GS美神 女子高生大作戦!

作:男闘虎之浪漫

レポート0.極楽亡者




「令子ちゃん、その荷物重たくない?」

「だいじょうぶでーす!」

 人通りの少ない郊外の住宅地を、二十歳くらいの男性と高校生くらいの年頃に見える少女が歩いていた。
 二人とも何かの器材らしき荷物を持っているが、特に女の子の方は自分の姿が隠れるほど多くの荷物を背負っている。

「私まだあまり霊能力がないから、荷物持ちでもしないとお兄様のお役にたてないんです!」

(普段はとてもいい子なんだけどな……)

 男が心の中でつぶやく。

「よし、ここで到着だ」

「へぇ〜〜、都内にもこんな場所が残っていたんですねー」

 二人が足を止めたのは、古びた洋館の入り口であった。
 築数十年は経過していると思われるその建物は、人が住まなくなってだいぶたっているらしく庭は雑草で生め尽くされており、建物の壁はひび割れて所々にツタをからませている。
 周囲はコンクリート壁で囲まれており、入り口の鉄門は鎖でつながれ固く閉ざされていた。

「取り壊そうとすると、関係者が次々と謎の死を遂げるんだ」

「悪霊のしわざなんですか〜〜」

「今までに何人かのGSが除霊に挑んだんだが、ことごとく失敗したんだ。それで横島除霊事務所の出番ってわけさ」

「うわ〜〜スリル万点ですね! 何だかドキドキします!」

 男は依頼人である不動産業者から受け取った鍵で、鉄門をつないでいる鎖の鍵を開けようとする。

「……えーと、令子ちゃん何を見てるのかな??」

 少女は男の後ろにまわって、前かがみで鍵を開けていた男の腰の辺りを熱心に眺めていた。

「横島さんのお尻の筋肉て、実に締まっているなーって思って(ポッ)」

(こ、このクセさえなければ……)

 しかし、時には危険を伴うGSのアシスタントに成りたがる人は、決して多くはない。
 ましてや、まだ目覚めたばかりであるが若干の霊能力をもつこの少女は、貴重な人材であった。

「……これから仕事だからね。気を抜かないように!」

「はいっ!」

 高額な報酬と引き換えに世に巣食う悪霊や妖怪と闘う彼等を、社会はGS(ゴースト・スイーパー)と呼んでいた。
 これよりこの洋館の悪霊の除霊に挑むのは、正規のGS免許を持つ男性と、その助手の少女である。
 男性の名は横島忠夫(21歳)、少女の名は美神令子(17歳)であった。





「えーっと、令子ちゃんドアを開けてくれないかな?」

「はーい!」

 令子は洋館のドアを開けようとした。

「あれ? このドア開かないですよ」

「古いから錆ついているのかな?」

 その時一陣の風が巻き上がるとともに、ドアの表面に男性らしき顔が浮き上がった。

「立ち去れ! 死にたくなければ失せろ!」

「キャーー!」

 令子は思わず、平手でその顔を引っ叩いた。

「へぶっ!」

「キャ〜〜キャ〜〜キャ〜〜」

「へぶしっ! へぶしっ! へぶしっ!」

 そのまま膝で連続して、男の顔を蹴りつける。
 3回蹴ったところで男の顔が引っ込み、そのままドアが内側に倒れた。

「あ、あれ? いなくなっちゃった……」

「今のが鬼塚畜三郎。死んだこの家の元主人さ」

 横島がジャンバーの内ポケットから、写真と手帳を出す。

「氏名:鬼塚畜三郎。性格は残忍非道・冷酷無比。持ち前の狂暴な性格で、犯罪組織のボスにのし上がったヤツさ」

「あれー、さっきと同じヘンな顔してますねー」

「気にいらないヤツは自分の部下でも容赦なく殺したらしい。最後は幹部たちの裏切りにあって死亡。享年32歳」

「死んじゃったらかわいいもんですね! パッパッパッーってお祓いしちゃいましょう!」

(この娘、意外と肝が座っているなー)

 GS稼業には、グロテスクな場面も決して少なくない。令子の性格はGS向きかもしれないと横島は思った。



「じゃ令子ちゃん、始めようか」

「私、降霊会するの初めてです〜」

 令子は丸いテーブルの真ん中に立てておいたローソクに灯りをともした。

「我が名は横島忠夫。この館に棲む者よ。何故死してもなお現世をさまようのか? 我に告げよ!」

 その時、テーブルの上の空間がゆがむと、鬼塚の顔が空中に現れた。

「くぉりゃーー! なめっとったらあかんどーー!」

「キャー! 出たわーー」

「帰れっちゅーのにズカズカ上がりこみやがって! このワシに出て来いちゅったのはお前か! この小娘!」

「イヤーー! アタシじゃないのねーー」

「おんどれアンダラっとったらかんどコラ!」

「何だかわからないけどゴメンナサイーー」

 ワケのワカラン言葉で令子をビビらせていた鬼塚に、横島が蹴りを入れた。

「このアホ、日本語でしゃべれ!」

「グハァッ!」

「人がせっかく話し合いをしてヤローっていうのに、何ケンカ腰でからんでんだ」

「おんどれワシを誰やと思うてんねん! 泣く子も殺す鬼塚──」

「その残りカスだろーが。何をエラソーに」

 横島が靴のかかとで鬼塚の顔を踏みにじる。

(なーーんだ。こいつ、てんで弱いじゃない)

 横島が鬼塚の霊を手玉にとっているのを見て、令子は急に気が大きくなった。

「さっきはよくもアタイをビビらせてくれたわねー」

「ガーー!」

 鬼塚が令子に襲いかかる。

「キャーッ」

 令子は壁際まで吹き飛ばされてしまった。
 すかさず横島が、鬼塚の動きを封じる。

「令子ちゃん、まだ実戦経験少ないんだから、うかつに手を出しちゃ駄目だよ」

「はーい……」

 頭をクラクラさせながら、令子は何とか返事をかえした。





「クソッ、なんでワシがこんな若僧に……」

「あいにくだったな、俺は並のGSとはレベルが違うんでね」

「覚えてろっ!」

 月並みな捨てゼリフをはくと、鬼塚の霊は消えてしまった。

「やっつけちゃったんですか?」

「いや、まだだ。一時的に逃げただけだから、またやってくるだろうな」

「でも、もう日が暮れちゃいましたよ」

 令子の言葉どうり、既に周囲は暗闇に包まれている。

「仕方ない。こうなったら長期戦だ。結界をはって相手の出方を見よう」

 横島は持ってきた荷物をゴソゴソと開くが……

「あれ? 寝袋を入れ忘れたみたいだな。令子ちゃんの荷物に入ってない?」

「こっちにありますよー。ひ・と・つ・だ・け♪」

「なにーー!」

 令子が荷物から取り出したのは、二人用のシュラフであった。

「これも何かの導きですわ。横島お兄様、一緒に寝ましょう♪」

(なーんて、細工したのは実は私なんだけど♪)

「い、いや、まだ仕事中だし、もし間違いがあったら……」

「えー大丈夫ですよー。お兄様に限って間違いなんかありませんわ」

(もし間違っちゃったら、そのまま押し切っちゃうしかないわね……フフッ)



 結局、横島は部屋の外で見張りをすることにした。

「じゃ令子ちゃん、寝てていいけれど、絶対に結界から出ちゃ駄目だよ。中にいれば安全だから」

 そう言うと、横島は部屋の外に出ていった。

「もう、本当にお兄様ったら固いんだから……。固いのはアソコだけでいいのに」

 とても現役女子高生とは思えないオヤジギャグを飛ばすが、幸いなことにだれも聞いていない。
 すぐに寝つけなかったので、ポテトチップスをかじりながら、ロウソクの灯りでコミック本を読み始めた。

「えーやだー、このワネットって娘なかなかやるじゃない。年下の王子様を手玉にしながら年上の騎士にちょっかい出すなんて、けっこう器用ね」

 どうも令子には、思ったことを無意識のうちに口に出すクセがあるようだ。
 完全にリラックスしていて緊張感のかけらもないが、それは所長の横島を信頼しきっているからであろう。



 一時間ほど経過した。令子はまだコミックを読み続けている。
 部屋の外には横島がいるはずだが、物音一つしない。彼も眠っているようだ。

「そろそろ寝ようかしら。夜更かしはお肌の敵だし……」

 コミックを荷物の中にしまってシュラフの中にもぐり込もうとした時、令子は部屋の隅に霊気を感じた。

「誰!?」

「すいません……私の話を聞いてくれませんか?」

 部屋の隅から現れたのは、若い男性の霊であった。

(えっと……とりあえず結界の中にいれば安心ね)

「私は近所のラーメン屋の店員でした。それがある日、この家に出前を持ってきた時に……」

「それで?」

「うっかりどんぶりをひっくり返して屋敷の主人の体にぶちまけてしまったんです。その後、すぐにズドンと撃たれて死にました」

「はいはい、でもそんな死に方したのアンタだけじゃないみたいよ。なんでアンタ成仏しないの?」

「私はただの民間人なんです。人生これからって時にいきなり死んで……。それで現世に未練がいっぱいあって成仏できないんです」

「うーん、困ったわね。どうしたら未練がなくなるかしら?」

「それでものは相談なんですが、表にいる男の人、けっこう格好いいですよね?」

「横島お兄様のことね!」

「私が彼にとりついてみるというのはどうでしょう? 少し彼の体を借りて、やりたかった事をやれば未練が晴れると思うんです。もちろんタダとは言いません」

「ほ、報酬は何かしら?」

 令子はゴクリと唾を飲み込む。

「もう出血大サービスで大奉仕します。彼の体でめくるめく一時を提供することを約束します!」

(あぁ、横島お兄様の逞しい胸が私の胸を押し潰して、そのままとろけるような口づけを交わし、そして横島お兄様の手が私の体をまさぐるのね……。生まれて17年、生きててよかったわ!)

「あのー。もし、聞こえますか?」

 既に別の世界に飛んでしまっていた令子であった。





(……次の日の朝、ベッドを出た私はお兄様のワイシャツを着て夜明けのコーヒーを入れるのね)

「あのースミマセンが、そろそろ戻って……」

(コーヒーの香りで目覚めたお兄様は、裸にYシャツ姿の私を見てムラムラしてしまい、もう一度私をベッドに押し倒すの。そしてそのまま……)

「まだ話は終わってないんです!!」

 とうとうしびれを切らしたのか、男の幽霊が大声をあげる。
 その声でようやく令子は、我にかえった。

「あらヤダ、ごめんなさい。ちょっと考え事にふけっちゃって」

「えーと、それであなたにお願いがあるんです」

「何をすればいいの?」

「実はですね……」



 令子は、そっと部屋の入り口のドアを開け、周囲の様子を探る。
 横島はドアの近くで結界をはり、その中で仮眠していた。

(眠っているみたいね……)

 令子は忍び足で横島に近づく。
 そして、横島の周囲に書かれている魔方陣の結界を、足で消した。

(まず結界を消して、それから額に印を書くのね)

 令子はペンで、男の幽霊から教わった印を横島に書いた。

「もらったーーー!」

 その様子を離れた場所で見ていた男の幽霊が、横島に突っ込んでいく!
 だが……

「甘いな」

 眠っていたとばかり思われた横島がむくりと起きあがると、脇に隠していた霊体ボーガンを発射した。

「グワァァァ!」

「そいつは特製の矢さ。おまえが成仏するまで決して抜けないぞ!」

「ギャーーー!」

 男の幽霊は悲鳴をあげると、逃げていった。
 その様子をボーゼンと見ていた令子だったが、幽霊が逃げていくと泣き出してしまった。

「ふぇぇぇーーん。悪気はなかったんですーー」

「話は後だ。ヤツを追うぞ」

「でもあれは鬼塚じゃなくて……」

「令子ちゃん、騙されたのさ。あれは鬼塚が化けた姿だ」

「えーーー!」

「悪霊は人の心の弱い部分を狙ってくる。こうなることは予測していたんだ」

 横島と令子は、幽霊を追って三階まで登っていく。
 そして行き止まりになった場所の壁際に、男の幽霊の姿があった。

「鬼塚、正体をあらわせ。もうバレているんだ」

「ク、クソッタレがぁ!」

「こんな場所に逃げてくるとはな。さーて、この場所に何があるんだろうね?」

「な、何もないわ。開けたらコロス!」

「お、隠しボタンみっけ。それポチッとな」

 横島は壁に隠されていたボタンを押す。
 すると壁の一部が開き、隠し部屋が現れた。
 部屋の中には本棚があり、そこには多くの本が並んでいる。

「見るなーー! やめろーー!」

「えーと何々、『鬼塚畜三郎 愛の詩集 第568巻』?」





 令子も、手近にあった本を開いてみた。

「えーと、『青空に広がる虹、それは君を愛する僕の心のあらわれ』 なにこれ〜〜」

 令子がケタケタと笑い出す。

「鬼塚、なんだコレ?」

「知らん! わしゃ何も知らん!」

「知らないわけないだろう。お前がここに逃げ込んだってことは、ここはお前にとって重要な場所ってことだからな」

「うがあぁぁぁ!」

「これを世間に知られるのが恥ずかしくて、成仏できなかったってことか?」

「次のページは……『夜空にきらめく満天の星空。ひとつひとつがダイヤモンドのように輝く。君が望むならばその一つをとってプレゼントしよう』 ヤダ〜〜」

「やめてくでー。お願い、読まないで!」

「オジサンって本当に……『救いようのないバカ』ね!」

 令子の一言は、鬼塚にとって最後の一撃であった。

「だあぁぁぁ〜〜〜」

 鬼塚は悲鳴をあげるとともに、徐々に姿が薄くなり、やがて消えていった。

「最後のよりどころを失って、ようやく成仏したな」

「これ、どうします?」

 令子が本棚にずらりと並んでいる鬼塚の詩集を指差す。

「まぁ武士の情けだな。後で燃やしておくさ」

「ところで横島お兄様……」

「なに?」

「お兄様は私を利用したんですね……乙女の純情を踏みにじるなんてヒドイわ!」

「令子ちゃんだって、幽霊と手を組んで、俺に何か悪さしようとしただろう」

「それとこれとは話が別です! 私、怒っているんですから」

 令子はスネたような表情をして、斜め横を向く

「わ、わかったよ……。今回はよく働いてくれたから、何かお礼をしないとな」

「横島お兄様、だから好き!」

 急に令子が、笑顔に戻る。

「お礼は何がいいかな?」

「ココ♪」

 令子が、自分の唇に指をあてる。

「しょうがないなー」

 チュッ

「お兄様、ずる〜い!」

 横島がキスしたのは、令子の頬っぺたであった。

「そこはまだダメ! 令子ちゃんが大人になってからね」

「じゃ、高校を卒業したらいいんですね♪」

「いや、それとこれとは話が別なんだけど……」

 必死になって話を誤魔化す横島であった。



「よし、荷物は全部持ったし引き上げるか。令子ちゃん、遅くなったから家まで送っていくよ」

「えー、泊まっていかないんですか?」

「まだ電車が動いているしね、それに……(世間の目がこわいし)」

「私、お兄様と一緒ならどこでもいいですよ。あっ、あそこのラブホ『空室あり』ですって!」

「こ、こら、腕を引っ張っちゃだめだ〜〜」

「もう、お兄様のケチ!」

 執拗に女子高生から迫られる横島。世間の男たちはそんな君に嫉妬の視線を浴びせているぞ!
 はたして横島の貞操はいつまで守られるのか!? 作者にもわかりません……


(レポート0.極楽亡者 完)



【あとがき】

 この作品は、夜華の小ネタ掲示板に掲載された『反転』(作者:純さん)という作品が元ネタです。
 最近、CWWWのGTYにも掲載されています。
 純さんの『反転』を読んだときから、これは続けたら絶対面白くなると確信していたのですが、
 いざ自分で書いてみたらやっぱり面白かったです。(笑)
 純さんの了解を得た上で、作品を夜華の小ネタ掲示板に投稿しました。(保管倉庫にも登録)

 なんつーか、本当に自分は原作の美神が嫌いなんだなぁって、つくづく感じました。
 横島がカッコイイのは自分が書くSSに共通しているのですが、横島化した美神が妙に可愛いし、それに面白いですね!
 また、そんな美神をちょっとイジめて楽しんでいる自分がいたりもしました。

 ちなみに令子の性格は、嫌味にならない程度に横島度を押さえています。
 そう考えると原作の横島って、本当にヒドイ立場で準主役を続けていたんだなーとつくづく感じました。(;^^)


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