GS美神 女子高生大作戦!
作:男闘虎之浪漫
レポート7.上を向いて歩こう![下]
令子たち伊達除霊事務所のメンバーが、大型のオフロード車に乗って、現場の雑居ビルに到着した。
「打ち合わせどおり、皆は裏口から侵入して悪霊を攻撃。一箇所に追い込むように誘導してくれ。
あとは俺の仕事だ」
「「「了解!」」」
ドリスとキャシーとルーシーが返事をする。やや遅れて、令子も、
「了解です!」
と返事をした。
オフロード車から降りたドリス・キャシー・ルーシー・令子の四人は、雑居ビルの裏口へとまわった。
「いくよっ!」
バン!
ドリスが、雑居ビルの裏口のドアを足で蹴破る。
突入したドリスは、部屋の中で数体の悪霊を見つけると、破魔札マシンガンで破魔札を連射して悪霊を一掃した。
「ボヤボヤしない! 次、行くよ!」
「はいっ!」
その部屋の除霊を完了すると、ドリス・キャシー・ルーシーの三人は部屋の外に出た。
ドリスにどやされた令子も、三人の後を追って部屋の外に出て行く。
「ほら、後ろ!」
ドリスの声を聞いた令子が後ろを振り向くと、一体の悪霊が令子に向かってきていた。
慌てた令子は、破魔札マシンガンの引き金をめいいっぱい引き絞った。
ズババババ……
たちまち何十枚もの破魔札が貼りついた悪霊は、ポスンという音をたてて消滅してしまった。
「令子ちゃん、その調子よ。あとは破魔札を無駄撃ちしないように、落ち着いて撃ってね」
緊張のあまり肩が震(えていた令子に、ルーシーが声をかけてくれた。
その後、ドリスとキャシー、ルーシーと令子の二手に分かれて、ビルの中を除霊していった。
部屋を一つずつしらみつぶしにまわって除霊し、逃げる悪霊は正面玄関に向かって追い立てていく。
最初は緊張でコチコチになっていた令子も、ルーシーとペアを組むことで、少しずつ動きに軽快さを取り戻していった。
「この先は、エレベーターホールと正面玄関につながっているわ。いくわよ」
コクンとうなづいた令子は、ルーシーの後に続いて、エレベーターホールへ侵入した。
そこは追われていった悪霊が、大量に群れていた。
少し遅れたが、別の入り口から、ドリスとキャシーもエレベーターホールに入ってくる。
「いくわよ!」
ババババババババ……
四丁の破魔札マシンガンが、一斉に火を吹いた。
エレベーターホールで群れていた悪霊に、破魔札の弾幕が襲(いかかる。
悪霊たちはその攻撃に抵抗していたが、やがて圧力に耐え切れなくなり、エレベーターホールから正面玄関へと退いていく。
しかし正面玄関で、一人の男が悪霊たちの行く手を遮(った。
「雪之丞さん!」
思わず叫んだ令子を、ルーシーが目で抑えた。
「大丈夫。彼なら問題ないわ」
悪霊たちが迫ったとき、雪之丞が大きく吼(えた。
「おおおおおっ!」
次の瞬間、雪之丞の全身が鎧のようなもので覆(われた。
「あれは、何?」
「魔装術よ。雪之丞の切り札だわ」
さらに雪之丞は、右手に霊力を集中させて、悪霊の群れの中心に特大の霊波砲を撃ち込んだ。
パッと悪霊たちが飛び散ったところに、雪之丞が単身で突撃し、肉弾戦で悪霊たちを消滅させていく。
「す、すごい……」
「でしょ? 私たちの知る限り、魔装術を使った雪之丞は無敵だわ。
さあ、私たちも頑張りましょ」
令子たち四人は雪之丞が討ちもらした悪霊を、破魔札マシンガンで一体ずつ強制成仏していった。
「ふーっ」
仕事を終えて事務所に戻った横島が、ソファにドサリと腰を下ろした。
「お疲れ様でした」
おキヌが横島に、お茶をもってきた。
「今日も、たいへんな仕事でしたね」
「そうだなあ。令子ちゃんがいてくれたら……」
思わず、横島が本音を漏(らした。
道具にはそれほど頼らない横島であるが、それでも荷物が皆無というわけではない。
幽霊のおキヌは、あまり重たい物は持てないため、自分で全ての荷物を背負っていったのである。
「求人も、思うようにいかないしなあ」
令子が事務所を辞めたあと、横島は助手のバイト募集の広告を出した。
広告をみたバイト希望の女性が一人来たが、その日に連れていった除霊現場が、たまたま死体が動き回るというホラーな案件であったため、次の日には辞めてしまったのである。
「横島さん、令子さんのことが気になるんですか?」
おキヌが口に手を当てながら、ムフフと小さく笑った。
「それは違うよ。令子ちゃんは肝っ玉太いから、少しぐらいホラーな現場でも全然驚かないし、
あれでけっこう力持ちだから、荷物の負担も少なくて済むしね」
「やっぱり、気にしてるじゃないですか」
「まあ、GSアシスタントとして、逸材(だったことは認めてるよ」
性格がアレじゃなければ、絶対引き止めていただろうなと、横島は思った。
翌日の昼間、横島とおキヌは霊障の調査の依頼で、地獄組の組長の家を訪れた。
「金はいくらでも払いますっ! どうか、幽霊を退治していただきたい」
「わかりました。ですが、私が調べた限りでは、これは幽霊の仕業ではなくて、呪術のせいです」
「し、しかし、夢に出てきたあの顔は、間違いなく死んだ先代の極悪会の組長でしたが……」
「ええ、間違いありません。これは呪いの類(によるものです」
「呪いですか! すると、極悪会の連中が!?」
「あるいはこの機に乗じて、警察が組織つぶしに動いている可能性もありますが……」
横島は出されたコーヒーを、一口飲んだ。
「誰が依頼したにせよ、呪いをかけたヤツさえ排除すれば、オカルトを使ってくることはなくなる
でしょう。
呪いを仕掛けてきたときに、逆探知する必要がありますので、今晩はここで待機します」
横島は逆探知に必要な装備を整えるため、組長の家を出て事務所へと向かった。
「はあ。今晩は徹夜(だなー。こんなときに、令子ちゃんがいてくれたら……」
交替しながら、仮眠くらいは取ることができただろうなと、横島は思った。
おキヌが役に立たないわけではないが、人間と幽霊では感性が少し違っているので、完全にはあてにできなかった。
「ウフフ。やっぱり令子ちゃんに、戻ってきて欲しいんですね」
「性格がアレだけど、多少は目をつぶるよ。
でも、自分で望んで出て行ったんだから、戻ってこないかもしれないな」
ベレー帽をかぶり、迷彩服姿で庭の植え込みの影に隠れていたキャシーが、組長の家から出てきた横島の姿を確認した。
キャシーは、懐(から携帯電話を取り出すと、雪之丞に連絡を入れる。
「ユッキー、聞こえる?」
「なんだ?」
「ターゲットは、ヨコシマ・タダオを雇ったみたい」
「了解。思ったより早く、直接対決できるわけだな。もう引き上げてもいいぞ」
電話を切った雪之丞は、事務所で待機していた令子を見て、ニヤリと笑った。
「それで、どこへ行くんですかー?」
夕方になって雪之丞は、令子一人を自動車に乗せて、都内近郊のある自然公園へと向かった。
「仕事だよ」
「ドリスさんたちは来ないんですか?」
「あいつらは休み。夜間に働かせると、残業代を上乗せしなくちゃいけないからな。
それから言っておくけど、二人きりでどうこうする気はまったく無いから安心しな」
(むっきー! わかってはいたけど、腹がたつわね!)
ドリス・キャシー・ルーシーのような抜群(の美女をはべらせているのだから、令子に興味をもっていなくても別に不思議ではないのだが、それはそれとして、女性として価値のないような言い方をされると、やはり面白くはないのである。
「着いたぜ。降りな」
雪之丞は車を降りると、魔法陣が描(かれているシートを地面の上に広げた。
そして、その魔法陣の中に、令子を座らせる。
「あの、これって……」
「気にするな。これから、呪いの儀式を始めるだけだから」
「呪いですか!?」
「実はな、今ある仕事に取り組んでいるんだが、相手がGSを雇って対抗しようとしているんだ。
そのGSがちょっと邪魔だから、呪いで排除しようってことさ。
俺はガチンコ勝負が好みなんだが、依頼元から直接顔を会わせるなって言われているんでな」
「そのGSって、ひょっとして……」
「そう、横島さ。あんたを引き抜いたのは、このときのためだったんだよ」
令子の目の前で雪之丞が、邪悪な笑みを浮かべた。
「すさまじい欲望をもっていて、しかも横島と常に行動を共にしている。
これから行う呪いのイケニエには、ぴったりというわけさ」
「い、イケニエですって!」
「心配するな。別に死にはしないから。寿命は二・三年縮(むけどな」
「じょ、冗談じゃないわよ! 私、もう仕事辞めます! 今すぐ、ここから出してください!」
「それが、そうはいかないんだなー。この契約書を覚えているか?」
雪之丞は、令子が捺印(した契約書を取り出した。
するとその契約書から、鎌をかまえた死神のようなものが飛び出してくる。
「私は契約の神、『エンゲージ』なるぞおおおっ!
契約の守護者として、ここにくくられておるのだああ!」
エンゲージは、魔方陣を出ようとした令子の首筋に、持っていた鎌の刃をピタリとあてた。
「ひいいっ!」
「けけ、契約は絶対いいっ! 背く者には死をををっ!」
「というわけで、あんたはもう逃げられないんだ。あきらめて、そこでおとなしくしてな」
「ず、ずるいわよ! 乙女の純情を利用するなんて、卑劣(極まりないわ!」
「契約書をよく読まずに、ハンコを押すのがいけないんだ。
まあ、横島もあんたも死ぬわけじゃないし、授業料だと思って観念するんだな」
横島とおキヌは、準備を整えると地獄組の組長の家に戻った。
そのまま夜になるまで待機していたが、夜になると状況が変化した。
横島のいる部屋の一角から、突然黒い泥のようなものが噴(き出してくる。
「来たな!」
噴出(した泥は、やがて人の形へと変化していく。
「こ、これは……」
「令子さん!」
横島とおキヌの目の前に、身長二メートルほどの泥人形が姿を現した。
「考えたな。令子ちゃんの妄想(パワーの上に、呪いのパワーを上乗せしたってわけか!」
「こんなことを、いったい誰が……」
「雪之丞しかいないだろ!」
「えええっ!」
「しかも、令子ちゃんは俺の傍(にいることが多かったから、俺の霊能力にも免疫(があるはずだ。
こいつは、一筋縄ではいかないかもな」
「ふふふふ……はーっはっはっは! 勝てる! 今度は勝てるぞ!」
雪之丞が拳(をぐっと握り締めながら、高らかに笑った。
「こんな契約、サギよっ! もうバイト辞める! 早くおうちに帰して!」
「けけけ、契約は、契約だああっ!」
令子は魔方陣の中でジタバタしていたが、魔方陣の外でエンゲージが鎌を振り回していたため、身動きがとれなかった。
「あまり余計なことは考えるな。妄想(パワーが落ちてるぞ。
あんたの欲望が強ければ、呪いはパワーアップするんだ。
欲望が足りなくなれば、その分寿命を削るから、よく覚えておけよ」
「ということは、妄想(が強ければ、寿命は減らずにすむのね!?」
「ま、そういうことだな」
令子は懐(から秘蔵の横島の写真(着替え中のもの)を取り出すと、それをじっと見詰め始める。
「それでいいんだけど──女として、ちょっとどうかなと思うぞ」
妄想(に浸(りきっていた令子は、目を血走らせながら、少し開いた口の間からグフフという声を漏(らしていた。
「お、大きくなった!?」
令子に似た泥人形が、急に大きさを増した。
「さすが……令子ちゃんの妄想(は、並みじゃないってことか!」
大きさと力を増した泥人形が、横島にむかって掴(みかかる。
「だからと言って、負けられるか!」
横島はサイキック・ソーサーを出すと、泥人形の手を受け止めた。
しかし……
「な、何て、馬鹿力だ!」
ドガッ!
力負けした横島は、部屋の反対側の壁まで弾(き飛ばされてしまう。
「なら、これなら!」
横島は、泥人形にサイキック・ソーサーを投げつけた。
泥人形にぶつかったサイキック・ソーサーは爆発するが、ほとんどダメージを与えることができなかった。
「ちっ! やはり俺の霊波に免疫(があるのか!」
次の打つ手を考えていた横島に、泥人形が迫(ってきた。
そして、あと一歩で横島に手がかかる距離にきたとき──
「令子さん、いい加減にしてください! 横島さんに、全部言いつけますよ!」
今まであたふたとしていたおキヌが、令子似の泥人形に向かって思い切り叫(んだ。
すると泥人形は、ビクッと体を振るわせると、動きが止まってしまう。
(俺がいないとき、令子ちゃんとおキヌちゃんは、こんな会話を交わしていたのか……)
横島の額(から、冷や汗が一筋流れ落ちていった。
「わあああっ! ごめん! それだけはお兄様に言わないで!」
魔方陣の中にいた令子が、突然大きな声で喚(いた。
「お、おい、急にどうしたんだ?」
「あの、今すごく恐い思いがしたんです……」
「よし、今だ!」
横島はバッグの中からありったけの破魔札を取り出すと、泥人形に向かって投げつけた。
「お札を全部、使っちゃっていいんですか?」
「ここまできたら、意地で勝負だよ!」
「う……ウエエエッ!」
令子が嘔吐(感を覚えるやいなや、令子の口から大量の泥が噴出(した。
「呪いが逆流したのか!? 採算性を捨ててくるとは、俺の油断だったな!」
「ぢょっどおおお! ごっぢはどうなるんでずううう?」
「いったん呪いを回収して再攻撃するから、それまでじっとしていな!
動くと呪いが破れて、こっちにふりかかるぞ!」
横島とおキヌの目の前で、突然、泥人形の足元に黒い穴ができた。
泥人形はみるみるうちに、その穴の中へと沈みこんでいく。
「態勢を立て直すつもりだろうけど、そうはさせるか!」
横島はその穴に近づくと、上からその穴を覗(き込んだ。
「行くぞっ!
呪いの通ってきた亜空間の穴の中に入れば、雪之丞が儀式をしている場所に出られる!」
「こ、この中に入るんですかあ?」
「嫌なら、別に来なくていいぞ」
「待ってください。私も行きます!」
横島とおキヌがその穴の中に入ると、次の瞬間には、令子の口元から飛び出していた。
「きゃあっ!」
「れ、令子さん!」
「二人とも、どこから出てきたのよ!」
突然出てきた横島とおキヌに、令子が腰を抜かした。
「見つけたぞ、雪之丞! よくも、こんな手のこんだ真似をしてくれたな!」
「くそっ!」
「お兄様!」
「現場を押さえれば、呪いを破るはそう難しくないさ。令子ちゃん、その魔方陣から出るんだ!」
「でも、そのヘンなヤツが……」
令子が鎌をもってウロウロしているエンゲージを指差した。
「大丈夫、俺を信じて!」
「はいっ!」
令子が魔方陣から、一歩外に出た。
「け、契約違反! 制裁(だあああっ!」
だが、エンゲージが鎌を振り上げるより早く、横島が吸引札を取り出した。
「吸引!」
「あああっ! これからだってのに……」
エンゲージは、吸引札に吸い込まれてしまった。
「た、助かったわ〜〜! 雪之丞さん! 私、雪之丞さんの事務所を辞めますから!」
「勝手にすればいいだろ!」
「雪之丞、そんなこと言ってる暇(があるのか? 人を呪わば穴二つとは、よく言ったもんだ」
今まで横島に襲(いかかっていた泥人形が、雪之丞へと向きを変えた。
「よ、横島! 俺はおまえに負けたわけじゃないからな! 自分の呪いに負けただけだ!」
「そんな捨てゼリフ言ってる間に、早く逃げた方がいいぞ」
「う、うるさいっ!」
雪之丞はクルリと向きを変えると、一目散に逃げていった。
「破れた呪いは、術者を地の果てまで追いかけていく。
ま、雪之丞はこれくらいでどうにかなるタマじゃないけどな」
雪之丞が走り去ったあとを、泥人形が追いかけていく。
それを見ていた横島が、勝者の笑みを浮かべた。
「あ、あの……」
腕組みをしていた横島に、令子がおずおずと声をかけた。
「すみません。もし、よかったら……もう一度、雇ってもらえないでしょうか……」
「盗み撮(りは厳禁だよ、令子ちゃん」
「えっ、それって……」
「時給は前と同じだけど、それでいいね」
「はいっ、ありがとうございます!」
令子は横島に飛びつくと、横島の左腕を両手でギュッと抱き締めた。
「嬉(しそうですね、令子さん」
その様子を見ていたおキヌが、小さな声でつぶやく。
令子の当初の思惑(こそ外れたものの、こうして横島除霊事務所は元の形を取り戻した。
「よく考えたら、横島は赤字を出しているんだ。引き分けだって、言っとけばよかった!」
捨てゼリフを間違えたと思いつつ、泥人形に追いかけられていた雪之丞は、どこぞの山中を必死になって走っていた。
(レポート7.上を向いて歩こう! 完)
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