ある晴れた日の午後

作:男闘虎之浪漫



 ある休日の午後のことであった。
 横島とルシオラは、食卓のテーブルに向かい合って座っていた。

 パピリオは妙神山に出かけていて、夕方まで戻らない。
 外に出かける用事もなく、二人はのんびりとした時間をすごしていた。

「そろそろ、布団を取り込んでも大丈夫かな」
「ん? じゃ俺がやろうか」

 横島は読んでいたスポーツ新聞を椅子の上におくと、居間を通ってベランダへと向かった。
 やがてパンパンと布団をはたく音が、ダイニングルームまで聞こえてくる。

 ルシオラは砂糖のたっぷり入った紅茶を一口すすった。
 ちょっとだけ横島に悪いかなと思いつつも、横島が文句一つ言わないので素直に甘えることにした。
 そしてテレビのスイッチを入れると、新婚さん向けのバラエティ番組を見はじめた。

 しばらくして番組がCMに入った時、ふと気がつくとふとんをたたく音が止んでいた。
 だが横島は戻ってこない。ルシオラは気になって、居間へと向かった。




 横島は居間にいた。
 居間には取り込んだばかりの布団が積まれており、その真ん中で横島は腹ばいになって寝そべっている。
 スースーという、かすかな寝息が聞こえてきた。

「ヨコシマ……寝てるの?」

 ルシオラがそっと声をかけた。だが横島の反応はなく、寝息の音だけが聞こえてくる。

(最近、仕事で遅いことが多かったから、疲れていたのかな?)

 ルシオラはしゃがむと、そっと横島の頬を指で押してみた。
 指で押すと少しだけ(へこ)む。指を放すと元に戻った。

(やだ……なんか、可愛い)

 ルシオラは面白くなって、何度も横島の頬を指でつついてみた。
 年齢的には大人の横島が、なぜか幼い子供のように見えてくる。

「う……ん」

 横島は軽いうなり声をあげると体の向きを変え、腹ばいの姿勢から横向きの寝姿になった。
 だが、相変わらずよく眠っている。

「ふふっ♪」

 ルシオラは何かを思いついたのか、小さな笑い声をあげた。
 そして横島の隣で横になると、横島の顔と正面から向き合う。

「これからもずーっと一緒にいてね。ヨ・コ・シ・マ♪」

 ルシオラは顔を近づけると、スースー寝息をたてて眠っている横島の頬に、そっと口づけをした。




 横島が目を覚ましたのは、数時間後のことであった。
 目を開けると、目の前でルシオラがスースーと寝息をたてて眠っている。
 しかも横島の右手とルシオラの左手が、軽くつながっていた。

 横島はルシオラを起こさないよう、手をつないだまま上半身を起こした。
 外を見てみると、夕暮れまでにはもう少し時間があったが、日がだいぶ傾いている。

「ふわあー。よく寝たなあ」

 横島は空いている左手で、頭をぼりぼりとかいた。そして首を数回まわし、眠気を追い払う。
 横島はつながったままの右手をそっと外すと、少女のようなあどけない姿で横になっているルシオラの寝顔を、じっと眺めはじめた。

「ん……」

 しばらくして、ルシオラも目を覚ました。

「起きてたのね。ヨコシマ」

 ルシオラは右手で目をこする。
 横島はしばらくその様子を見ていたが、やがてルシオラの体をぎゅっと抱きしめた。

「やだ……。どうしたのよ、急に?」
「ルシオラの寝顔が可愛かったから」

 横島はルシオラの髪に、ルシオラは横島の少しだけたくましい胸の中に、それぞれ顔をうずめた。
 ルシオラの甘い髪の匂いが横島の鼻腔に、横島の少しだけ男臭い体臭がルシオラの鼻腔にただよってくる。
 二人はそのままの姿勢で抱き合っていたが、しばらくして正面から向かいあった。

「……」
「……」

 二人の顔は、うっすらと上気していた。
 どちらからともなく、二人の(くちびる)が近づいた時──

「ただいまっ!」

 バン!とドアが開くと、パピリオがドタドタと駆け込んできた。

「ルシオラちゃーん、お腹へったでちゅ。ヨコチマ、ゲームステーションで(カク)ゲーやろっ!」

 パピリオが居間に入ると、正座したまま背中あわせで座っている横島とルシオラの姿があった。

「……なにをしてるんでちゅか」
「いや、なんだ、その、別に何もしてないぞ」
「ちょとね……、ホホホ」
「もう、二人とも気味悪いでちゅ」

 パピリオは横島をつかまえると、ゲーム機の前に引きずっていった。
 ルシオラも台所に駆け込み、夕食の支度をはじめた。


 その日の夜はいつもより寝室に入る時間が少しだけ早く、また起きるのも遅かったが、パピリオが気にしていなかったのでよしとしよう。


(お・わ・り)


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