「ねえ、シンジ。ここどこよ?」

「さ、さあ?」

 シンジとアスカとレイの三人は、学校の授業が終わった後、一緒に学校の校門を出た。
 今日は訓練の予定も入っていなかったため、街に出て買い物でもしようかと話していたときのことである。

 並んで歩く三人の前に、突然濃い霧が現れた。
 気にせずその霧を突っ切ろうとしたが、その霧の中を過ぎてみると、今まで歩いていた街並が消え、見たこともない場所に出てしまったのである。

(でも、何となく見覚えがあるんだよな……)

 シンジは今いる場所に心当たりはなかったが、似たような感じの場所は知っていた。
 雑然とビルが建ち並び、多くの人がせかせかと歩いている。
 通りには車がひしめいており、電化がまるで進んでいないのか、車の排気ガスの臭いが強く感じられた。

(たぶん、ここは東京だよな。それも、僕たちの時代より前の)





 『新春特別企画』

2006年だよ全員集合!

作:湖畔のスナフキン






「碇君、寒い」

 シンジの右隣を歩いていたレイが、クシュンとくしゃみをした。

「そうね。ずいぶん寒いわ。まるで冬の寒さよ」

 セカンドインパクトの後、常夏の国となってしまった日本と違い、アスカが生まれ育ったドイツにはきちんと四季があった。
 もちろんアスカも、冬の寒さは体験している。
 よくよく周囲を見回してみると、周囲を歩く人たちは、皆コートやジャンバーを羽織っていた。

「とりあえず、そこの建物の中に入りましょ」

 アスカは近くにデパートを見つけると、シンジとレイを連れて中に入った。




 デパートの中は、ほどよく暖房がきいており、夏服のシンジたちでも寒さを感じなかった。

「中は暖かいわね」

 レイとアスカは、デパートの中にあったベンチに座る。
 ベンチには二人しか座るスペースがなかったので、シンジは少し離れた場所に立った。

 デパートの中を通り過ぎ行く人たちが、シンジたちを物珍しそうな目で見ていた。
 シンジたちの夏服が珍しかったのか、それとも色白で蒼銀(そうぎん)の髪をもつレイや、紅毛碧眼(こうもうへきがん)のアスカの姿が珍しかったのかはわからない。

「携帯がつながらないわ」

 シンジとアスカも携帯を取り出して電話をかけてみたが、どこにも通じなかった。
 画面をよく見てみると、電波がまったく届いていない。

「こんな街中なのに、電波がまったく入らないってどういうこと!?」

(やっぱり、時代が違うのかなあ)

 もし、ここが横島の時代の東京であったとすれば、ネルフはおろか第三新東京市ですら影も形も存在しない。
 携帯電話だって、世代が違って周波数が合わなければ、電波は入らないのである。

(最悪、レイやアスカたちと一緒に、美神さんの事務所に行くしかないかも)

 シンジが一人であれこれ考えていたとき、突然背後から肩をポンと叩かれた。

「わっ!」

「そんなに驚くなよ。俺だよ、俺」

「横島さん!?」

 シンジの背後に立っていたのは、横島だった。

「なんだ、レイちゃんやアスカたちも一緒か。シンジだけ呼ばれたんじゃなかったんだな」

「ここはどこなんですか? 僕たち突然、転移してしまったみたいなんですけど」

「いいかシンジ、よく聞け。ここは俺のいる時代の東京じゃない」

「なんですって!」

「俺たちは、2006年正月の東京に来ているらしい。どうやら誰かに呼ばれたみたいだ」

 横島はシンジに、一通の招待状を渡した。

「俺がここに飛ばされたときに、この招待状がポケットに入っていた。
 どうやら、俺を呼んだやつが差出人らしいな」

 シンジが招待状を読むと、今日の19時に美神除霊事務所に来るようにと書いてあった。

「それで、これからどうするんですか?」

「とりあえず、時間になったら行ってみるさ。
 俺は他に調べたいことがあるから、後で事務所で合流しよう」




 シンジが横島と別れたあと、ベンチに座っていたいたアスカとレイが駆け寄ってきた。

「シンジ、今の人だれ? 知り合い?」

「うん」

「そうなの。それで、ここがどこか聞いた?」

「聞いてみたけど、その人もわからないって言ってた」

「頼りにならないわね。それで、これからどうするの?」

「後で合流する約束をした。その人と一緒なら、たぶん帰れると思うよ」

「わかったわ。でも、どこかで時間をつぶすにしても、服を買わないといけないわね」

 アスカはシンジとレイを連れて、婦人服売り場に向かった。
 そして自分とレイの服を選ぶと、レジに向かう。

「お客様。申し訳ありませんが、こちらのクレジットカードは使えません」

「えーっ! どうしてなのよ!」

 アスカはネルフのカードで精算しようとしたが、レジの機械ではじかれてしまった。
 どうやらここでは、ネルフのカードは使えないらしい。

「アスカ。ネルフのカードは、たぶん第三新東京市限定なんだよ」

「国連直属の特務機関なのに、ネルフは知名度低いわね。でも私、現金持ってないわよ。レイは?」

「私も持ってないわ」

「じゃあ、ここは僕が払うよ」

 シンジは美神除霊事務所で除霊をして稼いだバイト代を、たまたま持ち合わせていた。

「次はシンジの服ね。ちょっと、アンタ。なに涙ぐんでるのよ?」

 シンジは体を張って稼いだバイト代が、レイとアスカの服代として消えていくことに、何とも言えないやるせなさを感じていた。




 冬物の服を身に着けたシンジたち三人は、「時間になるまで、この辺りを探検するわよ」というアスカの言葉に引きずられて、デパートの外に出た。
 買い物客でごったがえす中、シンジが通りを辺りをきょろきょろ見回しながら歩いていると、正面から人にぶつかってしまった。

「いった〜〜い!」

「ご、ごめんなさい」

 シンジの目の前で、栗色の髪をした高校生くらいの少女が、尻もちをついていた。

「ちょっと、アンタどこ見て歩いてるのよ!」

「すみません! 探し物をしていたので……」

 突っかかってくる少女に、シンジは反射的に謝ってしまう。

「次からは、気をつけなさいよ」

 少女はぶつくさと言いながら立ち上がると、スカートについたほこりを手で払い落とした。

「そうそう。私も人を探しているんだけど、この人を見かけなかった?」

 そういうと少女は、二十歳くらいの男性の写真を見せた。
 しかも、なぜか着替え中の写真である。
 その写真を見たシンジは、アッと声を出しかける。

「シンジ。この人、さっきの知り合いの人じゃないの?」

 横から覗き込んだアスカが、写真を見て口を開いた。

「あなたたち、横島お兄様を見かけたんですか!?」

 少女がキッと目を釣り上げる。

「この人、横島って言うんだ。なんだか知らないけど、シンジの知り合いみたいよ。
 ついさっき、そこのデパートで、シンジと話してたから」

 アスカが、少女の質問に答えた。

「どこのデパートですか?」

「あそこのデパートよ、ほら」

 アスカがさっき出てきたデパートを指差した。

「あのデパートね。ありがとう、助かったわ。それじゃ!」

 少女はシンジたちに礼の言葉を述べると、ズドドドと駆け出していった。

「なんなの、あの人?」

「さ、さあ」

 シンジは走り去る少女の後姿を見ながら、一人首をかしげていた。

(さっきの人、どこかで見覚えがあるんだよな? 初対面のはずなんだけど……)

 その少女が実は女子高生バージョンの美神令子だったとは、霊能力が使えるようになったとはいえ、まだ初級者レベルのシンジが気がつくはずもなかった。




 シンジたちは街の探索を続けていたが、しばらくしてレイがシンジのコートの袖を指で引っ張った。

「碇君、のどが渇いたわ」

「私も同じ。のどがカラカラよ。どこかで一休みしましょうか」

 レイとアスカが、揃って休憩を訴える。
 シンジは二人を連れて、近くにあった喫茶店に入った。

「いらっしゃいませ。お客様は何名ですか」

「三人です」

 店のウェイトレスは、シンジたち三人を窓際のテーブル席に案内した。

「私、紅茶がいいわ。レイは?」

「私も紅茶がいい」

「じゃあ、僕も同じで」

 三人は、席に案内してくれたウェイトレスに、紅茶を三つ注文した。

「ねえ、シンジ。私たち、本当に帰れるのかしら?」

「大丈夫だよ、たぶん」

 シンジは、横島から受け取った招待状を開くと、もう一度じっくりと目を通した。
 招待状には案内の文章の他に、美神除霊事務所の住所と地図がのっていた。

(特に怪しい内容じゃないよな)

 ふと気がつくと、別のテーブルに座っていた高校生くらいの年齢の少女三人が、シンジのいる方をチラチラと見ていた。
 少女たちは、顔をつき合わせてヒソヒソと話し合っていたが、やがて少女たちの一人が、意を決した表情でシンジたちのいるテーブルに近づいてきた。

「あの、失礼ですけど、さっきこれと同じ招待状を見ていませんでしたか?」

 黒髪をボブカットにした少女が、シンジに持っていた招待状を見せた。

「同じですね」

 シンジは自分が持っている招待状を、少女に見せる。

「実は私、人を探しているんです。事務所の関係者なら、ご存知かもしれないと思って」

 少女は定期入れを取り出すと、その裏に入れてある写真をシンジたちに見せた。

「あれ、この人さっきの人よね? 横島さんって言ったっけ?」

「知ってるんですね!」

「さっきも聞かれたのよ。別の女の人に」

「誰ですか、その人!」

 少女の語気が、急に荒くなった。

「年齢はあなたより少し上くらいで、栗色の長い髪をしていたわ」

「で、その人はどこに!」

 少女はつかみかかりそうな勢いで、アスカに迫った。

「で、デパートよ!」

 アスカは慌てて、最初に入ったデパートの位置を説明する。

「こうしちゃいられないわ。お兄ちゃんを、その女の毒牙から守らないと!
 舞奈ちゃん、月影さん、急いで行くわよ!」

「待ってよ、蛍ちゃん!」

 三人組の少女は急いで会計を済ますと、ドタバタと走って喫茶店を出て行った。

「……アンタの知り合いって、ずいぶん女子高生にモテるのね」

「うん、僕もはじめて知った」




 やがて待ち合わせの時間が近くなったので、シンジたちは近くの駅から電車に乗り、美神除霊事務所へと向かった。
 そして事務所の中に入ると、驚いたことに横島と同じ顔をした人物が、十数人も集まっている。
 部屋の数箇所に丸テーブルが置かれており、魔法料理店『魔鈴』からの出前と思われる料理と飲み物が置かれていた。

「おっ、シンジか」

 部屋の中にいた横島たちの一人が、シンジに話しかけてきた。

「横島さん……ですか?」

「そうだよ」

「それじゃあ、他の人たちは誰なんです?」

「何人かと話したんだけど、どうやら全部俺みたいだ」

「本当ですか!?」

「ああ。ただ、どうも皆、違う世界から来たらしいな」

 よく見てみると、部屋の中にいる横島たちは年齢にバラつきがあった。
 一番上は二十代後半くらい、一番下は高校生ほどの年齢であろうか。
 それに、ここにいるのは横島だけでなく、おキヌやシロやタマモなど、女性たちの姿もちらほらと見られた。
 彼女たちは横島の誰かにくっついているところを見ると、どうやらカップルで転移してきたようである。

「皆さん、お待たせしました」

 別室につながっているドアが開き、ジージャンにバンダナ姿の横島が出てきた。
 その横島は部屋の中央に立つと、この部屋にいる全員に呼びかけた。

「えーっ、私にも覚えがありますが、皆さんは年末年始を寂しくすごしていたであろうと思います。
 そこで勝手ながら、魔神となった私がその力でもって皆さんを召還したわけです
 短い時間ではありますが、魔神になって一周年記念パーティを開きますので、どうか楽しんで
 ください」

 部屋の中央で挨拶を済ませた横島を、数名の横島が取り囲んだ。

「寂しい年末年始なんて、余計なお世話じゃ!」

「楽しくすごしてもらうなら、美人のネーチャンの一人や二人や三人、用意せんかい!」

 どうやらこの横島たちは、未だに彼女なしの独身者(ひとりもの)のようである。

「ちょっと、アンタ!」

 アスカが招待者の横島をビシッと指差すと、ズカズカと近づいた。

「どういう事情か知らないけど、無関係の第三者を勝手に巻き込まないでくれる!?」

「えっと……君だれ?」

「惣流・アスカ・ラングレーよ。一緒にいるシンジが、アンタたちの一人と知り合いらしいけど、
 人の了解なしに勝手なことされると、とってもメーワクなのよ!」

おっかしいなー。召還の手順を、どこかで間違えたか?

 招待者の横島が、小声でぶつくさとつぶやいた。

「とにかく、私たちを元の場所に返して!」

「わかった。後でまとめて、元の時代と場所に返すから」

 アスカがぶつくさと文句を言いながら引き下がったとき、事務所の入り口のドアがバンと勢いよく開き、二人の女性が中に入ってきた。

「ヨコシマ!」

「ちょっと、横島クン。この騒ぎは、いったい何なの!?」

 部屋の中に入ってきたのは、この事務所のオーナーである美神令子と、黒髪をボブカットでまとめたスレンダーな体型の女性だった。

「あれは、ルシオラじゃないか」

「本物か?」

「間違いないな。俺がルシオラを忘れるはずないだろ」

 部屋の中にいた横島たちが、ボブカットの女性を見てガヤガヤと騒ぎはじめた。

「横島さん、あの人は誰ですか?」

 シンジが隣にいた(自分が知っている)横島に尋ねた。

「ルシオラって言うんだけど、前につきあっていたんだ。
 いろいろ事情があって死に別れたんだけど……そうか、あいつが死なずにすむ未来もあったんだな」

 ルシオラを目で追いながら、横島が目に涙をにじませていた。

「す、すみません。立ち入ったことを聞いてしまって」

「いいさ。俺にはもう過ぎた話さ」

 そのとき、シンジたちの近くでガタンと物音がした。

「お兄ちゃん! あの人、いったい誰? どうして私にそっくりなの!?」

「あ、あのな、蛍。これには、山より高く海より深い事情があってだな……」

「それに、私たち以外の女子高生に、追いかけられてたんでしょ!?」

「い、いや。それは、俺じゃない俺なんだよ」

「「蛍ちゃん、落ち着いて!」」

 三人の女子高生をつれた横島のグループが、ドタバタと騒ぎ始めた。

「ねえ、お兄様。本当にあのルシオラって人に、心当たりないんですか?」

「うーん。やっぱり心当たりないな。髪形とか冥子ちゃんに似てるけど、雰囲気が全然違うしな」

「ルシオラさんの隣にいる人、きっと大人になった私ですよ。あんなにグラマーになるんですね」

「そうだね。たしかに美人だ」

「今から手をつけておけば、将来お買い得ですよ。えいっ♪」

「わっ。こら、胸をすりつけちゃ駄目だってばーー」




 騒ぎは、拡大の一途を続けた。

「大変です! 中庭で巨大な竜が暴れています!」

「シュルガのやつだな。空腹で、気が短くなってるんだ」

 鎖帷子(くさりかたびら)を着ていた横島が、ローストビーフを載せた大皿を二つ手にもつと、事務所の外に駆け出していった。

「ハーッハッハッハ! 我こそは正義の宇宙人、ヨコシマンだあああっ!」

「キャーッ! ヘンタイよ、ヘンタイ!」

 短パンにランニングシャツ姿のヨコシマンを見た舞奈と絵梨が、部屋の中を必死になって逃げ惑う。

「何だか知らないけど、ずいぶん大騒ぎね」

「……そうね」

 シンジとレイとアスカは、部屋の片隅に避難すると、料理を食べながらこの騒動を見物していた。

「ま、第三新東京市に帰してくれれば、別にどーなろうといいんだけどね。
 ちょっとレイ、これけっこうおいしいわよ。少し食べてみたら?」

「いい。私、肉嫌いだもの」

 肉嫌いのレイは、シーフードグラタンとスパゲティ、それにサラダだけを自分の皿に盛っていた。

(やっぱり、魔鈴さんの料理はおいしいよな。今度、レシピを聞いてみようか)

 シンジはハーブ入りの特製シチューと鴨肉(かもにく)のローストを食べながら、腹を()かせて帰るであろうミサトのために、夕食は何を作ろうかと考えていた。


(お・わ・り)



【あとがき】
 正月ということで、少しはじけた話でも書こうと思ったのですが、山なし・オチなし・意味がなし
 の三拍子そろった話になってしまいました。(爆)
 アスカがやたらと目立ったり、逆にレイが全然目立たなかったり、蛍がちょっと壊れ気味だった
 りしますが、まあギャグということでご理解を願います。
 お遊びのつもりで書いたのですが、結果として正月を挟んで一週間以上かかった労作になって
 しまいました。(苦笑)

 《登場キャラクター、およびSSリスト》
交差する二つの世界 横島、シンジ、レイ、アスカ
GS美神 女子高生大作戦! 横島、美神
『妹』 〜ほたる〜 横島、蛍、舞奈、絵梨
君ともう一度出会えたら 横島、ルシオラ、美神
竜の騎士 ヨコシマ、シュルガ
その他、短編集 ヨコシマン

 なお、このSSで起きた出来事は、現在進行中の各長編の内容とはまったく関係ありません。
 不思議時空の謎の話ということで、ご理解を願います。



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