GS美神 女子高生大作戦!

作:男闘虎之浪漫

レポート9.プロポーズ大作戦![下]





 横島と令子は、パーティー会場に入った。
 二人を案内した英理子は、ホストということもあり、いったん二人の傍を離れる。

「わーっ。本当に上流階級のパーティーですね」

 会場には、着飾った大勢の紳士・淑女が詰め掛けていた。
 また、パーティー会場のあちこちには丸テーブルが置かれ、お酒や各種の料理が並べられている。

「どうでもいいけど、あまりキョロキョロしていると、おのぼりさんに見られるよ」

 令子は慌てて、緩みかけていた表情を引き締める。
 横島は近寄ってきたウェイターからカクテルグラスを二つ受け取ると、一つを令子に渡した。




 会場の中央付近は広く空いており、そこで多くの男女のペアがダンスを踊っていた。
 横島と令子は、壁際に近い場所に立って、手にしたカクテルをゆっくりと飲んでいた。
 令子はまだ未成年であったが、酒には強い体質らしく、既に二杯目に手をつけている。
 その間に、数名の女性が横島に話しかけようとしたが、隣にいた令子が鋭い視線を放って撃退していた。

「横島さん、パーティーを楽しまれてますか?」

 そこにホスト役の英理子が、近づいてきた。

「ええ、お陰様で」

「どうです? 私と一曲踊りませんか?」

「横島お兄様に、近づかないでくださいっ!」

 横島の腕をつかみながら、ガルル…と令子がうなっていたとき、どこかで聞き覚えのある声が横島と令子の耳に入った。

「ああっ!? 横島くんじゃない〜〜!」

 薄紫色のドレスを着た冥子が、横島に向かってトタトタと走り寄ってきた。

「め、冥子ちゃん!? それに六道理事長まで!」

「ホホホホホ。久しぶりね〜〜横島くん」

 冥子の後ろから、和服を着た中年の女性――六道理事長――が近づいてきた。

 平安時代から続く六道家は、多くの資産をもつ事業家でもあった。
 六道家が運営している私立の学校には、女性のGSを養成するための除霊科がある。
 六道女学院の理事長である彼女は、また冥子の母親でもあった。

「六道の叔母さま!」

「あら、英理子ちゃん。お邪魔だったかしら?」

 英理子と六道理事長は、顔見知りのようである。

「六道家には、招待状は出していないはずなんですが」

「ホホホホホ。ほら〜〜うちの冥子って、なかなか社交界に出たがらないじゃない〜〜。
 せっかくの機会だから〜〜金成木くんに電話したら、すぐにオーケーしてくれたわよ〜〜」

 どうやら六道理事長は、英理子ではなく父親の方と交渉したようであった。

(うわ。天下の金成木財閥の当主も、くんづけ呼ばわりかよ)

 六道家の底知れない影響力に、さすがの横島も舌を巻いていた。

「横島く〜〜ん、あっちのテーブルで、一緒にお食事しましょう」

「冥子さんも、勝手に横島さんを連れてかないでください!」

 冥子が横島の服の端を掴んで、その場から連れ出そうとする。
 新たな敵の出現に、令子は慌てて腕を引っ張って、横島をその場に引き止めた。

「横島くん。冥子と一緒に、踊ってくれないかしらー」

「叔母さま! ダンスでしたら、私の方が先に!」

 六道理事長の発言に、英理子が慌てて割り込んだ

「この場は〜〜ホストの方が優先かしらー。横島くん〜〜後で冥子と踊ってあげてねー」




 横島は英理子の手をとって、会場の中央へと向かった。
 そして周囲にいる男女のペアと一緒に、音楽に合わせて踊り始める。

「英理子さんとは、お父上から仕事の依頼があったときに、二、三度お会いしただけなのに、
 どうしてそんなに俺にこだわるんですか?」

「横島さんのことは、こちらで調べさせてもらいました。恋人がいたとは予想外でしたけど。
 報告によれば、横島さんの事業家としての資質は、かなり確かなようです。
 幸いお父様も、横島さんをかなり気に入っています」

「つまり、ビジネスとして考えろと?」

「ええ、そうです。私を愛する必要はありません。
 一言、イエスと言ってもらえれば、金成木財閥はやがてあなたのものとなります」

「俺を買ってくれるのはありがたいけど、今の仕事にも愛着あるんだよね」

 横島は黙って、しばらく考えて込んだ。

「考えるまでもないじゃないですか。これであなたも、サギ商売から足を洗えるんですから」

「サギ?」

 横島が、きょとんとした顔をする。

「決まってるじゃないですか。あなたの仕事ですよ。
 だって、幽霊だの妖怪だの、本当にいるわけないじゃないですか」

 あまりの価値観の違いに、横島は唖然とした。
 反論しようと口を開きかけたとき、別の声が二人に聞こえてきた。

『おまえはまだ、そんなことを言ってるのかい〜〜』

 その声が聞こえた途端、英理子の顔がピシッと凍りついた。

「今のは、誰?」

「し、知りません!」

 その声が、生身の人間が発した声でないことに、横島は気づいていた。

「おキヌちゃん? 今日は事務所で留守番している約束だろ?」

「私じゃないです〜〜」

 ふよふよと空中を漂いながら、おキヌが姿を現した。

「いたずらしちゃ、ダメじゃないか」

「だから、私じゃないんです。他の幽霊さんが……」

 横島が振り返ると、頭を抱えてしゃがみこんでいた英理子の背後に、品のよさそうな老婆の幽霊がいるのが見えた。

『英理子〜〜お婆ちゃんだよ〜〜。ほーらほら、本物の幽霊だよ〜〜』

「ウソよーっ! これは幻覚、幻覚なのよーーっ!」

 英理子はしゃがみながら、大声で泣き叫んでいた。

「あの、失礼ですがどなたでしょうか?」

 横島が、老婆の幽霊に話しかけた。

『あたしゃ悪霊じゃありませんよ。去年死んだ英理子の祖母です』

 老婆の幽霊が、横島に答えた。

「この子は小さい頃から怖がりでね〜〜。幽霊やお化けの話をするとワーワー泣くんですよ。
 あんまり面白いんで、今もこうして、時々おどかしてるんですけどね」

 あまりに間の抜けた展開に、横島は思い切り脱力してしまう。

「そーゆーのを悪霊って言うんですよ。依頼受けたわけじゃないんで、乱暴なことはしませんが」

 横島は幽霊の襟首を掴むと、ポイと遠くに投げ飛ばした。

「これで幽霊なんていないことが証明されましたね!」

 即座に復活した英理子を見て、横島は再度脱力した。

「横島さんもサギ商売から足を洗って、私と一緒にビッグマネーを掴みましょう!」

「おキヌちゃん、ちょっとこの人に取り憑いてくれない?」

「なんだかわかりませんが、とりあえず行ってきまーす」

 人魂と一緒にふわふわ浮いている巫女服姿のおキヌを見て、英理子は「これも幻覚ーーっ。幻覚なのよーっ」と叫びながら、この場から逃げ出した。

「ふーっ。これで一件落着だな」

「さっきの話、断っちゃうんですか?」

 令子が横島に尋ねた。

「大金持ちになるのも悪くないけどさ、やっぱり今の仕事好きなんだよ。当分は辞めたくないな」

 横島の返事を聞いた令子が、明るい笑顔を見せた。

「そーですよねー。やっぱりGSの仕事って面白いですし。それじゃあ、二人で帰りましょうか」

 令子が横島と一緒に帰ろうとしたとき、二人の女性が横島の行く手を遮った。

「横島くん! 冥子と踊る件はどうなったのかしら〜〜」

「横島く〜〜ん、あっちで冥子と一緒に、お料理食べようよ〜〜」

「冥子! 食べるのは後にしなさい。社交ダンスの一つもできなくてどうするんです!」

「だって〜〜お腹空いたんですもの〜〜」

「横島お兄様は、私と一緒に帰るんです!」

 三人の女性に囲まれた横島は、完全に逃げ道を失ってしまう。

(今日は、厄日かよ……)

 英理子の件こそ片付いたものの、横島の女難は、まだまだ終わりそうになかった。


(レポート9.プロポーズ大作戦! 完)


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