ルシオラ in 清く貧しく美しく!
作:湖畔のスナフキン
(注)原作を再構成した作品です。コンセプトは『もしあの話にルシオラが出ていたら〜』です。
唐巣神父の教会に、横島の姿があった。
蝶ネクタイを締め、タキシードを着ている。
そしてその隣には、ウェディングドレスを身につけた小鳩の姿があった。
「汝、病める時も健やかなる時も──」
だが、横島たちの前に立っていたのは、唐巣神父ではなく西条だった。
「やめたまえ君たち! これは神への冒涜だよ!」
「まーまーそう固いこといわんと。これも人助けや」
唐巣神父が青筋をたてているが、身長3mほどの大きさの貧乏神のビンが唐巣神父の襟首を掴んで離さずにいた。
「もう誓いはいいから、指輪を交換しよう」
「はい、指輪よ(怒)」
同じく眉間に青筋をたてていたのは、ルシオラであった。
……話は数日前にさかのぼる。
横島の隣の部屋に、小鳩と小鳩の母親が引っ越してきた。
しかし、小鳩の一家には貧乏神のビンがとりついていた。
横島は貧乏神を祓おうと、栄光の手(ハンズ・オブ・グローリー)で攻撃するが、かえって逆効果となりビンは横島の霊力を吸い取って巨大化してしまった。
通常の手段では、貧乏神は祓えない。
一同が頭を抱えていた時に、西条が出したアイデアが『結婚』であった。
横島が小鳩と結婚することで、ビンが受けた霊力が中和されるというのだ。
かくして、横島と小鳩の結婚式が挙行された(横島は18歳未満なので法的には結婚は成立しない。あくまで儀式である)。
しかし恋人のルシオラがそれをこころよく受け入れることができなかったのは、これまた当然であろう。
冷や汗を流しながら指輪を受け取った横島は、振り返って小鳩の正面に立つ。
小鳩は横島の顔を正面から見つめ、にこりと笑った。
「横島さんにはご迷惑でしょうが、小鳩はうれしいです」
「え!?」
「横島さんってとってもいい人なんですもの。自分に正直であけすけで、その分誤解されたり傷ついたりして。でもそんな人だから、そばにいて安らげるというか……」
「小鳩ちゃん……」
「ビンちゃんのことを知ったら友達も離れていくのに、横島さんは大騒ぎをするだけであとはちっとも……」
小鳩はクスリと軽く笑う。
「だから私、本当の結婚じゃなくても、なんかとっても幸せなんです──」
(ヨコシマの良さに気づくなんて、なんかとっても悔しいわ! 私だけかと思っていたのに……)
ルシオラは悔しい思いをする一方、とかく女性から誤解されがちな横島の良さを見抜いている小鳩に対して、警戒心を抱いた。
「まま、その辺の話はあとでゆっくりしようや。まずは指輪の交換を……」
式の進行を進めるため、ビンが間に割って入る。
横島は小鳩の手をとって、薬指に指輪をはめた。
カッ!
シュウゥゥゥ……
ビンの体が光り輝き、巨大な体がしだいにしぼんでいった。
「ご飯ができました」
式を終えた後、一同は小鳩の部屋へと戻っていた。
横島や西条、そしてルシオラがいる部屋に、小鳩が食事を運んでくる。
「おおーっ、メシやメシや!」
そしてそこには、大人ほどの大きさにまで縮んだビンの姿があった。
元の姿が幼児くらいであったから、まだまだである。
「やっぱ、あんな式だけやと、元の大きさには戻らんなー」
「困ったねえ」
他人事のような顔をして、わっはっはと西条が笑った。
「お、お前らなー」
さすがに横島は当事者だから、真剣な表情をしている。
「やっぱし……ほんまに結ばれなあかんのとちゃうか?」
ドキッ!
横島の心臓が大きく鼓動する。
そして血圧が大きく高まり、鼻の粘膜から出血がはじまった。
(か、考えてみれば、夫婦といえば『何でもアリ』の関係。このねーちゃんが丸ごと俺のモノ……。何をしようがオールOK!?)
横島が、ちらっと小鳩の顔を見る。
小鳩は横島と目があった途端、カーッと顔を紅くしてうつむいてしまった。
(あんまり、嫌がってない?)
しかし、ルシオラの方を振り向いた瞬間、浮かれた気分は一気に遠のいた。
ルシオラは真っ青な顔をして拳をふるわせており、さらにその背後にはブリザードが吹き荒れていた。
(ま、まずい。このまま突っ走ったら、俺はルシオラにヤラれてしまうかも!)
結局その場では、結論を出すことはできなかった。
その場はいったんお開きとなり、横島と小鳩を除いて全員が引き上げていく。
横島たちのアパートには風呂が付いていないので、横島は小鳩と一緒に銭湯にいく約束をした。
「ヤバい、ヤバすぎる! 俺という男が、そういつまでも理性を保てるはずはないし……」
横島は湯船につかりながら、ぶつぶつと独り言をつぶやく。
「でも小鳩ちゃんって可愛いよな……。胸も大きいし」
このセリフをルシオラが聞いたら、横島はまず間違いなく半殺しであろう。
「しかし手のひらサイズとはいえ(謎)、美人でスレンダーでしなやかな抱きごこちのルシオラも捨てられん! どうすりゃいいんじゃーー!」
横島は、ゆでだこになるまで湯船につかり続けていた。
すっかりのぼせた横島がようやく銭湯を出ると、小鳩が銭湯の入り口で横島を待っていた。
「一緒に帰りましょう、横島さん」
「こ、小鳩ちゃん、待ってたの? この寒い中を──」
辺りの空気は冷たく、しかも雪が降りはじめている。
「言ってくれれば、もっと早く上がったのに」
「え、でも私も出たばかりですから」
その言葉は、明らかにウソであった。
小鳩の髪の毛には雪が積もっている。
「小鳩ちゃん……」
横島は小鳩の髪に積もっていた雪を、手で振り落とす。
横島の顔が間近に迫り、小鳩が赤面しかけた時……
「おーっ、小僧ではないか!」
通りかかったカオスが話しかけてきた。
「なんじゃい、女連れか。ヤボだったかの?」
「い、いや、これはその……」
「まぁいいわ。これをルシオラに渡しといてくれんか?」
カオスが一冊の本を手渡してきた。
「うむ。貧乏神退治の方法を記した古文書じゃ。大至急必要らしいが、ワシはこれからバイトがあるでな。では頼んだぞ」
「なんだルシオラのやつ、隠れてこんなことをしていて……」
「そおはいくかーーーっ!」
突然ビンが現れ、横島が手にしていた古文書を奪う。
「困ったもんを手に入れてくれたなー。今更退治されてたまるか!」
「な、何しやがる、貧乏神!」
「理由は言えんが、お前らにこの本を読ませるわけにはいかん。せやけど、悪気で言うとるんやないで。わかってくれ!」
「わかるわけないでしょ! 悪気がないならとっとと退治されなさい!」
物陰から飛び出したのは、ルシオラとパピリオであった。
「その本を返して!」
「ルシオラ……、いつからそこに(汗)」
「偶然通りがかっただけよ」
「ルシオラちゃん、頭に雪が積もっているでちゅ」
ルシオラは、あわてて頭に積もった雪を振り落とす。
「そんなことは、どーでもえーわい! ていっ!」
ビンは古文書を口の中に放り込み、そのまま飲み込んでしまった。
「このーっ! 吐き出しなさい!」
ルシオラが霊波砲を放つ。
「ルシオラさん、ダメーッ!」
小鳩が制止したが、遅かった。
ドコン!
ルシオラの一撃を受けたビンはその魔力を吸収し、10階建のビルほどの大きさに膨れ上がってしまった。
「さすがに魔族の一発は、ものごっついな……って、どう始末してくれるんや、ねーちゃん!」
カラーン
カラーン
唐巣神父の教会に、鐘の音が響きわたる。
そこにはタキシード姿の横島と、そしてウェディングドレスを身につけ、幸せいっぱいの笑みを浮かべていたルシオラの姿があった。
そして再び西条が、神父の代役を務めている。
唐巣神父は、ショックで寝込んでしまった。
「……では、指輪の交換を」
(バカね、私ったら……。最初からこうしていれば良かったのよ)
二人は指輪を交換する。
外で待機していたビンは霊力の中和作用で、何とか建物に入れるほどの大きさにまで縮まった。
「それでは、以上で式を終了します」
「あら西条さん、まだ続きがあるんじゃないかしら?」
「続きって、他に何かあったっけ?」
「ほらヨコシマ、『誓いの口づけ』があるでしょ?」
「ちょ、ちょっと待て! みんなが見ているし、心の準備ってものが……」
「みんなが見ているから、いいんじゃない♪」
ルシオラは尻込みして退こうとする横島の手と首を掴み、そのままノーコーな口づけを交わした。
ビンの大きさがさらに縮まったことは、いうまでもあるまい。
「ルシオラさんは、本当に横島さんのことを好きなんですね」
二人だけで話したいことがあると、式の後に小鳩はルシオラと一緒に近くの喫茶店に入った。
「そ、そうなのよ。私とヨコシマは、それはそれは劇的でドラマチックな出会いをしたんだから」
幾分不利な立場を脱したせいか、ルシオラのテンションが妙に高い。
「それに私は魔族だから、貧乏神の影響は受けないのね」
「それはいいんですけど……。私と横島さんは人間だから、影響を受けますわ。たぶん死ぬまで貧乏暮らしが続くかと」
「えっ!?」
「私は(横島さんと一緒なら)耐えていけますが、横島さんの貧乏が一生続くのは……」
成り行きまかせの展開でここまでこぎつけたためか、ルシオラもそこまで深くは考えていなかったようだ。
ルシオラの額から、一筋二筋と冷や汗が流れ落ちていく。
「わ、わかりましたわ。何とかしましょう」
結局ルシオラは、再度カオスの元を訪れて本物の古文書を手に入れると、横島を超空間に誘い込んで貧乏神の試練を受けさせることにした。
ルシオラの予想どうり、横島は無事に試練を克服したのだが……
「なぁルシオラ。後からわかったんだけれど、あの試練に失敗したら一生貧乏だったそうじゃないか(怒)」
「ごめんなさ〜〜い。でも私はヨコシマを信じていたから」
「いーーや、俺は許さん。このツケは……そうだ! 体で払ってもらおうか!」
横島がガバーッとルパンダイブで飛びかかる。
「もうっ、流れを読んでよ!」
バキッ!
ルシオラの一撃で、横島は轟沈した。
(もう既に夫婦みたいに相手のことを理解しているのね、この二人は……)
傍らで二人のやり取りを見ていた小鳩は、そう心の中でつぶやく。
(でも小鳩は負けません! いつかきっと……)
その想いは、小鳩だけの秘密であった。
(完)
【後書き】
『ルシオラ in 〜』シリーズについてですが、『ザ・グレート・展開予想ショー』に投稿されているハルカさんの発案です。
私の方が後から便乗して、この作品を書きました。(ハルカさんの承諾はもらっています)
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