

「お前らが知ってる事を洗いざらい吐いて貰おうか?嫌なら消えて貰うが…」

 そう言って“飛竜”を抜く横島。
 すでにチャクラも廻っており凄まじいプレッシャーが室内を満たす。

「言って置くが自分達の立場はわかってるな? お前達は天竜童子誘拐殺害未遂の現行犯なんだぞ?」

「なっ!? ご冗談を! 幾ら俺達でもそんな大それたこたしませんよ。龍神王陛下の竜宮での
 会談が終わるまで閉じこめようと思っただけでさ」

「ふーん…。信じられんな」

 そう言ってニヤリと笑うとグリグリと“飛竜”の切っ先でヤームを突く横島。

「ほ、ほほほ本当なんだな。俺達…殿下を攫って閉じこめるだけだった聞かされたんだな…」

 自分達の想定外の事を言われ、そのあまりの大事に青くなる二人だがイームがヤームを庇う。
 虐めを止めて“飛竜”を下に降ろした横島は真面目な表情で話し始める。

「多分お前達の雇い主だと思うが…メドーサってヤツは確かに天竜童子を殺そうとしていたぞ。
 どうやら自分は陽動をかけて、お前達に天竜を攫わせた後に合流して殺すつもりだったらしい」

「そ、そんな……俺達は何も聞いてねぇ……」

「本当に知らなかったのか? ということは天竜殺害は全てお前達のせいにして一緒に殺すつもり
 だったのかもしれんな」

 未来では実際にそうだったし…と思いながら惚ける横島。
 そう言われて考え込むヤームとイーム。

「状況が理解できたかな? それでは全て話して貰おうか?」

 目の前に立つ横島だけでなく、後ろの小竜姫、美神、唐巣、ピートにも睨まれたヤーム達はがっくりと肩を落とした。



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