『妹』 〜ほたる〜

作:湖畔のスナフキン

思いつき番外編 (05)




 広いインターネットの海の中には、さまざまなサイトが存在する。
 その中に、現役のGSが運営しているウェブサイトがあった。
 そこでは、ITに詳しい若手GSを中心として、除霊に関する活発な情報交換が行われていた。
 ITが苦手な横島は、つい最近までそのサイトのことを知らなかったのであるが……

「なるほど。そういう除霊方法もあるのか」

 ある日の夜のこと、そのサイトで開かれていた深夜の大チャット大会に、横島は参加していた。
 最初はおっかなびっくりしながらキーボードで文字を打っていたが、慣れてくるとチャットでの会話にしだいに没頭していった。

 一口に除霊といっても、さまざまなスタイルがある。
 陰陽師や修験道など、日本に古来から伝わるもの。六道家が、この代表格といえよう。
 それから、キリスト教の信仰を土台としたエクソシストなど。こちらの代表は、唐巣神父である。

 その中にあって、美神のように豊富なオカルト知識と、鍛えられた霊能力で行う除霊は、比較的新しいスタイルであった。
 ずっと美神の下で働いてきた横島は、それが当然だと思っていたが、こうして他のGSと交流してみると、昔ながらのやり方で除霊をするGSが多いことを知り、驚いていた。

 お札などの道具すらほとんど使用せず、霊波刀や文珠など己の能力だけで仕事をこなしていく横島は、実は異端児中の異端児であるのだが、横島自身は今までそのことに気づいていなかった。
 だが、こうして他のGSたちとチャットで会話をする中で、今まで自分が知らなかった知識に触れることができて、横島は新鮮な気分を感じていた。

「『よく今まで生きてられましたね』って、よけいなお世話じゃ」

 実のところ、横島は今までに何度も死にそうな目にあっている。
 もし、美神除霊事務所以外の職場で同じ仕事をしていたら、確実にあの世に逝っていたに違いない。
 もっとも、美神でなければ、そこまでハードな仕事は引き受けないだろうが。




「くーっ」

 ふと気がつくと、横島の横で蛍が小さな寝息をたてていた。

「やれやれ。自分から誘っておいて、先に寝ちまうとはな」

 このサイトのことを横島に教えたのは、蛍だった。
 学校の友だちとの会話の中で噂を聞いてから、蛍はこのサイトにとても興味をもっていたが、学生の自分ではまともに相手にしてもらえないだろうと思い、兄に協力を頼んだのである。
 最初は渋々しながら蛍の頼みを聞いていた横島だったが、チャットや掲示板で仕事の情報交換をしているうちに、自分ではまってしまった。

 今日も蛍と一緒にチャットに参加していたのだが、除霊現場の情報などマニアックな話題になってから蛍は話についてこれなくなり、チャットの流れを傍観するだけになってしまった。
 そのうち、眠気に襲われて眠ってしまったようである。

「しょうがないやつだな」

 横島はしばらく席を空けることをチャット仲間に伝えると、押入れから毛布を出して蛍のうえにかけた。

(本当、可愛い寝顔をしてるよな)

 蛍は、ルシオラの転生とも呼べる存在である。
 顔の造作はルシオラとそっくりなのだが、今は妹であることもあり、歳が幼い分だけ可愛らしさが感じられた。
 こうして寝顔を見ていると、自然と保護欲のようなものが掻き立てられてくる。
 横島は蛍の頬をそっと撫でてから、パソコンの前に戻った。

「三十分たっても目を覚まさなかったら、ベッドに運んでやるか」

 横島は蛍の寝顔をチラリと横目で見てから、中断していたチャットを再開した。


(お・わ・り)



(あとがき)
 以前に某所のチャットで即興で書いたSSを、一部編集してから公開しました。
 ネタを提供してくれた○○さんと△△さんに、この場を借りて感謝いたします。(^^)


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