初めての夜

作:湖畔のスナフキン



(注)ルシオラが復活したという設定です。


 カラーーン
 カラーーン

 唐巣神父の教会に、鐘の音が響きわたる。
 BGMに結婚行進曲が流れ、タキシード姿の横島と、そしてウェディングドレスを身につけ満面に笑みを浮かべていたルシオラが入場してきた。
 そう、今日は二人の記念すべき一日であるのだ。

 二人を祝福するために集まったのは、横島の両親と少数の親族、そしてルシオラの姉妹であるベスパとパピリオ、あとは仕事関係のGSたちであった。
 かつては横島を巡って争ったライバル達も今は自らの敗北を認め、二人を祝福したのであった。


 式が終了したあと、魔鈴のレストランへ移動して二次会となった。
 当然、貸し切りである。

 横島は男たちからのやっかみを山ほど受け、ルシオラもルシオラで女性陣に取り囲まれていた。
 さすがにこの場で嫉妬の言葉を口に出すことはないが、その分どうやって横島を陥としたのか、根掘り葉掘り聞かれる羽目となった。

 そうして二人が解放されたのは、その日の夜になってのことであった。



 横島とルシオラは、都内の一流ホテルにチェックインした。
 既にスイートルームを予約済みである。

「じゃ、先にシャワーを浴びるから」

 横島は服を脱いでシャワー室に入る。

(夢じゃないよな……)

 横島は、自分で自分の頬っぺたをぎゅっと掴んだ。
 当然、夢であるわけはない。

(本当にいろいろな出来事があったよな……)

 ルシオラとの思い出が、走馬灯のように脳裏に浮かぶ。
 敵としての出会い、初体験未遂事件と彼女とのファーストキス、悲しい別れ、そして奇跡の再会……
 多くの障害があったが、それを乗り越えるたびに二人の絆はより一層強くなった。
 そして最後の難関──経済的な自立──を独立・開業という形でクリアーし、ようやくここまでこぎつけることができたのだ。

 もう何の障害もない。
 しかし横島の胸には、まだ不安な思いが残っていた。
 それは──

(俺、まだシタことがないんだよな)

 知識だけは山ほどある。
 しかし実経験はゼロだ。

 ルシオラと付き合う前は女性にまったく縁がなく(本当は横島が鈍感で周囲の女性の好意に気づかなかっただけなのだが)、当然ながら経験もなかった。
 美神の事務所でバイトしていた頃は、薄給のためプロの世話になることもなかった。
 横島の悪友たちの中にはプロを相手に初体験をした者もいたが、横島自身はどうしてもそういう気にはなれなかったのである。


 横島はシャワー室を出ると、寝巻きの上にガウンを羽織った。
 横島はちらりとルシオラに視線を向ける。
 彼女もどこか緊張した表情をしていた。

「わ、私もシャワーを浴びるわね」

 ルシオラは小走りて、脱衣所へと駆け込んでいった。
 手持ち無沙汰になった横島は、テレビのスイッチをつける。

(ルシオラも、たぶん初めてだよな)

 チラリと疑念が頭をよぎってしまう。

(いや、そんなことはありえない……俺ってけっこう独占欲が強いかも)

 ルシオラにとって横島は、それこそ最愛の男性であった。
 他の男たちには目もくれず、一途に横島に情熱を注いでいる。
 どうもそのことが、他の男どもからやっかみを買う一番の理由のようだ。
 しかし……

(最後の一線に迫ろうとすると、いつもやんわりと避けられていたっけ)

 ルシオラは決して横島のことを拒みはしなかったが、どうしても最後の一線だけは越えさせなかった。

(まさか今晩も避けられたりはしないだろうな……)

 今まで必死にガマンしてきた横島であったが、さすがに今度ばかりは拒否されたくはなかった。


 ルシオラがシャワー室を出てきた。
 横島と同じく、寝巻きの上にガウンを羽織っている。
 そして髪の毛を乾かすと、ベッドに腰かけている横島の隣に座った。

「……」
「……」

 二人とも体が硬直状態となる。互いに言葉が出ないまま、しばらく無言の時が続いた。

「……ヨコシマ、ごめんね」
「えっ? 何が」
「ヨコシマがシタかったのは、よくわかってたの。でもいつも避けてたじゃない」
「今に思えば、けっこうショック大きかったよな」
「どうしても不安だったの。ヨコシマのことは信じていたけど、人間社会のことをいろいろ知ってみると、人間の男にはいろんなのがいるじゃない……」
「ま、確かにいろんなのがいるよな」

 横島は内心苦笑する。
 自分の父親というよい実例があるし、もし自分も女性にモテていれば同じ道を突っ走った可能性が高いからだ。

「だからね、結婚するまでは──って考えてたの。それに……」
「恐かった?」

 ルシオラは、コクンとうなづく。

「こ、恐いというか、緊張しているのは俺も同じさ。ほら」

 横島はルシオラの手を自分の胸の上にもってくる。
 ルシオラの手に、早鐘のように鳴る横島の心臓の鼓動が伝わってきた。

「お、俺もさ、ルシオラと知り合うまでは女性と付き合ったことが全然なくて、いつも振られてばかりだったからさ、その……初めてなんだ」

 ルシオラは自分のことを正直に打ち明ける横島の気持ちをうれしく思いつつも、あまりの鈍感さに少々あきれた。
 この男に思いを寄せる女がどれほど多かったことか。
 そして彼女たちを押しのけて栄光の座を勝ち取るまでにどれほどの紆余曲折があったか、少しも分かっていないだろう。

「だ、だから、初めてなのは同じなんだ。ルシオラも初めてだろう?」
「私は──ヨコシマだけよ」

 そのセリフに、横島はクラリとしてしまった。

「そ、それで、お互い慣れていないんだから、少しずつ前進していったらいいと思うんだけど──」
「わ、私も大丈夫よ。もう……待たせたりはしないから……」

 そうつぶやくルシオラの頬は、わずかに紅潮していた。

「ルシオラ……」

 横島はルシオラの肩に手をかけた。
 思わずルシオラは、体を固くする。
 横島はルシオラの背にそっと手を回すと、やさしく口づけをした。
 唇を合わせ続けているうちに、ルシオラの体から徐々に力が抜けていく。
 横島はルシオラの唇から耳たぶ、首すじ、うなじへとキスしていく。

「アン……」

 ルシオラが甘ったるい声を口にした。
 そして、横島がルシオラの胸元を広げ……


































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当局の検閲により、記述の一部を削除しました






 横島とルシオラは、生まれたままの姿で寄りそうようにして眠っていた。

 チュンチュン

 やがて鳥のさえずる音で、ルシオラは目を覚ます。
 ルシオラは、愛しい男の胸に顔をうずめた。
 女としての深い喜びと安堵感が、胸いっぱいに広がっていく。

「……おはよう」

 しばらくして横島も目を覚ました。
 ルシオラは顔を上げ男の唇に軽いキスをし、そのまま横島の体にぎゅっと抱きついた。

「しばらくこうしてていい?」

 横島は何も言わずに、ルシオラの頭を抱きかかえた。
 そのまま数分間が経過する。

「……なぁ、ルシオラ」
「なに?」
「また、シタくなっちゃったんだけど──」



 二人がホテルを出た時、時刻はチェックアウトの期限ぎりぎりの10時になっていた。

「ヨコシマ、早くしないと飛行機の時間に間に合わないわよ!」
「あのなぁ〜〜、腰に力が入らないのに、こんなに人に荷物を持たせるなよ!」
「それはヨコシマの自業自得です♪」
「くっそ〜〜。今夜は絶対寝かさないからな!」

 二人の世界に浸りきっている横島とルシオラであった。


(お・わ・り♪)


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