交差する二つの世界

作:湖畔のスナフキン

第ニ話 −やさしさのかたち− (03)




 シンジが第三新東京市に来てから、約三週間が過ぎていた。

 シンジの奇妙な同居人となった横島であるが、いつもシンジと一緒にいるわけではない。
 シンジが目覚めた時に横島がいない日も多く、そうなった場合、次の日になるまで横島がシンジの元にくることはなかった。
 横島がこちらの世界に来るのは、平均すると二日に一回くらいの割合であった。

(なあ、シンジ。少しは友達を作った方がいいんじゃないのか)

 教室の自分の席でボンヤリと考え事をしていたシンジに、横島が話しかけた。

「別にいいです」

 学校の中では、シンジは一人でいることが多かった。
 最初のうちは、シンジがエヴァのパイロットということもあり、好奇心で近づくクラスメートも多かったが、シンジの方が積極的に人と交わろうとしなかったため、しだいにシンジに近づく人間も減っていった。
 シンジが心を開いて接しているのは、今のところ横島だけであった。

「横島さんは、中学生の頃どうしてました?」

(まあ普通の生活してたな。つるんで行動する連中が何人かいて、そいつらと遊びまわってばかりいたっけ。
 ただ、なぜか親友だけはできなかったな)

「横島さんには、親友はいるんですか?」

(GS仲間では、雪之丞とタイガーとピート。
 それから、小学校からの付き合いでは、銀ちゃんがそうかな)

「僕には……親友なんていません」

(あせ)らなくても、時がくれば自然とできるさ)

 シンジには何気なく窓の方に視線を向けた。
 その視線の先には、一週間前から学校に通いはじめた少女の姿があった。

(そういえば、あの子もいつも一人だな)

 レイはクラスの中で、完全に浮いていた。
 必要最低限の会話以外は誰とも言葉を交わすこともなく、時間のある時は一人で本を読んでいるか、じっと窓の外を(なが)めているかのどちらかであった。
 ときおり委員長の洞木ヒカリがレイに話しかけるが、会話が成立することは(まれ)であった。

「綾波は……不思議な感じがしますね」

(そうだな)

 シンジの感想を、横島は否定しなかった。




 その日の昼休み、シンジは屋上で手すりにもたれかかりながら、ボンヤリと景色を(なが)めていた。

「屋上で孤独にひたる。まさにヒーローの図っちゅうやっちゃな」

 シンジの背後から、トウジとメガネをかけた少年──相田ケンスケ──が話しかけてきた。

「また君たちか……何の用?」

 シンジの素っ気ない態度に、トウジがムッとした表情を見せた。

「ドアホ! 誰がおまえなんぞに用があるっちゅーねん」

「用が無いのに話しかけるなんて、よほどヒマなんだね」

「用はあらへんけどなぁ、ワシはおまえのその態度が気に入らんのや!
 スカした態度ばかりとりやがって、自分を何様だと思うとんのや」

 トウジはシンジの襟首(えりくび)に手をかけた。そのまま、グッと締め上げようとする。

(やれやれ、またか)

 横島は苦笑した。絡んでくるトウジもトウジだが、シンジの態度も明らかに挑発的だ。
 だがこのままでは、前回と同じ結果になることは目に見えている。

(しかたないな。今回は助けるとするか)

 シンジを助けるため横島がシンジと入れ代わろうとした時、一人の少女の声が、その場にした少年たちの耳に入った。

「碇君……」

 少年たちが背後を振り返ると、右腕をギブスで(おお)い、(ひたい)と右目に包帯を巻いた少女の姿が、彼らの目に入った。

「非常召集。私は先に行くから」

 レイはそうシンジに伝えると、きびすを返してその場から走り去った。

「待ってよ。僕も行くよ、綾波っ!」

 シンジはトウジの手を振りほどくと、レイの後を追いかけていった。




『目標を光学で補足。領海内に侵入しました』

 新たな使徒が太平洋上から第3新東京市に向かって、空中を飛行していた。
 足のないイカというよりも、原始的な軟体動物を巨大化したような姿である。

「総員第一種戦闘用意!」

 ミサトの命令する声が、発令所内に響き渡る。

『第3新東京市、戦闘形態に移行します』

『兵装ビル、システム稼働率48%!』

「それにしても、碇司令の留守中に第四の使徒到来か。思ったより早かったわね」

「前は15年のブランク、今回はたったの三週間ですからね」

 ミサトが何気なく漏らした声に、発令所のオペレーターである日向マコトが答えた。

「こっちの都合は、おかまいないってことね。女性に嫌われるタイプだわ」

『使徒、第3新東京市上空に侵入しました』

『兵装ビル、攻撃を開始します』

 バシュバシュバシュ! ズドドドーーン!

 兵装ビルやその他の対空迎撃施設から発射されたミサイルが、使徒に命中した。
 しかしその攻撃は、使徒には全くダメージを与えていなかった。
 使徒は、まるで何事もなかったかのように、前進を続けている。

「税金の無駄遣いだな」

 副司令の冬月は、発令所の一番奥の席からメインモニターに映し出される戦況をじっと見ていた。




 シンジの通う第一中学校の生徒たちは、使徒の襲来に伴う特別非常事態宣言が発令のため、地下のシェルターに避難していた。

「ちっ、まただよ」

「なにがや、ケンスケ?」

「トウジ、見ろよ」

 ケンスケは、もってきた小型液晶テレビの画面をトウジに見せた。
 テレビの画面には、非常事態宣言の発令とシェルターへの避難を呼びかけるメッセージが映し出されている。

「なんや、非常事態宣言のテロップしか映っとらんやないか」

「文字ばっかし。僕ら民間人には、何も見せてくれないんだ。
 一度だけでいいから見たい〜〜。今度はいつ敵が来るかわからないし」

 ケンスケはトウジを相手にグチをこぼしていたが、突然口を閉じると、じっと考え込んだ。

「おい、ケンスケ。急に(だま)ってどうしたんや?」

「……トウジ。ないしょで外に出ようぜ」

「アホッ! 外出たら死ぬやないか」

「大きな声出すなよ、バカ」

 ケンスケが自分の口の前に、人差し指を立てた。

「こないだの時だって、結局あいつのロボットが俺たちを守ったんだぜ。
 それをトウジは、よく考えないで殴ったりしてさ。
 いわゆる『借り』ってやつがあるんじゃないのか?」

「うっ……」

 トウジは返事に詰まった。

「よし! それじゃあ、アイツの応援にいくとするか」

 ケンスケは、近くに座っていたヒカリに声をかけた。

「委員長。俺とトウジはトイレに行くから」

「んも〜〜、ちゃんと済ませてきなさいよ」

 ヒカリは二人に返事をかえすと、友人たちとの輪に戻って、中断していたお(しゃべ)りを再開した。







「いい、シンジ君。敵ATフィールドを中和しつつ、パレットの一斉発射。練習どおり大丈夫ね?」

「はい」

 発令所から、リツコがシンジに声をかけた。

「エヴァ初号機、発進!」

 ミサトの号令とともに、初号機が地表に射出された。




「待てよ、ケンスケ!」

 ケンスケとトウジは、市内を見渡すことのできる高台に上る階段を、駆け上がっていた。

 ハァハァ

 ケンスケは息をきらしながら、てっぺんまで登っていった。

「き、来た!」

 トウジがケンスケのいる場所についた時、使徒がビルの谷間を進んでいく姿が二人の視界に入ってきた。

 ガシャン! バシュウッ!

 使徒の前方の射出口から、エヴァンゲリオン初号機がその姿を現す。

 グググッ

 使徒は初号機が現れたのを見ると、前進を止めてその場で直立した。

「あれが使徒っちゅうヤツか。気色悪いのお」

 イカもどきの巨大な使徒の姿をみたトウジが、正直な感想を述べた。




 当然のことではあるが、これから使徒と戦おうとしているシンジは、離れて見物しているケンスケやトウジほど、余裕は持っていない。
 何もわからないままエヴァに乗せられた前回の戦闘とは異なり、多少訓練は積んでいたが、射撃にしてもエヴァの操縦にしても、ビギナーの域を出るにはまだまだ程遠かった。

(でも、僕しかいない)

 もう一人のパイロットであるレイは、未だケガから回復していなかった。
 頭と腕を包帯に包まれたレイは、シンジが見ても痛々しい姿をしていた。
 初号機はレイも動かすことはできたが、もともと零号機パイロットであるレイのシンクロ率は、シンジのそれと比べると幾分劣っている。
 結局、シンジが出るしかないことは、本人も含めて皆が理解していた。

「逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ……」

 わずかに希望となるのは、横島がいることであった。
 万が一、シンジが戦闘不能の状態に陥っても、横島が何とかしてくれる。
 もっともこのことは、シンジだけしか知らない内容ではあったが。

『最終安全装置解除』

 シンジはビルを模して設けられた射出口から飛び出すと、すかさず使徒の前面に回り込んだ。
 初号機のATフィールドで使徒のATフィールドを中和すると、手にしていたパレットガンを構える。

(目標をセンターに入れて──)

 シンジは、パレットガンの引き金を引いた。
 発射した劣化ウランの弾丸が、使徒の胴体に次々と吸い込まれていく。
 弾丸はほとんど命中し、劣化ウラン弾が衝突した時に発生する煙で、一時使徒の姿が見えなくなった。

「バカッ! 弾着の煙で敵が見えない! いったん止めるのよ、シンジ君!」

(シンジ、(あせ)るな!)

 ミサトの指示と横島のアドバイスに従い、シンジは射撃を中断した。

 ハァハァハァ

 シンジの息が、ひどく荒い。
 使徒を目の前にして、シンジの心は(あせ)りと恐怖心でいっぱいとなり、冷静さを完全に失っていた。

 シュル シュルシュルシュル

 もうもうと舞い上がる煙の向こうで、何かが動く気配がした。

(避けろ、シンジ!)

 だがシンジは、横島のその言葉を即座に理解できなかった。

 バシュバシュッ!

 その時、煙の中から現れた二本の(むち)が、往来の真ん中に突っ立っていた初号機に(おそ)いかかった。

 ズパッ

 一本の(むち)がパレットガンに命中し、その銃身を切り裂く。
 さらに地面に倒れた初号機のすぐ脇の地面を、二本目の(むち)が打ち叩いた。

「シンジ君、予備のライフルを出すわ。受け取って!」

 近くの武器庫ビルの扉が開き、エヴァ用のライフルが姿を見せた。
 だがそのビルにたどり着くまで、若干の距離がある。

「くっ!」

 シンジは初号機を立ち上がらせようとした時、目の前に使徒の姿があった。

(シンジ、右だ!)

 使徒の(むち)が、初号機に(おそ)いかかる。
 シンジは、とっさに初号機の体を右に転がし、ギリギリのところで攻撃をかわした。

(次は左!)

 今度は左側に体を転がす。
 今度もきわどいタイミングで、(むち)をよけた。

(今だ、突っ込め!)

 シンジは初号機の足を跳ね上げ、後ろに転がりながら立ち上がった。
 腕を十字に組んで頭をガードすると、かがんだ姿勢のまま使徒に向かって突っ込んでいく。

「わああああっ!」

 使徒は両手の(むち)を振り上げるが、初号機の方が早かった。
 初号機の体当たりを食らった使徒は、後方に弾き飛ばされてしまう。

(今のうちに銃を取るんだ)

 シンジは斜め前方にある武器庫ビルに近づき、武器庫の中からライフルを(つか)み取った。

(足を止めるな、シンジ!)

 だが、シンジの戦闘経験の少なさが(あだ)となった。
 その場で立ち止まり、銃を構えかけている初号機は、使徒から見ると格好の的となっていた。

 ビュンビュン

 一本目の(むち)が、アンビリカルケーブルを切断する。
 さらにもう一本の(むち)が足にからまり、初号機を地面に引き倒した。
 使徒がその(むち)を強く引っ張ったため、初号機はそのまま空高く放り投げられてしまった。




「おい、こっちに来るで」

「ウッソォ〜〜」

 トウジとケンスケの視界に、見る見るうちに大きくなっていく初号機の姿が目に入った。

 ズシーーン!

 トウジとケンスケのいた高台のすぐ脇の山の斜面に、初号機が背中から衝突していた。

「シンジ君、大丈夫?」

「ウウウッ……」

 発令所から呼びかけるミサトの声に、シンジがわずかに反応する。
 やがて衝突のショックから回復したシンジが、何気なく初号機の左手に視線を向けると、そこにはこの場所にいるはずの知人たちの姿が目に入った。

「シンジ君のクラスメートだわ!」

「なぜこんなところに?」

 MAGIが、画像検索でたちまち二人の身元を洗い出した。

「いけない! シンジ君、起きて!」

 ふと気がつくと、使徒が初号機のすぐ目の前にまで移動していた。

 シュバッ シュバッ

 使徒が(むち)を振り下ろした。シンジは無我夢中で、その(むち)を初号機の手で握り締める。

 バチバチッ!

『接触面が融解(ゆうかい)!』

「な、なんで早よ逃げへんのや!?」

「僕らがここにいるから、自由に動けないんだ!」

 トウジとケンスケは逃げようするが、目前で繰り広げられる戦闘の苛烈(かれつ)さに心を奪われ、手足をばたつかせるばかりであった。

『初号機活動限界まで、あと三分』

「シンジ君、一時退却よ。何とか立ち上がって!」

(そんなこと言われても……)

 うかつに初号機を移動させれば、二人は無防備のまま使徒にさらされてしまう。
 学校でいざこざがあったとはいえ、顔見知りの人間を見殺しにするような神経は、シンジは持ち合わせていなかった。

(横島さん、あの二人をエントリープラグの中に入れようと思うんですが)

(そうだな。安全な場所はここしかないだろう)

 シンジは横島の意見を確認すると、エヴァとの接続を保ったまま、エントリープラグをイジェクトさせた。







 シンジはエントリープラグをイジェクトさせると、外部スピーカーのスイッチを入れて、外の二人に呼びかけた。

「そこの二人! 早く乗るんだ!」

「何や。アレに乗れゆうとるで」

「行こう!」

 トウジとケンスケは、エヴァの体をよじ登って、エントリープラグの入り口へと向かった。

「待ちなさい! 許可の無い民間人を、エントリープラグに乗せられると思ってるの?」

 だがシンジは、ミサトの命令を黙殺した。

 ドボン ドボン

 エントリープラグの中に、トウジとケンスケが飛び込む。

「何やこれ!? 水やないかっ!」

「か、カメラが!」

 初めてエントリープラグに入った二人はLCLに驚いていたが、やがてエントリープラグの先端の光景に目を奪われた。
 そこには目前で初号機に(おそ)いかかっている使徒が大画面に映し出されており、さらにその使徒と戦うため、必死にエヴァを操縦しているシンジの真剣な姿があったからである。

「転校生……」

「話しかけないでくれっ! 気が散る!」




『神経系統に異常発生』

「異物を二つも挿入したからよ! 神経パルスにノイズが混じってるんだわ」

 リツコの目が、初号機の状態を示す画面に釘付けとなっていた。

「バカッ! 勝手になんてことするのよ。ちゃんと私の指示を仰ぎなさい!
 他にいくらでも方法があるでしょ!?」

 発令所から、ミサトがシンジを叱責(しっせき)した。

「くそおっ!」

 ミサトの言葉に反発したシンジが、新たな行動に出た。
 シンジは初号機の足の裏を使徒の胴体に当てると、握っていた使徒の(むち)を手放すと同時に、使徒の胴体を強く()った。

 ブンッ!

 今度は使徒が飛ばされる番であった。

 ガガガッ ズシーーン!

 初号機に()飛ばされた使徒は、空中で体制を立て直すこともできず、近くの兵装ビルに激突してしまう。

「今よ、後退して! 回収ルートは34番。山の東側に後退するのよ!」

「……」

 ミサトの命令を聞いたシンジは、ムスッとした表情になった。

「おい、転校生。後退しろ言うとるで」

 トウジがパイロットシートの後ろから、不安そうな表情でシンジの顔を(のぞ)き込んだ。

「後退……しない」

「「えっ!?」」

 トウジとケンスケの二人が、驚きの表情を見せた。

「してやらない」

「なに、駄々こねとんのや〜〜」

 トウジが後ろからパイロットシートを(つか)み、ガクガクと()さぶった。

(シンジ、本当にやるのか?)

(やります! 横島さん、指示お願いします)

 ミサトの命令に反発を感じていたシンジは、横島にアドバイスを求めた。

(いいか、シンジ。今あるライフルでは、使徒を倒すには威力不足だ。
 ライフルで弾幕を張って相手を牽制(けんせい)し、(すき)をみて(ふところ)に飛び込んで、コアを(つぶ)すんだ)

 幸いなことに、武器庫ビルから持ち出したライフルが初号機のすぐ脇に転がっていた。
 地面に激突するまで手放さなかったらしい。
 シンジは素早くライフルを(つか)むと、地面から起き上がってこちらに向かってくる使徒に照準を合わせた。

(撃て!)

 ドンドンドンドン!

 劣化ウランの弾丸が次々に飛び出し、使徒の体に命中した。
 命中した劣化ウラン弾がまたもや煙幕となり、使徒の体を包み込んでしまう。

(突っ込め!)

 シンジはライフルを投げ捨てると、使徒に向かって突進した。
 初号機を駆けさせながら肩からプログレッシブ・ナイフを取り出し、右手で握り締める。




『初号機、プログレッシブ・ナイフを装備』

「シンジ君、命令を聞きなさい! 退却だっつーの!」




「うわあああっ!」

 元より今のシンジは、ミサトの言うことを聞くつもりは全くなかった。
 シンジは大声でわめきながら、ひたすら初号機を突進させる。

(シンジ、右だ!)

 煙幕の向こうに気配を感じた横島が、シンジに指示を出した。
 シンジはすかさず、斜めに右に初号機をステップさせる。

 ビュンビュン!

 今まで初号機のいた空間を、二本の(むち)が切り裂いた。

「いっけえええ!」

 使徒は(むち)を戻そうとするが、初号機が肉迫する方が早かった。
 シンジは使徒の首の付け根にあるコア目掛けて、両手で握ったプログレッシブ・ナイフを突き出した。

 バチバチバチ!

 震動するプログレッシブ・ナイフの刃が、コアの中に深く刺さった。




『初号機、活動限界まであと30秒! 29・28・27……』

(どういうつもりなの、シンジ君?)

 自分の命令を無視して戦うシンジに、ミサトは戸惑うばかりであった。




「ぐはっ!」

 突然、シンジの背中に激痛が走った。
 使徒が初号機の背中に、先が(とが)った(むち)を突き刺したためである。
 (むち)は初号機を貫き、腹部からその先端が顔を(のぞ)かせていた。

「くっそおおお!」

 だがシンジは、激痛に苦しみつつも、初号機の手を(ゆる)めなかった。




『あと15秒! 14・13・12……』

「まずいわ! このままでは使徒を倒す前に、初号機のエネルギーが切れてしまう!」




(シンジ、俺に代われ!)

 カウントダウンが10に達した時、横島がシンジと入れ代わった。
 文珠で、すかさずシンクロ率を引き上げると、さらに二つの文珠を作り出した。

(いっくぞーー! 『充』『電』!)




『5・4・3……えっ!? 初号機の電圧が回復しています。活動限界まで、あと4分55秒!』

「「なっ、なにそれーー!」」

 ミサトとリツコの驚愕(きょうがく)した声が、発令所の中に響き渡った。




(じゃ、最後のトドメはよろしく)

 充電を終えた横島は、すぐにシンジと交代した。
 まもなく使徒のコアが光を失い、体もまったく動かなくなった。

『使徒、完全に沈黙しました!』

「なっ、なんなの、いったい……」

「ミサト、初号機の神経接続を切って。あのままじゃ、シンジ君が痛みで気を失うわ」

「そ、そうね。初号機の神経接続を切断」

『初号機の神経接続を切断しました』




 神経接続がカットされ、シンジはようやく痛みから解放された。
 だが腹部を貫かれた感覚が、なかなか消えなかった。

 ハァハァ

 シンジは腹を手で押さえながら、体を二つに折ってうつ伏せた。
 LCLの中にいても、脂汗がじわじわと出てくる様子が、はっきりとわかった。

「おい、碇……」

「碇、大丈夫か?」

 トウジとケンスケは、苦しそうな表情をしているシンジにそっと声をかけた。

「大丈夫。たぶん……」

 救出班に救助されるまで、シンジはその姿勢のまま動くことができなかった。



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