GS美神 女子高生大作戦!

作:男闘虎之浪漫

レポート7.上を向いて歩こう![上]




「だーっ! 今度ばかりは、もう完全に怒った!」

「ごめんなさーーい」

「いーや。絶対に勘弁できない」

 ある日のこと、買い物にでかけていたおキヌが事務所に帰ると、横島が令子に怒鳴っている最中であった。

「どうしたんですか、横島さん?」

「聞いてくれよ、おキヌちゃん。 令子ちゃんがカメラ付き携帯を風呂場に隠してさ、
 俺が服を脱いでいたところを盗み()りしていたんだ」

「令子さんが横島さんを(のぞ)くなんて、いつものことじゃないですか?」

「手段が問題なんだよ、手段が! 
 盗撮(とうさつ)だと証拠が残るだろ? いくら俺でも、赤の他人には見られたくないものだってあるんだ」

 そこに令子が口をはさんできた。

「人には絶対に見せません! 令子だけの宝物にします」

「どっちにしても、絶対ダメ!」

 横島は令子の携帯を取り上げると、メモリーに残っていた画像をすべて消去した。

「あーっ! 私の大事な宝物が!!」

「よし、これで証拠隠滅と。それから令子ちゃんは、今日はもう帰っていいよ」

 令子はシュンとした表情をしながら、事務所を出ていった。




 翌日、学校に出ていた令子は、昼休みにクラスメートの一人から話しかけられた。

「令子ちゃん、久しぶり! 何か元気ないんじゃない?」

「バイト先で、ちょっと怒られちゃって……」

「例の気になる所長さんね。いったい今度は、何をしでかしたのかなー?」

「ちょっとね……」

 さすがに風呂場で盗撮(とうさつ)していたとは、クラスメートの前では口にできなかった。

「その様子だと、所長さんとの関係はそんなに進んでないみたいね?」

「なかなかうまくいかないのよ。嫌われてはいないと思うんだけど、そこから距離が縮まらないのよねー」

「所長さんって、もう大人なんでしょ?」

「やっぱり、私のことを女として見てくれていないのかなー」

 令子は机の上にうつぶせになると、ふーっとため息をもらした。

「ねえ。どうやったら、意識してもらえると思う?」

「そーねー。少し距離を置いてみたら?」

「えっ!?」

 令子は興味を引かれたのか、机の上からガバリと起き上がった。

「うちのお姉ちゃんが言ってたけど、身近にいる人が急にいなくなると、その人のことが気になり出すんだって。
 それでしばらくしてから、少し女っぽくなって現われると、すごく意識してもらえるみたいよ」

「そ、その話、ホント!?」

「うん。うちのお姉ちゃんはその手で彼をゲットしたから、間違いないと思うわ」

 話を聞いていた令子の目が、らんらんと輝いた。

(いける、これでいけるわ! これで間違いなく、お兄様のハートをゲットよ!)

「れ、令子ちゃん。その顔はちょっと……」

 クラスメートの目の前で令子は、(くちびる)を引きつらせながら、クククッと不気味な笑い声を()らしていた。




 授業が終わった後、令子はいつものように横島の事務所へと向かった。
 しかし、入り口のドアの前で立ち止まってしまう。

(どうしよう。『バイト辞めます!』って、すごく言いずらいな……)

 令子は昼間のクラスメートと会話していた時に、バイトを()めて横島との距離を置くことで、横島の気を引く作戦を立てたのである。
 そしておキヌを通じて横島の反応を見ながら、タイミングを見計らってバイトに復帰しようと考えていた。
 しかし、いざ()めるとなると、なかなかその言葉を口にしずらい気持ちを感じていた。

「おい、あんた横島の関係者か? 関係者じゃないんなら、そこをどいてくれ」

 ドアの前に立っていた令子は、急に背後から声をかけられた。

「いちおう関係者ですけど。横島お兄様の助手をしている、美神令子です」

「美神? あんたがか? そりゃ、ちょうどよかった」

「えーと、あなた誰ですか?」

「俺か。俺の名は、伊達雪之丞(だてゆきのじょう)。伊達除霊事務所の所長さ!」







「それで、私になにか用ですか?」

「短刀直入に言おう。俺はあんたが欲しい」

「えええっ! 私のことが好きなんですか!? どうしよう。ナンパされるの始めてだわ。
 それに私は、お兄様に(みさお)を立てた身なんだし……」

「ちがうって! しかし、噂どうりの娘だな。よく横島はこんなのを使ってたもんだ

 いつものことではあるが、暴走気味の令子を、雪之丞は少々もてあましていた。

「誰がこんなとこでナンパをするかっ! 俺はあんたの才能が欲しいんだよ」

「ひょっとして、スカウトとか?」

「そうだよ。俺はアンタを引き抜きにきたんだ」




「令子さん、今日は遅いですね。昨日のことが、少し(こた)えているんじゃないんですか?」

「大丈夫だよ。そのうち、ケロッとした顔で出てくるさ」

 その時、事務所のドアが開かれ、令子が事務所の中に入ってきた。

「ほら、おキヌちゃん。言ったとおりだろ?」

「お兄様、大事なお話があります」

「えっ!? 急にあらたまったりして。どうしたんだ令子ちゃん?」

 いつもと少し様子の違う令子の態度に、横島は戸惑(とまど)っていた。

「私、今日でこの事務所を()めます!」

()めるって、なぜそんな急に──」

「こちらの方が、私を引き抜きたいと言われまして」

 その時、令子の背後から雪之丞が現れた。

「よっ。久しぶりだな、横島」

「ゆ、雪之丞か!」

「えっ!? お二人とも、知り合いだったんですか?」

 令子が意外そうな表情をして、横島と雪之丞の顔を見つめた。

「俺と横島とは、十歳の頃からのライバルなのさ」
「アレは、ミニ四駆の話だろっ!?」

「大枚はたいて入手したプテラノドンXが、タマヤカップの決勝戦で打ち破られて以来、
 こいつは常に俺の行く手を(はば)んできたんだ」

「まだミニ四駆の大会のことを、根に持ってたのか!」

「そして万全を期して臨んだGS試験での準決勝戦、またしてもこいつが俺の前に立ち塞がりやがった。
 この時は相討ちに持ち込んだが、GSとしての世間の評価は、何故か横島の方が上だ」

「それは自分のせいだろうが! 俺が事務所を開いて、コツコツと仕事をしている間に、
 お前はフリーのGSというのは名ばかりで、世界中をウロウロ歩き回っていただろうが!」

「人聞きの悪いことを言うな。俺は一人で武者修業の旅をしていただけだ。
 しかし俺もそろそろ、腰を()えようと思ってな。それで優秀なGSアシスタントを探してるってわけさ」

 激しい男どうしの口論に、令子もおキヌも口をはさむ(すき)がまったくなかった。
 呆然(ぼうぜん)としながら、横島と雪之丞のやり取りを見守っている。

「おまえ資金はあるのか? それに、なんで令子ちゃんを!?」

「海外の大仕事で一山当てたのさ。仲間も海外で三人ほど集めたが、日本の事情に詳しいのも一人欲しくてね」

「それだけか、雪之丞?」

「ああ。それに、さっきその娘と話したが、俺のところに来てもいいって言ってたぜ」

「本当か、令子ちゃん?」

 横島が、令子に問いかけた。

「ええっと、そうです」

「どうしてですか、令子さん?」

 おキヌが疑問の声をあげた。

「少しの間、ここを離れて自分を見つめ直したいんです。
 それに伊達さんのところでは、私にも除霊をさせてくれると言ってましたし……」

「分かった。令子ちゃんが自分で決めたんなら、仕方がないな」

 横島は、少し(さび)しそうな表情を浮かべた。

「よし、これで話はまとまったな。また来るぜ、横島」

 雪之丞は令子を連れて、横島の事務所を後にした。




 雪之丞と令子は、印鑑(いんかん)を取りに令子の家に立ち寄ると、その足で雪之丞の事務所へと向かった。

「よし。人材は確保したし、横島のところの戦力削減にも成功したし、先ずは目的達成だな」

「まだお兄様を、目の(かたき)にしてるんですか?」

「言っただろう。横島は、俺の生涯(しょうがい)のライバルだって。
 それに令子ちゃんも、俺のところに来るからには、こうなることを分かって来たんじゃないのか?」

(それもそうだけど……。まあ、いいわ。お兄様の気を引くまでの、少しの辛抱(しんぼう)よ)

「これからよろしくな。それから契約書を作ったから、ここにハンコを押してくれ」

 令子は契約書の文面もロクに読まずに、ポンと印鑑を押した。

「これでアンタは、正式に俺のものってわけだな」

 雪之丞が、ニヤリと笑った。

「ドリス・キャシー・ルーシー!」

 雪之丞が名前を呼ぶと、部屋の奥から三人の軍服を着た女性が出てきた。
 三人とも、すらりとした長身の美女である。

「彼女が、新入りの令子ちゃんだ」

「あらー、可愛い子じゃない。私はドリス。よろしくね」

「ハーイ! 私はキャシーよ」

「私の名はルーシー。東洋人どうし、頑張ろうね」

 ドリスとキャシーは、プロポーション豊かなプラチナブロンドの白人だった。
 ルーシーは黒髪で東南アジア系の顔をしていたが、モデルばりの体型は他の二人に少しも劣っていない。

「あの、この方たちは……?」

「彼女たちは、伊達除霊事務所のチームさ」

「そうよ! 今日からあなたも、私たちの一員ね」

 ドリスが令子にさっと右手を差し出した。令子はドリス・キャシー・ルーシーと握手(あくしゅ)を交わした。

「それじゃあ、早速仕事に行くぞ。これに着替えてくれ」

 雪之丞が令子に、グリーン色の迷彩服を渡した。
 令子は別の部屋に引っ込むと、急いで迷彩服に着替えた。

「準備はできたか。それでは、出動!」


(続く)


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