GS美神 女子高生大作戦!

作:男闘虎之浪漫

レポート5.愛に時間を![上]



 前回(レポート4.ドクター・カオスの挑戦!)の作戦の失敗により、秘密基地を失ったドクター・カオスは、木造アパート『幸福荘』(玄関共同・トイレあり・風呂なし)に拠点を移し、反攻の計画を着々と練っていた。

「作業を・完了しました。ドクター・カオス」

 台所でデコレーションケーキの作成を終えたマリアが、カオスに報告した。

「うむ」

 カオスは居間でテレビを見ていたが、立ちあがってマリアの作ったケーキを点検した。

「なかなかいい出来だぞ、マリア。すぐに包装して横島の事務所に届けてくれ」
「イエス、ドクター・カオス」
「くっくっく。古代より伝わる暗殺用魔法薬『時空消滅内服液』、作るのに苦労したぞ」

 カオスがにやりと笑う。

「横島忠夫め! 小僧の分際で大衆の面前で恥をかかせおって。その罪、死をもってもまだつぐなえぬ。完全にこの世から消えてもらうぞ!」




「あー、疲れた。今日の仕事はちょっとキツかったなー」
「私、コーヒーいれてきますね」

 除霊の仕事を終えた横島と令子とおキヌは、事務所に戻ってきたところであった。

(よかった〜。今回の仕事はひさびさにおいしかったわ♪)

 疲れきっている横島とは対象的に、令子は元気いっぱいであった。
 令子は荷物を下ろすと、そのまま妄想モードに突入する。



  今回の除霊現場は廃屋であった。
  悪霊が多数住みついていていたのだが、新たに土地を買収した企業から除霊の依頼が来ていた。
 
 「令子ちゃん! だいぶ霊の数が減ってきた。もう少しだ!」
 「お、お兄様! 床が崩れそうです〜〜」
 
  横島と令子の周囲には、多数の悪霊が群がっていた。
  横島は霊波刀で、令子はお札を使って撃退していく。
 
  ボコッ!
 
  横島がとうとう床板を踏み抜いてしまった。
 
  「キャーッ!」
  「どわー!」
 
  令子と横島が、床板を踏み抜いてできた穴の中に落ちてしまう。
 
   ドン!
   ぶちゅ
 
  落下のはずみで、令子の頬と横島の唇が触れ合った。
 
  「これが原因か!」
 
  横島は床下に転がっていた骨壷を見つけた。
  すかさず、骨壷の入り口に封印の札を貼る。
  悪霊たちは骨壷に引き寄せられていたらしく、お札が貼られると退散してしまった。




(まぎれもない唇の感触だったわ! 少しカサカサしてたけど、やわらかくてソフトで……)

「令子ちゃん、大丈夫? なんか目線が遠いんだけど──」

 ふと気がつくと、令子の目の前で横島が手を振っていた。


「横島さんは砂糖なし、令子さんは砂糖一つと。えーと、お菓子がないかな〜〜」

 おキヌが台所を見渡す。

「あっ!」

 おキヌはテーブルの端に綺麗(きれい)に包装された箱が置いてあるのを見つける。
 さっそく包装をほどいて、中身を確認してみた。

「わー♪ きれいなデコレーションケーキ!」






「お茶が入りましたー」
「サンキュー」

 おキヌが、紅茶とケーキを運んできた。

(横島さんのくちびるが、令子の()っぺたにチューって──)

 令子はまだ妄想モードから抜け出していない。

「これおいしそうだね。どうしたの?」

 横島がカットしたケーキを指差す。

「え? 横島さんが買っておいたんじゃ──」
「いや、俺は知らないぞ。令子ちゃんかな?」
「そう……ちょーど、こんな感じだったわ」

 令子が、()っぺたにケーキをくっつけている。

「……違うみたいだね」
「じゃ、誰なんでしょう?」

 横島はケーキの臭いをかいだ。

「呪術に使う薬品の臭いがする……。おキヌちゃん、このケーキどこにあったの?」
「だ、台所ですけど」
「食べないで捨てた方がよさそうだな」

 パクパク

 だが遅かった。妄想モードに入ったまま戻ってこない令子が、自分の分のケーキを口にしていた。

「れ、令子さん!」
「え? どうしたのおキヌちゃん」

 ドクン!

 その時、令子の胸が激しく波打った。

「う……うぐ……」
「吐いて! 吐いてください、令子さん」
「おキヌちゃん、この手の薬はいったん体の中に入ったら、そう簡単にはでてこないんだ。そこのビンを取って!」

 おキヌは横島が指差した(たな)から、ガラスの小ビンを取ってきた。

「令子ちゃん、これを飲んで! 呪術の効き目を遅らせる薬だ」

 横島はビンの中の液体をキャップに入れ、令子に飲ませた。

「誰かが横島さんに毒か何かを盛ろうとしたんですか?」
「たぶんそうだ」
「毒!? 毒なんですか!」
「今調べるから、待ってて!」




「人間というのはそもそも(えん)あってこの世に生まれてくるのだが、この薬にはその(えん)を断ち切る効果があるのだ。早い話がその人物が初めから生まれてこなかったことにしてしまうわけだ!」

 背が高くがっちりとした体格の老人が、なぎなたを片手に背筋をピンと伸ばして立っている老女を一生懸命に説得していた。

「横島忠夫が生まれてこなかったとすれば、計画に失敗してこの安アパートで再起を計る必要もなくなるわけだ。したがって家賃など払う必要はなくなるんだよ!」
「わけのわからんこと言ってないで、とっとと払いなさい」

 老女は老人の言うことを少しも聞いていなかった。
 老人はちっちっと指をふる。

「これだから凡俗な人間は困る! いいかね、何度も言うが……」

 その時、老女がなぎなたをさっと振り上げた。

「問答無用!」

 バキ! ドカッ! グシャ!

「すんません、あと一日待ってください」
「最初からそう言えばいいんだよ」

 部屋の入り口で(ひたい)から血を流して横たわっていたのは、ドクター・カオスであった。




「それじゃ、ケーキの中に入っていたのは──」
「時空消滅内服液だ。効き目は今いったとおり」
「げ、解毒剤はないんですか?」
「残念ながら、ない」
「な、無いんですか〜〜!」
「大丈夫、落ち着いて。解毒剤はないけど、助かる方法はあるんだ。さっき飲んだ中和剤で効き目はかなり弱まっているはず。じわじわと効いてくるから、その間に手を打つんだ」
「じわじわって……」

 その時、令子の体がしだいに()けはじめた。

「時間がない! 元に戻るには、この世と令子ちゃんの結びつき……『(えん)』を強めるしか方法がない。この24時間以内で、何か強烈に印象に残っていることはないか!?」
「あっ……!」

 令子は、横島の唇が自分の(ほほ)に触れた時のことを思い出した。

「過去の世界でそれをもう一度再現すれば、元に戻れる!」
「えっ!!! そんな、お兄様がそう簡単にさせてくれるわけないじゃないですか!」
「大丈夫、信じるんだ!」
「そ、そんな、私まだ死にたくない──」

 令子の体はどんどん透き通っていき、やがて完全に消えてしまった。






 時空内服液の効果で、令子は時をさかのぼっていった。
 過去の出来事が走馬灯のように、時空をさかのぼる令子の周囲に映し出される。

(ど、どうなっちゃうの、私!)

 やがて令子の意識が現実へと引き戻されていった。

「あ、あれ、ここどこかしら」

 令子はきょろきょろ周囲を見回す。
 そこは薄暗い部屋の中で、令子は寝袋の中で横になっていた。

「あれ、どこかで見た記憶が……そうだ! 確かここは鬼塚ってのを除霊した(やかた)だわ!」

 令子がいたのは、洋館の中のひとつの部屋であった。
 このとき令子は鬼塚の霊が出てくるのを待つため、この部屋で待機していたのである。
 令子の寝袋の周囲には、悪霊の侵入を防ぐために魔方陣が描かれていた。

(ここでお兄様にキスを迫っても、仕事中に何を考えているんだと怒られるのがオチね。よく考えるのよ、令子──)

 ピン!

 令子はひらめいた。

(そうだわ! 仕事が終わった後に(ほほ)にキスしてもらったじゃない! 仕事が片付けば万事オッケーってわけね。どうせ結果はわかっているんだし、早めに片をつけちゃいましょうか)

 令子は寝袋の中で横になったまま、鬼塚の霊が現れるのを待つことにした。




「すいません……私の話を聞いてくれませんか?」

 やがて部屋の隅から、若い男性の霊が現れた。

「はいはい、やっときたわね。待ちくたびれたわ」
「待ちくたびれたって、どういうことでしょう?」
「あら、ごめんなさい。こっちの話よ。それで、私に何か話があるんじゃないかしら?」

 令子はひととおりその男性の霊の話を聞くと、こちらから話を切り出した。

「それであなたは未練があって成仏できないってわけね。それなら私が手伝いましょうか?」
「す、すみません。助かります」




 令子は、そっと部屋の入り口のドアを開けた。
 部屋の外にいた横島はドアの近くで結界をはり、その中で横になっていた。

(どうせ、狸寝入りでしょうけど──)

 令子は忍び足で横島に近づき、床に描かれている魔方陣を足で消した。
 そしてペンで男の幽霊から教わった印を、横島の(ひたい)に書いた。

「もらったーーー!」

 離れた場所で見ていた男の幽霊が、横島に突っ込んでいく。
 だが眠っていたとばかり思われた横島は、むくりと起きあがると脇に隠していた霊体ボーガンを発射した。

「グワァァァ!」
「そいつは特製の矢さ。おまえが成仏するまで決して抜けないぞ!」
「ギャーーー!」

 男の幽霊は悲鳴をあげると、逃げていった。

「よし! 令子ちゃん、ヤツを追うぞってあれ?」

 令子は既に階段に向かって走り出していた。

「お兄様、こっちです!」
「なんか様子が変だな……ま、いいか」

 令子は一気に一番上の階まで駆け上がると、そこにいた鬼塚の霊を無視して、壁の一部を探しはじめた。

「こ、この小娘! そこを探すなあぁーー!」
「隠しボタン見っけ。それポチッとな」

 令子が壁に隠されていたボタンを押すと、壁の一部が開き隠し部屋が現れた。
 部屋の中には本棚があり、そこには多くの本が並んでいる。

「見るなーー! やめろーー!」
「はいはい、おじさんの愛の詩集でしょ。もうわかっているんだから、あきらめて成仏しなさい」
「だあぁぁぁ〜〜〜」

 鬼塚は悲鳴をあげるとともに、徐々に姿が薄くなり、やがて消えていった。

「令子ちゃん、お手柄だね。まるで前もってわかっていたみたいだ」
「へっへー、すごいでしょ! 令子、ご褒美(ほうび)が欲しいな」
「お礼は何がいいかな?」
「ココ♪」

 令子が自分の(ほほ)に指をあてる。

「しょうがないなー」

 横島が令子の(ほほ)に唇を近づけたとき、突然令子の姿が透き通り始めた。

「うっそー! もうちょっとで戻れたのにーー!」
「え? え? 令子ちゃん、いったいどうしたんだ!?」

 過去への逆行が再び始まってしまい、やがて令子の姿はその場から完全に消えてしまった。






 ドクン!

「こ、ここはどこ!?」

 逆行から現実世界に戻った令子は、あわてて周囲を見回した。

「令子ちゃん、どうしたの?」
「顔色悪いよ。大丈夫?」

 そこにいたのは、中学一年生の時の同級生たちであった。

「え!?」

 令子は自分の着ている服を確認した。中学生の時の制服であったセーラー服を着ている。
 念のため、胸も触ってみた。

 ペチョ

 だいぶ小さい。中学一年の時まで逆行したのは、間違いなさそうである。

(4年も逆行しちゃたのね……そうだ! お兄様を探さないと)

 令子は、慌てて手を上げた。

「せんせー! 気分が悪いので早退させてください!」




 タッタッタ

 令子は学校を出ると、事務所に向かって走っていった。

(まずいわ。この調子じゃ、いつまた過去に飛ばされるかわからない。急いでお兄様を探さないと)

 やがて令子は事務所のビルの前に着いた。しかし……

「じ、事務所のビルがない!」

 事務所のあった場所は空き地になっていた。工事予定の看板だけが立っている。

「よく考えたらお兄様はたぶん高校生ぐらいよね。GSになる前か……。どうしよう! お兄様の実家なんて知らないわ!」

 令子はペタリと座り込んでしまった。
 胸の奥から絶望感がじわじわと湧いてくる。

(実家の場所も知らないし、通っていた高校も聞いたことないわ。偶然出会うなんて、それこそ天文学的な確率……どうしよう!)

 普段は気丈な令子であったが、とうとう感情を抑えきれなくなった。目元にじわりと涙が浮かんでくる。

「どうしたの、お(じょう)ちゃん。こんなところで座り込んじゃって」

 令子の背後から、聞きなれた声が聞こえてきた。

(えっ!?)

 令子は後ろを振り向く。そこに立っていたのは、学生服を着ていた横島であった。

 ポロッ

 令子の目から、大粒の涙が零れ落ちる。

「い、いったいどうしたさ。急に泣いたりして──」

 だがその言葉を令子は聞いていなかった。そのまま横島の胸に向かって飛びつく。

「ずっと前から愛してました。お兄様──」


(続く)


BACK/INDEX/NEXT

inserted by FC2 system