GS美神 女子高生大作戦!

作:男闘虎之浪漫

レポート1.横島除霊事務所出動せよ!




 西暦200X年、東京都心は再び開発ラッシュを迎えていた。
 高騰していた地価が下がったことと、そして高層ビルの容積率の規制が緩和されたために、超高層ビルの建築が可能となったためである。
 そして、増えはすれどもなかなか減らない霊的不良物件の問題を解決するため、GS業界には好景気が訪れていた。

「でも、世間で騒ぐほどボロイ商売じゃないんだよ、令子ちゃん」

 横島除霊事務所の所長である横島忠夫が、助手の美神令子に業界事情をレクチャーしていた。

「確かに仕事はいっぱいあるけれど、発注元だってそんなに(ふところ)が豊かなわけじゃないんだ。日本全体ではまだまだ不景気だしね」

「えー、でも超高層ビルとかを建てるような企業が多いんでしょう? GSに払うお金をケチッたりするんですか?」

「バブルの前は建物や土地の値上がりを見込んで銀行が大量にカネを不動産業者に融資していたんだけれど、今はビルの賃料(ちんりょう)以外の収入はほとんど見込めないんだ。ただ霊的不良物件のテナントになる企業なんていないから、仕方なくGSに仕事を依頼してくるわけさ」

「いろいろ大変なんですね〜」

「だから相手も、仕事料は値切るだけ値切っくる。令子ちゃんが学校にいっている間は、顧客と金額の交渉ばかりさ。もっとも会社勤めのサラリーマンの値切りなんて、先祖代々商人の血筋を引いた俺から見るとまだまだ甘いんだけどな」

(でも横島お兄様って、口で言うほどガメつくはないのよね。いつも最後で引いているし)

 そんな令子の考えを察したのか、横島は説明を続ける。

「まぁバブルの頃と違って無尽蔵に仕事があるわけじゃないから、とことん値を釣り上げて顧客の信頼を失うようなマネはしないさ。『損して得とれ』が大阪商人の極意なんだよ、令子ちゃん」

(本当にお兄様って、お人よしなんだから。まぁ、そこもいいところなんだけれど♪)

「さて、次の仕事はと……」

 横島はノートパソコンを開き、次のスケジュールを確認する。

「えーと……『人骨温泉ホテル』か。久しぶりに地方だな。露天風呂に霊が出て客が激減。仕事を終えたら、温泉でゆっくりできるかな?」

「はーい、はいはい! お兄様、連れていってください!」

「そうだね、一人じゃキツそうだから、令子ちゃんも一緒に行こうか」

(露天風呂か……、ひょっとして“混浴”かな? これはもう、私のナイスバディでお兄様を悩殺するしかないわ!)

 すでに妄想モードに突入していた令子であった。



 同じ週の週末、人骨温泉へと続く道路の途中に二人の姿があった。
 横島も令子も、山のような荷物を背負っている。

「道路が、がけ崩れで、通行止めになっていなければ……」

「ハァハァ、私もうダメ!」

 女性らしい体型にも関わらず体力自慢の令子であったが、とうとう限界に達したらしい。
 荷物を背負ったまま、道端に座り込んでしまった。

「まずいな、約束の時間に遅れそうだ。携帯も圏外のままだし……」

「お兄様、先に行っててください。ちゃんと追いかけますから〜〜」

「ごめん令子ちゃん、先に行ってるよ。このまま道沿いにまっすぐ進んでいけば、ホテルに着くから」

 横島は令子をおいて、そのまま先に行ってしまった。

「ハァハァ、さ、酸素が……。標高が高いから空気が薄いのね〜〜」

(あの人……あの人がいいわ……ようし!)

「あ、ダメ。お兄様がいなくなると力がでない……。こうなったら妄想パワーで乗りきるしかないわ!」

 令子はアブナイ人のような表情になったまま、一歩二歩と足を進める。

「えいっ!」

「キャー!」

 道路の脇から出てきた巫女装束の少女が、令子に体当たりをしてきた。
 フラフラしながら歩いていた令子は、横倒しになってしまう。

「大丈夫ですか! ケガはありませんか。私ったらドジで……」

「アンタ、今『えいっ!』って言ってなかった?」

「あぁ、今のショックで持病のシャクが……」

「今の時代のどこに、シャクなんて病気があるのよ!」

「すみません、そこに薬があるので取ってもらえないでしょうか」

 令子が少女の指差す先を見ると、飾り付けをした(ほこら)らしき建物があり、いかにも取ってくださいとばかりに置かれている薬のビンがあった。

「見るからにアヤシそうなんだけれど……」

「スミマセン、お礼はしますから」

 少女が懐から財布を見せる。

「仕方ないわね。一万円でいいわ」

 令子は返事も待たずにそう決めつけると、(ほこら)の入り口に向かう。
 しかし入り口に立った時、令子は危険を告げる霊感を感じた。

 バッ!

 令子が後ろに飛びのくと、今まで立っていた場所に大きな岩が落ちてきた。

「ちょっとアンタ!」

「ああ、また失敗……。せっかく死んでくれそうな人を見つけたのに……」

 そう言い残すと少女の姿は、かき消すように見えなくなってしまった。





「巫女装束の15〜16歳くらいの少女の幽霊が出たって!?」

 横島の後を追って、ようやく『白骨温泉ホテル』に到着した令子は、先ほどの事件のあらましを話した。

「心あたりはありますか、支配人さん?」

「いや、うちに出る幽霊とは違いますね。うちに出るのは年齢でいうと22〜23歳くらい、ショートカットの女性です」

「一致点がないな。別件かな?」

「そんなこと言っても、私殺されかかったんですよ〜〜」

「確かに気になる話だな……。後で調べた方がいいかもしれないな」

「すみませんが、まずは現場を見てもらえないでしょうか?」


 横島と令子は、ホテルの支配人に案内されて、現場の露天風呂に向かった。

「ここには霊の気配はないな……自縛霊じゃないみたいだ」

「こ、ここ、混浴ですよね!? 温泉に誰か人が入ってみないと、幽霊が出て来ないんじゃないかしら?」

 その時、横島が手に持っていた見鬼クンが激しく反応するやいなや、横島たちの前に女性の幽霊が現れた。

「もぉ〜〜、バカーー! もう少しで横島お兄様とお風呂に入れたのに!」

「霊能者の方とお見受けしました。すみませんが私を助けていただけないでしょうか……」

「なんであんた、あと5分待てないのよ〜〜。お兄様の裸体を鑑賞できる機会が台無しになっちゃったわ!」

 横島たちの前に現れたのは、支配人が言ったとうりの22・3歳くらいの年齢の女性の幽霊であった。
 明らかに先ほど令子が見た少女の霊とは、違う霊である。
 荒れる令子はいったん放っておき、横島はその幽霊と話しはじめた。

「えーっと、まず名前を聞かせてくれないかな?」

「私は氷雅(ひょうが)と申します。M女子大のワンダーホーゲル部に所属していました」

「で、どうしてここに出てくるの?」

「はい。冬山に登山中に仲間とはぐれて遭難してしまったのです。しかし遺体は発見されず、ずっと放置されておりました」

「わかった。それなら遺体を捜して供養すれば、おとなしく成仏するんだね?」

「元より、それが願いです」

「もうお兄様ったら、こんな気のきかない女の人なんか、封印して燃やしちゃえばいいんですよ!」

「うーん、でもあのお札は1枚300万円するからな〜。使っちゃうと今回の仕事赤字になるし、説得してカタがつくのなら正直その方がありがたいな」

「でも、どうやってその人の遺体を探すんです?」

氷雅(ひょうが)さん、遺体の場所はわかりますか?」

「すみません、だいたいの位置しかわからないんです」

「じゃ、誰か一緒にいって探さないといけないな……」

(幽霊とはいえ、この女の人けっこう美人……。二人きりにさせておくのはマズイわ!)

「お兄様、私が行きます!」

「でも冬山の登山ってキツイよ、大丈夫かな?」

「大丈夫です!」

「じゃ、そっちは令子ちゃんにお願いしようかな。俺は令子ちゃんが見たっていう幽霊を探すか」



「あの……、氷雅(ひょうが)さん?」

「はい、なんでしょう」

「あとどれくらいかしら」

「そうですね、2時間くらいかしら?」

「ずいぶん吹雪(ふぶ)いているんですけど……」

 ホテルを出発してから約1時間、令子たちは猛吹雪に出会っていた。

「こんな天気じゃ、現場についても何もできないわよ! 私まで遭難したらどうしてくれるのよ!」

「この程度ならビバークすれば大丈夫ですよ。少し早いですが準備しましょうか」


 同じ頃、横島は令子が遭ったという少女の幽霊を探していた。

「確かに霊気が残っているな……。あれ?? 山の方に向かっているのか!?」





「お湯が沸きましたわ」

 結局、令子たちはビバークすることにした。
 風の弱い場所を探し、テントを張る。

「さ、寒いわ……。どこでどう間違ったのかしら? 今頃はお兄様と一緒にお風呂に入っている予定だったのに……」

「冬山で飲む紅茶は、また格別な味なんですよ」

 クールな表情の氷雅(ひょうが)であったが、どことなく明るさを感じる。
 幽霊だから寒さを感じないし、やがて成仏できるという希望があるからであろう。
 一方の令子は毛布に(くる)まったまま、寒さで震えていた。

(お兄様大丈夫かしら……。あの小娘の罠にはまって、怪我をしてしまったとか?)

「寒くないですか、令子さん」

(いえ、お兄様だからそれはありえないわ。むしろあの女が、お兄様を誘惑するということも……)

 令子の妄想が、しだいにつのっていく。





「あぁっ! 急に持病のシャクが!」

「お嬢さん、大丈夫ですか?」

「もう少し下をさすってください」

「下って、この辺?」

「それから胸も苦しくて……」

「こうかな?」

「お陰さまで楽になりました」

 少女はお礼をいうやいなや、横島に抱きついた。

「わ、私、男の人に恥ずかしい場所を触られてしまいました。
 もう他所(よそ)にはお嫁にいけません。どうか、このまま抱いてください!」





(ま、まずい! このままではお兄様の初物が、見ず知らずの女に喰われてしまうわ!)

「令子さん……。女どうし肌を寄せて温まりましょう」

 そう言うと氷雅(ひょうが)は令子の傍に寄り、毛布をめくって手を入れてきた。

「キャー! なにすんのよ!」

「いえ、女どうしの友情を深め合おうと……」

「そうよ、このままじっとしてはいられないわ! お兄様をふしだらな女の誘惑から守らないと!」

 令子はテントを飛び出すと、(ふもと)への道を駆け下りていった。

「待ってくださ〜い」

 令子の後を追って、氷雅(ひょうが)もテントを出ていく。


「お兄さまーーっ!」

「令子さーーん」

 吹雪の中、二人の声がかすかに聞こえてくる。

(昼間はやり方がまどろっこしすぎたんだわ。今度はもっとストレートに死んでもらうわね)

「お願いします! 私のために死んでくださーーい!」

 そう叫んで石を手にもった少女の霊が令子に襲いかかろうとした時、背後から一人の男が声をかけてきた。

「おっと、お嬢さん。令子ちゃんを死なせるわけにはいかないよ!」





 少女の背後から現れたのは、横島であった。

「悪霊には見えないな……。なぜこんなまねをするのか、話を聞かせてほしいな」

 虚をつかれた少女はしばらく呆然(ぼうぜん)としていたが、やがて我に返ると泣き出してしまった。

「ふぇぇぇーーん。ゴメンナサーーイ」

 やがてその場に、令子と氷雅(ひょうが)もやってきた。

「あぁっ、もう痴話喧嘩まで始めている! やっぱりお兄様を誘惑していたのね!」

「そ、それは全くの誤解だよ、令子ちゃん(汗)」

「純情なお兄様を誘惑して、あんなことやこんなことまでしていたんじゃないの!」

「と、とにかく、こんなところで話をしても仕方がないから、いったん(ふもと)に下りよう」





 横島たちは、(ふもと)の温泉街に戻った。
 少女の話を聞くために、ホテルの離れを一時借りる。

「えーっと、とりあえず令子ちゃんたちは置いといて、そこのお嬢さんの事情を聞きたいな?」

「私はキヌといいます。300年ほど前に死んだ娘です」

「で、何で俺たちにちょっかいを出してきたんだい?」

「昔、ある強い妖怪が多くの村を襲ってたくさんの人が死んだことがあったんです。その妖怪を調伏(ちょうぶく)するために、私が人柱になりました」

「……」

「普通そういう霊は地方の神様になるんですが、あたし才能なくて神様にもなれないし、成仏もできなくて……」

「たしかに他人と入れ替われば地縛(ぢばく)は解けるけれど、なんで令子ちゃんを狙ったのかな?」

「どこかイッちゃってる顔をして道を歩いていたから、そういう人なら身代わりになっても大丈夫かなぁと思って……」

「悪かったわね!」

「令子ちゃん、そんなにスゴイ顔をしていたのか(プププ)」

 横島が笑いをこらえている。

「さて、だいたい事情はわかった。じゃ、こうしようか。氷雅(ひょうが)さん!」

「なんでしょうか?」

「成仏するのをやめて、山の神様になりませんか?」

「私が……ですか?」

「山をこよなく愛するあなたなら、立派な山の神になれます!」

「わかりました。ほかならぬ横島さんの頼みですから」

 そういう氷雅(ひょうが)は、なぜか頬を少し紅くしていた。

「それから、おキヌちゃんもこれでいいね?」

「わかりました!」

 横島は荷物から精霊石を出して、五芒星の結界を二つ作る。
 そして氷雅(ひょうが)とおキヌ、二人の幽霊を結界の中に入れた。

「精霊石よ! この者をとらえる地の力の流れを変え、この者を解き放ちたまえ!」

 結界が光ると氷雅(ひょうが)の姿が変化した。薄絹(うすぎぬ)を身にまとい、神々(こうごう)しい雰囲気を放ち始める。

「これで私は山の神になったんですね」

「でも、まだ力が弱いから、時間をかけて修行する必要があるよ」

「本当にありがとうございました。横島さんには何から何までお世話になって……。こんど来た時には私を呼んでくださいね。精一杯のおもてなしをしますから」

 氷雅(ひょうが)はふわりと空中に浮かぶと、横島にウィンクして山に帰っていった。

「ああっ、あの女もお兄様に気があったのね! キィーーッ!」

「これで私も成仏できそうです。ありがとうございました」

 そう言うと、おキヌもふわりと空中に浮かびあがる。しかし……

「……あの……つかぬことをうかがいますが、成仏ってどうやるんですか?」

「長いこと地脈に縛りつけられていたから、霊体が安定しちゃったんだな。元に戻るのにだいぶ時間がかかるよ」

「でも私ここにいるの飽きちゃったし、他に行くあても……。そうだ! 私を連れていってもらえませんか?」

「ア、アンタ、何てこというのよ!」

「う〜ん、正直いって助手がもう一人欲しかったんだよな〜」

「日給30円よ! それ以上はダメだからね!」

「令子ちゃん、給料決めるのは俺の役割……」

「は〜い、それでいいで〜〜す!」

 うやむやのうちに、おキヌの給料が決まってしまった。

「それからもう一つ。私がいない間にお兄様をたらしこまないでね!」

「令子ちゃん、幽霊だから何もできないって」

 徐々に令子の尻に敷かれつつある横島であった。


(レポート1.横島除霊事務所出動せよ! 完)


BACK/INDEX/NEXT

inserted by FC2 system