ある日のこと、横島が事務所で仕事をしている時、一本の電話が入った。

「はい、横島除霊事務所です。
 あ、金成木さん。いつもお世話になっております」

 電話をかけてきたのは、事務所の大口顧客である金成木財閥の当主であった。
 横島の話し方も、自然と丁寧な口調になる。

「は? 娘さんが、結婚を前提としたおつきあい? 私とですか──?」




 GS美神 女子高生大作戦!

作:男闘虎之浪漫

レポート9.プロポーズ大作戦![上]





 その週の週末、横島は夕方になってから出かける準備をした。
 ジーパンにジージャンといういつもの格好ではなく、タキシードに蝶ネクタイというフォーマルな服装である。

「うーん、でも何で俺なんだろうなー。
 財閥の令嬢なんだから、他にいくらでもいい男が選べるのに」

「でも人の縁なんて、どこでどうなるかわからないじゃないですか。まずは会ってみないと」

 おキヌが横島と会話しながら、横島の服装の乱れを整えた。

 ガチャ

 そこに令子が部屋に入ってきた。

「どうです? 横島お兄様?」

「へー、馬子にも衣装っていうけど、けっこう決まるもんだね。
 いつもの令子ちゃんとは思えないな」

 令子は胸が開いたグリーンのロングドレスを身につけていた。
 背中まで伸ばした髪を高く結い上げ、真珠のネックレスを首につけている。
 顔には軽く化粧をほどこしており、見た目は女子大生くらいの年齢に見えた。

「見直しました?」

 令子がドレスの裾をつまみ上げ、クルリと一回転する。
 しかし慣れないハイヒールを履いていたためか、一回転したところでつまずき、尻餅をついてしまった。

「イッたーい!」

「慣れないことをするからだよ」

 笑いながら横島が、令子を引っ張り上げた。

「さて、でかけるか」

「えっ、どこに行くんです? 高級レストラン? それとも観劇ですか?」

「残念。仕事がらみさ」

「えーっ、こんな格好で仕事ですか!?
 お兄様が正装して来いっていうから、今日は遊びに連れて行ってくれると思ったのに!」

「向こうに着いたら話すよ」




 横島たちは、迎えに来た高級乗用車に乗り込むと、郊外にある大きな屋敷へと向かった。

「わぁ、でっかいお屋敷。ここ誰の家ですか?」

「金成木財閥当主の金成木三郎の家さ。今日パーティーが開かれるんで、俺も呼ばれたんだけど……」

「す、すごい金持ちなんですねー」

 令子は思わず、目をきょろきょろしてしまった。
 屋敷の建物は、令子が通う学校の校舎よりも大きかった。
 また庭は、学校のグラウンドと同じくらいの広さがあり、また庭のあちこちに高級そうな彫像が幾つも並んでいた。

「実はね、パーティーの間、令子ちゃんに俺の恋人役をして欲しいんだ」

「へっ!? う、嬉しいですけど、なぜですか?」

「どういうわけか、ここの家の娘が、俺と結婚したいって口走っているみたいでさー。
 年間15億は出してくれる上得意先だし、断るにしても、なるべくうまく断りたいんだよね」

「で、でも、私なんかで大丈夫なんですか?」

 令子の父親は、有名大学の教授である。
 世間の基準からすると、令子もお嬢様の一人ではあるのだが、いかんせん格が違いすぎた。

「冥子ちゃんに頼もうかとも考えたんだけど、六道家も名家だから、下手するとそのまま既成事実
 にないかねないんだ」

 横島は仕事上のつきあいはともかく、冥子個人を嫌っているわけではなかった。
 しかし、特別な感情をもつまでには至っておらず、また歳のわりに幼い冥子は、横島のことを仲のよい友達と捉えているふしが強かった。
 そのため、冥子との仲を世間から誤解されたくないというのが、横島の正直な気持ちだった。

「わ、私が、お兄様の恋人……」

「えーと、フリだけだからね。令子ちゃん」

 どこかでスイッチが入ったのか、令子のテンションが急激に高まった。
 横島が令子をなだめようと声をかけたが、令子はその内容をまったく聞いていなかった。

(たとえ、お芝居とはいえ、お兄様の恋人をするのよ!
 お兄様のところに来て以来、こんなことはなかった。今こそチャンスよ!)

 ドクン! ドクン!

 令子の心臓が、激しく鼓動する。

(落ち着くのよ、令子!
 難攻不落・鈍感大王のお兄様とはいえ、小さなことで突破口が開けるかもしれない。
 これをきっかけにお兄様との関係が変化すれば、いずれお兄様が私のものに!)

「……えーと、聞こえてるんだけど、令子ちゃん」

「キャーッ! き、聞いてたんですかー!」

「鈍感大王のあたりから」


 恥ずかしさを感じた令子は、顔中が真っ赤になってしまった。




「横島さん、来てくださったんですね!」

 横島と令子が屋敷の玄関をくぐったとき、イブニングドレスを着た黒髪の女性が声をかけてきた。

「この女がそうですか?」

 令子が、目の前にいる女性をジロリと睨む。

「そ、そうだね。金成木財閥の一人娘、金成木英理子さんだ」

 横島が令子に、目の前の女性を紹介した。

「来てくれたからにはOKなんですね。さあ、今すぐ結婚してください」

 英理子はつかつかと近寄ると、サッと横島の手を握った。

「我が家は世界有数の大富豪ですけど、私は旦那さまになる方がどのような家の生まれであっても
 全く気にしません。むしろ、人柄と能力が大事と思ってますのよ」

「ちょ、ちょっとアンタ! いきなり出てきて、何をするのよ!」

 あまりにもストレートな英理子の行動に、令子が一瞬驚いたが、すぐに二人の間へと割り込んだ。

「あの、英理子さん」

 横島が令子の手を取ると、軽く自分の方に引き寄せた。

「えーと、私の恋人を紹介します」

「どうも、美神令子です」

 令子は横島の胸に軽く体をあずけると、英理子にむかってチェシャ猫のような笑みを浮かべた。
 言うまでもなく、宣戦布告の合図である。

「こ……恋人ですか!?」

 英理子の動きが、一瞬止まってしまう。
 しかし、令子の姿を頭からつま先までチェックすると、クスリと笑った。

「あの……私、冗談はちょっと苦手でして」

「冗談じゃないわよ! 私と横島お兄様は、本当につきあってるんだから!」

 横島の腕にしがみつきながら、令子が英理子を強く睨んだ。

「ま、こんなところで立ち話も何ですから、どうぞ中にお入りください」

 英理子に案内されて、二人は屋敷の中に入った。

「なんか、あっさりスルーされちゃったな。令子ちゃんだと、やっぱり説得力に乏しいのかな?」

「そんなことないです! 目の前の現実を認めないとは、愚かな女ですね!」

 横島と並んで歩きながら、令子は口の中でガルル……と小さなうなり声をあげた。




(あとがき)
 覚えておられる方もいると思いますが、実はこの話しは2003年4月にGTYに投稿した話に加筆しています。
 事情があって一話だけ投稿したのですが、その時はここまで話が続くのか、自分でも疑問に思っていました。(汗)
 先のことは何とも言えませんが、このシリーズは自分でも書いていて楽しいので、できるだけ進めていきたいと思います。


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