夏の日の思い出

作:男闘虎之浪漫

(02)




「……というわけさ。どう思う?」
「そうですノー」

 魔理が電話をかけた相手は、タイガーだった。
 魔理は知り合いに聞いてみると言ってみたものの、同姓の友人で相談相手がいないことに気づいた。
 中学の時の不良友達は自分のことならともかく、おキヌの恋愛相談にはまったく不向きである。
 また弓以外の同級生におキヌの悩みを知られたくはなかったので、結局タイガーしか話す相手がいなかった。

「以前みたいに、合コンでも企画してみたらどうですかノー」

 以前とは魔理とタイガー、そして弓と雪之丞がつきあいはじめるきっかけとなった、魔鈴の店でのクリスマス・パーティーのことである。

「それもいいんだけどさ、みんなで楽しくワイワイ騒いで、それで終わりのような気がするんだ」
「そうかもしれませんノー」
「前みたいに何かハプニングが起きれば、うまくバラけて二人きりになれると思うんだけどさ、そうそう事件なんて起きないよね」
「ほいじゃが横島さんは、道を歩いとってもトラブルを招くような人ですケンノー。何が起こるか、わからんですジャ」
「でも、ちょっと確実じゃないよなー。どうせなら外に遊びに行かない? その方がおキヌちゃんも積極的になれると思うんだ。ちょうどこれから夏だし」
「海なんか、いいですノー」

 うまい具合に横島とタイガーの通う高校は、夏休みが目前に控えていた。六道女学院の夏休みも、ほぼ同じスケジュールである。

「できれば、泊まりで行けるといいんだけどね」
「でもおキヌちゃんの外泊は、美神さんが許しますかノー。弓さんも、たぶん無理ジャ」
「あたしんちは、何とでもなるんだけどね。まあ、弓は無理か。あれでも、いちおうお嬢だしね。でもいっぺん話してみるよ。おやすみ、タイガー」
「魔理さん、おやすみんさい」




 魔理とタイガーが電話で話していたのとほぼ同じ時刻に、弓の携帯の着メロが鳴った。

「はい、弓です」
「弓か。俺だ」
「俺だじゃないでしょ、電話の応対もまともにできないの?」
「大丈夫だ。クライアントと話す時は普通に話している」
「返事になってないわよ……。で、何の用?」

 弓に電話をかけてきたのは雪之丞であった。

「あのさ、泊まりで海に行かないか?」
「なに考えているのよ。うちの親が許すわけないじゃない。日帰りのデートだって、ときどきお父さんから渋い顔をされるのに」
「実は海水浴場がある行楽地で、除霊の仕事を頼まれているんだ。ちょいと俺一人だとキツイから、弓に手伝ってもらえると助かるんだが」
「だ・か・ら、無理だっていってるでしょう」
「頭が固いなー。ほら、前に弓が言っていた『除霊実習』で、オヤジさんを何とか説得できないか?」

 六道女学院の霊能科には正規のGSの除霊をサポートした場合、特別に単位を認める制度があった。
 ただしこの制度は、弓のように実家がGSの場合には認められない。血縁者以外のGSの仕事であることが条件であった。

「ウラの仕事じゃないの? それにあなたの名前を出したら、お父さんを説得できないわ」
「大丈夫。今回は正規のGSからの依頼だ。俺の名前は伏せて、依頼元の名前を出してくれればいい」
「そうね。それなら何とかなりそうね。明日にでも、お父さんに話してみるわ」
「なんとか頼むわ。じゃーな」

 雪之丞からの電話が終わってすぐに、ふたたび弓の携帯の着メロが鳴った。

「はい、弓です」
「あ、魔理だけど。あのさー、夏休みに入ったらみんなで海にでも行かない? おキヌちゃんも誘ってさ」
「でも女の子だけで海に行くのも、ちょっと危ないんじゃない。ヘンな男にナンパされるのも面倒だし」
「じゃあタイガーも連れていくよ。弓も雪之丞を連れてきたら? あと横島さんにも声をかけてさ」
「そーねー」

 弓は考えた。雪之丞と二人で海に行くのも楽しそうだが、みんなで行くのもいいかもしれない。
 何よりもおキヌの件がある。いい機会かもしれなかった。

寄寓(きぐう)だわ。ちょうど雪之丞とも、海に行く話をしていたところよ。除霊の仕事も入るけど、みんなで行きましょうか?」
「ひょっとして泊まり? バイト代も出るんなら、なおさらオッケーだぜ」
「雪之丞とも相談してみますね」







「あの、美神さん。週末の土日にお休みをいただきたんですが」
「いいけど、どうしたの?」
「実は弓さんと魔理さんから、除霊の手伝いを頼まれたんです」

 おキヌは、六道女学院の除霊実習制度について説明した。

「ふーん。場所はどこなの?」
「あの……海のすぐ近くなんですが……」
「除霊はついでみたいね。それで仕事の内容は?」

 おキヌは仕事の内容を美神に話した。

「夜に除霊するのね。どうせ昼間は遊ぶんでしょうけど、遊びは早めに切り上げて夕方にしっかり睡眠をとること。それさえ気をつければ、問題なさそうね」
「はい。でも事務所の方は大丈夫ですか?」
「週末は仕事の予約も入っていないし、横島クンも休むみたいだから、事務所で書類整理をしながらゆっくりしてるわ」
「横島さんも休みなんですか?」
「何だか知らないけど、その日は休みたいって。まあ、来週からばっちり働いてもらうから、その埋め合わせね。それから海に行っても、ヘンな男に引っかかっちゃだめよ」
「大丈夫です。弓さんや魔理さんも一緒ですし」

 おキヌは袖をまくってポーズをとりながら、にっこりと笑った。




 早朝に東京を出発した電車が、海沿いの駅に停車した。海水浴にやってきた観光客が、次々に電車から下りる。

「よっしゃーー! やっと着いたぜ。雪之丞、タイガー、行くぞ!」

 ひときわ高いテンションで電車から飛び出したのは、横島であった。

「青い空、白い雲。そして水着のオネーチャンたちが、俺を呼んでいるぜ!!」

 横島は改札口を勢いよく飛び出すと、海辺へと続くメインストリートへと向かった。

「待てよ、横島」

 雪之丞が横島を呼びとめた。横島は背後を振り返ると、雪之丞とタイガーが駅の入り口で立ち止まっていた。

「なにやってんだよ。早く行こうぜ」
「少し待てよ。人と待ち合わせがあるんだ」
「待ち合わせって、こんなところでいったい誰と?」

 そのとき横島の背後から、どこかで聞き覚えのある女性の声が聞こえてきた。

「今着いたの? 雪之丞」
「さっきの電車で来たばかりさ」
「私たちは一本前の電車で着いたから、そこの喫茶店でお茶しながら待っていたわ」

 横島が後ろを振り返ると、そこには弓と魔理、そして……おキヌの姿があった。

「おキヌちゃん!」
「横島さん!」
「「どうしてここに!?」」

 駅前の広場で、二人の声が重なりあった。



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