交差する二つの世界

作:湖畔のスナフキン

第四話 −アスカ、来日− (04)




 使徒はATフィールドを張って、初号機と零号機の攻撃を防いでいた。
 パレットライフルの弾幕が切れ目なく続いており、使徒は防御に専念しているかのように見えた。

「いけるっ!」

 バンッ!

 アスカは使徒の手前にある廃ビルを足がかりにして、弐号機を大きく跳躍(ちょうやく)させる。
 空中にいる間に使徒のATフィールドを中和すると、ソニック・グレイブを大きく振りかぶった。

「たあああぁぁぁーーっ!」

 バサッ

 弐号機のソニック・グレイブが、見事な切れ味を見せた。
 使徒は体を縦に真っ二つに切り裂かれてしまい、左右の肉片が海面に向かって大きく()り返った。

「お見事! ナイスよ、アスカ!」

「どうってことない敵でしたね」




「やっつけたかな?」

 シンジはきょとんとしながら、残った使徒の残骸(ざんがい)に視線を向けた。

(シンジ!)

(どうしたんですか、横島さん?)

(気を抜くな。まだ使徒の霊波が消えていない)

 シンジは(ゆる)みかけた気持ちを、再度引き締めた。
 パイロット専用のウィンドウでアスカがあっかんべーをしていたが、そんな映像は無視する。

 ピクピク

 数秒後、使徒の肉片がわずかに動き出した。

「アスカっ! まだ動いている!」

「えっ!?」

 ググッ グビュルッ!

 弐号機の眼前で、使徒の肉片が大きく脈動した。
 裂かれた二つの肉片それぞれに仮面とコアが浮き上がり、やがて全く同じ形をした二つの使徒に分裂した。

「なによこれ〜〜! こんなんインチキっ!」

「二人とも気をつけて! 来るわっ!」

 驚いて立ち止まるシンジとアスカに、ミサトが警告を発した。

 ザアアァァーーッ!

 足元を波立たせながら、ニ体の使徒が前進してくる。

「こおおのぉぉぉっ!」

 ザシュッ

 アスカが、再び使徒を縦に切り裂いた。
 だが、すぐさま使徒の傷がふさがり、元の姿に戻ってしまう。

 ズダダダダッ!

 シンジも、もう一体の使徒めがけて、パレットライフルを乱射した。
 使徒の左腕を吹き飛ばしたが、こちらもすぐに腕が再生してしまった

「ど、どうなっているんだ、こいつらは!?」

「アスカ、コアを狙って」

「わかってるわ、ミサト!」

 アスカがソニック・グレイブの刃を、使徒のコアに突き刺した。
 だが刃を引き抜くと、今までの攻撃と同じように、コアの傷が復元してしまった。

「だめ〜〜っ! ぜんぜんきかない〜〜っ!」

「こっちもだ!」

 ガッ!

 片方の使徒が、初号機の肩を(つか)んだ。

 ガキッ!

 もう片方の使徒も、弐号機の体を両腕で捕まえる。

「やだ、ちょっと放してよっ!」

 弐号機に乗っていた、アスカがわめいた。

 初号機はパレットライフルを捨て、使徒の腕を肩から手を引き離そうとした。
 弐号機も使徒を振り払おうとするが、力負けして振り払うことができない。

「放してってば!」

 弐号機は肩と足を掴まれ、空中に持ち上げられてしまう。
 おまけに、アンビリカルケーブルも切断されてしまった。

「きゃーーっ!」

 弐号機は、はるか遠くに投げ飛ばされてしまった。

(シンジ、代われっ!)

 弐号機を投げ飛ばした使徒が、初号機の方に向かってくる。
 戦況が不利なことを悟った横島が、すかさずシンジと入れ代わった。

「霊波刀!」

 横島は右手を放して霊波刀を出すと、左腕で掴んでいる使徒の右腕を斬り落とした。
 すぐさま使徒の腕が再生をはじめるが、腕が再生するわずかな間に、初号機は使徒の手を離れた。

(横島さん、左!)

 左手から、もう一体の使徒が接近してきた。

「サイキック・ソーサー!」

 横島は左手に出したサイキック・ソーサーで、使徒の突進を受け止める。
 さらに右手の霊波刀で、右側の使徒を切り裂いた。
 だが……

「くそっ! やっぱりダメか。全然効きやしない」

 使徒の体のどの部分を切っても、再生して元に戻ってしまう。
 際限のない使徒の再生能力に、さすがの横島も(あせ)りを感じていた。

(横島さん、使徒が!)

 ニ体の使徒が、同時に左右から迫ってきた。
 横島は左側の攻撃を受け止めようと、サイキック・ソーサーを構えるが、その前に使徒の体の一部がパレットライフルの弾丸で吹き飛ばされた。

(綾波!)

 後方にいた零号機が、側面に回り込んで援護(えんご)射撃をはじめていた。
 横島は左側の使徒を零号機にまかせると、右側の使徒を攻撃し、相手の左手の先端を霊波刀で斬り落とす。

「ん!?」

 横島は一瞬、目を見張った。
 今まで片端(かたはし)から再生していた使徒の肉体が、再生の(きざ)しを見せない。

(横島さん、左側の使徒も!)

 横島は左側の使徒に目を向けた。
 こちらも右側の使徒と同様、左手の先が無くなっている。

(もしかして……)

 横島は、とっさに(ひらめ)いた。

「レ……綾波っ!」

 横島は通信回線を開いて、零号機のレイを呼んだ。
 思わず「レイちゃん」と言いかけるが、(あわ)てて呼び直す。

「なに?」

「1・2・3で合図したら、左側の使徒の右手の付け根を攻撃してほしいんだ」

「やってみるわ」

 レイの返事を聞いた横島は、少し後退して使徒との距離をとった。

「よし。1・2・3!」

 合図とともに初号機を前に踏み込ませ、使徒の右肩を狙って霊波刀を振り下ろした。

 ザクッ!

 使徒の右手の付け根が大きく切り裂かれた。
 すぐに修復がはじまったが、傷口は半分ほどしか埋まらなかった。

「分かったぞ!」

(何がわかったんですか、横島さん?)

「左右の使徒の同じ場所を、同時に攻撃すればいいんだ」

 横島はいったん後退して、使徒から離れた。
 そして援護(えんご)射撃をやめるようレイに伝えると、両手にサイキック・ソーサーを出して両方の使徒に向かって投げた。

 バコン! バコン!

 サイキック・ソーサーの攻撃を受けたニ体の使徒が、初号機めがけて前進する。

(横島さん、こちらに来ます!)

「わかってるって。見てろよ……」




『本日午後3時58分15秒、第七使徒(おつ)の攻撃により、弐号機活動停止』

 画面には海に頭から突っ込み、海面から下半身だけ出ている弐号機の姿が映し出された。

『午後4時3分10秒、初号機の両腕から、剣の形状に収束したATフィールドが発生。
 午後4時3分15秒、第七使徒(こう)(おつ)のコアを、初号機のATフィールドが貫通。直後に爆発。
 午後4時4分40秒、パターン青消滅。第七使徒の殲滅(せんめつ)を確認』

 アスカはビデオテープを巻き戻すと、弐号機が活動停止してからの初号機の戦闘を、もう一度スローで再生した。

 弐号機が敗退したあと、ATフィールドを変形させたと思われる剣と盾を構え、初号機がニ体の使徒と戦いはじめる。
 途中から零号機が援護(えんご)に加わるものの、初号機一機で互角の戦いを繰り広げていた。
 やがて使徒の弱点を見切った初号機が、両腕の剣を両方のコアに同時に突き刺して、使徒を殲滅(せんめつ)させた。

 ギリッ

 アスカは、奥歯を強く()み締める。
 とにかく、悔しかった。

 戦闘中のシンクロ率も公表された。
 通常のシンクロテストではアスカの足元にも及ばないシンジが、戦闘中にアスカをはるかに越える95%のシンクロ率を出していた。

「アイツは、いったい何なのよ……」

 アスカのシンジに対する第一印象は、ちょっと変わった特技をもつ気弱そうな少年だった。
 だが、非公開であった第三使徒戦と第五使徒戦のビデオを見て、評価が一変した。

 得体(えたい)の知れない力をふるって戦う初号機とシンジに対して、アスカは不安と恐れを(いだ)いた。
 自分が今まで必死になって築き上げてきたもの──エヴァのエースパイロットの地位──を、奪ってしまうかもしれないと。
 そしてその恐れは、現実のものと成りつつあった。

 ──エヴァの隠れた能力まで引き出している。才能だよ、君の──

 加持はそう言っていたが、本当に才能だけの問題なのだろうか?
 おそらく、シンジは何かの秘密を隠している。
 ミサトやリツコにも隠しているところを見ると、よほど重要な秘密に違いない。
 アスカはそう考えていた。

(もしそうだとすれば、その秘密が分かれば……)

 アイツと互角に競うことが、可能となるかもしれない。
 アスカはある決心を胸に秘めながら、ビデオルームを出ていった。



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