GS美神 女子高生大作戦!

作:男闘虎之浪漫

レポート2.オフィスビルを除霊せよ!



「横島さ〜ん」
「何だい、おキヌちゃん」

 風呂場の中から横島が返事をする。
 
「またお風呂ですかー」
「最近、入浴剤に凝ってるのさ。今日は『登別の湯』だよ」

 男のクセに横島は長風呂が好きである。

「で、何の用事?」
「そろそろ仕事の時間ですよー」
「令子ちゃんに準備するように、言っておいて」
「それが令子さん、どこにもいないんです」
「しょうがないな。窓の外は見た?」
「窓って……ここ五階ですよ?」

 横島はタオルを腰に巻いて、脱衣所の窓を開ける。

「キャー!」
「ほら、ここにいた」

 そこには、窓枠に手をかけてぶら下がっている令子の姿があった。
 落下事故に備えて、腰に命綱を付けている。

「まったく……男の裸を見て、何が楽しいのかな?」
「令子さん、何をしているんですか?」
「い、いーから助けてよ!」
「屋上に令子ちゃんがウィンチを隠しているから、それで引っ張りあげといて」

 令子の行動は、既にバレバレであった。



 1時間半後、横島たちの姿はある32階建ての高層ビルの前にあった。

「今日はここだね。ギャラは一千万か」
「立派なビルを建てている割には、報酬がセコイですわね。ポーンと一億円くらい出してもいいのに」
「まぁ、今時の相場はそんなもんさ。後は経費割れを起こさないように気をつけることかな」

 その時、ビルの入り口から腕にギブスを付けた一人の男が出てきた。

「除霊の方ですね。お待ちしていました」
「あ、どーも。それで現場は?」
「悪霊が32階の社長室を占拠しています。早いとこ何とかしてください!」
「ところで、そのケガは……?」
「もう狂暴なヤツでして、うかつに近づくと命がいくつあっても足りません。一昨日も、除霊にきたGSが二人病院送りになりました」

「うーーん、ちょっと厄介な相手だな。経費割れしないように、今日は調査だけにしておくか……」
「急いで除霊してもらえれば、もう五百万上乗せしてもいいと社長が言っておりますが……」
「お兄様、50%増しですわ! これはもう何がなんでも今日中にやっつけちゃいましょう」
「よろしくお願いします!」

 結局横島は、その日のうちに除霊することを引き受けてしまった。

「令子さん。令子さんの時給って250円なんでしょう? 横島さんの収入が増えても令子さんの時給は変わらないのに、何でそんなに張りきっているんですかー?」
「おキヌちゃん、まだまだ甘いわね。私がお兄様と結婚すれば、お兄様の財産は私の財産になるのよ。だったら今のうちからバリバリ稼いでもらった方がいいじゃない」
「そういうものなんですかねー」

 横島が誰と結婚するかはまだ何も決まっていないのではないか、そうおキヌは思ったがその疑問は口にしないことにした。



 横島たちが乗ったエレベータが、32階に到着した。
 エレベータのドアが開くと、そこはがれきの山となっていた。
 事務所の備品が壊れ、天井や壁のしっくいがボロボロに崩れ落ちている。

「こ、この気配は……」
「うわー、見事に壊れまくってますねー」
「株に失敗して全財産をすって半狂乱になり、このビルのこの部屋から飛び降りて、病院に収容されてから3時間12分後に死んだ霊のしわざだな」
「お兄様、すごーい! いきなりそこまで読めるんですか!」
「いや、依頼書にそう書いてあったんだ。霊能者にはハッタリも重要だよ」
「そーなんですかー。メモしておかなきゃ。『れーのーしゃにはハッタリが重要』っと」
「……いや、令子ちゃんは十分活用しているから、メモしなくてもいいと思うよ……」




「横島さん、あっちに霊の気配を感じます」

 おキヌが、部屋の奥の方を指差す。

「間違いなさそうだな」

 横島は右手に栄光の手(ハンズ・オブ・グローリー)を出現させる。

「おい、聞こえるか! おとなしく成仏すればよし。さもないと力づくで片付けるぞ!」

 悪霊からの返答はなかった。しかし……

「横島さん!」

 おキヌが天井を指差す。

「危ない!」

 頭上の骨組みが、今にも崩壊しようとしていた。
 横島たちは、とっさに前方に逃れる。

 ガラガラガラガラ
 ズシャーーン!

 横島たちの立っていた場所に、大量のがれきが落下してきた。

「やばい! 装備がエレベーターの中だ!」
「ケーッ、ケッケッケッケッ!」

 その時、悪霊が横島たちの目の前に姿を現した。

「ケケッ!?」

 突然、悪霊が傍の柱に頭をぶつけはじめる。

「ケーッ、ケケケケケケケケッ!」

 悪霊は頭を何度もぶつけながら、不気味な声をあげ続けていた。

「人格が崩壊しているな……。一番やっかいなタイプだぞ」
「ケケッ? ケーーーッ!」

 悪霊が横島めがけて襲いかかる。

「クソッ!」

 横島は突っ込んでくる悪霊を霊波刀で食い止めた。

 バチバチバチッ!

 悪霊と霊波刀がぶつかりあい、激しく火花を散らす。

(まずい! こいつかなりのパワーを持っている。このままじゃ、やばいな……)

 横島は、左手でポケットの中の精霊石を取り出し、目の前の悪霊に投げつけた。

 バシューッ!

 精霊石が激しく光る。内に秘められた霊力が解放されて悪霊が弾け飛んだ。
 激しい光で悪霊の目がくらみ、その場で目を押さえて、のたうちまわる。

「今のうちだ!」

 横島たちは急いでその場を離れ、柱の影へと隠れた。

「やばかった〜。栄光の手じゃ歯がたたないな。ひょっとしてまずいかも」
「お兄様、まずいってどういうことです?」
「それはだねー、下手すれば俺も令子ちゃんも殺されちゃうってことさ」
「そうなんですか……って、えーっ!!」
「大丈夫。死んでも生きられます♪」

 おキヌが、明るい声で話しかける。

「ちょっと死ぬほど苦しくなりますけど」
「おキヌちゃ〜ん。冗談でも言っていいことと悪いことがあるのよ!」

 令子の目が血走っているのは、気のせいではないだろう。

「荷物の中に、一枚八百万円の強力なお札があるんだけど、エレベーターの中じゃどうしようもないな」
「おキヌちゃんが取ってこれないかしら?」
「私は中に入れますけど、お札が抜ける隙間があるかなー」
「やってみるしかないな。結界を作るから、令子ちゃんはそこから出ないで。おキヌちゃんがお札を取りに行く間、俺たちがオトリになるんだ」
「でも、さっきみたいに天井を崩されたら……」
「あいつバカだから、すぐには気づかないだろう。とりあえず何か行動を起こさないと、このままじゃ全滅しちゃうぞ!」
「お兄様、やりましょう!」




 横島は、柱の影から飛び出した。

「おい、こっちだぞ!」
「ケケッ?」

 悪霊が横島の姿に気づく。

「ケーーーッ!」

 悪霊は横島を追いかけ出した。

(今だ!)

 天井に張りついていたおキヌが、その隙にエレベーターへと向かう。
 横島は、おキヌがエレベーターに入ったのを確認すると、令子がいる結界の中へと逃げ込んだ。

 バコッ!

 横島の後を追ってきた悪霊が、結界に衝突する。

「ケケケケッ?」

 結界の障壁の外で、悪霊がうろうろする。

「こ、恐いです〜」
「おキヌちゃん……頼むぞ!」


 その頃おキヌは、エレベーター内に置いてあったリュックの中を覗いていた。

「んーと、これも違うしあれも違う。えーっと……」

 リュックの中の荷物を、一つ一つ確認していく。

「あった! これだわ!」


「ケッ?」

 結界の外で爪を立てながらあがいていた悪霊が、突然天井を見上げた。
 しかし、また結界を破ろうと爪で引っ掻きはじめる。
 今一つ、イメージがまとまらなかったようだ……


「隙間から何とか出ないかしら」

 幽霊のおキヌは障害物をすり抜けることができるが、お札はそうもいかない。
 何とかがれきの隙間から外に出そうと、おキヌは悪戦苦闘していた。


「ウケケッ?」

 再び悪霊が天井を見上げる。

「気づくなよ……」
「ケーーーーッ!」
「キャー! 気づいちゃったみたい!」

 とうとう悪霊が気づいてしまった。
 天井が崩壊し、がれきが横島と令子の周囲に降り注ぐ。
 落ちてきたがれきが、床に書いていた結界の模様を消してしまった。

「結界が破れたわ。もうダメ!」
「令子ちゃん、こうなったら二人分の霊力を合わせて戦うんだ」
「でも、私の霊能力ってほんの少ししかないし……」
「大丈夫、俺の左手を掴んで!」

 令子は横島の左手を、両手でぎゅっと掴んだ。


「もうちょっと何だけど……」

 おキヌは、がれきの隙間に差し込んだお札を引っ張る。
 ここさえ通り抜ければ、後は横島のところに持っていくだけなのだが……

「キャーーッ!」

 お札を思いきり引っ張ってしまったため、お札がビリッと破れてしまった。


「ケーーーッ!」

 悪霊が横島めがけて襲いかかった。

「この野郎!」

 横島も右手の霊波刀で斬りかかる。

「このままじゃ、ヤバイぞ!」
「あーっ、もう私死んじゃうのね! 死ぬ前に一度お兄様から熱く抱擁されて、そのまま押し倒されて乱暴されちゃって、熱いほとばしりを全身で受け止めてから泥のように眠り込んで、次の日の朝に夜明けのコーヒーを一緒に飲みたかったわ!」
「病的な妄想はいいから、精神を集中してよ!」
「お兄さまー、死ぬならせめてその胸の中で死なせてーー!」

 令子が手を放して、横島に抱きつこうとする。
 しかし足元のがれきにつまづいて、前のめりの姿勢で横島に抱きついた。
 その手は、横島の下腹部に絡みついている。

(えっ……、ここってお兄様の股○?)

 その時令子の全神経は、ただ一点に集中した!

 カッ!

 横島の霊波刀が閃光を発し、膨大な霊力が霊波刀へと流れ込む。

「ケーーーッ……」

 シュウゥゥゥ

 瞬間的に膨れ上がった霊力による攻撃を受けた悪霊は、ひとたまりもなく消しとんだ。

「やっつけたのかしら!?」
「令子ちゃんが集中できたから、それで瞬間的に霊力が上がったんだな。それに俺の霊力が共鳴して悪霊を吹き飛ばしたらしい」
「それってひょっとしたらスゴイことじゃないかしら?」
「……どうでもいいけど、その手をそろそろ離してくれないかな?」

 令子の両手は、まだ横島の下腹部にあった。

「キャーー!」
「もう『キャー』じゃないだろ……。まぁ事故だから仕方ないけれど」
「すみませーん、横島さん。高いお札が破けちゃいました」
「やれやれ。まぁ俺たちは助かったし、赤字にならなかったからよしとするか」

 こうして無事(?)仕事を終えた横島たちであったが……

(えへへ。今回はずいぶんラッキーだったわ♪ この手はしばらく洗わないでおこうかな……)

 実は一番トクをしたのは令子かもしれない。

(これでお兄様との距離がまた一歩縮まったわね。そのうち私の手でお兄様を……。いやーん、お兄様って本当に“えっち”なんだから!)

 えっちなのは横島じゃなくて、君だろう令子ちゃん。
 こうして令子の野望が、また一歩前進したのであった。


(レポート3.オフィスビルを除霊せよ! 完)


【あとがき】

 この章では、ちょっと令子ちゃんがイタイ性格になってしまっているのですが、
 原作の横島のイタイ役割を演じてもらっているので、やむを得ずこうなってしまいました。

 ……夜華の掲示板にはじめて投稿した時は、『痴○』呼ばわりされたしなー(滝汗)
 次回からは、いつもの感じに戻りますので、ご容赦を。


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