GS美神 女子高生大作戦!

作:男闘虎之浪漫

レポート8.極楽愚連隊、西へ![5]




「ひどいわ〜〜。横島クンったら、私だけで上からお城に行けだなんて〜〜」

 冥子は小さなランプを手に持ちながら、夜の森の中をブラドー城に向かって進んでいた。

「おらたちも、ついてますだ」

「んだんだ」

「あとはアン様と唐巣のだんなに任せればいいだべ」

 銃や鋤をもった大勢の村人たちが、冥子の後からぞろぞろとついていく。

「そんなこと言っても、こわい〜〜」

 そのとき一匹のクモが、木の枝から糸を()らしながらツーッと下りてきた。
 そして、冥子の顔にピトッとくっつく。

「キャ……キャアーーーッ!」

 ズドンという音とおもに、冥子の背後から十二匹の式神が飛び出した。

「わーーっ!」

「な、なにするだ〜〜っ」

 暴走した式神たちは、村人たちを巻き込みながら、周囲の木々を押し倒す破壊活動を始めた。




 しばらくして、ズドドドーーンという大きな爆発音が、森の先にあるブラドー城にまで聞こえてきた。

「来たわね! 全員で行って、仕留めてらっしゃい!」

「はっ!」

 ブラドーに(あやつ)られている村人たちが、一斉に音のした方角に向かって走り出した。

「お待ちください、ブラドー様。これは陽動作戦かも」

 雪之丞が、ブラドーに進言した。

「俺は横島という男をよく知っています。最小限の人数は、城に残すのが上策かと」

「よろしい。好きにしなさい」

 雪之丞と令子の二人は、城の中で待ち構えることにした。

「陽動作戦ねー。たしかにお兄様の考えそうなことだわ」

「横島は手ごわいぞ。注意するんだな」

「大丈夫です。吸血鬼になってから、かなりパワーアップしてますから。
 それで、これからどうするんです?」

 令子が、半歩先を進む雪之丞に尋ねた。

「決まってるだろ。横島とタイマン張って、今度こそアイツに勝つんだ。
 まあ、俺が勝ったら、血を吸って俺のドレイにするのもいいかもな」

「ちょっと、待ってください!」

 令子は立ち止まると、雪之丞を呼び止めた。

「お兄様は私のモノです! 私がお兄様をドレイにします!」

「なんだって! 俺の楽しみを奪い取るつもりか!」

「ええ。これだけは絶対に(ゆず)れません!」

 令子と雪之丞は、城の廊下の真ん中でにらみ合った。
 二人の間で、目に見えない火花が激しく飛び散る。

「あのさー。本人の目の前で、そういう話をされても困るんだけど」

「よ、横島!」

「お兄様!」

 いつの間にか、横島が二人の(そば)に立っていた。

「いつって、ついさっきからだけど。というか、気づけよ」

 横島の背後で、石の壁が崩れて大きな穴が開いていた。
 その穴から、アンや唐巣たちが城の中に入り込んでくる。

「この島は、ブラドーが()みつく前は、海賊の隠れ場所だったんだ。
 島中に張り巡らされたトンネルを、ほんのちょっと拡張したってわけ」

「私たちは、ブラドーの所に行きます」

「ここは頼んだよ、横島君!」

 アンと唐巣とカオスが、城の奥に向かって駆け出していった。

「ちっ、そうはさせるか!」

 雪之丞が三人を追いかけようとするが、マリアがカオスと雪之丞の間に割って入った。

「どけ! このロボット女!」

「いいえ・どきません」

 マリアが雪之丞の両腕を、がっちりと(つか)んだ。
 吸血鬼化してパワーアップしているとはいえ、マリアの力にはとうてい(かな)わない。

「やむをえん。横島は(まか)せた!」

「というわけで、お兄様いただきます!」

 令子は横島に向かって、全力で飛び(かか)った。
 だが横島にかわされ、令子は横島の背後の石壁にぶつかって自爆する。

「だ、大丈夫かい、令子ちゃん」

 いつもであったら、手足をピクピクと痙攣させてそのままノックアウトとなるのだが、今日の令子は何事もなかったかのように、むくりと起き上がった。

「ふ……ふふふふふ。さすが吸血鬼ね」

「れ、令子ちゃん……」

「痛くもカユくもないです。今日こそは、私のモノになってもらいますわ。お兄様!」




「ブラドーー!」

 アンがブラドーがいる城主の間へと飛び込んだ。
 続いて、唐巣とカオスも同じ部屋に入る。

「ほう、来たわけね。娘が母親に勝てるとでも思っているの?」

「母親じゃなくて、父親でしょうが!」

 アンがブラドー目掛けて、飛び掛った。

「吸血鬼は血を吸うことで、相手を魔力で支配していく。
 ()まれた者は、()んだ者に絶対服従するしかない。だが……」

「他の吸血鬼が大ボスを()んでしまえば、秩序が崩壊し魔力が消滅する。
 つまり、みんな元に戻れるというわけじゃな」

 二人は同時に、相手の腕に()みつく。

「えーい、相討ちか」

「次は、私が先に()みつくわ!」

 唐巣とカオスの見守る前で、アンとブラドーの壮絶な()みあいが始まった。




 令子のタックルが、横島に命中した。
 横島はかろうじて受け身をとるものの、激しく石壁にぶつかってしまう。

「これで決まりよーーっ!」

 床に腰を下ろした横島に、令子が飛び掛った。
 だが着地寸前になって、石の壁をすり抜けて、おキヌが顔を出した。

「わあっ」

 突然、顔を出したおキヌに驚き、令子は着地に失敗した。
 横島はすかさず上半身を起こすと、懐から唐巣が万一の時のために用意した秘密兵器を取り出す。

「令子ちゃん、ごめん!」

 横島はそれを、令子の口の中に突っ込んだ。

「モガ……グハアッ!」

 それを思いっきり()んでしまった令子は、それが発する臭気にあてられ、気絶してしまった。

「さすが……中国産でも効き目に変わりはないか」

 唐巣が用意していたのは、1ネット100円の中国産ニンニクだった。
 青森産の方は、残念ながら唐巣の懐具合では届かなかったようである。




 その頃、城主の間では、いまだにアンとブラドーの()みつき合いが続いていた。
 最初は、目にも止まらぬ速さで()みつきあっていた二人だったが、やがて疲労からかそのスピードが徐々に低下していく。

「ウギャアアアッ!」

 やがて二人が倒れこむと同時に、大きな悲鳴があがった。
 そして、二人のうち一人が、よろよろとしながら立ち上がる。

「か……勝ちました、先生。もう他の皆も、大丈夫ですよ」

「アン君。大丈夫かね」

 全身に()み傷をつけたアンは、立ち上がった後気が抜けたのか、その場でもう一度倒れてしまった。




「き、(きば)が!」

 マリアと組み合っていた雪之丞の口から、とがった(きば)がポロリと抜け落ちた。
 ニンニクをくわえた令子の口からも、(きば)がポロッと抜け落ちる。

「はっ!? オラたち何をしてただ」

 ブラドーに操られれ、城の外で乱闘していた村人たちも、正気に戻った。
 一人冥子だけは暴走状態が続いており、正気に戻るまで村人たちの犠牲がさらに増える結果となってしまった。




 やがて夜が明けた。
 ブラドー城では、昼間でも活動できるヴァンパイヤ・ハーフの村人たちが、戦場となった城の後片付けを進めている。

「唐巣先生、ありがとうございます。これで私たちも、人間と共存できるでしょう」

「これも、神様の思し召しだね。だが……」

 唐巣は城のベランダから、目の前で繰り広げられている彼の仲間たちの様子に、目を向けた。

「ひどいじゃないですか、お兄様! 乙女の口に、生のニンニクをつっこむなんて!」

「い、いや、あれはだね。
 令子ちゃんが俺をドレイにしようと言ったり、本気で(おそ)いかかってきたもんだから、その……」

「あのときは、ブラドーに(あやつ)られていただけなんです!」

「その割には、ずいぶん気迫がこもっていたような」

「とにかく、乙女の純情が踏みにじられたんです! 責任をとってください!」

「私を〜〜一人にしておいて〜〜痴話(ちわ)ゲンカはひどいんじゃないの〜〜」

 横島が後ろを振り向くと、そこには夜叉(やしゃ)のような顔をした冥子が立っていた。

「め、冥子ちゃん!」

「恐いことなんて無いって、言ったじゃない〜〜。横島クンのウソつき!」

 ボヒュンと音をたてて、冥子の影から式神たちが一斉に飛び出す。

「横島! このままじゃ俺の気がおさまらねえ。俺と一対一で勝負……グハアッ!」

 横島に近づこうとした雪之丞が、式神たちの暴走に巻き込まれた。

「……島に平和が戻るには、彼らを追っ払う必要がありますね」

「すまない、アン君。彼らを呼んだ私の責任だ」

「いえ、先生の責任ではありませんよ。しかし、彼らを(しず)めるには、どうしたらいいんでしょうね」

 一向に収まりそうにない横島たちの乱闘を前にして、アンと唐巣は大きなため息をついた。


(レポート8.極楽愚連隊、西へ! 完)


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